醜い片目の王が、宮廷に三人の画家を呼んだ。
「わしの姿を描く画家はその方達か。もし絵が気に入らなければ、命は無いぞ」
「畏まりました」
一人目の画家は、美しい両目を持つ凛々(りり)しい王を、象徴画として描いた。
「衛兵。この者の首を刎ねよ」
二人目の画家は、片目そのままの写実画を描いた。
「衛兵、この画家も首を刎ねよ」
三人目の画家の絵は、抜きん出た作品だった。顔の片側が精緻に描かれ、反対側が曖昧だった。
絶妙な光と陰影が人の心の在り方まで示している。隻眼の虹彩には魔力が溢れ、金銀の装飾をあしらえた軍服には、無慈悲な本性の深奥が秘められていた。三枚目の絵は、ことの他王を満足させた。
「その方は、この世に唯一人の天才じゃ。他の国に取られない様に首を刎ね、関係者も皆殺しにする。この奇跡の絵を知る者は、わし一人だけなのじゃ」
画家の死後、国王は女官に紛れた画家の娘に毒殺された。父の作風を知る暗殺者は、極秘の倉庫から絵画を取り戻した。
娘の死後、この絵は数奇な因果の流れに乗り、富豪や貴族の所有となる流転を繰り返した。
そこに、不思議な暗合が見出される。この絵を喩え一時にせよ所有した者は、一人残らず、暗殺、毒殺、事故死の憂き目に遭った。その後、歴史上至高の名画としてパリの美術館に遺されている。但し、この絵を異常な高値で買い入れた当時の館長も、その後原因不明の死体で発見された。
画家の名を知る者は、誰一人いない。絵画の裏には「残虐無慈悲な国王」としたためられている。国王の署名だと長く伝えられたが、その後筆跡鑑定の結果、本人の署名ではないと論証された。
その言葉の上には、黒ずんだ血文字で「MORT(死)」という文字が記されている。