きのふ来て あやめを折りし 鶴女郎 夢詩香
*短歌が続いたので、今日は俳句です。あやめの写真がないので、色が少し似たベニバナトケイソウで代用です。許してください。
鶴女郎は、「鶴の恩返し」の説話に出てくる、鶴の変化のことです。誰もが知っている話ですね。ある男が偶然助けた鶴が美しい女性に変化して、男の妻になり、男を助けるが、男は見てはならないところを見てしまい、鶴女郎は悲しんで空に去ってしまう。
こういう「見るなの蔵」のタイプの説話は、神話にもありますね。山幸彦の妻トヨタマヒメが産気づいた時、自分が子供を産むところを見ないでくれといって産屋に入ったが、山幸彦は好奇心を抑えきれずに覗いてしまった。すると産屋の中では、八尋もある大きな鰐が、産みの苦しみにあえいでいた。トヨタマヒメは子を産んだあと、正体を見られたことを悲しんで、海に帰っていった。ちなみにこのとき生まれた子供はウガヤフキアエズと言って、神話では神武天皇のおとうさんにあたります。
要するにですね、女性が覗かれたくないところは覗いてはいけないということですよ。詳しく言わなくてもわかると思いますから、これ以上は言いませんが。しかし昔から男というものは、やってはいけないという約束を破って、大切なものを失うということばかりやってきたのです。
鶴女郎が野のあやめを折りに行ったのはなぜだったのか。それはたぶん夫のためだろう。あやめはおくゆかしい花だ。目立たない色だが楚々としてやさしい。そっとそばにいてくれている。愛している人のために、そんな花を摘んで持って帰りたい。
だが男はそんな女の心も知らず、ただ好奇心のみで痛いことをしてしまい、女の心を傷つけて、失ってしまうのだ。
「見るな」の約束は、女性の心を傷つけるようなことをしてはいけないという、昔の教えです。だがそんなやわらかなことがわかる男は、いなかったようだ。
馬鹿なことばかりをして、とうとうすべてを失ってしまった。
正体を見ようとして、あの人の家を覗いたら、とんでもないものを見てしまったからです。