名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

◆ 恐怖の落とし穴 「MORTE DE ART(死の絵画)」

2016年03月29日 | 日記

 醜い片目の王が、宮廷に三人の画家を呼んだ。

「わしの姿を描く画家はその方達か。もし絵が気に入らなければ、命は無いぞ」
「畏まりました」

 一人目の画家は、美しい両目を持つ凛々(りり)しい王を、象徴画として描いた。
「衛兵。この者の首を刎ねよ」

 二人目の画家は、片目そのままの写実画を描いた。
「衛兵、この画家も首を刎ねよ」

 三人目の画家の絵は、抜きん出た作品だった。顔の片側が精緻に描かれ、反対側が曖昧だった。
絶妙な光と陰影が人の心の在り方まで示している。隻眼の虹彩には魔力が溢れ、金銀の装飾をあしらえた軍服には、無慈悲な本性の深奥が秘められていた。三枚目の絵は、ことの他王を満足させた。
「その方は、この世に唯一人の天才じゃ。他の国に取られない様に首を刎ね、関係者も皆殺しにする。この奇跡の絵を知る者は、わし一人だけなのじゃ」

 画家の死後、国王は女官に紛れた画家の娘に毒殺された。父の作風を知る暗殺者は、極秘の倉庫から絵画を取り戻した。

 娘の死後、この絵は数奇な因果の流れに乗り、富豪や貴族の所有となる流転を繰り返した。
 そこに、不思議な暗合が見出される。この絵を喩え一時にせよ所有した者は、一人残らず、暗殺、毒殺、事故死の憂き目に遭った。その後、歴史上至高の名画としてパリの美術館に遺されている。但し、この絵を異常な高値で買い入れた当時の館長も、その後原因不明の死体で発見された。

 画家の名を知る者は、誰一人いない。絵画の裏には「残虐無慈悲な国王」としたためられている。国王の署名だと長く伝えられたが、その後筆跡鑑定の結果、本人の署名ではないと論証された。

 その言葉の上には、黒ずんだ血文字で「MORT(死)」という文字が記されている。


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◆ 恐怖の落とし穴 「未来の女王」

2016年03月29日 | 日記

「エリザベス。魔法のランプを拾ったわ」

「お姉さま、願い事を叶えましょう。何回云えるかしら」
 煙と共に現われた魔人が、ひれ伏しながら云った。
「仲の良い姉妹よ。あなた方に、ひとつずつ願い事を叶えて差し上げます」
「あたしは、女王になる身です。理想的な体型にして頂戴」

「貴方は、世界の一美しい体になりました」
「お姉さま。羨ましい」
「あんたも、何か大きな事をお願いしたらどうなの」
「私の望みは、ささやかなものです。将来女王になりたいだけなの」

「未来の女王様。貴方の夢は叶いました」と祝辞を述べると、魔人は妹娘一人を残して消えてしまった
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◆ 恐怖の落とし穴 「廊下の奥」

2016年03月29日 | 日記

「坊や。廊下の奥から、ほうきを持って来ておくれ」

「こんなに夜遅く、あの薄気味の悪い暗闇に行くのかい」
「そうだよ。敷居の果ては、地獄へ落ちる暗黒の空間だ。気を付けてね」
「お祖母ちゃんが、自分で行けば」
「それは無理だ。何しろ、お祖父ちゃんも、パパもママも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、みんな消えてしまったからね」
「僕だって、行きたくない」

「お前には、誰が行くかという理由が分かっていない」
「一体何の事だい」
「あたしまで消えたら、お前は一人ぼっちになってしまう。寂しいだろう」
「それもそうだね」
 
 坊やが恐る恐る歩き出すと、その姿が突然ふっと闇の底に消えてしまった。

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