銀色の砂をペッと吐き出す。唾液に濡れて光る砂粒に目を細める。もう朝だった。直射日光はどんな目覚まし時計よりも強力だと思う。眩しいからと寝返りを打っても、今度は背中を熱せられて、もっと寝ていたいこちらの望みとは関係なく、覚醒してしまう。
上半身を起こすと、砂が一斉にさらさらと滑り落ちて、僕の裸身を露わにする。
もう二週間ほど衣類をまとっていない。あの、信じがたい体験をした二泊三日の海水浴旅行で僕は初日からたった一枚身に着けていた白いブリーフを脱がされてしまったけど、あれからずっと素っ裸のままだ。しかも、一度も家の中に入らせてもらっていない。食べたり排泄したり寝たりといった日常の所作はすべて屋外でおこなって、本当になんだか自分が人間ではないような気になってくる。
悪夢の海水浴旅行から帰って以来、おば様は明らかに僕にたいして冷たくなったように思う。もともとそんなに優しくなかったけど……。でも、時にはY美に内緒で搾りたてのオレンジジュースを飲ませてくれたり、気紛れなY美に全身を打擲されて悶える僕にこっそり、やはりY美に隠れて薬、なんかぬるぬるした変な薬を塗ってくれたりする、そんな気遣いを見せてくれることもあった。それに、これまで定期的に、週に二回か三回は僕を寝室に連れ込んで奉仕させていた。おば様が絶頂に至るまで続く体力勝負の奉仕。
しかし、それすらもすっかりなくなった。
ということは、もう、そういう性的欲望を解消するための道具としての価値すら、僕には認めないということなのだろう。おば様は滅多に僕と目を合わさなくなったし、たまに僕を見つめる時は、嫌悪感と憎悪でいっぱいの視線を鞭のように僕の裸身へしならせてくる。
これもすべて、海水浴旅行でY美におば様と僕の関係を知られてしまったことが原因だと断言できる。といってY美とおば様の親子関係がぎくしゃくしたということはなく、むしろ以前より仲良くなったのではないだろうか。親友のような打ち解けた関係と言ってもいいような気がする。僕をスケープゴートにして、二人は関係を修復したのだ。
ガラス戸の内側のカーテンはそよりとも動かない。多分まだ朝の六時にもなっていないから、それは少しも不思議ではないのだけれど、庭で寝泊まりさせられている僕は、太陽の光で目覚めるから、どうしても朝が早くて、家のベッドの中ですやすや眠る二人とは、おのずと生活のタイミングがずれてくる。といって僕は自分で何ができるでもなく、飼育されたペット同然の生活を余儀なくされているのだから、Y美とおば様が起きて、食事の用意をしてくれるのを待つほかない。
この無駄に長い時間をどう過ごすか。結局、することがなくて、またごろりと横になって、あれこれ自分のこれからの運命を考えるしかないのだった。砂に体を埋めて、横向きになって目をつむる。
砂は素肌に心地よい。僕に与えられた唯一の体を覆う物がこの砂粒だった。濡れていれば多少は付着するけれど、まあ体を少し動かしただけで、すぐにこぼれ落ちるから、この砂の中に潜り込めば、もうじっと動かずにいるのに如かない。そう、この砂が僕にとっての毛布であり、肌着なのだから。
どうして庭に砂場があるのか。
母屋には、居候の僕にも割り当てられた部屋が一応はある。二階の、Y美の部屋の斜め向かい、南向きの部屋だけど、僕の持ち物はすべておば様が預かっているので、古びたマットレス一枚しかない。おまけにカーテンはすべて取り払われて、夜になって電気を点けると、畑からも僕が素っ裸でいるって分かってしまう。だから、僕は本当に必要な時しか電気を点けない。「電気代の節約になっていいわ、カーテンを取るって」とおば様はY美のアイデアを絶賛したけれど、しょっちゅう夜更かしして、結構な頻度で電気を消し忘れて眠ったりするY美の生活態度を改めさせるほうが、よほど電気代を抑えられると思う。
ともあれ個室があるのは、たとえ何もない、がらんとした部屋であっても、始終いじめられている僕にとっては、たいそうありがたかった。心と体を休められる場所がなによりも僕には必要だったから。しかも家ではブリーフの白いパンツしか着用を許されていなかったし、夏休みに入ると、Y美にしばしばそのパンツすらも取り上げられて、全裸で過ごす時間が圧倒的に増えた。自室にこもって、一糸まとわぬ身を誰の目にも晒さずにいられるのは、それだけでもストレスの軽減につながる。
このように避難所とも言える僕の部屋も、Y美の思いつきのひとことによって、あっけなく取り上げられてしまった。海水浴旅行の帰りの車の中でY美がいきなり、「ねえお母さん、チャコ(Y美は僕のことをこう呼ぶ)をもう家の中に入れるのはやめようよ。ペットなんだから、庭で飼ったら」と提案したのだった。最初おば様は、「ええ、Y美、あんた何言ってるの?」とびっくりの様子だったけど、しばらく思案してから、なぜか、「それもそうね。そうしようか」と賛成した。
最初、冗談かと思った。でも、本気だった。帰宅しても、Y美とおば様は全裸の僕を家の中に入れてくれなかった。ドアを叩いて入れてくれるように頼むと、開いたドアからY美が疲れた顔を出して、「うるさいよ、馬鹿」と、いきなり僕に平手打ちを食らわした。仕方なく、その日、僕は庭の便所小屋の狭い空間で体を曲げて寝た。家の中のトイレの使用が許されていない僕のためにおば様が設置してくれた、和式の便器が一つあるだけの電球もない真っ暗な小屋だ。
その翌日、朝の世話をしにきたY美から僕は不可解な命令を受けた。縁側近くの畳一畳分ほどのスペースの草をむしれと言う。
草といってもよく手入れされた芝生だったから、ほんとに引っこ抜いていいものか、迷ってしまう。過去にもY美の指示どおりにこなして、後でおば様にこっぴどく叱られたことがあった。それも片手で数えられないほど。スーパーの駐車場で全裸にさせられ、泣きながら土下座をしておば様の許しを乞うた時の、僕を見下ろすY美の冷たい視線が忘れられない。
そんなわけだから、Y美に指示内容を確認した。すると、Y美はうつむいてしまった。沈黙。しまった、と思った時はすでに遅く、横からしなってきた左足が僕の脇腹に食い込んで、僕の裸身は右へ吹っ飛んでいた。
「芝生だろうがなんだろうが、草を抜けって言ってんだよ、バーカ」
ヒィィ、苦しい、呼吸ができない。横向きになって体を曲げて苦しむ僕のお尻をY美はペンペン叩き、僕の後ろ髪を掴んで、顔を芝生にこすり付ける。「この芝生」
「わ、分かりましたから」僕は顔が地面から離れた一瞬を狙って叫んだ。もうY美にたいしては敬語が当たり前だ、同級生なのに。「だから、もうやめて、離してください」
「ちゃんとやる?」
「やります」
なんで朝からこんな目に……。僕は命令を受ける時はいつもそうするように、気をつけの姿勢を取った。
「だったら、めんどくさそうな顔すんなよ」
「はい、申し訳ありませんでした」
地面と平行になるまで顔を下げ、静止。Y美のサンダル履きのピンクのマニキュアを塗った素足が視界の端にあるけれど、あまり見ないようにする。関係のないものをじっと見ているって知られてしまうと、それを理由にまたどんなひどい、恥ずかしい罰を受けるか知れたものではないから。
草むしりという、やってみて初めて気づくなかなかの肉体労働を朝の涼しいうちに課したということで、Y美は僕に恩着せがましい態度を取った。確かに日盛りの時間帯では、麦わら帽子などの日除けでも与えられないかぎり、とても体が持たない。どうせ僕には肌を覆う物はもちろん、帽子だって着用は許されないだろうから、Y美のこの配慮には素直に感謝しなくてはならなかった。
それでも指定された範囲の草を引き抜いたあとは、全裸でもう脱ぐものなど糸くず一つ残っていない身にさえ感じる暑さはひとかたならず、Y美から「汗で全身がてかてか光ってる」と笑われる始末だった。おまけにへとへとに疲れて、指先や膝から下は土まみれになっていた。お粥と梅干の朝食を這ったまま手を使わずに済まし、Y美に朝の世話を一通りしてもらうと、次の肉体労働を命じられた。
「穴を掘って」
物置から出してきたスコップを僕に押しつける。
「あ、穴ですか」
「そう。草むしりをしたスペースだけでいいから。すっぽんぽんでがんばりな。パンツ一枚も穿かせるつもりはないからね」
命じられたとおり、素っ裸のままスコップを振るって、深さ五十センチほどの穴を掘る。これが初日に僕がこなした仕事だった。
翌日は砂運びだった。門を出て左方向に一本道をしばらく進むと、みなみ川教の施設がある。そこから運搬用の手押し一輪車を使って、砂を運び入れなさいとY美は言った。「もちろん素っ裸のままでね」
近所の人は、僕が一糸まとわぬ格好で歩いているのを見ても、もうあまり驚かなくなっていた。「まあ、あいかわらずね」と笑ったり、黙って顔をしかめたりするだけだ。中には、親しげに近づいてきてペタペタと触ってくる人もいる。
両手でおちんちんを隠しながら歩き、みなみ川教の所有する広い敷地に入る。積乱雲がもわっと伸びてきて、今にも雨の降ってきそうな天気になっていた。端っこに車が数台止まっているだけの駐車場を横切り、受付で来意を告げる。受付の女の人は素っ裸の僕をじろじろ上から下まで眺めて、「サンダルくらい履きなさいよ」と難じた。
これまで「せめてパンツくらい身に着けなさいよ」と馬鹿にされたことは何度もあるけれど、足のほうを指摘されることは少なかったので、お尻と同じように裸足を丸出しにしていることも俄かに恥ずかしく感じられて、もじもじするしかなかった。確かに履物があれば歩きやすくなるし、足を怪我する心配もなくなるのだけど、おば様もY美も、僕の体には何もまとわせないという考えが徹底しているので、「サンダルくらい」と思っても、絶対に僕には与えてくれないのだった。
「おう、話は聞いてる。こっちだ」
廊下の暗がりから、すたすたとごま塩頭の老人が出てきて、全裸の僕を見てもまるで驚くふうでもなく(この人には良い思い出がない。会えばいつも僕が素っ裸だったということも関係しているのかもしれないが、とにかくしょっちゅうおちんちんを触られた。その皺だらけの手で射精させられたこともある)、案内してくれた。裏庭に回ると、高さを優に四メートルは超える大きな砂山があった。
「ほれ、ここにある道具、どれも自由に使っていいから」
おちんちんと胸を隠したまま、軽く頭を下げる。
「ぐすぐずしてっと、雨降り出すぞ」
「はい」
僕は運搬用の手押し一輪車を起こすと、錆びたスコップを手に取って、砂山に突きさし、両手をぶるぶる震わせながら、一輪車に積んだ。ひ弱な僕の力でもぎりぎり運べる程度の重さにして、さて運び出そうとした時、
「何やってるの」
Iさんが怖い顔をして、行く手を遮った。「その砂、どこへ持ち出そうとしてんのよ」
ちゃんと話は通してあると言っても、Iさんは納得しなかった。砂を持ち出すには、一回ごとに精液を提供しなければならない、などと初耳の、変な条件を提示する。
「な、なんですか、それは」
面食らった僕は、一輪車から手を離しておちんちんを隠した。
「知らないとは言わせないよ。ここから砂を運び出すんなら、射精してもらうからね。あんたのような皮かむりの無毛おちんちんから出る精液は、値打ちもんだからね」
「か、堪忍してください」
Iさんが付き添いの女性を走らせると、しばらくして建物の陰から紫の着物をまとった老婆がぞろぞろと出てきた。僕の前に座り込み、それぞれが手に持った数珠をこねくり回して祈り始める。なんなの、気持ち悪すぎる。体が本能的にこの場を去ろうとする。が、Iさんに腕を掴まれてしまった。
「おっと、逃げない。あんた、早く射精しなさい。自分の手でしごくの」
「無理です。こんなところで、できません」
紫の着物の老婆がぶつぶつ変な節のお経を唱えて、時々顔を上げて、素っ裸の僕を見て目を細める。とても性的な感興を高められる状況ではない。むずがる僕の耳たぶに鋭い痛みが走った。Iさんに摘ままれたのだった。
「あきらめて自分の手でおちんちんをしごきなさいよ、もう」
「いやです、無理」
耳たぶを引っ張られる激痛に呻きながら、抵抗する。Iさんはいったん耳たぶから手を離し、僕の腕を背中に回した。痛い。
「下手に動くと腕へし折るからね」
背後に立つIさんは足を絡ませて僕の足の動きを封じると、「ニギニギしてやって、ニギニギ」と老婆たちに呼びかけた。
「ヒッ。何するんですか?」
恐怖に四肢を震わせる僕の前に一人の老婆が進み出て、おちんちんへ両手を伸ばした。アウッ、と呻いてしまう。おちんちんの袋を手のひらに乗せられたのだった。最初は優しく揉んでいたが、少しずつ何かを探るような動きになってくる。ほどなく二つの袋のそれぞれの玉が指に挟まれる。アウッ、いや……。力が加えられる。耳たぶの時とはまるで異なる種類の痛み、内臓を素手でかき回されるような激痛に悲鳴を上げた。
「やめて、お願いだから、やめて」
涙をポロポロこぼしながら、叫ぶ。
「ちゃんとオナニーする? みんなの前で」
Iさんの唇が耳の裏側に触れる。唾液をたっぷりなすり付けられる。
「します、しますから、離して」
目をつむって叫ぶ。……やっと手を離してもらった。腕を取られているのでしゃがみ込むこともできない。ズキズキ痛む陰嚢を手で庇いたかった。痛みが和らぐのをしばらく待つ。縮んで最小サイズになったおちんちんを見て、付き添いの女性が声を立てて笑う。
十名を超える老婆がそれぞれ数珠を手にして、皺だらけの口をもぐもぐ動かしている。立ったままおちんちんをしごく素っ裸の僕を見上げて、小さな声でお経を唱える。この紫の着物の小さな山々に向かって精液を放出しない限り、砂を運び出せる見込みはない。僕はひたすら仰向けに寝て股をひらくメライちゃんを思って、指で作った輪を前後に動かした。
絶頂へ導く太い刺激が陰嚢からズンズンと唸った。徐々に体の内側をどろどろと広がってゆく。重油の入ったバケツを倒したかのようだ。アウッ。思わず喘いでしまう。Iさんがプッと吹き出した。「いきそうなの?」
「はい、そろそろ……」
「いくときは、ちゃんと言いなさい。こっちも準備があるから」
付き添いの女性がシャーレを持って戻ってきた。Iさんの無言の指示を読み取った彼女は、おちんちんの先にシャーレを構えた。そうだった、僕にオナニーを命じたのは、僕の自尊感情を貶めて楽しむためではなく、精液採取という目的があるからだった。
い、いきそうです、と伝える。シャーレを持つ女性の目が大きく見開かれた。「いいわよ」とIさん。その途端、大きく膨らんだ亀頭の裂け目から白濁の精液が糸のようにずるずると飛び出し、横向きに立てたシャーレの底にぶち当たった。老婆たちの読経が一段と高くなった。精液の溜まったシャーレは蓋をされ、うやうやしく地面に置かれた。儀式は続いているようだった。皆の前でオナニーさせられた僕は、そそくさと一輪車に積んだ砂を運び出した。羞恥のショックへの応急処置的な対処としては、とにかく体を使った仕事をするのが一番いい。これまでの数知れない性的ないじめの経験によって学んだことを僕は速やかに実行した。
運搬用の一輪車を押して、まっすぐの道を進む。雨が降ってきた。すぐに結構な勢いになって、僕の裸の肩や背中、お尻を細かく濡らしていく。水溜まりを通過する車が少しもスピードを落とさなかったので、僕は泥水をほぼ全身に浴びる羽目になった。運転者は僕が服を着ていないからクリーニング代を請求される恐れはないと思ったのかもしれない。
