「ベロ出しチョンマ」とか「花咲き山」「モチモチの木」など、
抑えた色調に、着物の曲線、尖った目がこちらを見据える線の人です。
斉藤隆介と組んだ絵本で一気に有名になりました。
先の絵本を、子供のころにご覧になられたかたもいらっしゃると思います。
本書は、切り絵作家滝平・二郎の作品を、初期から収めた点で白眉な本です。
絵本に出てくる、着物と白いすねの少年達や、かつての日本を髣髴とさせる
民話の中の人々が印象に残る方ではありますが、初期のころ(1942年など)は、
まるでゴヤのような黒白の使い方をする、どっしりとした質感の版画を彫って
いました。
現在の切り絵中心のスタイルに入ったのは、
奥野信太郎が編集した、子供向け(!)の「中国名作全集」の中の、
「紅楼夢」の仕事のようです。
年表には入っていませんでしたが、続き物で35枚という大仕事は
本書の中でも特異な位置を占めていると思います。
何故気づかなかったのだろう、と思いました。
中国の民藝に、「剪紙」という繊細なきり絵がありますが、頼んだ編集者は
このイメージで滝平に頼んだそうです。
ですが、出来上がってきたものは、線が太く、細かな文様を徹底的に省いて、
布地の滑らかな線で堂々と人物の動きを切り取ったものでした。
「紅楼夢」は、熟しきった頃の中国の、男女の恋愛を描いた小説です。
四台奇書と称される「金瓶梅」が物質的な面で男女関係を描いたのに対し、
こちらは精神的な恋愛を取り扱った作品です。
あまり大ぶりの動きはないはずなのですが、挿絵の一枚一枚、登場人物の
まとう服のゆったりした袖の線が、切り絵独特の硬質な曲線にぴったり
あっています。円柱を切り分けて組み合わせたような書き方なのですが、
布の質感は大切にされているので、平面の影絵のような印象はありません。
特に、主人公を取り巻く女性林黛玉(りん・たいぎょく)の、仰臥した横顔の
一枚が美しいです。
つんと上を向いた唇と鼻が、「^」の形を組み合わせた直線に対し、唇から
つながってやはり上を向く、顎から喉にかけての線が女性らしい華奢さを
失わずに、のびやかな曲線を描いているのです。
少女とはちがった女性の美しさを、この喉首の線一本で描ききっています。
顎、喉、丸まった髪の三点でつくられる三角形がなんとも優美で、
清楚につやっぽい一枚なのです。
もう「適役だった」のため息しか出てきません。
この「中国文学全集」自体が相当に豪華な本だとは思いますが、
これはちょっと贅沢すぎでしょう。
いい仕事です。もっと見たかった気もします。
抑えた色調に、着物の曲線、尖った目がこちらを見据える線の人です。
斉藤隆介と組んだ絵本で一気に有名になりました。
先の絵本を、子供のころにご覧になられたかたもいらっしゃると思います。
本書は、切り絵作家滝平・二郎の作品を、初期から収めた点で白眉な本です。
絵本に出てくる、着物と白いすねの少年達や、かつての日本を髣髴とさせる
民話の中の人々が印象に残る方ではありますが、初期のころ(1942年など)は、
まるでゴヤのような黒白の使い方をする、どっしりとした質感の版画を彫って
いました。
現在の切り絵中心のスタイルに入ったのは、
奥野信太郎が編集した、子供向け(!)の「中国名作全集」の中の、
「紅楼夢」の仕事のようです。
年表には入っていませんでしたが、続き物で35枚という大仕事は
本書の中でも特異な位置を占めていると思います。
何故気づかなかったのだろう、と思いました。
中国の民藝に、「剪紙」という繊細なきり絵がありますが、頼んだ編集者は
このイメージで滝平に頼んだそうです。
ですが、出来上がってきたものは、線が太く、細かな文様を徹底的に省いて、
布地の滑らかな線で堂々と人物の動きを切り取ったものでした。
「紅楼夢」は、熟しきった頃の中国の、男女の恋愛を描いた小説です。
四台奇書と称される「金瓶梅」が物質的な面で男女関係を描いたのに対し、
こちらは精神的な恋愛を取り扱った作品です。
あまり大ぶりの動きはないはずなのですが、挿絵の一枚一枚、登場人物の
まとう服のゆったりした袖の線が、切り絵独特の硬質な曲線にぴったり
あっています。円柱を切り分けて組み合わせたような書き方なのですが、
布の質感は大切にされているので、平面の影絵のような印象はありません。
特に、主人公を取り巻く女性林黛玉(りん・たいぎょく)の、仰臥した横顔の
一枚が美しいです。
つんと上を向いた唇と鼻が、「^」の形を組み合わせた直線に対し、唇から
つながってやはり上を向く、顎から喉にかけての線が女性らしい華奢さを
失わずに、のびやかな曲線を描いているのです。
少女とはちがった女性の美しさを、この喉首の線一本で描ききっています。
顎、喉、丸まった髪の三点でつくられる三角形がなんとも優美で、
清楚につやっぽい一枚なのです。
もう「適役だった」のため息しか出てきません。
この「中国文学全集」自体が相当に豪華な本だとは思いますが、
これはちょっと贅沢すぎでしょう。
いい仕事です。もっと見たかった気もします。