忍びの国  by和田竜

2008年08月21日 | 読書
すごく面白かった。伊賀の忍者の物語。
かなり意外性に富んだお話。
誰が主人公かもよく分からないまま(?)、後半まで一気に読み進んだ。
敵味方に拘らず、出てくる一人ひとりの技量がとにかく凄いのだ。
でもいったい誰が主人公なのか?誰に感情移入すれば落ち着くのか?

時は戦国時代。信長が安土城を築く少し前ぐらいの頃。
濃尾を押さえた信長は伊勢に攻め込み北畠家を落し、
次男信雄(のぶかつ、と読む)を養子として送り込んだ。
7年後、信雄は北畠具教(とものり、と読む)を遂に殺し、北畠の統領となる。

その後始まる、伊勢の国と伊賀の国の争い。
信長は伊賀を攻めてはならぬと釘を刺していたにもかかわらず、
信雄は手柄を立てて父の評価を得たいがため、攻め込む。

紆余曲折があるが、、第一次の戦は伊賀が伊勢を打ち破る。
その戦の凄まじいこと!
作者は歴史書の記述を忠実になぞりながら、
その細部は自身の想像力を極めた表現で、
血沸き肉踊る、躍動感のある凄惨な場面を描きつくしてゆく。
でもお話だから面白い。これが現実なら腰を抜かすような恐怖の連続!

物語の半ば以上を過ぎた頃、この物語の主人公が誰なのかが見えてくる。
それは伊賀の下人・無門という男。
人の心など持たず、金のためなら残忍で非情な戦いが出来る男。
もっとも伊賀の下人はそろってそのような冷徹な心根の持ち主達。
棟梁である百地三太夫はその筆頭ではあるが、無門にだけは何故か甘い。
無門もそんな棟梁の対応につけこんで、素直に命令に従う事はない。
金になることならその仕事だけをサッサとやって、すぐに帰ってしまう。
面白いことにそんな非情の男が、
惚れてさらった武家の娘「お国」には、全く頭が上がらない。
そのお国はいつも無門に対してツンとした冷たい仕打ちを続け、
「相手にされたくば金を稼いで来い!」と叱咤する。

惚れた弱み。無門はお国の気を引くためにすっかり考え込んでしまう。
その結論は、大いくさを前に、いったん企てた敵前逃亡を思い留まり、
3000人あまりの逃亡下人たちをも金を餌にして戦場へと戻らせてしまう。
そして自分が先頭に立って戦いに飛び込み、獅子奮迅の活躍をしてしまう。

信雄はじめ豪傑の日置(へき)大膳、長野左京亮、
柘植三郎左衛門などの軍勢を相手に、バタバタとなぎ倒してゆく。
ほとんど一人の活躍で大群を打ち破ってゆくような、とんでもない活躍ぶり!!

そんないい加減だが滅法強い男が、幾人かの真摯に生きる男女の姿を知った時、
統領の百地三太夫はじめ「伊賀十二家評定衆」の卑劣な術策に怒り狂う。
味方側に戦いを挑むそのさなか、
お国をかばうべく捨身になった無門は危機に瀕する。
その時、あの冷たかったお国が身を挺して無門をかばおうとする。
そこに下人の放った毒入り吹き矢を浴びて、お国は絶命。怒り狂う無門・・・。
ほとんど人の心を持たなかった野獣のような男が、初めて知った愛!!・・・。
そしてすぐに訪れた絶望・・・。

無門は伊賀を捨て信長の居城安土に忍び込む。
信長を挑発する。伊賀を滅ぼせ!と。
やがて信長は伊賀への復讐戦に転ずる。そして完膚なきまでに敵を叩きつぶす。
しかしそこには無門の姿はなかった。
伊賀の忍び達は離散の憂き目となる。

この後、京の町に、
無門と文吾(=後の石川五右衛門)の姿が見える。
この後、二人の戦いが始まるらしい・・・。


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