長い面接が終わって、スクール水着を着たメライちゃんと生まれたままの姿である僕は、一礼して面接室を出た。ドアが閉まったのを確かめてから、メライちゃんが「良かったね」と僕を振り向いて言った。もう廊下は暗く、人の気配がなかった。ホッとした顔をするメライちゃんが恨めしく、つい「全然良くない」と語気を荒げてしまった。
「なんでよ。何をそんなにムキになってんのよ」
「だってさ、あんまり酷過ぎるし」
裸足ですたすた歩くメライちゃんの薄い生地に包まれたお尻を追いながら、僕は口ごもった。何しろ面接の直前、唯一身に着けていた白いブリーフのパンツをY美に力づくで脱がされ、全裸で面接を受けさせられたのだ。これはつまり、この格好で舞台に上がりますと、はっきり告げることを意味する。面接官たちは僕の体をテレビ放映しても問題はないか、くまなく点検し、おちんちんをいじり回し、勃起させた。
せめて勃起した段階でとめてくれればよかったのに、メライちゃんは扱きを中断しなかった。確かに面接官たちは誰もやめるように言わなかったし、それがとめなかった理由だと後からメライちゃんに聞いたのだけれども、大きくなった時のおちんちんの大きさを測るのが目的だったから、ついに限界に達して、面接官たちの注視する中で射精してしまうまで扱き続ける必要は全くなかった。
精液が迸っている間も、メライちゃんは律儀に指でおちんちんに刺激を与え続けた。素っ裸の身をくねらせ、喘ぐ僕を見て、面接官たちは苦笑した。廊下を進む僕のお腹には、今も腹這いになって拭き取らされた精液がべったり付いて、下腹部に向かって幾筋もの糸を引いている。
面接では四つん這いにされ、お尻の穴までチェックされた。お尻の穴がゴムのように拡張することから、面接官たちは僕が変な物を入れて遊んでいるのではないかと疑った。苛められ、面白半分に挿入されてきたから、自然と延びるようになっただけなのに、羞恥で頭の中がまっ白になっている僕に弁明をする余裕はなかった。
辛くて長い時間を、ただひたすらこの面接に落ちることを願って耐えた。失格、テレビで中継する関係上素っ裸でステージに出るのは問題あり、と面接官たちが結論してくれれば、僕は救われる。そう思ったからこそ、一人だけ全裸という恥ずかしい状況を我慢し、四つん這いになってお尻の穴を面接官たちに晒し、おちんちんの袋の皺の点検を許し、メライちゃんに手で扱かれておちんちんを硬くさせ、皆の前で喘ぎながら射精するという痴態を演じたのだった。
ところが結果は、僕を絶望の淵に落とし込むものだった。メライちゃんはスクール水着、僕は素っ裸という格好でステージに出ることが、とうとう正式に決まってしまったのだ。委員会の決定は覆せない。もう僕がどんなに頼み込んでも、パンツ一枚どころか、腰を覆う布切れ一枚も身に着けることは認められない。
委員長は下顎に垂れさがった脂肪と眼鏡を揺らして満足そうに頷き、「あなたたちの舞台がとっても楽しみだわ」と辞去する僕たちに言い、レンズの奥の細い目を光らせた。
こういう次第だから、メライちゃんにいともあっけらかんと「良かったね」などと言われると、悲しく、同時にいらいらしてしまう。今の辛い気持ちをメライちゃんにぶつけるのは筋違いだとは分かっているけれど、どうにも自分は一人ぼっちなんだという現実と直面させられた感じは拭えない。
町役場に残っているのは、役場の職員だけだった。階段をのぼり四階に到達する。廊下は消灯されていた。前を歩くメライちゃんが振り向かない限り、僕は誰からも裸を見られる心配はない。それでも、メライちゃんがいつ振り返るか分からないので、一応おちんちんに手を当てて歩く。
女性職員に案内されて着替えに使った物置まがいの部屋の前で、メライちゃんと僕はがっくりと肩を落とした。鍵が掛かって、あかないのだ。
仕方なく一階まで戻る。玄関前の大きな白い円柱に素っ裸の僕を残して、メライちゃんはスクール水着の格好のまま、受付まで行ってくれた。
「信じらんないよ。あのお姉さん、もう帰っちゃったみたい」
しばらくして戻ってきたメライちゃんは赤く染まった頬を膨らませた。円柱に隠れるようにして身を低くしている僕の裸身をあまり見ないように、目を適当に泳がせながら、「鍵もないんだって。見つからないみたい。どうもあのお姉さんが決まった場所に戻さなかったみたいだよ」と、聞いてきた話を伝えてくれる。