Y美の家の庭の、縁側に近いところが指定された範囲だった。畳を二枚、横に並べたくらいの広さ。芝生が掘り返されて、脛が隠れるくらいに窪んでいた。ここに砂を落とし込んで、砂場を作るのが僕に課せられた仕事だった。砂はみなみ川教の施設敷地内から運ぶ。片道五分はかかる距離だ。
「簡単な仕事だよね」とY美は言った。確かに単純な作業ではある。「さっさと済ましちゃってよ」とすまし顔で急かされても、しかし体はすぐに動かなかった。大した距離ではないし、素っ裸のままでも問題にはならないとY美が考えているのは明らかだった。いつのまにか僕の全裸での外歩きは近所の人に黙認されているのだから。
一回目の砂を下ろした時、僕は一輪車に積んだ砂のあまりの少なさに愕然とし、膝を落とした。この窪みを砂で満たすのは、とても一日では無理だと悟った。いくら体に鞭打ったところで、砂を運ぶたびに射精させられるのだから、一日ではせいぜい五往復が限界だ。これも四日前から射精していないからこその五往復である。
夏休みに入ってからY美は夏期講習に忙しく、それ以外の時間はS子と毎日のように遊びに出かけて、屋外に放置された僕を性的にいじめる機会を積極的には作らなかった。もしY美に面白半分におちんちんをいじられ、あるいは射精を強要されていたら、砂運びができる回数はさらに減るだろう。庭に作られたこの浅い堀を砂で満たすには最低でも五日、場合によってはその倍近く日数を要するかもしれない。
砂を運び出すにあたって射精させられるルールをY美は知らなかった。どうやって射精したのかと聞かれ、自分の手でしごいたと答えると、Y美は「お婆さんたちに見られながら、よくできたね。さすがチャコだよ」と大いに感心した。そして、二回目の砂運びへと僕を追いやる。雨に打たれながら、僕は素っ裸の身をぶるぶる震わせ、運搬用の一輪車を押した。寒くはなかった。ただ、またもや射精を強要されるのが怖くて仕方なかった。
結局この日は午前中に五回の砂運びをした。目減りして、薄くなった五回目の精液を矯めつ眇めつしてから、Iさんが「今日はもうこれで終りにする。続けて無理に出すこともできなくはないけど、こんなに薄い精液は運び出す砂の価値に見合わないから、もっと砂を運びたいのであれば明日以降にしなさい」と言った。老婆たちは、精液を搾り取られてぐったりした僕の腕を取り、立たせた。土砂降りの雨の中、僕は本日最後の砂を運んだ。
まさしく重労働だった。みなみ川教の敷地での全五回の射精は僕をすっかり打ちのめし、僕をただぼんやり放心するだけの虚ろな動物にした。
二回目の射精は、老婆たちの手でおこなわれた。相当に雨が強くなって、講堂の大きな庇の下に移動させられた。老婆たちは僕の全身を撫で回し、乳首を舐めた。
三回目も同じような感じだったけれど、しごいてもしごいてもなかなかおちんちんが大きくならなかったので、ひとりの老婆がおちんちんを口に含み、舌を使った。
四回目は、「もうさすがに無理です」という僕の泣き言を無視して、Iさんに付き添っていた女性がおちんちんをしごいた。老婆たちと違って、しなやかな、瑞々しい指でおちんちんを刺激する。最後にはおちんちんを口に含んだ。老婆たちの手はその間もしきりに僕の裸身をぺたぺたと遠慮なく触りまくった。
五回目は、お尻に指を挿入された。付き添いの女性の細長い指が抜かれると、次には老婆たちの指が代わる代わる入ってきた。おちんちんが僕の意思とは関係なく、ムクッと頭を上げた。
庭に掘られた穴を砂で埋めるのに七日もかかった。初日こそ五往復したけれど、二日目以降は最大で三往復しかできなかった。Iさんの精液検定が厳しくなったというのも、ある。あまり薄くて量が少ないと、みなみ川教が提供する砂の価値に釣り合わないと判定されるのだった。おちんちんがちぎれるほどしごかれて、射精寸前でかすかに快感の波がさっとよぎって、ようやく出した精液を「これじゃ、だめよ」とIさんに捨てられたときは、僕は嗚咽して抗議した。もちろん聞き入れてもらえず、結局、手ぶらで戻った。
何よりも砂を持ち出すにあたって精液を放出し、みなみ川教に献上しなくてはならないという、まさにこの一点において、砂運びは難儀を極めた。僕はいつも素っ裸だったし、砂運びに際しても初日同様、履物すら与えられなかったから、当然人目につきやすく、いじめのターゲットにされやすい。しっかり精液を出せなくなるような状況に追い込まれることもあった。
がんばってねえ、とY美に見送られ、おちんちんを両手で隠し、素っ裸のまま、とぼとぼとみなみ川教の施設を目指して歩いていると、通りかかった同じ中学の先輩男子たちに捕まってしまった。顔見知りのモン先輩が僕に絡んできた。砂運びという、Y美に課せられた大切な仕事をしなければならない旨を僕はすぐに伝えた。
モン先輩はY美の凄みをよく知っていた。中学一年の女子ながらモン先輩を凌ぐ凶暴性を秘めて、怒らせると手が付けられなくなるY美、気に入らない女教師を呼び出して暴行し、口に付着した砂を食べさせたY美を、モン先輩は恐れていた。もちろんプライドというものがあるから表面上はなんでもない振りをしていたけれども。
校舎の裏で仲間たちと煙草を吸いながら、Y美について「あの女、マジでやべえよな」と話したときのモン先輩の声の微かな震えを思い出す。だからY美の名前を出せば、もう僕にちょっかいは出さなくなると思ったのだった。
でも、当てが外れた。Y美の恐さを知っているからこそ、命じられた仕事を果たせなくなった場合に僕がひどい目に遭うであろうことを予測して、モン先輩は、連れの四人とともに期待に胸を弾ませ、藪の向こうの空き地に僕を連れ込んだ。
まず僕は土の上に正座させられた。そして、あろうことか、オナニーを命じられた。僕は黙ってうつむき、首を横に振った。
「いいじゃねえか。久しぶりに見せてくれよ」
か、堪忍してください、と泣きそうになるのをこらえて、哀訴する。
「あんたに拒否する権利って、あったっけなあ」
いつもモン先輩と行動を共にするアキ先輩がとぼけたように首を傾げる。この女の先輩はお尻の穴に関心があって、僕はこの女の人に何度となくお尻の穴を広げられたり、浣腸されたりした。お尻の穴を責めることでおちんちんにどんな変化が生じるかにも目を向けて、おちんちんに触れずしてこれを硬くさせることに達成感を覚えるような人だから、僕にとってアキ先輩は恐怖の女帝でしかなかった。裸の肩を震わせていると、地面に顔を押しつけられる。いけない、自然とお尻が上がって無防備になってしまう。
痛い。お尻の穴を広げられる。アキ先輩のアシストをする坊主頭の男の人が指を二本、僕のお尻に挿入し、中で指と指をできる限り離そうと試みるのだった。僕は涙を流して、「やめて、もう許してください」と訴えた。
許されるには皆の前でオナニーしなければならない、とモン先輩が言った。ここで無駄に精液を出してしまったら、今日予定している量の砂を運び出せなくなる。それだけ砂運びの仕事が延びて、肉体的というよりは精神的な苦痛を増大させる。
「それだけは許してください」
「だめだね」と、今度はアキ先輩が言った。「ナオスくん、あんた、人前でオナニーするの好きでしょ」
好きじゃないです、と反射的に絶叫すると、「なあに、その生意気な口の利き方」とお尻を力いっぱい、三発も平手打ちされてしまった。申し訳ございませんでした、と素っ裸の僕は土下座して、許しを乞う。
なぜオナニーしたくないのか、その理由を僕は率直に述べることにした。砂運びという仕事に伴う射精について、理解を得るためだ。それでもモン先輩は難しい顔をしたままだった。アキ先輩は腕を組んで、キッと僕を睨みつけている。説得の難しさがひしひしと伝わってくる。そこで僕は提案をした。「別の機会に必ずオナニーして見せます」
「マジかよ、お前」モン先輩の顔つきが少しだけほぐれた。「俺っちが命じたら、その場でオナニーできるかよ」
「はい」顔を上げて答える。後先のことなんか、どうでもよかった。もしも八百屋の前でしろと言われたら、する。そうなったらそれまでだ。「だから、今だけは許してください」
「わかった」とモン先輩が言った。アキ先輩が驚いたようにモン先輩へ顔を向けた。モン先輩は仲間たちを見渡して不敵な笑みを浮かべた。「じゃ、今、やってみろ」
「へ?」
「今は許してやる、と言った。でも、その今というのは、もう過ぎた。今は別の今だろ。今は許してやったから、今度の今は、諦めてオナニーしな」
「……今も、許してください」
アキ先輩と坊主頭の先輩が左右から僕の腕を取って、僕を立たせた。
「今も許したよ。でも、次の今は許さないってこと」と、アキ先輩がハミングしながら、言う。何ですか、その小学生みたいな屁理屈。僕の頭は絶望で真っ白になる。一方で、こんなものはこれまで散々体験してきた災難の一つに過ぎないし、どちらかといえば軽い部類だ、とも思う。「時間がねえんだ、早くしろ」と、モン先輩が怒鳴った。
こうして僕は立ったまま、モン先輩たちの見ている前でオナニーをさせられることになった。射精すると、アキ先輩が手を叩いて喜び、僕の下半身にしがみついた。そして、たった今射精したばかりだというのに、おちんちんに手を伸ばし、しごき始める。
やめて、もう許して、と腰を揺さぶって逃れようとするものの、モン先輩たち三人の男子に体を押さえられた。「アヒッ、い、いやだ」女の人が僕の乳首を舐めた。アキ先輩の手でしごかれ続け、あっけなく二度目の射精をしてしまう。砂運び用に溜めた精液を二回分も無駄にこぼしてしまった。
呆然とする僕を置いて、彼らはそそくさと立ち去った。これから街へ繰り出し、ぶらぶら気ままに遊ぶのだと言う。「一緒に行く?」とアキ先輩に誘われた。「もちろん、あんたは素っ裸のままだけどね。わたしは構わないよ。どう? わたしたちと遊びに行かない?」
もしも僕が本当に彼らとこの格好のまま街へ出かけたりしたら、彼らもまた災難に巻き込まれる。僕とは異なる種類の災難だ。それなのにモン先輩まで「来いよ。金なら出してやるからよ」などと、のんきそうに手招きしている。
「そういえば、あんたさあ」と、アキ先輩が僕の肩に手を回して、言った。「すっぽんぽんで路線バスに乗せられたんだって? Y美ちゃん、やるよねえ」
「おう、そうだ。おれっちと同じクラスの奴の母親がそのバスに乗ってたってよ。お前、ちょっとした有名人だよな」
「いつも素っ裸の有名人。だから、その格好で街に出かけても、平気だよ。てか、みんな喜ぶかも」
気づかないのだろうか。僕を全裸のまま連れ回したりしたら、絶対に警察に呼び止められる。僕は警察に洗いざらい話す。いじめに遭っていること、虐待されていること、など。その弊は彼らだけではなく、彼ら以上にY美とおば様にも及ぶ。Y美は保護観察の身となり、せっかく塾通いして成績を上げてきたのに、もう高校進学どころではなくなる。おば様の受ける社会的制裁は、Y美以上だ。刑事事件になって禁錮刑に処せられるだろう。Y美の恨みを買ったモン先輩たち五人は、Y美の父親からほぼ確実に地獄落ちに等しい報復を受ける。Y美の父親は裏社会の人で、対面するだけで生命の危険を感じるほどの怖い存在だ。だから、絶対に僕を素っ裸のまま街へなど連れて行かないほうがいい。これ以上、僕にかかわらないほうがいい。
ともあれ、二回分の精液を搾り取られたせいで、この日、僕は一回しか砂を運搬できなかった。それも随分と時間がかかってしまったし、Iさんに補助してもらってやっと出したそれは量が少なく、薄めだったので、Iさんに「さてはあなた、Y美ちゃんにやられたね」とからかわれた。砂の価値と釣り合わないなどと言われたらどうしようかとビクビクしていたけれど、Iさんの機嫌がそんなに悪くなかったのは幸いだった。
苦労して砂を運んで作った砂場を寝床にする僕は、射し込む朝の光に目を覚ましても、特にすることなんか、ない。しばらく砂の中でごろごろ過ごして、それから体を起こす。全裸野外生活を強いられ、家の中に入ることは許されていないので、カーテンの隙間から部屋の様子を窺い、Y美とおば様はまだお目覚めでないと察する。庭の水撒き用の蛇口で顔を洗って、家の敷地内をうろうろする。
たまに早起きの老人たちが畑にいたり、道を歩いていたりして、彼らの目につかないように配慮するけれど、それでも見つかってしまって、声をかけられることもある。そういうときは、普通に朝の挨拶を返して、ぺこりと頭を下げる。もう僕の素っ裸という格好は彼らにとっても当たり前になっている。
この日、農作業をする女の人と柵越しにちょっとした立ち話をしてしまった。家の前の道をジャージ姿のおじさんたちが五人くらいまとまって歩いてきたので、物置の陰に隠れて通り過ぎるのを待っていると、お尻をツンツンと棒のようなもので突かれた。つばの広い帽子を被った、三十代半ばくらいの女の人が柵の前でニコニコ笑っていた。
畑で土をいじっていたら、僕のお尻が目に入ったので、ついちょっかいを出してしまったのだと言う。「ごめんなさいね」と、振り返った姿勢のままフリーズした僕をじっと見つめて、謝る。僕はおちんちんを両手で隠して、この女の人に向き直った。見つめ合ってしまい、照れていると、ククッと笑われた。
「さっき、物置のところで、何してたの?」
「えっと……、おじさんたちが来たので、隠れてました」
「そっか」と女の人は納得したように頷いた。「きみ、やっぱり裸を見られたくないのね」
ええ、と僕は言った。おちんちんを隠す手に力がこもる。
「不思議なものね。いつも裸のくせに。恥ずかしいの?」
「は、恥ずかしいです、やっぱり。みんな服着てるのに……」と、率直に答える。
「なるほどね。きみだけいつも真っ裸だもんね。慣れる慣れないとかの問題じゃないかもしんないわねえ」
「……野菜、作ってるんですか?」
なんとか話題を変えたくて、質問を投げかけてみる。
「あら、あなた、野菜に興味があるのね」
女の人はスイッチが入ったかのように、畑で栽培中の野菜について、とうとうと語り始めた。早くひとりになりたいのに、こうなってくると、興味がなくても付き合わざるを得ない。やがて、Y美の呼ぶ声が聞こえてきて、僕は失礼してこの場を後にした。
夏祭りを八日後に控えて、マジックショーにアシスタント出演する僕とメライちゃんは、このところ毎日のように練習させられている。マジシャンである鷺丸君の熱の入れようは半端なかった。メライちゃんも僕もこの練習が苦痛で仕方なく、本番を思うと憂鬱になるのだけれど、ミスがあったり動きが少しでも緩慢だったりしたら、鷺丸君や、時には鷺丸君のお姉さんにこっぴどく叱られたり、ぶたれたりするから、練習中は、まったくもって気を抜けないのだった。
朝の世話を担当するのはY美だった。Y美がホース片手に蛇口を捻り、勢いよく飛び出す水を僕に向ける。ヒッ、冷たい。石鹸とタワシで全身を洗い、シャンプーで洗髪する。日焼け止めクリームを全身に塗られる。そのあいだ、素っ裸の僕は両手を頭の後ろで組んで、じっと立っていなければならない。Y美の短パンから伸びた脚がつるつるして眩しい。
