あんなに、栄華を誇って、鳴いていた蜩も、今では、夕方、滅多に、聞かれなくなり、ミンミン蝉だけが、往く夏を惜しむかのように、もの悲しく、鳴いている。散歩の途中にも、卵を無事産み終わったのか、蝉の遺骸を数多く見かけるようになった。吹く風もやや、湿ってはいるものの、何気なしに、ひんやりとした秋風を思わせる。キノコ達が、雨上がりの落葉腐葉土を掘り起こしながら、ニョッキリと、顔を出している。その傘は、虫なのだろうか、柔らかい、おいしそうなところが、不規則に、かじられている。桜の葉は、一部、陽の当たるところが、既に、黄色や赤に、色づき始めている。ドングリの実は、未だ、青く、小さいが、既に、立派なドングリの実の体をなしている。夜半の激しい雨に打たれてしまったのか、葉もろともに、地上に、無念にも、落ちて転がっているものもある。空の雲は、未だ、典型的な秋空の雲をみていない。再び、又、夏の残暑が、ぶり返すのであろうか、既に、地上の木々達は、来るべき秋の気配を感じているのであろうか、その準備を始めているようである。誰が弾くのだろうか、どこからか、木々の梢を渡って、クラシックのピアノの音色が、響き渡ってきた。