無責任だよね、と憤懣やるかたなくぼやいている。役場のおじさんはメライちゃんに、今日はこのまま帰り、また明日にでも役場へ服を取りに来たらどうかと勧め、家族の人に連絡してあげようと申し出てくれたらしい。ところが、メライちゃんの家には車がない。連絡が取れても迎えに来れそうもなかった。僕がおば様に電話して助けを求めるのがベストの選択なのだろうけれど、僕は電話番号を知らなかった。
幸い役場の中におば様のことを知っている人がいて、自宅の番号を調べてくれた。町役場の応接室でメライちゃんはソファーに、僕はその横の床に正座して待った。なぜ正座なのかと言えば、事務員の中年女性がスクール水着のメライちゃんはともかく、素っ裸の僕がソファに座るのをどうしても認めなかったからだ。何か羽織る物を貸してもらえるか、丁重に頼んでみたけれど、あっさり断られた。
この女性は僕に対して不快な感情を抱いていることを隠そうとしなかった。僕が素っ裸なのは、単純に僕に何か粗相があったからと思い込んでいるようで、反省の意味合いから僕に正座を強制したのだった。
小一時間ほどしておば様が到着した。僕は足が痺れてすぐに立てず、メライちゃんに腕を取ってもらってようやく歩き出すことができた。
町役場の通用門から出て、敷地内の道を進む。車は少し離れた場所に停めたらしい。
メライちゃんはスクール水着に裸足という格好でいることにすごく抵抗を覚えるようで、町役場の人たちに好奇の視線を向けられると、恥ずかしそうに体をくねらせ、両腕を交差させて胸元や股間のあたりを覆った。
別にそのような仕草をしなくても、ちゃんと水着が肉体を覆っているのだから、裸を見られる訳ではない。「何を大袈裟な」と全裸で歩かされている僕は思ってしまう。まあメライちゃんにしてみれば、知らない人たちから性的な欲望をたぎらせた目で見つめられて生理的な拒絶反応が起きるし、特に女の子の場合、その反応は男子よりも強いだろうから、やはり水着をまとっているからといって安心できるものではないのかもしれない。
町役場の敷地を出て、道路の端に引かれた白線の内側を歩く。通行する車のヘッドライトに照らされ、俄然、視線の数も増える。夜といっても、まだ歩行者や自転車が途絶える時間帯ではなかった。
「すれ違う人がみんな変な目で見て、怖い」
メライちゃんが泣きそうな顔して訴えた。体をもぞもと動かして、不特定多数の性的な欲望からなんとか身を守ろうとしている。
遊泳環境が付近にないところを夜、水着姿で歩いている女子は、やはり人々の注目を集めてしまう。メライちゃんは、素っ裸の僕に前を歩くように要求した。ついでに、おちんちんもなるべく隠さないで歩いて欲しいとも。
「やだよ。僕だって恥ずかしいし」
「何よ、ナオス君、さっきまでずっと私の後ろに隠れてたじゃないの。たまには交代してよ。男の子でしょ。今更見られてたって恥ずかしいことないでしょ」
恥ずかしさで切羽詰ったメライちゃんは、自分の都合が一番であり、二番も自分の都合、三番四番と、こんな感じで九十九番まで自分の都合を並べ、百番目くらいに僕への気遣いを置いてあげてもいいという感じの、有無を言わせぬ強い口調で主張した。メライちゃんにとって一糸まとわぬ僕は、周囲の視線を逸らすカモフラージュに過ぎなかった。
こんなことでメライちゃんとの仲をこじらせたくない。僕は「分かったよ、もう」と吐き捨てるように言うと、大きく息を吸ってからメライちゃんの前に出た。
「ナオス君、さっきも言ったけど、おちんちん隠さないでね。すれ違う人の注意を引きつけて」
そんな無茶言わないで、とぼやきながらも、手を少しおちんちんから外す。後ろから僕たちを追い抜く人よりも、前から来てすれ違う人の方が多い。自転車を押して歩く子連れの女の人が正面から僕を見て、嘲るように笑った。連れの男の子が指を向けて、「ちんちん丸出しだ」と甲高い声を出して、彼らの後ろを歩く人たちの失笑を誘った。
先をずんずん進んだおば様が戻ってきた。僕たちとの距離が随分開いてしまったことに苛立って、何を愚図愚図歩いてるのよ、と少しヒステリックな調子で僕を叱りつけた。車のランプがもう少し先の道路の幅が広がったところに見えた。