塩おにぎりと梅干だけの朝食後、朝の支度を済ますと、さっそく鷺丸君の家まで向かうことになった。おば様が車で送ってくれるのだ。一切の着衣を認められなくなってから、お出かけの際は、いつもそうだった。ただし家から徒歩三分の距離にある駐車場までは、素っ裸のまま、おば様の背中に隠れるようにして歩かなければならない。
大した距離ではないものの、問題は、たいてい途中でおば様が知り合いに会うことだった。会釈だけで済めばいいけれど、立ち話が始まると厄介だった。終わるまで、僕は立ち止まって待たなくてはならない。三十分を越えてなお話が終わりそうもない、なんてことも一度だけあった。
この日、おば様は自宅の高台の庭で水を撒くF田さんに朝の挨拶をした。「あら、どちらまで?」と聞かれたら、「ええ、ちょっとそこまで」が期待される返しなのに、なぜかおば様は「ええ、実は」などと、これから行く場所だけでなく、その目的、経緯などを説明し出した。F田さんこそいい迷惑だろうけれど、おば様の不興を買うと仕事の上で苦境に立たされてしまうものだから、F田さんは目を輝かせて、適宜質問などを挟み、大いに興味のある振りをして健気に聞き役に徹した。
僕は大きな木陰の、涼しい風が吹いてくる崖際にいた。遠くまで田んぼの広がる、なかなかいい眺めだった。川の向こうには町があった。母の住む町だ。僕の母は、なんとかいう会社の独身寮の寮母として、住み込みで働いている。
早く昔のように母と一緒に暮らしたい、いつまで奴隷のような居候生活をさせられるのだろうか、と心の中で嘆いていると、F田さんの庭から赤いビーチボールが飛んできて、木の枝をすり抜け、崖下に落ちていった。
すぐにF田さんちの二人の姉妹、小学六年の幸ちゃんと四年の雪ちゃんが道路に出てきた。大木の後ろに素早く隠れた僕を無視するようにして、錆びた、腰くらいまでしかない高さの柵から身を乗り出す。
「あ、あんなところにあるよ」
「ほんとだ。よかったね」
二人は目の端で捉えていた僕のほうに回ると、おちんちんを両手で隠す僕をじっと見つめて、「じゃ、お兄ちゃん、取ってきて」と命じた。まるで食卓で「塩取って」と言うのと変わらない軽い調子。僕が素っ裸でいることなど、彼女たちには、ごく当たり前の日常風景のようだった。そんなにしょっちゅう会っているわけではないのに。
「へ? 取ってくるって……」
「あの赤いビーチボールだよ。あすこに見えるでしょ」
幸ちゃんの指す方向に目を凝らすと、ずっと下の、木立の中にそれらしい球体が見えた。取りに行くには、岩石のごろごろする険しい斜面を下らなけなければならない。危険すぎる。無理だよ、と断って、おば様を見る。よかった、おば様も頷いてくれた。さすがにおば様も無謀だと思ってくれたようだ。「この崖を下るのはちょっと危ないわね。ロープでもあれば話は別だけど」と笑う。
「ロープでもあればね」
おば様のこの一言は、僕をたちまちにして不安の渦に巻き込んだ。予感的中。すぐさまF田さんが庭からロープを投げてよこした。
ロープを伝って降りるにしても無理、だいいち僕はそんなに手の力が強くない。いやがる僕を幸ちゃんは「体に巻きつけるから、手の力とか関係ないよ」と説得する。ますますいやになった。おば様のアドバイスを受けて、なんと、幸ちゃんはおちんちんの根元にロープを巻きつけようとするのだから。
「いやだ、そんなところに繋がないで」
「じゃあ、どこに繋ぐのよ」おば様は、わがままな男の子に手を焼く母親のような口調になった。「首に繋ぐの? 危ないでしょ。腕もよくない。手の動きが不自由になるからね。腰に繋ぐ? 外れちゃうわよ、ベルトつけてるならまだしも。あなた、真っ裸じゃないの。ロープを繋ぐ衣類を身に着けているわけじゃないし、おちんちん以外に繋ぐところなんか、ないって、ちょっと考えただけで分かるでしょうが」
「男の子って、便利でいいね」と雪ちゃんが感心して、いっそう接近した。つい最近まで僕よりもわずかに背が低かったのに、夏休みに入って越されてしまった。僕の頬をぺたぺた触り、首筋を撫で、裸の肩を軽く叩くと、乳首からお腹へ立てた指を滑らせた。おちんちんを必死に隠す僕の手の甲を抓る。「これ、邪魔」
背後から手が回ってきて、僕の手首を握る。おば様だった。速やかに後ろへ回されてしまう。おちんちんが露わになって、姉妹は同時にしゃがみ込む。最初に手を伸ばしたのは妹の雪ちゃんだった。ヒギギィッ、痛い。
「じっとしてて。おとなしくしてないと、もっと痛いよ」
おちんちんの袋を握って引っ張られ、下手に動くと激痛が走るから、呻きながらじっとしているしかない。姉の幸ちゃんがせっせとおちんちんの根元にロープをかけて縛る。縛り具合を確認する際、雪ちゃんの手がおちんちんの袋からおちんちんへ、こするように動いた。指の背中をおちんちんに押しつける具合だ。
やだ、なんか、変な気持ちになってしまう。まずい、と思った時にはすでに遅く、「やだ、何してんのよ、お兄ちゃん」と幸ちゃんに呆れられてしまった。形状を変化させたおちんちんがピンと天を仰いでいた。
「これからボールを拾いにいくっていう大事なお仕事があるのに、おちんちん大きくさせてていいの?」
屹立したおちんちんをピンと指で弾かれ、感じまいと僕は歯を食いしばり、後ろ手に固定された不自由な裸身を捻った。
「知らないよ。なんかいじられると、こうなっちゃうんだよ」と、男子の生理を理解しようとせず、ただおもしろがるだけの雪ちゃんに向かって、僕は訴えた。「だから、もう許して。そんなに触らないで、だめ、アウッウウウ……」
今度は姉の幸ちゃんがおちんちんの裏側をスーッと指の腹で撫でつけた。急上昇する快感指数に腰をくねらせて、耐える。
「これが男の子よ」とおば様が言った。「いつも気持ちいいことを体が求めているの。動物みたいでしょ。下等な生き物なのね。もちろんすべての男性がそうとは思わないけど」と、僕の後ろに回した両手首を握りながら、説明する。
悔しくて涙をこぼしそうになる。確かに僕自身、快感にすごく敏感になってしまった。そういう体になってしまったのだ。これもいつも全裸で生活させられ、しょっちゅう体をいじられているからだ。全身剥き出しの肌の感度が高くなるのも当然だと思う。性的な奉仕をさせられることで否応なく学ばされた性愛の技術も、僕自身の感覚を変容させた。そして僕が性的に感じてしまうのをおもしろがる人たちによってさらに刺激を理不尽に与えられ、もう、そういう刺激がないと物足りなく思うような体に変えられてしまった。
もちろん昔はそんなことはなかった。少なくともY美の家に居候する前までは。
どちらかといえば僕は自分を淡泊なほうだと思っていたのだ。Y美の家で暮らすことになり、一週間ほどで服を取り上げられた。家の敷地内では白いブリーフパンツ一枚が僕に許された唯一の衣類だった。そのパンツもことあるごとに脱がされ、今ではすっかり常時全裸を強いられている。そして、性的ないじめを絶えず受けて、笑われ、泣きながら射精し、周囲の僕に対する視線がそのまま僕の中に太陽光のように入ってきて根を下ろし、いつしか自分自身を「どうせ僕なんか……」という、得体の知れない自己評価最低レベルのアニマルに堕落させるのだった。
きつくおちんちんの根元を縛られた。試しに幸ちゃんがロープをキュッキュッと引いてみたけれど、袋の中の二つの玉が締め付けられるだけで、抜けそうにない。このロープは糸と見紛うくらい細かった。
「これで安心だね。足を滑らせても、わたしたちがロープを握っているから、滑り落ちる心配はないでしょ」とおば様が太鼓判を押し、僕を柵の外側へ送り出した。
こんな風にロープをおちんちんに括りつけられて、もう僕に逃れられる手立てはなかった。命じられるまま、岩を足場にして、少しずつくだる。体重をかけた途端、岩が崩れて落下することも度々だった。毎朝、日焼け止めクリームを塗ってもらっているけれど、今ほどそれをありがたく感じられたことはない。背中に太陽の強い光を受けながら、慎重に足の置きどころを下に求めていく。
あれ、下りられない、と思ったら、幸ちゃんたちがロープを握ったままだった。おちんちんの袋が締め付けられて、玉を圧迫する。上を向いて、ロープを下げるように手振りとともに呼びかけた途端、岩に置いた足が滑った。おちんちんの袋の裏側が斜面の茶色い地肌にぶつかり、こすれる。
落下するところをロープのおかげで宙ぶらりんになった僕は、おちんちんの袋の中の玉をロープが圧迫する激痛に悶えながら、「下ろして、早く下ろして」と叫んだ。ようやく裸足の足がざらざらした感触の岩に着地する。熱のこもったおちんちんの袋を手で庇いながら、僕は息を整えた。あと少しだ、と自分に言い聞かせる。
なんとか地面にたどり着いて、木立の中に入る。赤いビーチボールを発見。近づいたところでまたしてもロープが玉に食い込み、先へ進めなくなった。痛い。まったくもう……。不満を覚えながらも後戻りして、姉妹の怒りを買わないように、丁重にお願いする。「もう少しロープを出してもらえる?」
「もうこれが精一杯だよ」と雪ちゃんの声が天から降ってきた。「もうこれ以上の長さはないの」
見上げると、幸ちゃんと雪ちゃんは柵の隙間から顔を出して、ニコニコ笑いながら手を振っている。二人ともロープを握っていない。僕は試しにロープを手で力いっぱい引いてみた。柵に縛りつけたのか、ロープはピンと張って長さの限界を示すばかりだった。
仕方がないので、木立の中のビーチボールに向かって、進めるだけ進む。あと2メートルというところで、ロープがこれ以上伸びなくなった。僕は腐葉土の上を腹這いになって、ゆっくりとビーチボールへ向かった。熟練の職人の手で長い年月にわたって織られた絨毯のように深々した、枯葉や落ち葉の分解された土の上を素っ裸のまま這う。思わず喘いでしまう。乳首や下腹部、おちんちんが腐葉土にのめり込む。
ロープの輪がおちんちんの根元から抜ければいいのだけど、そのためには玉が玉の全長よりも小さな直径の輪を通らなければならず、無理に通そうとすれば、どうしても玉を変形させることになる。しかも玉は一つではなく、二つあるのだから、それは耐えられないほどの激痛を意味する。僕は腹這いのまま、枯れ枝を使ってビーチボールを引き寄せる方法を選んだ。
慎重に、時間をかけて、なんとかビーチボールを引き寄せることに成功する。しかし、問題は帰りだった。行きと違って、ビーチボールを持っているので、両手が使えないのである。では、どうやって斜面を登るのか。おちんちんの根元に繋いだロープで引っ張り上げてもらうしかない。
途中で足場を見つけては小休止を入れながら、引っ張ってもらう。あまりの痛みに耐えきれず、ビーチボールを手放してしまい、もう一度拾いに戻った。二回目は斜面の半ばで小休止している時に柵から身を乗り出した雪ちゃんが手を伸ばして、「投げて、投げて」とせがむので、そのとおりにした。と、見事に取り損なって、ビーチボールはまたしても落下するのだった。
「もう、いやだ。少し休ませて」
三回目にしてようやく崖上に戻ってきた僕は、ほとんど涙目だった。柵を乗り越えたところでしゃがみ込んでしまう。おちんちんの袋の中の圧迫された玉がキーンと金属的な音を立てて痛んだ。
おちんちんの根元にきつく縛りつけたロープをほどく段になって、雪ちゃんが邪魔にならないようおちんちんを摘まんで上へどかすと、幸ちゃんが露わになったおちんちんの裏側を見て、あら、と声を上げた。「菌糸じゃないの、これは」と言う。
「きんし?」
ぽかんと口を開けた雪ちゃんに幸ちゃんが頷く。
「そう、菌糸。キノコの一部だよ」
見ると、確かに細い白い糸のようなものが、おちんちんの皮のたるんだ辺りに付いている。気持ち悪い。すぐに取り去ろうとしたところ、幸ちゃんに手の甲を思いっきり叩かれた。「待って。勝手な真似しないで」
夏休みの自由課題でキノコ類の研究を始めた幸ちゃんは、さっそく家からピンセットと小皿を持ってきて、これを採取する。姉妹のお母さんであるF田さんも来て、おば様に代わって後ろに回された僕の両手首を掴んだ。
「珍しい、非常に珍しい菌糸じゃないかしら」
ピンセットで丁寧に摘まみ、小皿に載せる。冷静にこれを取り扱いながら、幸ちゃんのテンションは高かった。一種の軽い興奮が彼女の手つきを正鵠無比にコントロールしているのかもしれなかった。
おそらく腐葉土の上で腹這いになった時に付着したものなのだろう。自分の世界に没入してしまった幸ちゃんは、僕の羞恥などどうでもよくて、もっと菌糸類があるかもしれないからと、おちんちんの袋の皺のあいだまで細かく調べる必要があると断固たる口調で主張した。これには雪ちゃんはもちろん、F田さんも母として娘の研究に全面協力する考えなので、一も二もなく支持した。
いやがり、抵抗する僕は後ろに回された腕を上部へ動かされたり、乳首を抓られたり、おちんちんの袋を握られたりして、じっと動かずにいることを強いられた。彼女たちは、「恥ずかしいからやめて」と訴える僕の気持ちを取るに足りないと考えているようだった。おちんちんを見られるくらい、今さらなんだと思っているのだろう。
アウウッ、と喘いでしまう。いきなりおちんちんの皮を剥かれた。波の下に隠れていた岩が干潮時になって姿を現わすようなものだけど、ごつごつした岩と違って、亀頭はなよなよというか、ぷよぷよした、なんとも頼りない姿、形を、容赦ない日の光のもとにすっかり露出して、女子たちに女子たることの優越感をほとんど直感的に覚えさせてしまう。
昔は敏感で、指で軽く触れただけでひりひりしたものだった。ところが今や、それほど感じない。過敏ではなくなったのだ。考えてみれば、当たり前だった。僕はおちんちんをY美やおば様、同級生、先輩、後輩をはじめ、数えきれない人に触られてきて、中には名前も知らない人や通りすがりの人に面白半分にいじられてきたし、今も毎日のように手慰みにされている。そのおかげで亀頭はもう、それほどひりひりすることはなくなってしまった。慣れてしまったとも言える。それでいて皮は被ったままなのだから、僕としてはなんともやり切れない思いでいっぱいだ。
このことでは二日前もおば様に笑われた。皮が剥けていない状態で、すでに過敏状態から脱しているなんて、まるで皮が剥けて久しい成人男性みたいだと冷やかすのだった。その時僕はいつものように素っ裸だったし、雨の降り出した午後、洗濯物をしまい損ねた罰で軒先に後手縛りで吊られていた。Y美がフーンと感心して、「こんなちっちゃい、情けないおちんちんでも、しょっちゅういじられているから、内面的には成長してるんだね。少なくとも内面的には」と、奇妙なことを言って、おちんちんを指ではじいた。
幸ちゃんの菌糸採取を手伝う雪ちゃんがおちんちんを持つ位置を盛んに変える。僕は後ろ手に縛られていた。ずっと僕の手首を握っているのに疲れたF田さんが足下のロープに気づいたのだった。「これで縛っちゃおうかしら」
雪ちゃんにおちんちんを何度も摘まみ直される。そのたびに、ペタッと軽く圧する刺激が走って、地響きのようなものがおちんちんの袋からじわじわと伝わってくる。まずい。非常にまずい。……感じてしまう。
