『君戀しやと、呟けど。。。』

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『人形遣い』 その拾五

2007-11-15 08:48:16 | 小説『人形遣い』
 目指す三枝子爵所有の別荘は、老婆に教えられた場所に果たして在った。
 別荘手前の立て札には、Saegusaというアルファベットが刻まれている。
 孝哉は真っ直ぐに玄関へと向かい、出てきた使用人に告げた。
「花音に逢わせて下さい」
 と。

 使用人が慌てて家人を連れ戻る。
 結婚式に出ることのなかった孝哉を、ここにいる人間が認識できるのかは不明だ。案の定、その家人は孝哉を怪しんだ。
「申し訳ないが確認させて戴く。それまで隣の別荘にいて戴こう」
 孝哉自身も、その男が誰なのか分からない。下手に揉めて追い返されてはたまらない。大人しく使用人に付いていった。
 どうやら隣も三枝子爵の別荘なのだろう。
 こちらは客間のような狭さであることから来客用の離れに見えた。

「君」
 戻ろうとする使用人に声をかける。
「何でしょう」
「答えられないなら答えなくていい。ここに朝倉公爵が来ていると聞いてきた。確かかな」
 彼は何も答えなかったが、小さく一度頷いた。
「有難う」
 孝哉の言葉に改めて会釈をすると彼は引き上げていった――。

 食事が運ばれ入浴の仕度をされ、そしてベッドメイクをされる。
 今日中に逢うことができるのか。
 何ともいいようのない予感。孝哉の脳裏に、これまでのすれ違いが蘇った。
 これ以上待ってられるか。
 そんな思いで玄関に向かった時だった、呼び鈴が鳴ったのは。
 扉をゆっくりと開く。
 花音がいるかもしれない、そう思ったものの立っていたのは朝倉公爵だった。
 孝哉は部屋に戻り、ソファに座ることを促された。

「いろいろと失礼がありました。申し訳ない。よく来てくれましたね」
 彼は、そう言いながら小さな台所へ入っていく。
 そして湯を沸かし、お茶を淹れた。
「慣れておられるんですね」
 出されたお茶を前に、思わず口にした。
「ここではできる者が動くんです。最初は何もできませんでしたよ」
 朝倉公爵の言葉は穏やかだった。
 孝哉はどう切り出したらいいものか、思案に暮れた。自分の立場では、おいそれとは言葉がかけられない。
「先日、姉小路侯爵から手紙を受け取りました。孝哉君が何故ここにいるのか、理解しています」
 孝哉は、ただ黙って頭を下げた。
 きっと、身分証明の代わりに孝哉が訪れることを教えてくれたのだろう。ひとつ間違えば、またすれ違ったかもしれない。
 しかし今は自分を証明してもらう為にはよかったと思う。
 そして無礼は承知で、と前置きし懇願する。
「花音に逢わせて下さい」
 と。

 朝倉公爵は、うんうんと頷いてくれるものの、すぐには返事をくれなかった。
 一度は口に出したのだ。後は待つことしか残されていない。孝哉は公爵の淹れてくれた湯呑みを手に取った。
「悪いが、すぐに会わせることは出来ないのだよ」
 公爵の言葉が木霊のように、繰り返し頭に響く。
 どうして。
 その一言が出てこない。
「暫く私の話を聞いてくれるかな」
 公爵は、そう云って上着の内側から煙草を取り出した。
 テーブルにあったライターから火を取ると、ゆっくりと燻らせる。

 逢えると思ったのに。
 今度こそ逢えると思っていたのに。
「逢わせてくれるだけでいいのに」
 孝哉の悲痛なまでの言葉を受け、公爵もまた大きな溜め息をひとつ吐き、改めて申し訳ないと頭を下げた。

          To be continued

※この物語はフィクションです。
 登場する人物名・団体等は実在のものとは関係ありません。
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2 コメント

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Unknown (花音)
2007-11-15 08:07:35
こんにちわ。
小説の登場人物と同じ名前の花音です♪
いつもコメありがとうです♪

改めてまた小説読ませてもらいますねー。

取り急ぎご挨拶まで。
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Re: (紫草@管理人)
2007-11-19 09:51:40
 花音さん、いらっしゃいませ。
 実は、この物語を書き始めた時に検索したんです、“花音”を。
 その時、巡り合ったのが『十三夜』さんでした。面白くて、すぐに気に入っちゃいました。
 こちらにコメント入れてもらえたので、リンクさせて戴こうかな。
 私も、また読みに行きますね♪

 寒さが一段と増してきました。
 ご自愛下さい。
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