「あなたも」と、おば様は僕の背中に隠れるようにして立つメライちゃんに気づいて言った。「急ぎなさい。のんびり歩いてる暇はないのよ」
そう言っておば様はメライちゃんの腕を取り、僕の前に引っ張り出すと、「早く行きなさい。もう車はすぐそこだから」と、メライちゃんを先に行かせた。
「ほら、あなたもトロトロ歩かない」僕のお尻をぴしゃりと叩いて、おば様が小走りで車に向かう。
前に人影があって、思わずおちんちんを手を当てる。少し速度を落として横から通り過ぎようと思ったら、Y美だった。
「お前さっきさ、おちんちんぶらぶら丸出しで歩いてたよね。珍しいじゃん、恥ずかしがり屋のお前にしては」
「メライちゃんが水着姿を恥ずかしがってて、それで僕の方に人々の目が行くように・・・」と、僕が口ごもりながら理由を説明すると、Y美は感心したように溜め息をついた。「優しいねえ。お前、よっぽどあのクソチビ女が好きなんだね」
もうメライちゃんは車に乗り込んだのだから、これ以上おちんちんを晒しておく必要はない。僕は手でしっかりおちんちんを隠していた。
「だったら、もっと目立たせる必要があるんじゃないの」
「やめて。何するんですか」
Y美はいきなり手でおちんちんを嬲り始めた。「ほら、大きくなる大きくなる」と、おちんちんの根元を指で挟み、軽く圧迫するとともに袋を握って、振動させる。それから手のひら全体でおちんちんを揉みしだき、すぐに指を絡めてゆく。
さっき射精したばかりなのに、もうおちんちんにじんじんと快楽の波が押し寄せてきた。喘いでしまうような甘い電流は、Y美の撫でる指先からも伝わる。たとえば首筋、鎖骨、乳首を指先はツツツと僕の肌を離れることなく移動する。
巧みな指の動きもさることながら、Y美が半袖シャツの起伏のある胸を僕の顔を埋めるほどの近さまで近づけてきたことも、僕の性的な官能を高めた。一日の汗と柔らかく息づく肉体の匂いに包まれ、すぐそばを車が通過するにもかかわらず、思わず深くゆっくり息を吸い込んでしまう。その香りは僕は未知の世界へ誘ってやまなかった。
切ない声を出してしまう僕をY美は笑い、おちんちんから手を離した。硬くなって反り返ったおちんちんが夜の生温い空気の中でむなしく脈打っている。「これでもっと目立つようになったよね。相変わらずちっちゃいけど」と言い、Y美が僕の手を取って後ろに回した。両手を後ろで掴まれた僕は、Y美に後ろから押されるように道路の端を歩く。向かってくる車のヘッドライトに、硬くなったおちんちんが容赦なく照らされる。
「やめて、恥ずかしいです。お願いだから」
身をよじりながら歩き、僕は首を後ろへ向けてY美に哀願するのだけれど、Y美は「ほら、しっかり前見て歩く。さっさと歩く」とだけ返して、背中をぐいぐい押す。
停車中の車まで来ると、ガラス越しにメライちゃんが僕の射精寸前まで追い込まれたおちんちんを見て、ギョッと驚いた顔をした。
「見られると興奮するみたいだね」とY美は何食わぬ顔をして、勃起させられたおちんちんをピンと指で弾き、助手席に乗り込んだ。僕は後ろの席のドアを開けた。メライちゃんが恐い顔をして僕を睨み、黙ってお尻を奥へずらした。
おば様の運転する車が走り出した。
面接はどうだったか、とおば様が訊いた。おば様は今回の夏祭りがテレビ中継されることを知っていた。スクール水着と素っ裸という格好でステージに出ることが今日の面接で正式に認められたと聞いても、「良かったわね」と答えただけだった。ずっと前からそうなることは分かっていたのかもしれない。
「あんたの自慢の水着姿がテレビ放映されるんだね。みんなのアイドルだね」
Y美に冷やかされると、メライちゃんは曖昧に返事をして、恥ずかしそうに太腿の下に手を入れて俯いた。
自宅までの道のりを伝えるメライちゃんの説明は要領を得なかった。交差点を過ぎてから、「あ、今のを右です」とか「ごめんなさい、こっちじゃなくて、あの道でした」などと言うので、同じ道を何度か通る羽目になった。
「ほんとに左でいいの? さっきもここ、左に曲がったけど」
おば様が丁字路交差点の手前で止まって、確認する。
「ええと、左に曲がるとたばこ屋さんがあるから、その先の路地を…」