必死に感じまいと歯を食いしばる。素っ裸で後ろ手に縛られているのだから、感じてしまうと、もう隠しようがない。快感の刺激には絶対に抗えない。そんなことはもう知り過ぎているほど知っているのに、それでも僕は感じまいとする努力を繰り返す。やはり勃起するところは見られたくない。勃起する経過を至近距離で観察されるのは、何度経験しても慣れるものではない。
だんだん硬くなってくる。雪ちゃんは摘まむ位置をしきりに変える。摘まみ損なうと、おちんちんが垂れてきて、袋の皺の中を調べる幸ちゃんの邪魔をすることになる。
「雪ったら、しっかり持っててよ」
「ごめん、お姉ちゃん。なんか持ちにくくなって……」
摘まむのが面倒になったのか、雪ちゃんはいきなりぎゅっと握った。ヒッ、ヒィィー。その途端、おちんちんは一気に膨らみ、カチカチになった。他人の体温が通った手に握り締められる。アウウッ。思わず喘いでしまう。それでも幸ちゃんはチラと見てすぐに視線を袋の皺に戻したし、雪ちゃんも大して驚いた風ではなかった。姉妹の母親、F田さんだけが「持ちやすくなってよかったわね」と笑った。
袋の皺にビンセントを突っ込んで、短い糸状の菌糸を取り出した幸ちゃんは、続いて脇腹に付着していた縮れた糸のような物を採取して小皿に移した。
やっとおちんちんの袋から離れたと思ったところだった。アヒッ。いきなりビンセントで乳首を摘ままれた。
「やだ、お姉ちゃん。そんなところにも菌糸があるの?」
「ないよ。ただやってみただけ」
「かわいそ。なんかお兄ちゃん、痛がってるよ」
乳首にツーンと走った痛みに呻いた僕を雪ちゃんが笑った。あいかわらずおちんちんは握られたままだった。手を固定してなるべく動かないようにしてくれているけれど、それでも少しは動くし、僕の裸身が動いてしまう場合もある。動くと、摩擦してしまう。ジワッと痺れるような電流が全身に伝わってくる。
ついでに背中も見てみたい、と雪ちゃんが言った。F田さんの手で僕はくるりと反転させられた。そのあいだ、雪ちゃんの手は一瞬もおちんちんを離れなかった。握ったまま手を動かされる。ヒィッ。声を上げそうになる。もしこのまま射精してしまったら、必ずおば様の知るところになって、折檻されてしまう。
しゃがんだままの幸ちゃんは、目の前にあらわれた僕のお尻をぴしゃりと手で軽く叩いた。お尻を果物の皮を剥くように割る。
「やめて、そんなところは何もないから」
「ねえお兄ちゃん、おとなしくしててよ。大事な研究なんだから。遊びじゃないんだよ」
幸ちゃんに大人びた口調でたしなめられる。お尻の穴を広げられ、指先が肛門に当たったかと思うと、金属の感触があって、挿入してきた。F田さんに肩を押さえつけられて、動けない。スカートにたくさん付いたフリルが硬くなったままのおちんちんの裏側に触れて、僕にしか聞こえない衣擦れの音を立てる。急上昇の快感指数。全身の筋肉を強張らせて踏ん張る。「やめて……」と、僕は掠れた声でもう一度訴えた。「そんなところには……、ああ、何も……、付いてないから……」
ビーチボールを取りに崖を下りた時、僕は腐葉土の上で腹這いになって、ビーチボールに向けて手を伸ばした。だから、菌糸だかなんだか知らないけど、土の中の変な物がおちんちんに付着してしまったのは、分かる。お腹にも細かい枯葉の一部がそこかしこ付いていた。でも、一度も仰向けにはなっていないのだから、お尻の中にまで土の中の変な物が入っているはずはない。それなのに、いくら言っても無駄だった。幸ちゃんは自分の目で確かめないと納得しない。
激しく襲ってくる性的快感の波に絶えず責められ、朦朧とする。もう雪ちゃんはおちんちんを握りしめてはいない。亀頭がいっぱいに膨らんで、亀頭の下方から粘液がぬるぬる異様なほどに湧いているのに気づいて、このままでは射精すると思ったのだろう。それでも、おちんちんを指で挟んで、前後に動かすことはやめない。あるところで動きを緩め、あるいは手を離す。常に一定の快楽を僕に与え続けている。
感じまいとする努力は、もうとうに放棄していた。当然、彼女たちの前で射精しないように踏ん張ることもない。激しく呼吸する僕の口から、「お願い、お願いだから……」これに続く言葉は、さっきまでは「もうやめて、触らないで……」だったけれど、いつまにか、「いかせて、お願いですから、いかせて……」に変わっていた。
彼女たちはそもそも僕を射精させる気など、さらさらなかった。無断の射精が固く禁じられている僕の身を思ってのことというよりも、単純に僕を責めるのがおもしろいだけだからと思う。菌糸の採取を終えた幸ちゃんは、今や雪ちゃんと交互におちんちんをツンツン突いたりしごいたりしては、突然手を止めて、あられもない姿でくねくねと悶える僕の腰、脇腹、顔をじっと見つめ、あるいは撫で回し、底意地の悪い笑みを浮かべるのだった。
ご婦人の上品な笑い声に気づく。でも、年下姉妹によるしごき責め、いかせてもらえないしごき責めから逃れられない僕は、ただ、新たなギャラリーが増えたのかなとしか思えない。素っ裸で、後手に縛られて、大きくなったおちんちんをしごかれて、亀頭のまわりを精液で濡らし、その精液をお腹や乳首、背中やお尻に塗られて、ヒィッ、いや、アウッなどと喘ぎながら、なすすべもなく悶える惨めな姿を見て、僕を嘲る人が、僕を軽蔑する人がまた一人この世に誕生したのだ、としか考えられない。そして、僕はこのような情けない、自尊心を叩き割られるような羞恥の極みの経験をこれまで数えきれないくらいしてきた。だから、変な話だけど、それほどのショックは覚えない。
ここは高台にある住宅街の中の道路脇で、普通に人や車が通る場所なのだから、女の子たちに全裸でいじめられ、性的に不本意ながら興奮している姿を見られても、少しも不思議ではない。
執拗な指責め、勃起最大状態を保たせて、いきそうになるとしごきをストップする。僕は僕よりも背丈の伸びた小学四年の雪ちゃんに腕を取られ、道路脇に止まる車の方へ歩かされた。上品な笑い声の主はF田さんだった。停止した車の横で運転者と喋っている。僕を見て笑っていたわけではなかった。
運転席から助手席の窓へ身を乗り出したおば様が、僕の勃起させられたおちんちんを見て「何やってんのよ」と顔をしかめた。ごめんなさい、と反射的に謝る。「とりあえず謝る」は居候暮らしで身についた悲しい習性だった。
すっと横から伸びてきた幸ちゃんの手でおちんちんを軽くしごかれる。アウウッ。気持ちいい、恥ずかしいと思う感情の堰を快感の波は軽々と越える。反応する体は、射精という限界地点を必然的に目指す。が、いつもその地点に到達する直前で引き戻されてしまう。いや、やめて、と僕は小さな声で言った。
「射精させたの?」
「あ、大丈夫です。直前で止めてますから」
「そ」
おば様は幸ちゃんに頷くと、F田さんと雪ちゃんに後手縛りをほどいてもらっている僕を憐れむような目で見た。「よかったじゃないの。わたしが車を取りに行ってるあいだに遊んでもらって」
後ろの席に誰かが乗っている。Y美だった。
「え、なんで……」Y美がここにいるのだろう?
車を降り、感情の抜け落ちたような顔をして僕のほうへ向かってくるY美は、驚く僕の問いを無視して雪ちゃんから僕を引き取り、後部座席に力ずくで押し込む。もし僕が宅配便の荷物だったらクレーム案件になりかねない手荒な扱いだった。
発進した車の中で僕は身を起こし、座面に裸のお尻を着けた。コチコチに硬いおちんちんを両手で覆う。すっかり官能の火を付けられてしまった。こうなったら自分の手でしごき切ってしまいたいところだけれど、無許可でそれをするのは厳禁だった。狭い車内でY美やおば様に気づかれずに処理するのは、白昼素っ裸で学校まで行き、誰からも咎められずに帰宅するのと同じくらい難しい。さっそく隣のY美に睨まれた。
「何してんの?」
語気にたっぷり棘が含まれている。思わずビクッとしてしまう。
「いえ、別に……」
「隠すなよ、ちんちん。お前ごときにちんちん隠す自由なんか、ないんだよ」
「……申し訳ございません」
悔しい。素っ裸で生活させられて、いつもおちんちんが丸出しだから、僕は人目に触れそうになると無意識のうちに手で隠した。手をどけるよう命じられるのはしょっちゅうだったけれど、手で隠すこと自体は禁じられていなかった。それが最近、やたらとおちんちんを晒し状態にするように求められる。これまでは、こうした命令はおちんちんを人の目に触れさせるか、いじるのに邪魔という理由だったのに、いつのまにか、おちんちんは常時露出しておくべきものという暗黙のルールに変わったようだった。
手を脇へやって、屹立するおちんちんを晒す。予期に反してY美は手を伸ばしてこなかった。しばらくおちんちんを凝視したのち、プイと窓へ顔を向けた。相当に機嫌が悪いようだった。まずい、緊張のあまり、生唾をうまく飲み込めない。無理に飲み込むと、ごくりと大きな音がして、Y美にまたもや睨まれてしまった。
これから夏期講習特訓コースに行くというので、Y美は暗い気持ちになっているのだった。「いいね、お前は」などと、軽蔑の眼差しを僕に注いでくる。「チンチンおっ立てて、毎日遊んで暮らしてんだから」と嫌味を言う。
冗談じゃなかった。Y美と代われるものなら喜んで代わる。僕はこれから鷺丸邸でマジックショーの練習だ。無論ここでも衣類は一切与えられず、激しい特訓を受ける。肉体的にも精神的にもかなりハードで、これに比べれば夏期講習なんか、楽勝だと思う。そして、これは共演のメライちゃんも同意見だと思うけど、本番がことさら憂鬱に感じられるのは、練習と同じ格好で舞台に上がらなくてはならないからだ。メライちゃんは小さめのスクール水着(Y美が小学五年生の時に使用したお古)、僕は素っ裸で本番に臨む。当日は地元のテレビ局が中継に来るというのに。……やだ、恥ずかしい。いまだ無毛のおちんちんは、ぼかしなしで放送しても法に抵触しないという。
それとは別の意味でも僕はY美がうらやましかった。僕がY美の家に世話になってしばらくして、おば様はY美を塾に通わせた。Y美と僕は同い年でクラスも一緒だったから、学業の成績はどうしたって比較してしまう。Y美自身は気にしていないようだったけれど、彼女の母親であるおば様は違った。Y美に塾通いをさせただけではまだ足りないと考えたようで、おば様は、ことあるごとに僕から家で勉強する機会を奪った。
たとえば、帰宅すればすぐに制服を脱ぎ、白ブリーフのパンツ一枚になって数々の家事をこなすという仕事が居候の僕に課せられたし、夜は夜でY美に気づかれないようにおば様の寝室に行き、性的な奉仕をするという仕事が待っていた。特にこの性的な奉仕は単に重労働であるばかりでなかった。僕のこれまでの感じ方、物の見方を粉々に砕いた。
そのショックは勉強にも大いに影響を与えた。教科書を見ても頭に入らない。ノートに書くと、以前だったらそれだけで重要な個所はたいてい覚えられたのに、今では書きながらつい放心してしまって、自分が何を書いているのか、よく分からなくなっている。漢字が突然ばらばらに解体して、抽象画に見えてくる。授業を集中して聞けず、十秒もしないうちにぼんやりしてしまう。授業中、ふと夜の激しい奉仕を思い出して、突然体温が上昇し、机に突っ伏したこともあった。
こんな調子だから、僕の成績が急激に下降の一途をたどったとしても不思議ではなかった。実際、夏休み前の試験で僕は散々な結果に終わったのだった。周囲は驚きの目で僕の凋落を見た。担任の先生も首を傾げた。家庭の事情が影響しているのは明らかだろうに、先生は「こういうのって稀にあるよね」と頷くばかりで、原因追求をしてくれなかった。ほとんどすべての科目において僕はY美に負けたのだ。この事実は、僕の中にまだ眠っていた別種の自尊心を揺り動かし、傷つけた。おば様は嬉しそうにY美と僕の答案を並べて大きく頷くと、Y美に小遣い一月分を褒賞として与える一方、素っ裸の僕を正座させて口汚く罵倒した。
夏休みに入って夏期講習で特訓を受けるY美を僕はつい羨望の目で見てしまう。おば様は僕にはもちろん塾に通わせないし、家でも宿題程度しか勉強させなかった。もう僕には学校の勉強はそんなに重要ではないと折に触れて言うのだった。
「ど、どういう意味ですか?」
ある日、とうとう僕は聞いてみた。枯れてひどい虫歯のような見てくれのあじさいの花をおば様の指示で摘み取っていた。鉄扉のすぐ近く。外から丸見えだ。うずくまって作業を進める素っ裸の僕を見て、通りすがりの女子高生の集団が「またいつもの子だよ」「全裸ボーイだね」「情けないなあ」と嘲笑した。
「どういう意味って、言葉どおりよ。あなたはもう、将来が決まってるから、あくせく勉強する必要はないの。安泰ってことだから、喜びなさい。職業選択の自由なんていう面倒から解放されるんだから」
絶句する。どんな将来かは教えてくれなかった。「今から知ったっておもしろくないでしょ。楽しみは取っておきなさい」おば様は笑って、家に入ってしまった。
「やだな、今日は朝からテストがあるし」
フーッと気だるそうに息をつくと、Y美は鞄からテキストを取り出して、勉強を始めた。横目でチラッと見て、硬度を失いつつあるおちんちんに気づくと、手を伸ばした。
「う、何するんですか、いきなり……」
いきなりおちんちんをしごかれ、急激に上昇する快感指数に全身を強張らせて耐える。
「うるせえ、黙ってな」
慣れている。毎日のようにいじって遊ぶから、僕が感じてしまう緩急のタイミングを把握して、快感の波をコントロールする。ヒィィッ、いきそうになる……。口で伝えなくてもY美は分かっているはずだけど、これは一種の約束のようなものだから、一応、「い、いきそうです」と告げる。
「我慢」
無愛想な一言を放って、Y美は一心に膝元の夏期講習のテキストを確認し、右手でページをめくる。伸ばした左手がしごくおちんちんには、まるで興味なしといった風情だった。ちょっとでも目を向ければ、もう射精するってすぐに分かるはずなのに、指先の感触だけで判断するつもりなのか、テキストの文字を追うのに余念がない。それなのに射精してしまったら、無許可射精として厳しく罰せられるのは僕なのだから、ひたすら耐えるしかない。
ヒィィ……、もう無理……。力のこもった内股をがくがく震えて、踏ん張る。ゆっくり舐めるようなしごきが少しだけ加速したかと思うと、ふっとペースダウンする。もう僕は何も考えられない。粘り気のある透明な糸に全身絡めとられ、きりきり締め付けられている。この異様な快感にどっぷり浸かって、僕は恥ずかしさを忘れて喘ぎ続けた。
「Y美、いい加減にしなさい」
「は?」
運転中のおば様に制され、Y美はようやく顔を上げた。
「車の中で出させないで。午後から帝国バイオの社長さんを乗せるから、汚したくないの」
「分かった」
すっと手を離す。僕はおちんちんの穴という穴を塞ぐ思いで力を込めた。タップンという音がして、数滴おちんちんの先からこぼれたけれど、なんとか射精を食い止めた。あぶないところだった。コンマ一秒遅れたら、勢いよく射精してしまっただろう。Y美は指に付着したねばつく液を僕の肩や脇腹になすり付けて拭き取ると、ふたたび勉強に没頭し、もう僕には構わなかった。
激しく肩を上下させながら、性的な波がすっと引いていくのを感じる。ジーンと痺れるような余韻の中で、今しがた聞いた「帝国バイオ」という企業を思い返す。
帝国バイオ……。
なぜこの名前がおば様の口から出るのだろう。社長とつながりがある?
