二組の夫婦が織りなすラブ・コメディ。出版社の編集者アラン(ギヨーム・カネ)の妻セレナ(ジュリエット・ビノシェ)が言う。
「夫婦の情熱が持続するとも言えないわ」
セレナは役者で「刑事・捜査」のジャンルのテレビシリーズ・ドラマに出演していて、撮影の合間に共演者に言った言葉だ。
夫アランの浮気を疑っているわけで、実際のところアランは、出版社の編集員ロール(クリスタ・テレ)と不倫中。
とは言っても、セレナもアランの友人の作家レオナール(ヴァンサン・マケーニュ)とよろしくやっているのだ。
そして、この二組の夫婦と友人たちの会話は、デジタル化時代について喧々諤々の議論で盛り上がる。だからこの映画は会話劇と言ってもいい。
もろにこの影響を受けているのが出版業界のアランだ。いや、作家のレオナールもいる。レオナールの作風は、自身の体験が基になっている。従って秘密が秘密でなくなっているのだ。レオナールの妻ヴァレリー(ノラ・アムザウィ)が、すべて見通してるのもそのせいだ。
この映画を観ていて思ったのは、女性が革新的で男は流れに乗れない保守的なところだ。その結果、アランの恋人ロールは、新しい感覚の職場に転職すると言って去っていく。
作家レオナールと6年間深い関係にあるセレナも、友達関係にしたいと言ってくる。しかも、私たちの関係を小説にしないでと…もし小説にしたら殺すかもとも。
男女関係においても、女の強さが際立つ。この期に及んでもレオナールは、セレナとの関係を小説化しようとするから始末に負えない。男の弱点を突かれたようで、居心地の悪さを感じた映画だった。
原題は「二重生活 DOUBLES VIES」。SNSの発展は、この二重生活の普遍を示唆しているのかもしれない。
なお、この映画はパリでロケをしたようで、出てくるレストランやカフェは実在するそうだ。
●ビストロ「Le Petit Saint Benoit」パリ6区にあり、アランとレオナールが昼食に訪れる。
●カフェ「Charbon Cafe」パリ11区オベルカンフ地区。レオナールとセレナの密会場所。
●カフェ「Le pure cafe」セレナがレオナールに「友達付き合いにしたい」と言うカフェ。「ビフォア・サンセット」でも登場。
●ホテル「La Mare Aux Oieaux」パリ郊外サン=レジェ=ルニブリーヌ。出版社社長の邸宅として、アラン、セレナ夫妻が訪れる。
監督
オリヴィエ・アサイヤス1955年パリ生まれ。カンヌ国際映画祭では、パルム・ドール賞に何度もノミネートの実績がある。
キャスト
ジュリエット・ビノシェ セザール賞の受賞やアカデミー賞のノミネートも多い。
ギヨーム・カネ1973年フランス生まれ。セザール賞で監督賞受賞。主演男優賞はノミネート。
ヴァンサン・マケーニュ1978年フランス生まれ。
ノラ・アムザウィ出自未詳。
クリスタ・テレ1991年パリ生まれ。