生きているんだ。

以前、母の友人が訪ねてきて、途中でこう話しかけていた。
「分かるかな？分かるよね？」

体を動かす事は出来ない。
呼吸器も装着している。

でも、感情はしっかりある。
表現するのが難しいだけ。
時間がかかるだけ。


現実は厳しい。
私は、やっぱり怖いよ。
初期からずっと見ているから。
変化が分かるから。
これからどうなっていくのかな、って。
振り返ったり現実を受け止めたりして、辛さや悲しさでこっそり泣く時もあるんだよ。

母本人はどう思っているのだろう。
ベッドの上で、いつもどんな事を感じているのだろう。
「歩きたい」、最近ではそう言っていた。
そうだよね。
そうだよね…。

向けてくれる笑顔に救われている。
握った手は温かい。
この手で私は育てられたんだ…そう思うと、涙が溢れてくる。


一緒に歩きたい。
母の料理が食べたい。
買い物にも行きたい。
会話もしたい。
声を出して笑いあいたい。

まだまだ一緒にやりたい事がたくさんある。

呼吸器も、車椅子も、介護用ベッドも、必要なくなればいい。
一日でも早く、治療法が確立される時がくるのを願っている。
病自体、消えてしまえ。

今日も母は生き続ける。
強く強く、生き続ける。