帝国バイオ、それはほかでもない、僕の母がかつて勤務していた企業だった。
上半身を起こすと、砂が一斉にさらさらと滑り落ちて、僕の裸身を露わにする。
もう二週間ほど衣類をまとっていない。あの、信じがたい体験をした二泊三日の海水浴旅行で僕は初日からたった一枚身に着けていた白いブリーフを脱がされてしまったけど、あれからずっと素っ裸のままだ。しかも、一度も家の中に入らせてもらっていない。食べたり排泄したり寝たりといった日常の所作はすべて屋外でおこなって、本当になんだか自分が人間ではないような気になってくる。
悪夢の海水浴旅行から帰って以来、おば様は明らかに僕にたいして冷たくなったように思う。もともとそんなに優しくなかったけど……。でも、時にはY美に内緒で搾りたてのオレンジジュースを飲ませてくれたり、気紛れなY美に全身を打擲されて悶える僕にこっそり、やはりY美に隠れて薬、なんかぬるぬるした変な薬を塗ってくれたりする、そんな気遣いを見せてくれることもあった。それに、これまで定期的に、週に二回か三回は僕を寝室に連れ込んで奉仕させていた。おば様が絶頂に至るまで続く体力勝負の奉仕。
しかし、それすらもすっかりなくなった。
ということは、もう、そういう性的欲望を解消するための道具としての価値すら、僕には認めないということなのだろう。おば様は滅多に僕と目を合わさなくなったし、たまに僕を見つめる時は、嫌悪感と憎悪でいっぱいの視線を鞭のように僕の裸身へしならせてくる。
これもすべて、海水浴旅行でY美におば様と僕の関係を知られてしまったことが原因だと断言できる。といってY美とおば様の親子関係がぎくしゃくしたということはなく、むしろ以前より仲良くなったのではないだろうか。親友のような打ち解けた関係と言ってもいいような気がする。僕をスケープゴートにして、二人は関係を修復したのだ。
ガラス戸の内側のカーテンはそよりとも動かない。多分まだ朝の六時にもなっていないから、それは少しも不思議ではないのだけれど、庭で寝泊まりさせられている僕は、太陽の光で目覚めるから、どうしても朝が早くて、家のベッドの中ですやすや眠る二人とは、おのずと生活のタイミングがずれてくる。といって僕は自分で何ができるでもなく、飼育されたペット同然の生活を余儀なくされているのだから、Y美とおば様が起きて、食事の用意をしてくれるのを待つほかない。
この無駄に長い時間をどう過ごすか。結局、することがなくて、またごろりと横になって、あれこれ自分のこれからの運命を考えるしかないのだった。砂に体を埋めて、横向きになって目をつむる。
砂は素肌に心地よい。僕に与えられた唯一の体を覆う物がこの砂粒だった。濡れていれば多少は付着するけれど、まあ体を少し動かしただけで、すぐにこぼれ落ちるから、この砂の中に潜り込めば、もうじっと動かずにいるのに如かない。そう、この砂が僕にとっての毛布であり、肌着なのだから。
どうして庭に砂場があるのか。
母屋には、居候の僕にも割り当てられた部屋が一応はある。二階の、Y美の部屋の斜め向かい、南向きの部屋だけど、僕の持ち物はすべておば様が預かっているので、古びたマットレス一枚しかない。おまけにカーテンはすべて取り払われて、夜になって電気を点けると、畑からも僕が素っ裸でいるって分かってしまう。だから、僕は本当に必要な時しか電気を点けない。「電気代の節約になっていいわ、カーテンを取るって」とおば様はY美のアイデアを絶賛したけれど、しょっちゅう夜更かしして、結構な頻度で電気を消し忘れて眠ったりするY美の生活態度を改めさせるほうが、よほど電気代を抑えられると思う。
ともあれ個室があるのは、たとえ何もない、がらんとした部屋であっても、始終いじめられている僕にとっては、たいそうありがたかった。心と体を休められる場所がなによりも僕には必要だったから。しかも家ではブリーフの白いパンツしか着用を許されていなかったし、夏休みに入ると、Y美にしばしばそのパンツすらも取り上げられて、全裸で過ごす時間が圧倒的に増えた。自室にこもって、一糸まとわぬ身を誰の目にも晒さずにいられるのは、それだけでもストレスの軽減につながる。
このように避難所とも言える僕の部屋も、Y美の思いつきのひとことによって、あっけなく取り上げられてしまった。海水浴旅行の帰りの車の中でY美がいきなり、「ねえお母さん、チャコ(Y美は僕のことをこう呼ぶ)をもう家の中に入れるのはやめようよ。ペットなんだから、庭で飼ったら」と提案したのだった。最初おば様は、「ええ、Y美、あんた何言ってるの?」とびっくりの様子だったけど、しばらく思案してから、なぜか、「それもそうね。そうしようか」と賛成した。
最初、冗談かと思った。でも、本気だった。帰宅しても、Y美とおば様は全裸の僕を家の中に入れてくれなかった。ドアを叩いて入れてくれるように頼むと、開いたドアからY美が疲れた顔を出して、「うるさいよ、馬鹿」と、いきなり僕に平手打ちを食らわした。仕方なく、その日、僕は庭の便所小屋の狭い空間で体を曲げて寝た。家の中のトイレの使用が許されていない僕のためにおば様が設置してくれた、和式の便器が一つあるだけの電球もない真っ暗な小屋だ。
その翌日、朝の世話をしにきたY美から僕は不可解な命令を受けた。縁側近くの畳一畳分ほどのスペースの草をむしれと言う。
草といってもよく手入れされた芝生だったから、ほんとに引っこ抜いていいものか、迷ってしまう。過去にもY美の指示どおりにこなして、後でおば様にこっぴどく叱られたことがあった。それも片手で数えられないほど。スーパーの駐車場で全裸にさせられ、泣きながら土下座をしておば様の許しを乞うた時の、僕を見下ろすY美の冷たい視線が忘れられない。
そんなわけだから、Y美に指示内容を確認した。すると、Y美はうつむいてしまった。沈黙。しまった、と思った時はすでに遅く、横からしなってきた左足が僕の脇腹に食い込んで、僕の裸身は右へ吹っ飛んでいた。
「芝生だろうがなんだろうが、草を抜けって言ってんだよ、バーカ」
ヒィィ、苦しい、呼吸ができない。横向きになって体を曲げて苦しむ僕のお尻をY美はペンペン叩き、僕の後ろ髪を掴んで、顔を芝生にこすり付ける。「この芝生」
「わ、分かりましたから」僕は顔が地面から離れた一瞬を狙って叫んだ。もうY美にたいしては敬語が当たり前だ、同級生なのに。「だから、もうやめて、離してください」
「ちゃんとやる?」
「やります」
なんで朝からこんな目に……。僕は命令を受ける時はいつもそうするように、気をつけの姿勢を取った。
「だったら、めんどくさそうな顔すんなよ」
「はい、申し訳ありませんでした」
地面と平行になるまで顔を下げ、静止。Y美のサンダル履きのピンクのマニキュアを塗った素足が視界の端にあるけれど、あまり見ないようにする。関係のないものをじっと見ているって知られてしまうと、それを理由にまたどんなひどい、恥ずかしい罰を受けるか知れたものではないから。
草むしりという、やってみて初めて気づくなかなかの肉体労働を朝の涼しいうちに課したということで、Y美は僕に恩着せがましい態度を取った。確かに日盛りの時間帯では、麦わら帽子などの日除けでも与えられないかぎり、とても体が持たない。どうせ僕には肌を覆う物はもちろん、帽子だって着用は許されないだろうから、Y美のこの配慮には素直に感謝しなくてはならなかった。
それでも指定された範囲の草を引き抜いたあとは、全裸でもう脱ぐものなど糸くず一つ残っていない身にさえ感じる暑さはひとかたならず、Y美から「汗で全身がてかてか光ってる」と笑われる始末だった。おまけにへとへとに疲れて、指先や膝から下は土まみれになっていた。お粥と梅干の朝食を這ったまま手を使わずに済まし、Y美に朝の世話を一通りしてもらうと、次の肉体労働を命じられた。
「穴を掘って」
物置から出してきたスコップを僕に押しつける。
「あ、穴ですか」
「そう。草むしりをしたスペースだけでいいから。すっぽんぽんでがんばりな。パンツ一枚も穿かせるつもりはないからね」
命じられたとおり、素っ裸のままスコップを振るって、深さ五十センチほどの穴を掘る。これが初日に僕がこなした仕事だった。
翌日は砂運びだった。門を出て左方向に一本道をしばらく進むと、みなみ川教の施設がある。そこから運搬用の手押し一輪車を使って、砂を運び入れなさいとY美は言った。「もちろん素っ裸のままでね」
近所の人は、僕が一糸まとわぬ格好で歩いているのを見ても、もうあまり驚かなくなっていた。「まあ、あいかわらずね」と笑ったり、黙って顔をしかめたりするだけだ。中には、親しげに近づいてきてペタペタと触ってくる人もいる。
両手でおちんちんを隠しながら歩き、みなみ川教の所有する広い敷地に入る。積乱雲がもわっと伸びてきて、今にも雨の降ってきそうな天気になっていた。端っこに車が数台止まっているだけの駐車場を横切り、受付で来意を告げる。受付の女の人は素っ裸の僕をじろじろ上から下まで眺めて、「サンダルくらい履きなさいよ」と難じた。
これまで「せめてパンツくらい身に着けなさいよ」と馬鹿にされたことは何度もあるけれど、足のほうを指摘されることは少なかったので、お尻と同じように裸足を丸出しにしていることも俄かに恥ずかしく感じられて、もじもじするしかなかった。確かに履物があれば歩きやすくなるし、足を怪我する心配もなくなるのだけど、おば様もY美も、僕の体には何もまとわせないという考えが徹底しているので、「サンダルくらい」と思っても、絶対に僕には与えてくれないのだった。
「おう、話は聞いてる。こっちだ」
廊下の暗がりから、すたすたとごま塩頭の老人が出てきて、全裸の僕を見てもまるで驚くふうでもなく(この人には良い思い出がない。会えばいつも僕が素っ裸だったということも関係しているのかもしれないが、とにかくしょっちゅうおちんちんを触られた。その皺だらけの手で射精させられたこともある)、案内してくれた。裏庭に回ると、高さを優に四メートルは超える大きな砂山があった。
「ほれ、ここにある道具、どれも自由に使っていいから」
おちんちんと胸を隠したまま、軽く頭を下げる。
「ぐすぐずしてっと、雨降り出すぞ」
「はい」
僕は運搬用の手押し一輪車を起こすと、錆びたスコップを手に取って、砂山に突きさし、両手をぶるぶる震わせながら、一輪車に積んだ。ひ弱な僕の力でもぎりぎり運べる程度の重さにして、さて運び出そうとした時、
「何やってるの」
Iさんが怖い顔をして、行く手を遮った。「その砂、どこへ持ち出そうとしてんのよ」
ちゃんと話は通してあると言っても、Iさんは納得しなかった。砂を持ち出すには、一回ごとに精液を提供しなければならない、などと初耳の、変な条件を提示する。
「な、なんですか、それは」
面食らった僕は、一輪車から手を離しておちんちんを隠した。
「知らないとは言わせないよ。ここから砂を運び出すんなら、射精してもらうからね。あんたのような皮かむりの無毛おちんちんから出る精液は、値打ちもんだからね」
「か、堪忍してください」
Iさんが付き添いの女性を走らせると、しばらくして建物の陰から紫の着物をまとった老婆がぞろぞろと出てきた。僕の前に座り込み、それぞれが手に持った数珠をこねくり回して祈り始める。なんなの、気持ち悪すぎる。体が本能的にこの場を去ろうとする。が、Iさんに腕を掴まれてしまった。
「おっと、逃げない。あんた、早く射精しなさい。自分の手でしごくの」
「無理です。こんなところで、できません」
紫の着物の老婆がぶつぶつ変な節のお経を唱えて、時々顔を上げて、素っ裸の僕を見て目を細める。とても性的な感興を高められる状況ではない。むずがる僕の耳たぶに鋭い痛みが走った。Iさんに摘ままれたのだった。
「あきらめて自分の手でおちんちんをしごきなさいよ、もう」
「いやです、無理」
耳たぶを引っ張られる激痛に呻きながら、抵抗する。Iさんはいったん耳たぶから手を離し、僕の腕を背中に回した。痛い。
「下手に動くと腕へし折るからね」
背後に立つIさんは足を絡ませて僕の足の動きを封じると、「ニギニギしてやって、ニギニギ」と老婆たちに呼びかけた。
「ヒッ。何するんですか?」
恐怖に四肢を震わせる僕の前に一人の老婆が進み出て、おちんちんへ両手を伸ばした。アウッ、と呻いてしまう。おちんちんの袋を手のひらに乗せられたのだった。最初は優しく揉んでいたが、少しずつ何かを探るような動きになってくる。ほどなく二つの袋のそれぞれの玉が指に挟まれる。アウッ、いや……。力が加えられる。耳たぶの時とはまるで異なる種類の痛み、内臓を素手でかき回されるような激痛に悲鳴を上げた。
「やめて、お願いだから、やめて」
涙をポロポロこぼしながら、叫ぶ。
「ちゃんとオナニーする? みんなの前で」
Iさんの唇が耳の裏側に触れる。唾液をたっぷりなすり付けられる。
「します、しますから、離して」
目をつむって叫ぶ。……やっと手を離してもらった。腕を取られているのでしゃがみ込むこともできない。ズキズキ痛む陰嚢を手で庇いたかった。痛みが和らぐのをしばらく待つ。縮んで最小サイズになったおちんちんを見て、付き添いの女性が声を立てて笑う。
十名を超える老婆がそれぞれ数珠を手にして、皺だらけの口をもぐもぐ動かしている。立ったままおちんちんをしごく素っ裸の僕を見上げて、小さな声でお経を唱える。この紫の着物の小さな山々に向かって精液を放出しない限り、砂を運び出せる見込みはない。僕はひたすら仰向けに寝て股をひらくメライちゃんを思って、指で作った輪を前後に動かした。
絶頂へ導く太い刺激が陰嚢からズンズンと唸った。徐々に体の内側をどろどろと広がってゆく。重油の入ったバケツを倒したかのようだ。アウッ。思わず喘いでしまう。Iさんがプッと吹き出した。「いきそうなの?」
「はい、そろそろ……」
「いくときは、ちゃんと言いなさい。こっちも準備があるから」
付き添いの女性がシャーレを持って戻ってきた。Iさんの無言の指示を読み取った彼女は、おちんちんの先にシャーレを構えた。そうだった、僕にオナニーを命じたのは、僕の自尊感情を貶めて楽しむためではなく、精液採取という目的があるからだった。
い、いきそうです、と伝える。シャーレを持つ女性の目が大きく見開かれた。「いいわよ」とIさん。その途端、大きく膨らんだ亀頭の裂け目から白濁の精液が糸のようにずるずると飛び出し、横向きに立てたシャーレの底にぶち当たった。老婆たちの読経が一段と高くなった。精液の溜まったシャーレは蓋をされ、うやうやしく地面に置かれた。儀式は続いているようだった。皆の前でオナニーさせられた僕は、そそくさと一輪車に積んだ砂を運び出した。羞恥のショックへの応急処置的な対処としては、とにかく体を使った仕事をするのが一番いい。これまでの数知れない性的ないじめの経験によって学んだことを僕は速やかに実行した。
運搬用の一輪車を押して、まっすぐの道を進む。雨が降ってきた。すぐに結構な勢いになって、僕の裸の肩や背中、お尻を細かく濡らしていく。水溜まりを通過する車が少しもスピードを落とさなかったので、僕は泥水をほぼ全身に浴びる羽目になった。運転者は僕が服を着ていないからクリーニング代を請求される恐れはないと思ったのかもしれない。
Y美の家の庭の、縁側に近いところが指定された範囲だった。畳を二枚、横に並べたくらいの広さ。芝生が掘り返されて、脛が隠れるくらいに窪んでいた。ここに砂を落とし込んで、砂場を作るのが僕に課せられた仕事だった。砂はみなみ川教の施設敷地内から運ぶ。片道五分はかかる距離だ。
