ビルを抜けてゆく
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駐車場に車を停めて会社に向かう途中、チェーンのコーヒーショップがある。
駐車場には、だいたい8時45分頃着き、コーヒーショップまでは徒歩5分ほど。
いつも210円のブレンドコーヒー。ミルクを入れるだけで、砂糖はなし。
そしてバッグから文庫本を取り出し、5、6ページめくる間にコーヒーは7割方減る。
きれいに飲み切ることはまずない。
10~15分間、まさにひとときと言える時間だ。
このコーヒーショップ、福岡県を含む7都府県に緊急事態宣言が出された
4月7日から休業し、5月14日に解除された後も6月いっぱい店を閉めていた。
僕にしても外出自粛要請を受け、実質的には4月から6月の第1週まで出社を
控えていたから、コーヒーショップの休業を気にする必要もなかったのだ。
ようやく出社するようになったのは、6月8日の月曜日からだ。
だが、コーヒーショップはなお休業中。仕方なく駐車場から寄り道することなく
出社したのだが、何となく歯車がかみ合わず、仕事にすんなり入っていけない、
そんな感じがしたのだった。
なぜかは、おおよそ見当がついていた。
“党”が付くほどコーヒーが好きなわけではない。
飲まなければ飲まないでも済む。注文するのも何の変哲もない「ブレンド」。
これにミルクを入れ、スプーン代わりのスティックでかき混ぜるだけ。
じっくり味わうわけでもなく、文庫本をめくる間のつなぎみたいなものだ。
それに10~15分間なわけだ。
だが、この時間は短くはあっても大事なのだと気付いた。
仕事を始めるためのルーティンになっていたのだ、と。
そのルーティンが出来ず仕事への入りが悪い、そういうことだった。
そのコーヒーショップが、やっと7月1日から再開した。
駐車場に車を置くと、そさくさと向かった。
そして、210円のブレンドを注文し、
ミルク1つ、スティック1本を取り、いちばん奥の席に座った。
客は僕を含め5人だけ。常連だった人もいた。
早速、ミルクを入れてかき混ぜ、そして文庫本を取り出した。
ジェフリー・アーチャーの「新版 大統領に知らせますか?」だ。
本を読みながら、ブレンドを飲む。ブレンドを飲みながら本を読む。
コーヒーは7割方なくなり、本も6ページめくった。
以前とまったく変わらない。
さて、会社へ行って仕事をするとしようか。