「たばこ屋なんか、ないって。桑畑と倉庫があるだけだったよ。さっきも通っただろ。いい加減にしなさいよ」
身を乗り出し、怒鳴りつける助手席のY美をおば様がぽんぽんと肩を叩いて、なだめた。
「ごめんなさい。私、方向がすぐ分かんなくなっちゃって。学校からだったら分かるんですけど」と、消え入るような声を出して詫びるメライちゃんに、おば様は「いいのよ。気にしないで」と慰める。
「こいつ、信じらんない馬鹿だな。自分の家の場所も分かんないのかよ」
容赦なくY美が罵声を浴びせると、メライちゃんは泣きそうな顔になって、
「ほんと、迷惑をおかけしちゃってごめんなさい。私んち、車ないし、車に乗ることって滅多にないから、よく分からないんです。歩いてる時は雑木林の道を通るんですけど、車だと通れないから」と弁明した。
窓の外では木々が無数の枝を絡めていた。舗装路に接した入口のところだけ、灯火に照らされてほの白く見える。手すり付きの遊歩道が濃い闇の奥へと続いていた。昼間ならともかく、日の沈み切った時間帯に足を踏み入れる場所ではない。
「その雑木林を通れば、すぐに帰れるの?」とおば様が聞くと、「はい、少し距離はありますけど、雑木林の中を通れば帰れます」としっかりした声で答える。
「でも、女の子が一人、水着姿で雑木林の中を歩くのは危険よね」
おば様は思慮深そうに首を傾げた。雑木林の中を車で通り抜けるのは不可能だ。
「大丈夫です。住宅地の中だし、雑木林を抜けると、学校への行き来で通る道に出るんですよ」
メライちゃんはそう言ってドアを開けると、おば様に礼を述べて車から降りた。「じゃ、私」と助手席のY美も降り、「ちょっと心配だから、どんな道だか見てくる。待ってて」とおば様に言って、ドアを閉めた。
Y美とメライちゃんが並んで遊歩道を通って雑木林の中に消えていくのを窓ガラス越しに見ていると、おば様が「こういうのは本来、男の子が率先して行くものよ。なんで女の子に行かせてんのよ」と、僕を責めた。
もちろんそうしたいところではあるけれど、一切服を着ていない今の状態ではなかなか行動に移しづらい。これはただの言い訳かもしれない。僕は言葉に詰まって何も返せなかった。確かにメライちゃんのことは心配だけれど、せっかくY美が様子を見てくると言ったのだから、ここはY美に任せてもいいかな、と思ったのだった。おば様は溜め息をついて、ラジオをつけた。ニュースが流れてきた。
しばらくしてY美が車に戻ってきた。どうだった、と問い掛けるおば様にY美は、雑木林の遊歩道は特に危険な印象はなかったと報告した。近くに民家が並んでいるし、雑木林を抜けるとお馴染みの道だから迷う心配はないとのことだった。安心したおば様は、Y美を労うと、車を発進させた。
家の前でY美と僕は降りた。夜になっても昼間の蒸した空気が漂っていて、ぬめぬめと幾層にも重なって肌にまつわってくる。素っ裸でも時折吹く風を涼しく有り難く感じるくらいだから、半袖のシャツに膝丈までのゆるゆるしたズボンを着たY美は、風を全身に浴びたい気持ちに違いない。
おば様は月極駐車場まで車を置きに行った。玄関に向かう途中、Y美が「ねえ、これ見覚えない?」と言って、丸めた布のようなものを僕の前で広げて見せた。僕はすぐに声が出なかった。
「なんで、なんでここにメライちゃんのスクール水着が」
「ゲームだよ、ゲーム」
「何のゲームなの? まさかメライちゃんは」僕は自分が全裸であることも忘れて、Y美に詰め寄った。
「そうだよ、素っ裸。お前と同じようにね」Y美はおちんちんを指で弾いて、愉快そうに笑った。
雑木林の中、抵抗するメライちゃんの腕を曲げ、少しでも動いたら骨が折れる状態にして、水着を引きずり下ろしたと言う。あっという間に全裸に剥かれたメライちゃんは、泣きながら「お願い、返して」と叫んでY美に掴みかかった。Y美の腕の引っ掻き傷はその際にできたようだった。
「あいつ、マジで引っ掻きやがってさ。頭きたからお腹をグーで殴って、お尻を二三発蹴ってやった。そしたら池に落ちちゃったんだよね」
この傷、残ったらどうしょ、と心配するY美の肩を揺さぶり、僕は質問を重ねた。池に落としたってどういうことか、メライちゃんが岸に這い上がるのを確認したのか。膨らむ不安にどうしても声を荒げてしまう。