「簡単な仕事だよね」とY美は言った。確かに単純な作業ではある。「さっさと済ましちゃってよ」とすまし顔で急かされても、しかし体はすぐに動かなかった。大した距離ではないし、素っ裸のままでも問題にはならないとY美が考えているのは明らかだった。いつのまにか僕の全裸での外歩きは近所の人に黙認されているのだから。
一回目の砂を下ろした時、僕は一輪車に積んだ砂のあまりの少なさに愕然とし、膝を落とした。この窪みを砂で満たすのは、とても一日では無理だと悟った。いくら体に鞭打ったところで、砂を運ぶたびに射精させられるのだから、一日ではせいぜい五往復が限界だ。これも四日前から射精していないからこその五往復である。
夏休みに入ってからY美は夏期講習に忙しく、それ以外の時間はS子と毎日のように遊びに出かけて、屋外に放置された僕を性的にいじめる機会を積極的には作らなかった。もしY美に面白半分におちんちんをいじられ、あるいは射精を強要されていたら、砂運びができる回数はさらに減るだろう。庭に作られたこの浅い堀を砂で満たすには最低でも五日、場合によってはその倍近く日数を要するかもしれない。
砂を運び出すにあたって射精させられるルールをY美は知らなかった。どうやって射精したのかと聞かれ、自分の手でしごいたと答えると、Y美は「お婆さんたちに見られながら、よくできたね。さすがチャコだよ」と大いに感心した。そして、二回目の砂運びへと僕を追いやる。雨に打たれながら、僕は素っ裸の身をぶるぶる震わせ、運搬用の一輪車を押した。寒くはなかった。ただ、またもや射精を強要されるのが怖くて仕方なかった。
結局この日は午前中に五回の砂運びをした。目減りして、薄くなった五回目の精液を矯めつ眇めつしてから、Iさんが「今日はもうこれで終りにする。続けて無理に出すこともできなくはないけど、こんなに薄い精液は運び出す砂の価値に見合わないから、もっと砂を運びたいのであれば明日以降にしなさい」と言った。老婆たちは、精液を搾り取られてぐったりした僕の腕を取り、立たせた。土砂降りの雨の中、僕は本日最後の砂を運んだ。
まさしく重労働だった。みなみ川教の敷地での全五回の射精は僕をすっかり打ちのめし、僕をただぼんやり放心するだけの虚ろな動物にした。
二回目の射精は、老婆たちの手でおこなわれた。相当に雨が強くなって、講堂の大きな庇の下に移動させられた。老婆たちは僕の全身を撫で回し、乳首を舐めた。
三回目も同じような感じだったけれど、しごいてもしごいてもなかなかおちんちんが大きくならなかったので、ひとりの老婆がおちんちんを口に含み、舌を使った。
四回目は、「もうさすがに無理です」という僕の泣き言を無視して、Iさんに付き添っていた女性がおちんちんをしごいた。老婆たちと違って、しなやかな、瑞々しい指でおちんちんを刺激する。最後にはおちんちんを口に含んだ。老婆たちの手はその間もしきりに僕の裸身をぺたぺたと遠慮なく触りまくった。
五回目は、お尻に指を挿入された。付き添いの女性の細長い指が抜かれると、次には老婆たちの指が代わる代わる入ってきた。おちんちんが僕の意思とは関係なく、ムクッと頭を上げた。
庭に掘られた穴を砂で埋めるのに七日もかかった。初日こそ五往復したけれど、二日目以降は最大で三往復しかできなかった。Iさんの精液検定が厳しくなったというのも、ある。あまり薄くて量が少ないと、みなみ川教が提供する砂の価値に釣り合わないと判定されるのだった。おちんちんがちぎれるほどしごかれて、射精寸前でかすかに快感の波がさっとよぎって、ようやく出した精液を「これじゃ、だめよ」とIさんに捨てられたときは、僕は嗚咽して抗議した。もちろん聞き入れてもらえず、結局、手ぶらで戻った。
何よりも砂を持ち出すにあたって精液を放出し、みなみ川教に献上しなくてはならないという、まさにこの一点において、砂運びは難儀を極めた。僕はいつも素っ裸だったし、砂運びに際しても初日同様、履物すら与えられなかったから、当然人目につきやすく、いじめのターゲットにされやすい。しっかり精液を出せなくなるような状況に追い込まれることもあった。
がんばってねえ、とY美に見送られ、おちんちんを両手で隠し、素っ裸のまま、とぼとぼとみなみ川教の施設を目指して歩いていると、通りかかった同じ中学の先輩男子たちに捕まってしまった。顔見知りのモン先輩が僕に絡んできた。砂運びという、Y美に課せられた大切な仕事をしなければならない旨を僕はすぐに伝えた。
モン先輩はY美の凄みをよく知っていた。中学一年の女子ながらモン先輩を凌ぐ凶暴性を秘めて、怒らせると手が付けられなくなるY美、気に入らない女教師を呼び出して暴行し、口に付着した砂を食べさせたY美を、モン先輩は恐れていた。もちろんプライドというものがあるから表面上はなんでもない振りをしていたけれども。
校舎の裏で仲間たちと煙草を吸いながら、Y美について「あの女、マジでやべえよな」と話したときのモン先輩の声の微かな震えを思い出す。だからY美の名前を出せば、もう僕にちょっかいは出さなくなると思ったのだった。
でも、当てが外れた。Y美の恐さを知っているからこそ、命じられた仕事を果たせなくなった場合に僕がひどい目に遭うであろうことを予測して、モン先輩は、連れの四人とともに期待に胸を弾ませ、藪の向こうの空き地に僕を連れ込んだ。
まず僕は土の上に正座させられた。そして、あろうことか、オナニーを命じられた。僕は黙ってうつむき、首を横に振った。
「いいじゃねえか。久しぶりに見せてくれよ」
か、堪忍してください、と泣きそうになるのをこらえて、哀訴する。
「あんたに拒否する権利って、あったっけなあ」
いつもモン先輩と行動を共にするアキ先輩がとぼけたように首を傾げる。この女の先輩はお尻の穴に関心があって、僕はこの女の人に何度となくお尻の穴を広げられたり、浣腸されたりした。お尻の穴を責めることでおちんちんにどんな変化が生じるかにも目を向けて、おちんちんに触れずしてこれを硬くさせることに達成感を覚えるような人だから、僕にとってアキ先輩は恐怖の女帝でしかなかった。裸の肩を震わせていると、地面に顔を押しつけられる。いけない、自然とお尻が上がって無防備になってしまう。
痛い。お尻の穴を広げられる。アキ先輩のアシストをする坊主頭の男の人が指を二本、僕のお尻に挿入し、中で指と指をできる限り離そうと試みるのだった。僕は涙を流して、「やめて、もう許してください」と訴えた。
許されるには皆の前でオナニーしなければならない、とモン先輩が言った。ここで無駄に精液を出してしまったら、今日予定している量の砂を運び出せなくなる。それだけ砂運びの仕事が延びて、肉体的というよりは精神的な苦痛を増大させる。
「それだけは許してください」
「だめだね」と、今度はアキ先輩が言った。「ナオスくん、あんた、人前でオナニーするの好きでしょ」
好きじゃないです、と反射的に絶叫すると、「なあに、その生意気な口の利き方」とお尻を力いっぱい、三発も平手打ちされてしまった。申し訳ございませんでした、と素っ裸の僕は土下座して、許しを乞う。
なぜオナニーしたくないのか、その理由を僕は率直に述べることにした。砂運びという仕事に伴う射精について、理解を得るためだ。それでもモン先輩は難しい顔をしたままだった。アキ先輩は腕を組んで、キッと僕を睨みつけている。説得の難しさがひしひしと伝わってくる。そこで僕は提案をした。「別の機会に必ずオナニーして見せます」
「マジかよ、お前」モン先輩の顔つきが少しだけほぐれた。「俺っちが命じたら、その場でオナニーできるかよ」
「はい」顔を上げて答える。後先のことなんか、どうでもよかった。もしも八百屋の前でしろと言われたら、する。そうなったらそれまでだ。「だから、今だけは許してください」
「わかった」とモン先輩が言った。アキ先輩が驚いたようにモン先輩へ顔を向けた。モン先輩は仲間たちを見渡して不敵な笑みを浮かべた。「じゃ、今、やってみろ」
「へ?」
「今は許してやる、と言った。でも、その今というのは、もう過ぎた。今は別の今だろ。今は許してやったから、今度の今は、諦めてオナニーしな」
「……今も、許してください」
アキ先輩と坊主頭の先輩が左右から僕の腕を取って、僕を立たせた。
「今も許したよ。でも、次の今は許さないってこと」と、アキ先輩がハミングしながら、言う。何ですか、その小学生みたいな屁理屈。僕の頭は絶望で真っ白になる。一方で、こんなものはこれまで散々体験してきた災難の一つに過ぎないし、どちらかといえば軽い部類だ、とも思う。「時間がねえんだ、早くしろ」と、モン先輩が怒鳴った。
こうして僕は立ったまま、モン先輩たちの見ている前でオナニーをさせられることになった。射精すると、アキ先輩が手を叩いて喜び、僕の下半身にしがみついた。そして、たった今射精したばかりだというのに、おちんちんに手を伸ばし、しごき始める。
やめて、もう許して、と腰を揺さぶって逃れようとするものの、モン先輩たち三人の男子に体を押さえられた。「アヒッ、い、いやだ」女の人が僕の乳首を舐めた。アキ先輩の手でしごかれ続け、あっけなく二度目の射精をしてしまう。砂運び用に溜めた精液を二回分も無駄にこぼしてしまった。
呆然とする僕を置いて、彼らはそそくさと立ち去った。これから街へ繰り出し、ぶらぶら気ままに遊ぶのだと言う。「一緒に行く?」とアキ先輩に誘われた。「もちろん、あんたは素っ裸のままだけどね。わたしは構わないよ。どう? わたしたちと遊びに行かない?」
もしも僕が本当に彼らとこの格好のまま街へ出かけたりしたら、彼らもまた災難に巻き込まれる。僕とは異なる種類の災難だ。それなのにモン先輩まで「来いよ。金なら出してやるからよ」などと、のんきそうに手招きしている。
「そういえば、あんたさあ」と、アキ先輩が僕の肩に手を回して、言った。「すっぽんぽんで路線バスに乗せられたんだって? Y美ちゃん、やるよねえ」
「おう、そうだ。おれっちと同じクラスの奴の母親がそのバスに乗ってたってよ。お前、ちょっとした有名人だよな」
「いつも素っ裸の有名人。だから、その格好で街に出かけても、平気だよ。てか、みんな喜ぶかも」
気づかないのだろうか。僕を全裸のまま連れ回したりしたら、絶対に警察に呼び止められる。僕は警察に洗いざらい話す。いじめに遭っていること、虐待されていること、など。その弊は彼らだけではなく、彼ら以上にY美とおば様にも及ぶ。Y美は保護観察の身となり、せっかく塾通いして成績を上げてきたのに、もう高校進学どころではなくなる。おば様の受ける社会的制裁は、Y美以上だ。刑事事件になって禁錮刑に処せられるだろう。Y美の恨みを買ったモン先輩たち五人は、Y美の父親からほぼ確実に地獄落ちに等しい報復を受ける。Y美の父親は裏社会の人で、対面するだけで生命の危険を感じるほどの怖い存在だ。だから、絶対に僕を素っ裸のまま街へなど連れて行かないほうがいい。これ以上、僕にかかわらないほうがいい。
ともあれ、二回分の精液を搾り取られたせいで、この日、僕は一回しか砂を運搬できなかった。それも随分と時間がかかってしまったし、Iさんに補助してもらってやっと出したそれは量が少なく、薄めだったので、Iさんに「さてはあなた、Y美ちゃんにやられたね」とからかわれた。砂の価値と釣り合わないなどと言われたらどうしようかとビクビクしていたけれど、Iさんの機嫌がそんなに悪くなかったのは幸いだった。
苦労して砂を運んで作った砂場を寝床にする僕は、射し込む朝の光に目を覚ましても、特にすることなんか、ない。しばらく砂の中でごろごろ過ごして、それから体を起こす。全裸野外生活を強いられ、家の中に入ることは許されていないので、カーテンの隙間から部屋の様子を窺い、Y美とおば様はまだお目覚めでないと察する。庭の水撒き用の蛇口で顔を洗って、家の敷地内をうろうろする。
たまに早起きの老人たちが畑にいたり、道を歩いていたりして、彼らの目につかないように配慮するけれど、それでも見つかってしまって、声をかけられることもある。そういうときは、普通に朝の挨拶を返して、ぺこりと頭を下げる。もう僕の素っ裸という格好は彼らにとっても当たり前になっている。
この日、農作業をする女の人と柵越しにちょっとした立ち話をしてしまった。家の前の道をジャージ姿のおじさんたちが五人くらいまとまって歩いてきたので、物置の陰に隠れて通り過ぎるのを待っていると、お尻をツンツンと棒のようなもので突かれた。つばの広い帽子を被った、三十代半ばくらいの女の人が柵の前でニコニコ笑っていた。
畑で土をいじっていたら、僕のお尻が目に入ったので、ついちょっかいを出してしまったのだと言う。「ごめんなさいね」と、振り返った姿勢のままフリーズした僕をじっと見つめて、謝る。僕はおちんちんを両手で隠して、この女の人に向き直った。見つめ合ってしまい、照れていると、ククッと笑われた。
「さっき、物置のところで、何してたの?」
「えっと……、おじさんたちが来たので、隠れてました」
「そっか」と女の人は納得したように頷いた。「きみ、やっぱり裸を見られたくないのね」
ええ、と僕は言った。おちんちんを隠す手に力がこもる。
「不思議なものね。いつも裸のくせに。恥ずかしいの?」
「は、恥ずかしいです、やっぱり。みんな服着てるのに……」と、率直に答える。
「なるほどね。きみだけいつも真っ裸だもんね。慣れる慣れないとかの問題じゃないかもしんないわねえ」
「……野菜、作ってるんですか?」
なんとか話題を変えたくて、質問を投げかけてみる。
「あら、あなた、野菜に興味があるのね」
女の人はスイッチが入ったかのように、畑で栽培中の野菜について、とうとうと語り始めた。早くひとりになりたいのに、こうなってくると、興味がなくても付き合わざるを得ない。やがて、Y美の呼ぶ声が聞こえてきて、僕は失礼してこの場を後にした。
夏祭りを八日後に控えて、マジックショーにアシスタント出演する僕とメライちゃんは、このところ毎日のように練習させられている。マジシャンである鷺丸君の熱の入れようは半端なかった。メライちゃんも僕もこの練習が苦痛で仕方なく、本番を思うと憂鬱になるのだけれど、ミスがあったり動きが少しでも緩慢だったりしたら、鷺丸君や、時には鷺丸君のお姉さんにこっぴどく叱られたり、ぶたれたりするから、練習中は、まったくもって気を抜けないのだった。
朝の世話を担当するのはY美だった。Y美がホース片手に蛇口を捻り、勢いよく飛び出す水を僕に向ける。ヒッ、冷たい。石鹸とタワシで全身を洗い、シャンプーで洗髪する。日焼け止めクリームを全身に塗られる。そのあいだ、素っ裸の僕は両手を頭の後ろで組んで、じっと立っていなければならない。Y美の短パンから伸びた脚がつるつるして眩しい。
塩おにぎりと梅干だけの朝食後、朝の支度を済ますと、さっそく鷺丸君の家まで向かうことになった。おば様が車で送ってくれるのだ。一切の着衣を認められなくなってから、お出かけの際は、いつもそうだった。ただし家から徒歩三分の距離にある駐車場までは、素っ裸のまま、おば様の背中に隠れるようにして歩かなければならない。
大した距離ではないものの、問題は、たいてい途中でおば様が知り合いに会うことだった。会釈だけで済めばいいけれど、立ち話が始まると厄介だった。終わるまで、僕は立ち止まって待たなくてはならない。三十分を越えてなお話が終わりそうもない、なんてことも一度だけあった。
この日、おば様は自宅の高台の庭で水を撒くF田さんに朝の挨拶をした。「あら、どちらまで?」と聞かれたら、「ええ、ちょっとそこまで」が期待される返しなのに、なぜかおば様は「ええ、実は」などと、これから行く場所だけでなく、その目的、経緯などを説明し出した。F田さんこそいい迷惑だろうけれど、おば様の不興を買うと仕事の上で苦境に立たされてしまうものだから、F田さんは目を輝かせて、適宜質問などを挟み、大いに興味のある振りをして健気に聞き役に徹した。
