2,ワンヘルスについて
【中川】新型コロナは、完全に収束しているわけではありませんし、そもそも新型コロナがどのように発生したのかについても定まってはいないようです。しかし新型コロナが人と獣が共通に感染する人獣共通感染症であり、動物由来の感染症は森林破壊や気候変動などによって、野生動物及び媒介動物の生息する環境が変化し、もともと野生動物が持っていた病原体が、変異を繰り返しながら渡り鳥から家畜、家畜などから人にも感染可能になったことが原因といわれています。そこで、人と動物、そして自然環境を一体的に守っていく「ワンヘルス」という考え方が、極めて重要であると国際機関が指摘してきました。
1993年世界獣医師会「ベルリン宣言」の中で、2004年世界保健機関(WHO)や国際獣疫事務局(OIE)等が公表した「マンハッタン原則」の中で、2012年世界獣医師会と世界医師会の「覚書」の中で、それぞれワンヘルスの理念が記されてきました。2016年に世界獣医師会と世界医師会による「ワンヘルス国際会議」が福岡県で開催され、理念から実践への移行を目指した「福岡宣言」が発せられました。その福岡県において、2021年1月に議員提案で「福岡県ワンヘルス推進条例」が制定されましたが、時あたかも新型コロナが蔓延しているさなかであり、その危機感をとらえての制定であったともいえます。制定に向けて牽引をしてきたのは、日本獣医師会会長、アジア獣医師会会長、次期世界獣医師会会長の蔵内功夫福岡県議会議員でした。
5月に依田明善議員と一緒に、福岡県のワンヘルスの取組みについて調査に行ってきましたので簡単に紹介します。
福岡県のワンヘルス推進条例の取り組み目標は6つあります。「人獣共通感染症対策」「薬剤耐性菌対策」「環境保護」「人と動物の共生社会づくり」「健康づくり」「環境と人と動物のよりよい関係づくり」です。このうち「薬剤耐性菌対策」は、人獣共通感染症対策と共に重要な取り組みの一つです。薬剤耐性菌とは、抗生物質に対し抵抗性を獲得した細菌のことで、この薬剤耐性菌による感染症が発生した場合、これまで使用していた抗生物質が効かなくなるなど、治療が困難となります。国連はこのまま何も対策をとらなければ、2050年までに薬剤耐性によって、発展途上国を中心に年間1000 万人が死亡し、がんによる死亡者数を超え、経済的にもリーマンショック時の金融危機に匹敵するダメージを受ける恐れがあると警告しているものです。
また、県立四王子県民の森を「ワンヘルスの森」と位置づけ、生物多様性の保持やワンヘルの啓発、森林浴による健康維持などを目標とした取り組みを行っています。
人と動物の共生社会づくりでは、犬や猫、鳥などのペットは、私たちの生活に潤いや安らぎを与え、今や家族の一員となるほど重要な存在になっていますが、人と動物が共生している一方で、安易な飼養や遺棄や虐待、悪質な業者による販売などが社会問題となっているところです。また、過度なふれあいや不適切な管理により、愛玩動物を介して人獣共通感染症に感染する事例も発生しているという観点からの取組み目標が設定されています。
つまり、人の健康と動物の健康の重なり合う分野、動物の健康と環境の保護が重なり合う分野、人の健康と環境が重なり合う分野、あるいはその3つが重なり合う分野での政策展開が必要だということです。
福岡県では、こうした取り組みを推進するための県庁内組織「ワンヘルス総合推進会議」、担当部署としてワンヘルス総合推進課、研究機関としてのワンヘルスセンターを保健環境研究所と家畜衛生保健所を統合する形でつくるとともに、医師会、獣医師会、医療関係団体、ワンヘルス関係団体、県議会、市町村、研究者・研究機関などで「福岡県ワンヘルス推進協議会」が様々な事業を推進しています。
具体的な取り組み事例を紹介すると、「ワンヘルス国際フォーラムの開催」「市町村が申請する、ワンヘルスを学び、体験できる施設を『福岡県ワンヘルス啓発施設』として認定」「県民向けのワンヘルスフェスタ」「ワンヘルス認証制度」「ワンヘルス事業者登録制度」などに取り組むとともに、ワンヘルス教育を推進しています。これは、小中高生向けに、県内全ての小学校4年生、中学校1年生、高校の全生徒と全教職員にワンヘルスについての副教材を配布しています。また現在、県立高校8校と私立高校2校、計10校において、理科や地理・歴史・公民、保健体育科などの教科に加え、工業や農業などの専門科目によるワンヘルス教育の実践を行っていることが特筆事項です。
福岡県で関係する部局は、総務部・保健医療介護部・福祉労働部・環境部・商工部・農林水産部・建築都市部・教育振興部にわたっています。その意味では、ワンヘルスはゼロカーボンと同様に総合的な政策の理念と言えます。これまで、徳島県でもワンヘルス推進条例がつくられていますが、今後東京や北海道でも制定に向けた動きがあるところです。
そこで、長野県としても、ワンヘルスについて部局横断で研究をしてみてはいかがかと思いますが阿部知事に所見を伺います。
【知事】私にはワンヘルスの研究についてご質問をいただきました。
ワンヘルスの理念については、中川議員からご紹介がありましたとおり、人の健康、動物の健康、環境の健全性は一つという考え方のもと、それらを取り巻く様々な課題に対して関係者が一体で解決を目指そうというものであります。
本県では、健康福祉部、農政部及び林務部が連携し、鳥インフルエンザなどの人獣共通感染症に対するモニタリングの強化や情報共有など家畜での感染拡大や人への伝播を防止する取組を行い、また、薬剤耐性菌によります健康や環境への影響を防ぐため、抗生物質等の医薬品の適正使用の啓発や、耐性菌の調査を進めてきたところであります。
議員ご提案のとおり、各分野の専門知識を結集し、効果的な対策を見出すためにも、ワンヘルスの理念に基づく部局横断的な取組は、大変重要であると考えます。
これまでも、関係部局等の参加する勉強会や情報交換などを行ってきたところでありますが、引き続き関係部局が連携し、ワンヘルスの視点から、研究に取り組んでいきたいと考えております。
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