あるところに、小さな果樹林がありました。そこの月は琥珀色に明るく、空の青はそのせいで少し蜂蜜色がかって見えました。果樹林には、一人の女占い師が小さな小屋を建てて、住んでいました。
ある日、女占い師が、イチジクのような形をした紫色の実を、籠いっぱいに収穫していたとき、誰かが彼女を呼ぶ声がしました。見ると、果樹林の囲いの入り口のところに、小さな包みを持った女がひとり立っていました。
「どうかなすったの?」占い師は籠を持ったまま駆け寄り、入り口の魔法を解いて、彼女を中に入れました。女は青い顔をしながら、占って欲しいことがある、と言いました。占い師は女を小屋の中に招き入れました。
女は茶色のきれいな髪を首の後ろで一つにまとめていましたが、今日はどことなくそれが黒っぽく見えました。輪郭も細くなり、肌の色が少し明るくなって、この前に会ったときより、微妙に目鼻の位置がずれていました。
占い師は、「ああ、あなた生まれ変わるのね」と言いながら彼女をテーブルの側の椅子に座らせ、自分はその向かい側に座りました。女は、「そうなの」と、不安げに言いました。
「きっと不幸な人生になるわ。わたし、前に生きていたとき、とても悪いことをしたんですもの」女が言うと、占い師は少し強い調子で、「何言ってるの」と言いました。「ちょっとやそっとの苦労は当たり前でしょう、人生なんて」
「でもきっと、彼女は許してくれないわ」女は、前に生きていた時、友人を裏切って彼女の夫を奪い、友人とその三人の子供をとても苦しめたことがありました。
「わたしが悪いのよ。あんなこと、しなければよかった。あのときはもう夢中で、自分のことしか頭になくて、ほかのことなんか何も見えなかったの」彼女は目に涙をためながら、言いました。占い師は、女の話を聞きながら、月星の記号を複雑に組んだ不思議な模様のカードを、手で繰り始めました。そして次々にテーブルの上にカードを並べ、それをめくったり、重ねたり、並べ替えたりしながら、しきりに口の中で何かをぶつぶつと唱えていました。
「そうねえ」占い師は、一枚のカードを取り出し、言いました。「やっぱり少しつらいことがありそうね」占い師が言うと、女は肩を落とし、「そうよね。そうなって当たり前のことをしたんだもの」と言いました。そして、布で涙を拭きながら持ってきた包みをほどこうとしました。占い師は、「ちょっと待って」と言いました。「苦しみを軽くすることはできないけど、自分で何とかできるようにすることはできるわ」そう言って彼女は、窓辺に干していた白い果物を一つちぎり、それを持ってきて、女の前で割ってみせました。その果物の中には、赤くて大きな光る種が一つ入っていました。
「これは赤瑪瑙ね。ここの果樹は、昔お役所の人が魔法で品種改良したもので、種がみんなこんな石になっちゃうのよ」
占い師は果物の中からその種を一つ取り出し、井戸の水で洗ってから、月光のとけた水の碗と一緒に、女に渡しました。「ちょっと苦しいけど、これ飲んでお行きなさいな。生きてるときにつらいことがあったら、この赤い石があなたに力を貸してくれるわ」
「ほんと?」女は心配そうに言いました。
「本当よ、でも、あなたがちゃんと自分の人生やらなきゃだめよ。石は助けてくれるけど、あなたの代わりはしてくれないわ」
「わかってる。わかってるわ」女はもらった赤瑪瑙の種を手のひらにのせると、思いきって口の中に放り込み、月光の水を飲んで一気にのどの奥に落としました。すると、まるで自分が石になったようなしびれ感が、全身を襲いました。女はしばし、のどを抑えながら、苦しげにじっとしていました。しびれ感は少しずつなくなり、ようやく楽になってくると、今度はなぜか目から涙があふれて、止まらなくなりました。
「あらいやだ、どうしたのかしら」女は布で顔をぬぐいながら言いました。
「赤瑪瑙が効いてきてるのよ。みんなひとりで生きてるわけじゃないからね。まあ、今度はがんばりなさいな」占い師は笑いながら言いました。
女が帰っていった後、占い師はお礼にともらった毛織のショールを肩にかけ、収穫したばかりの紫の実を、吟味しはじめました。一つの実を割り、中に水晶の種を見出すと、「おや」と彼女は目を見張りました。「何かいいことがありそうねえ」占い師は言いました。