僕は大きな木陰の、涼しい風が吹いてくる崖際にいた。遠くまで田んぼの広がる、なかなかいい眺めだった。川の向こうには町があった。母の住む町だ。僕の母は、なんとかいう会社の独身寮の寮母として、住み込みで働いている。
早く昔のように母と一緒に暮らしたい、いつまで奴隷のような居候生活をさせられるのだろうか、と心の中で嘆いていると、F田さんの庭から赤いビーチボールが飛んできて、木の枝をすり抜け、崖下に落ちていった。
すぐにF田さんちの二人の姉妹、小学六年の幸ちゃんと四年の雪ちゃんが道路に出てきた。大木の後ろに素早く隠れた僕を無視するようにして、錆びた、腰くらいまでしかない高さの柵から身を乗り出す。
「あ、あんなところにあるよ」
「ほんとだ。よかったね」
二人は目の端で捉えていた僕のほうに回ると、おちんちんを両手で隠す僕をじっと見つめて、「じゃ、お兄ちゃん、取ってきて」と命じた。まるで食卓で「塩取って」と言うのと変わらない軽い調子。僕が素っ裸でいることなど、彼女たちには、ごく当たり前の日常風景のようだった。そんなにしょっちゅう会っているわけではないのに。
「へ? 取ってくるって……」
「あの赤いビーチボールだよ。あすこに見えるでしょ」
幸ちゃんの指す方向に目を凝らすと、ずっと下の、木立の中にそれらしい球体が見えた。取りに行くには、岩石のごろごろする険しい斜面を下らなけなければならない。危険すぎる。無理だよ、と断って、おば様を見る。よかった、おば様も頷いてくれた。さすがにおば様も無謀だと思ってくれたようだ。「この崖を下るのはちょっと危ないわね。ロープでもあれば話は別だけど」と笑う。
「ロープでもあればね」
おば様のこの一言は、僕をたちまちにして不安の渦に巻き込んだ。予感的中。すぐさまF田さんが庭からロープを投げてよこした。
ロープを伝って降りるにしても無理、だいいち僕はそんなに手の力が強くない。いやがる僕を幸ちゃんは「体に巻きつけるから、手の力とか関係ないよ」と説得する。ますますいやになった。おば様のアドバイスを受けて、なんと、幸ちゃんはおちんちんの根元にロープを巻きつけようとするのだから。
「いやだ、そんなところに繋がないで」
「じゃあ、どこに繋ぐのよ」おば様は、わがままな男の子に手を焼く母親のような口調になった。「首に繋ぐの? 危ないでしょ。腕もよくない。手の動きが不自由になるからね。腰に繋ぐ? 外れちゃうわよ、ベルトつけてるならまだしも。あなた、真っ裸じゃないの。ロープを繋ぐ衣類を身に着けているわけじゃないし、おちんちん以外に繋ぐところなんか、ないって、ちょっと考えただけで分かるでしょうが」
「男の子って、便利でいいね」と雪ちゃんが感心して、いっそう接近した。つい最近まで僕よりもわずかに背が低かったのに、夏休みに入って越されてしまった。僕の頬をぺたぺた触り、首筋を撫で、裸の肩を軽く叩くと、乳首からお腹へ立てた指を滑らせた。おちんちんを必死に隠す僕の手の甲を抓る。「これ、邪魔」
背後から手が回ってきて、僕の手首を握る。おば様だった。速やかに後ろへ回されてしまう。おちんちんが露わになって、姉妹は同時にしゃがみ込む。最初に手を伸ばしたのは妹の雪ちゃんだった。ヒギギィッ、痛い。
「じっとしてて。おとなしくしてないと、もっと痛いよ」
おちんちんの袋を握って引っ張られ、下手に動くと激痛が走るから、呻きながらじっとしているしかない。姉の幸ちゃんがせっせとおちんちんの根元にロープをかけて縛る。縛り具合を確認する際、雪ちゃんの手がおちんちんの袋からおちんちんへ、こするように動いた。指の背中をおちんちんに押しつける具合だ。
やだ、なんか、変な気持ちになってしまう。まずい、と思った時にはすでに遅く、「やだ、何してんのよ、お兄ちゃん」と幸ちゃんに呆れられてしまった。形状を変化させたおちんちんがピンと天を仰いでいた。
「これからボールを拾いにいくっていう大事なお仕事があるのに、おちんちん大きくさせてていいの?」
屹立したおちんちんをピンと指で弾かれ、感じまいと僕は歯を食いしばり、後ろ手に固定された不自由な裸身を捻った。
「知らないよ。なんかいじられると、こうなっちゃうんだよ」と、男子の生理を理解しようとせず、ただおもしろがるだけの雪ちゃんに向かって、僕は訴えた。「だから、もう許して。そんなに触らないで、だめ、アウッウウウ……」
今度は姉の幸ちゃんがおちんちんの裏側をスーッと指の腹で撫でつけた。急上昇する快感指数に腰をくねらせて、耐える。
「これが男の子よ」とおば様が言った。「いつも気持ちいいことを体が求めているの。動物みたいでしょ。下等な生き物なのね。もちろんすべての男性がそうとは思わないけど」と、僕の後ろに回した両手首を握りながら、説明する。
悔しくて涙をこぼしそうになる。確かに僕自身、快感にすごく敏感になってしまった。そういう体になってしまったのだ。これもいつも全裸で生活させられ、しょっちゅう体をいじられているからだ。全身剥き出しの肌の感度が高くなるのも当然だと思う。性的な奉仕をさせられることで否応なく学ばされた性愛の技術も、僕自身の感覚を変容させた。そして僕が性的に感じてしまうのをおもしろがる人たちによってさらに刺激を理不尽に与えられ、もう、そういう刺激がないと物足りなく思うような体に変えられてしまった。
もちろん昔はそんなことはなかった。少なくともY美の家に居候する前までは。
どちらかといえば僕は自分を淡泊なほうだと思っていたのだ。Y美の家で暮らすことになり、一週間ほどで服を取り上げられた。家の敷地内では白いブリーフパンツ一枚が僕に許された唯一の衣類だった。そのパンツもことあるごとに脱がされ、今ではすっかり常時全裸を強いられている。そして、性的ないじめを絶えず受けて、笑われ、泣きながら射精し、周囲の僕に対する視線がそのまま僕の中に太陽光のように入ってきて根を下ろし、いつしか自分自身を「どうせ僕なんか……」という、得体の知れない自己評価最低レベルのアニマルに堕落させるのだった。
きつくおちんちんの根元を縛られた。試しに幸ちゃんがロープをキュッキュッと引いてみたけれど、袋の中の二つの玉が締め付けられるだけで、抜けそうにない。このロープは糸と見紛うくらい細かった。
「これで安心だね。足を滑らせても、わたしたちがロープを握っているから、滑り落ちる心配はないでしょ」とおば様が太鼓判を押し、僕を柵の外側へ送り出した。
こんな風にロープをおちんちんに括りつけられて、もう僕に逃れられる手立てはなかった。命じられるまま、岩を足場にして、少しずつくだる。体重をかけた途端、岩が崩れて落下することも度々だった。毎朝、日焼け止めクリームを塗ってもらっているけれど、今ほどそれをありがたく感じられたことはない。背中に太陽の強い光を受けながら、慎重に足の置きどころを下に求めていく。
あれ、下りられない、と思ったら、幸ちゃんたちがロープを握ったままだった。おちんちんの袋が締め付けられて、玉を圧迫する。上を向いて、ロープを下げるように手振りとともに呼びかけた途端、岩に置いた足が滑った。おちんちんの袋の裏側が斜面の茶色い地肌にぶつかり、こすれる。
落下するところをロープのおかげで宙ぶらりんになった僕は、おちんちんの袋の中の玉をロープが圧迫する激痛に悶えながら、「下ろして、早く下ろして」と叫んだ。ようやく裸足の足がざらざらした感触の岩に着地する。熱のこもったおちんちんの袋を手で庇いながら、僕は息を整えた。あと少しだ、と自分に言い聞かせる。
なんとか地面にたどり着いて、木立の中に入る。赤いビーチボールを発見。近づいたところでまたしてもロープが玉に食い込み、先へ進めなくなった。痛い。まったくもう……。不満を覚えながらも後戻りして、姉妹の怒りを買わないように、丁重にお願いする。「もう少しロープを出してもらえる?」
「もうこれが精一杯だよ」と雪ちゃんの声が天から降ってきた。「もうこれ以上の長さはないの」
見上げると、幸ちゃんと雪ちゃんは柵の隙間から顔を出して、ニコニコ笑いながら手を振っている。二人ともロープを握っていない。僕は試しにロープを手で力いっぱい引いてみた。柵に縛りつけたのか、ロープはピンと張って長さの限界を示すばかりだった。
仕方がないので、木立の中のビーチボールに向かって、進めるだけ進む。あと2メートルというところで、ロープがこれ以上伸びなくなった。僕は腐葉土の上を腹這いになって、ゆっくりとビーチボールへ向かった。熟練の職人の手で長い年月にわたって織られた絨毯のように深々した、枯葉や落ち葉の分解された土の上を素っ裸のまま這う。思わず喘いでしまう。乳首や下腹部、おちんちんが腐葉土にのめり込む。
ロープの輪がおちんちんの根元から抜ければいいのだけど、そのためには玉が玉の全長よりも小さな直径の輪を通らなければならず、無理に通そうとすれば、どうしても玉を変形させることになる。しかも玉は一つではなく、二つあるのだから、それは耐えられないほどの激痛を意味する。僕は腹這いのまま、枯れ枝を使ってビーチボールを引き寄せる方法を選んだ。
慎重に、時間をかけて、なんとかビーチボールを引き寄せることに成功する。しかし、問題は帰りだった。行きと違って、ビーチボールを持っているので、両手が使えないのである。では、どうやって斜面を登るのか。おちんちんの根元に繋いだロープで引っ張り上げてもらうしかない。
途中で足場を見つけては小休止を入れながら、引っ張ってもらう。あまりの痛みに耐えきれず、ビーチボールを手放してしまい、もう一度拾いに戻った。二回目は斜面の半ばで小休止している時に柵から身を乗り出した雪ちゃんが手を伸ばして、「投げて、投げて」とせがむので、そのとおりにした。と、見事に取り損なって、ビーチボールはまたしても落下するのだった。
「もう、いやだ。少し休ませて」
三回目にしてようやく崖上に戻ってきた僕は、ほとんど涙目だった。柵を乗り越えたところでしゃがみ込んでしまう。おちんちんの袋の中の圧迫された玉がキーンと金属的な音を立てて痛んだ。
おちんちんの根元にきつく縛りつけたロープをほどく段になって、雪ちゃんが邪魔にならないようおちんちんを摘まんで上へどかすと、幸ちゃんが露わになったおちんちんの裏側を見て、あら、と声を上げた。「菌糸じゃないの、これは」と言う。
「きんし?」
ぽかんと口を開けた雪ちゃんに幸ちゃんが頷く。
「そう、菌糸。キノコの一部だよ」
見ると、確かに細い白い糸のようなものが、おちんちんの皮のたるんだ辺りに付いている。気持ち悪い。すぐに取り去ろうとしたところ、幸ちゃんに手の甲を思いっきり叩かれた。「待って。勝手な真似しないで」
夏休みの自由課題でキノコ類の研究を始めた幸ちゃんは、さっそく家からピンセットと小皿を持ってきて、これを採取する。姉妹のお母さんであるF田さんも来て、おば様に代わって後ろに回された僕の両手首を掴んだ。
「珍しい、非常に珍しい菌糸じゃないかしら」
ピンセットで丁寧に摘まみ、小皿に載せる。冷静にこれを取り扱いながら、幸ちゃんのテンションは高かった。一種の軽い興奮が彼女の手つきを正鵠無比にコントロールしているのかもしれなかった。
おそらく腐葉土の上で腹這いになった時に付着したものなのだろう。自分の世界に没入してしまった幸ちゃんは、僕の羞恥などどうでもよくて、もっと菌糸類があるかもしれないからと、おちんちんの袋の皺のあいだまで細かく調べる必要があると断固たる口調で主張した。これには雪ちゃんはもちろん、F田さんも母として娘の研究に全面協力する考えなので、一も二もなく支持した。
いやがり、抵抗する僕は後ろに回された腕を上部へ動かされたり、乳首を抓られたり、おちんちんの袋を握られたりして、じっと動かずにいることを強いられた。彼女たちは、「恥ずかしいからやめて」と訴える僕の気持ちを取るに足りないと考えているようだった。おちんちんを見られるくらい、今さらなんだと思っているのだろう。
アウウッ、と喘いでしまう。いきなりおちんちんの皮を剥かれた。波の下に隠れていた岩が干潮時になって姿を現わすようなものだけど、ごつごつした岩と違って、亀頭はなよなよというか、ぷよぷよした、なんとも頼りない姿、形を、容赦ない日の光のもとにすっかり露出して、女子たちに女子たることの優越感をほとんど直感的に覚えさせてしまう。
昔は敏感で、指で軽く触れただけでひりひりしたものだった。ところが今や、それほど感じない。過敏ではなくなったのだ。考えてみれば、当たり前だった。僕はおちんちんをY美やおば様、同級生、先輩、後輩をはじめ、数えきれない人に触られてきて、中には名前も知らない人や通りすがりの人に面白半分にいじられてきたし、今も毎日のように手慰みにされている。そのおかげで亀頭はもう、それほどひりひりすることはなくなってしまった。慣れてしまったとも言える。それでいて皮は被ったままなのだから、僕としてはなんともやり切れない思いでいっぱいだ。
このことでは二日前もおば様に笑われた。皮が剥けていない状態で、すでに過敏状態から脱しているなんて、まるで皮が剥けて久しい成人男性みたいだと冷やかすのだった。その時僕はいつものように素っ裸だったし、雨の降り出した午後、洗濯物をしまい損ねた罰で軒先に後手縛りで吊られていた。Y美がフーンと感心して、「こんなちっちゃい、情けないおちんちんでも、しょっちゅういじられているから、内面的には成長してるんだね。少なくとも内面的には」と、奇妙なことを言って、おちんちんを指ではじいた。
幸ちゃんの菌糸採取を手伝う雪ちゃんがおちんちんを持つ位置を盛んに変える。僕は後ろ手に縛られていた。ずっと僕の手首を握っているのに疲れたF田さんが足下のロープに気づいたのだった。「これで縛っちゃおうかしら」
雪ちゃんにおちんちんを何度も摘まみ直される。そのたびに、ペタッと軽く圧する刺激が走って、地響きのようなものがおちんちんの袋からじわじわと伝わってくる。まずい。非常にまずい。……感じてしまう。
必死に感じまいと歯を食いしばる。素っ裸で後ろ手に縛られているのだから、感じてしまうと、もう隠しようがない。快感の刺激には絶対に抗えない。そんなことはもう知り過ぎているほど知っているのに、それでも僕は感じまいとする努力を繰り返す。やはり勃起するところは見られたくない。勃起する経過を至近距離で観察されるのは、何度経験しても慣れるものではない。
だんだん硬くなってくる。雪ちゃんは摘まむ位置をしきりに変える。摘まみ損なうと、おちんちんが垂れてきて、袋の皺の中を調べる幸ちゃんの邪魔をすることになる。
「雪ったら、しっかり持っててよ」
「ごめん、お姉ちゃん。なんか持ちにくくなって……」
摘まむのが面倒になったのか、雪ちゃんはいきなりぎゅっと握った。ヒッ、ヒィィー。その途端、おちんちんは一気に膨らみ、カチカチになった。他人の体温が通った手に握り締められる。アウウッ。思わず喘いでしまう。それでも幸ちゃんはチラと見てすぐに視線を袋の皺に戻したし、雪ちゃんも大して驚いた風ではなかった。姉妹の母親、F田さんだけが「持ちやすくなってよかったわね」と笑った。
袋の皺にビンセントを突っ込んで、短い糸状の菌糸を取り出した幸ちゃんは、続いて脇腹に付着していた縮れた糸のような物を採取して小皿に移した。
やっとおちんちんの袋から離れたと思ったところだった。アヒッ。いきなりビンセントで乳首を摘ままれた。
「やだ、お姉ちゃん。そんなところにも菌糸があるの?」
「ないよ。ただやってみただけ」
「かわいそ。なんかお兄ちゃん、痛がってるよ」
乳首にツーンと走った痛みに呻いた僕を雪ちゃんが笑った。あいかわらずおちんちんは握られたままだった。手を固定してなるべく動かないようにしてくれているけれど、それでも少しは動くし、僕の裸身が動いてしまう場合もある。動くと、摩擦してしまう。ジワッと痺れるような電流が全身に伝わってくる。
ついでに背中も見てみたい、と雪ちゃんが言った。F田さんの手で僕はくるりと反転させられた。そのあいだ、雪ちゃんの手は一瞬もおちんちんを離れなかった。握ったまま手を動かされる。ヒィッ。声を上げそうになる。もしこのまま射精してしまったら、必ずおば様の知るところになって、折檻されてしまう。
しゃがんだままの幸ちゃんは、目の前にあらわれた僕のお尻をぴしゃりと手で軽く叩いた。お尻を果物の皮を剥くように割る。
「やめて、そんなところは何もないから」
「ねえお兄ちゃん、おとなしくしててよ。大事な研究なんだから。遊びじゃないんだよ」
幸ちゃんに大人びた口調でたしなめられる。お尻の穴を広げられ、指先が肛門に当たったかと思うと、金属の感触があって、挿入してきた。F田さんに肩を押さえつけられて、動けない。スカートにたくさん付いたフリルが硬くなったままのおちんちんの裏側に触れて、僕にしか聞こえない衣擦れの音を立てる。急上昇の快感指数。全身の筋肉を強張らせて踏ん張る。「やめて……」と、僕は掠れた声でもう一度訴えた。「そんなところには……、ああ、何も……、付いてないから……」
ビーチボールを取りに崖を下りた時、僕は腐葉土の上で腹這いになって、ビーチボールに向けて手を伸ばした。だから、菌糸だかなんだか知らないけど、土の中の変な物がおちんちんに付着してしまったのは、分かる。お腹にも細かい枯葉の一部がそこかしこ付いていた。でも、一度も仰向けにはなっていないのだから、お尻の中にまで土の中の変な物が入っているはずはない。それなのに、いくら言っても無駄だった。幸ちゃんは自分の目で確かめないと納得しない。
激しく襲ってくる性的快感の波に絶えず責められ、朦朧とする。もう雪ちゃんはおちんちんを握りしめてはいない。亀頭がいっぱいに膨らんで、亀頭の下方から粘液がぬるぬる異様なほどに湧いているのに気づいて、このままでは射精すると思ったのだろう。それでも、おちんちんを指で挟んで、前後に動かすことはやめない。あるところで動きを緩め、あるいは手を離す。常に一定の快楽を僕に与え続けている。
感じまいとする努力は、もうとうに放棄していた。当然、彼女たちの前で射精しないように踏ん張ることもない。激しく呼吸する僕の口から、「お願い、お願いだから……」これに続く言葉は、さっきまでは「もうやめて、触らないで……」だったけれど、いつまにか、「いかせて、お願いですから、いかせて……」に変わっていた。
彼女たちはそもそも僕を射精させる気など、さらさらなかった。無断の射精が固く禁じられている僕の身を思ってのことというよりも、単純に僕を責めるのがおもしろいだけだからと思う。菌糸の採取を終えた幸ちゃんは、今や雪ちゃんと交互におちんちんをツンツン突いたりしごいたりしては、突然手を止めて、あられもない姿でくねくねと悶える僕の腰、脇腹、顔をじっと見つめ、あるいは撫で回し、底意地の悪い笑みを浮かべるのだった。
ご婦人の上品な笑い声に気づく。でも、年下姉妹によるしごき責め、いかせてもらえないしごき責めから逃れられない僕は、ただ、新たなギャラリーが増えたのかなとしか思えない。素っ裸で、後手に縛られて、大きくなったおちんちんをしごかれて、亀頭のまわりを精液で濡らし、その精液をお腹や乳首、背中やお尻に塗られて、ヒィッ、いや、アウッなどと喘ぎながら、なすすべもなく悶える惨めな姿を見て、僕を嘲る人が、僕を軽蔑する人がまた一人この世に誕生したのだ、としか考えられない。そして、僕はこのような情けない、自尊心を叩き割られるような羞恥の極みの経験をこれまで数えきれないくらいしてきた。だから、変な話だけど、それほどのショックは覚えない。
ここは高台にある住宅街の中の道路脇で、普通に人や車が通る場所なのだから、女の子たちに全裸でいじめられ、性的に不本意ながら興奮している姿を見られても、少しも不思議ではない。
執拗な指責め、勃起最大状態を保たせて、いきそうになるとしごきをストップする。僕は僕よりも背丈の伸びた小学四年の雪ちゃんに腕を取られ、道路脇に止まる車の方へ歩かされた。上品な笑い声の主はF田さんだった。停止した車の横で運転者と喋っている。僕を見て笑っていたわけではなかった。
運転席から助手席の窓へ身を乗り出したおば様が、僕の勃起させられたおちんちんを見て「何やってんのよ」と顔をしかめた。ごめんなさい、と反射的に謝る。「とりあえず謝る」は居候暮らしで身についた悲しい習性だった。
すっと横から伸びてきた幸ちゃんの手でおちんちんを軽くしごかれる。アウウッ。気持ちいい、恥ずかしいと思う感情の堰を快感の波は軽々と越える。反応する体は、射精という限界地点を必然的に目指す。が、いつもその地点に到達する直前で引き戻されてしまう。いや、やめて、と僕は小さな声で言った。
「射精させたの?」
「あ、大丈夫です。直前で止めてますから」
「そ」
おば様は幸ちゃんに頷くと、F田さんと雪ちゃんに後手縛りをほどいてもらっている僕を憐れむような目で見た。「よかったじゃないの。わたしが車を取りに行ってるあいだに遊んでもらって」
後ろの席に誰かが乗っている。Y美だった。
「え、なんで……」Y美がここにいるのだろう?
車を降り、感情の抜け落ちたような顔をして僕のほうへ向かってくるY美は、驚く僕の問いを無視して雪ちゃんから僕を引き取り、後部座席に力ずくで押し込む。もし僕が宅配便の荷物だったらクレーム案件になりかねない手荒な扱いだった。
発進した車の中で僕は身を起こし、座面に裸のお尻を着けた。コチコチに硬いおちんちんを両手で覆う。すっかり官能の火を付けられてしまった。こうなったら自分の手でしごき切ってしまいたいところだけれど、無許可でそれをするのは厳禁だった。狭い車内でY美やおば様に気づかれずに処理するのは、白昼素っ裸で学校まで行き、誰からも咎められずに帰宅するのと同じくらい難しい。さっそく隣のY美に睨まれた。
「何してんの?」
語気にたっぷり棘が含まれている。思わずビクッとしてしまう。
「いえ、別に……」
「隠すなよ、ちんちん。お前ごときにちんちん隠す自由なんか、ないんだよ」
「……申し訳ございません」
悔しい。素っ裸で生活させられて、いつもおちんちんが丸出しだから、僕は人目に触れそうになると無意識のうちに手で隠した。手をどけるよう命じられるのはしょっちゅうだったけれど、手で隠すこと自体は禁じられていなかった。それが最近、やたらとおちんちんを晒し状態にするように求められる。これまでは、こうした命令はおちんちんを人の目に触れさせるか、いじるのに邪魔という理由だったのに、いつのまにか、おちんちんは常時露出しておくべきものという暗黙のルールに変わったようだった。
手を脇へやって、屹立するおちんちんを晒す。予期に反してY美は手を伸ばしてこなかった。しばらくおちんちんを凝視したのち、プイと窓へ顔を向けた。相当に機嫌が悪いようだった。まずい、緊張のあまり、生唾をうまく飲み込めない。無理に飲み込むと、ごくりと大きな音がして、Y美にまたもや睨まれてしまった。
これから夏期講習特訓コースに行くというので、Y美は暗い気持ちになっているのだった。「いいね、お前は」などと、軽蔑の眼差しを僕に注いでくる。「チンチンおっ立てて、毎日遊んで暮らしてんだから」と嫌味を言う。
冗談じゃなかった。Y美と代われるものなら喜んで代わる。僕はこれから鷺丸邸でマジックショーの練習だ。無論ここでも衣類は一切与えられず、激しい特訓を受ける。肉体的にも精神的にもかなりハードで、これに比べれば夏期講習なんか、楽勝だと思う。そして、これは共演のメライちゃんも同意見だと思うけど、本番がことさら憂鬱に感じられるのは、練習と同じ格好で舞台に上がらなくてはならないからだ。メライちゃんは小さめのスクール水着(Y美が小学五年生の時に使用したお古)、僕は素っ裸で本番に臨む。当日は地元のテレビ局が中継に来るというのに。……やだ、恥ずかしい。いまだ無毛のおちんちんは、ぼかしなしで放送しても法に抵触しないという。
それとは別の意味でも僕はY美がうらやましかった。僕がY美の家に世話になってしばらくして、おば様はY美を塾に通わせた。Y美と僕は同い年でクラスも一緒だったから、学業の成績はどうしたって比較してしまう。Y美自身は気にしていないようだったけれど、彼女の母親であるおば様は違った。Y美に塾通いをさせただけではまだ足りないと考えたようで、おば様は、ことあるごとに僕から家で勉強する機会を奪った。
たとえば、帰宅すればすぐに制服を脱ぎ、白ブリーフのパンツ一枚になって数々の家事をこなすという仕事が居候の僕に課せられたし、夜は夜でY美に気づかれないようにおば様の寝室に行き、性的な奉仕をするという仕事が待っていた。特にこの性的な奉仕は単に重労働であるばかりでなかった。僕のこれまでの感じ方、物の見方を粉々に砕いた。
そのショックは勉強にも大いに影響を与えた。教科書を見ても頭に入らない。ノートに書くと、以前だったらそれだけで重要な個所はたいてい覚えられたのに、今では書きながらつい放心してしまって、自分が何を書いているのか、よく分からなくなっている。漢字が突然ばらばらに解体して、抽象画に見えてくる。授業を集中して聞けず、十秒もしないうちにぼんやりしてしまう。授業中、ふと夜の激しい奉仕を思い出して、突然体温が上昇し、机に突っ伏したこともあった。
こんな調子だから、僕の成績が急激に下降の一途をたどったとしても不思議ではなかった。実際、夏休み前の試験で僕は散々な結果に終わったのだった。周囲は驚きの目で僕の凋落を見た。担任の先生も首を傾げた。家庭の事情が影響しているのは明らかだろうに、先生は「こういうのって稀にあるよね」と頷くばかりで、原因追求をしてくれなかった。ほとんどすべての科目において僕はY美に負けたのだ。この事実は、僕の中にまだ眠っていた別種の自尊心を揺り動かし、傷つけた。おば様は嬉しそうにY美と僕の答案を並べて大きく頷くと、Y美に小遣い一月分を褒賞として与える一方、素っ裸の僕を正座させて口汚く罵倒した。
夏休みに入って夏期講習で特訓を受けるY美を僕はつい羨望の目で見てしまう。おば様は僕にはもちろん塾に通わせないし、家でも宿題程度しか勉強させなかった。もう僕には学校の勉強はそんなに重要ではないと折に触れて言うのだった。
「ど、どういう意味ですか?」
ある日、とうとう僕は聞いてみた。枯れてひどい虫歯のような見てくれのあじさいの花をおば様の指示で摘み取っていた。鉄扉のすぐ近く。外から丸見えだ。うずくまって作業を進める素っ裸の僕を見て、通りすがりの女子高生の集団が「またいつもの子だよ」「全裸ボーイだね」「情けないなあ」と嘲笑した。
「どういう意味って、言葉どおりよ。あなたはもう、将来が決まってるから、あくせく勉強する必要はないの。安泰ってことだから、喜びなさい。職業選択の自由なんていう面倒から解放されるんだから」
絶句する。どんな将来かは教えてくれなかった。「今から知ったっておもしろくないでしょ。楽しみは取っておきなさい」おば様は笑って、家に入ってしまった。
「やだな、今日は朝からテストがあるし」
フーッと気だるそうに息をつくと、Y美は鞄からテキストを取り出して、勉強を始めた。横目でチラッと見て、硬度を失いつつあるおちんちんに気づくと、手を伸ばした。
「う、何するんですか、いきなり……」
いきなりおちんちんをしごかれ、急激に上昇する快感指数に全身を強張らせて耐える。
「うるせえ、黙ってな」
慣れている。毎日のようにいじって遊ぶから、僕が感じてしまう緩急のタイミングを把握して、快感の波をコントロールする。ヒィィッ、いきそうになる……。口で伝えなくてもY美は分かっているはずだけど、これは一種の約束のようなものだから、一応、「い、いきそうです」と告げる。
「我慢」
無愛想な一言を放って、Y美は一心に膝元の夏期講習のテキストを確認し、右手でページをめくる。伸ばした左手がしごくおちんちんには、まるで興味なしといった風情だった。ちょっとでも目を向ければ、もう射精するってすぐに分かるはずなのに、指先の感触だけで判断するつもりなのか、テキストの文字を追うのに余念がない。それなのに射精してしまったら、無許可射精として厳しく罰せられるのは僕なのだから、ひたすら耐えるしかない。
ヒィィ……、もう無理……。力のこもった内股をがくがく震えて、踏ん張る。ゆっくり舐めるようなしごきが少しだけ加速したかと思うと、ふっとペースダウンする。もう僕は何も考えられない。粘り気のある透明な糸に全身絡めとられ、きりきり締め付けられている。この異様な快感にどっぷり浸かって、僕は恥ずかしさを忘れて喘ぎ続けた。
「Y美、いい加減にしなさい」
「は?」
運転中のおば様に制され、Y美はようやく顔を上げた。
「車の中で出させないで。午後から帝国バイオの社長さんを乗せるから、汚したくないの」
「分かった」
すっと手を離す。僕はおちんちんの穴という穴を塞ぐ思いで力を込めた。タップンという音がして、数滴おちんちんの先からこぼれたけれど、なんとか射精を食い止めた。あぶないところだった。コンマ一秒遅れたら、勢いよく射精してしまっただろう。Y美は指に付着したねばつく液を僕の肩や脇腹になすり付けて拭き取ると、ふたたび勉強に没頭し、もう僕には構わなかった。
激しく肩を上下させながら、性的な波がすっと引いていくのを感じる。ジーンと痺れるような余韻の中で、今しがた聞いた「帝国バイオ」という企業を思い返す。
帝国バイオ……。
なぜこの名前がおば様の口から出るのだろう。社長とつながりがある?
帝国バイオ、それはほかでもない、僕の母がかつて勤務していた企業だった。
雨夜に野外で寝るのは辛そうですね。
もしよければ次話で野外生活での大小排泄の様子や雨天時の睡眠事情など読んでみたいです。
トイレ小屋の使用は許されていないようです。雨の日は雨に打たれよ、風の日は風に吹かれよ。烈日激しければ砂をもて汝の裸体を覆え、です。
砂場での就寝ですが、気になるのが雨の時で流石にトイレ小屋に入れて貰えるのかなど体調が心配ですね。
おしっこは庭に垂れ流しとの記述があるので大きい方も含めてトイレ小屋ももう使わせて貰えないのかも。
名無し様
コメント恐れ入ります。
M.B.O様には、いつもこまめにコメントくださり、感謝しています。なかなかお返事できず、すみません。これからも気楽にお願いします。励みにさせていただいています。
名無し様
貴重なご意見です。ありがとうございました。ご指摘のようなアクシデントにもこだわっていきたいと思います。
かなり前に投稿された「流されて」という回の序盤でナオス君が川の急流に流されていく途中で股に岩を挟んでおちんちんを打ちつけたという描写もそうですがY美を筆頭とした人に手による玉責めだけじゃなくこういう他の要因でナオスくんのおちんちんや袋がダメージを受ける描写が非常に好みです。
かなり過酷な状況ですね…
いつも励ましをありがとうございます。
やっと「思い出したくないことなど」の続きを更新しました。
実に五年ぶりです。マジックショーの話に向けて、大きく動いています。
タイトル、これしかないという思いですので、変えません。いじめの問題に真剣に悩まれている方がこのタイトルに引っ掛からないことを祈ります。これはただの官能小説ですから。
お読みいただけると嬉しいです。