「うるせえな。池といっても底が泥みたいで、岸に近いところは沼地なんだよ」
Y美は、メライちゃんが泥まみれになって岸を上がってくるのを見たと言う。素っ裸でも泥が付いたおかげで夜目にはすぐに裸と分からないから、逆に池に落ちて良かったんじゃないの、とY美はふてぶてしい態度を崩さなかった。
「メライちゃん、無事に家に帰れたのかな。もしかすると、まだ裸のまま雑木林の中にいるかも」
「知るかよ、そんなこと」
まるで自分は関係がないかのような物言いにさすがに心が痛くなった。僕は怒りの感情が湧くと、まるで悲しい時みたいにチクリと心が痛くなるのだった。やはり僕も、素っ裸という恥ずかしい格好ではあるけれど、一緒に雑木林を見に行くべきだった。Y美一人に任せたのがいけなかった。
「やめて。Y美さん、お願いだから冷静になって。あんな暗い雑木林の中に一人、裸に剥かれて池に落とされたまま置いて行かれたら、どんなに怖いと思うの。何かあったら責任取れるの?」
感情を高ぶらせて体を近づける僕をY美はきょとんとした目で見つめ、少しも動こうとしなかった。僕はメライちゃんの家に電話することを言い張った。無事に帰ったかどうかがとにかく知りたかった。
電話をかけてメライちゃんが帰宅したか確かめてもらった。玄関から出てきたY美は、「まだ帰ってないみたい」と言って腕を組んだ。こうなったらおば様に言って車をもう一度出してもらい、メライちゃんを降ろした場所まで戻るしかなかった。
「勝手な真似すんじゃねえよ」
素っ裸のまま門から出ようとした僕は、後ろからY美に押さえつけられ、お尻を膝で蹴られた。続いて、顔を滅茶苦茶に叩かれた。それでも僕は諦めなかった。夜中の雑木林に素っ裸で放置されたメライちゃんのことを思って、おちんちんの袋を握られた痛みに悲鳴を上げながらも、助けに行くべきたとしつこく主張する。
しぶしぶY美が自転車を出すことを承知してくれた。母屋の近くにあるビニールカバーを外すと、赤い自転車が出てきた。メライちゃんの水着を入れて膨らんだポシェットを前の籠に入れ、Y美が自転車に跨った。僕はY美の後ろ、荷台に乗る。何本も並んだ金属の棒がお尻に当たった。
Y美の漕ぐ自転車はスムーズに走り出したけれど、二十メートルも進まぬうちに減速を始めた。前方におば様の姿を認めたのだった。おば様は月極駐車場に車を置いて戻ってくる途中だった。びっくりしているおば様に、Y美がメライちゃんに渡しそびれたものを渡しに行くのだと説明した。口から出任せの嘘で巧みにその場を取り繕うことにかけては天才的な才能を発揮するY美だけれど、この時ばかりはあまり上手とはいえない嘘になった。たちまちおば様の表情が曇った。
「渡しそびれたものって何よ」
眉をひそめるおば様に「宿題のノート」とY美が弱々しい声で答える。いかにも自信なさげで歯切れが悪く、おば様はいよいよ疑いを深めた。
「Y美、あんた嘘はやめなさい。こんな夜中に出掛けるなんてよくないでしょうに。それにこの子」と荷台に座る素っ裸の僕を見て、おば様は険しい目をした。「相変わらず素っ裸じゃないの。家の周囲で裸はまずいって言ったでしょ。服を着せてあげなさい」
「チャコの服はもうないよね。知ってるくせに」
へ、どういうこと? 意外な返答に驚く僕の方をY美はちらと見て、何も言わずにすぐにおば様へ向き直った。
「こいつは裸が基本だから、学校の制服以外のシャツとかズボンは捨ててもいいかなって私が訊いたらお母さん、構わないよ、どうせ必要ないからって言ったよね。だから私、チャコのシャツとかズボン、全部ゴミの日に出したよ。チャコは学校に着て行く服以外はパンツしか残ってないんだよ」
「それにしても何か羽織る物ぐらいあるでしょ。白いパンツだって」
今度はおば様の歯切れが悪くなった。
「急いでるの、私たち。そんなの出してる暇ないもん。夜だし、どうせ人に見られたって騒ぎになんか、ならないよ。また後で。帰ったら説明するから」
そう言い捨てると、「ちょっと待ちなさい」と引き止めるおば様を無視して、自転車を滑らせた。ぐいぐいと速度を増して行く。後ろを振り返ると、おば様の黒い影がいつまでも路上にぽつんと残っていた。
一刻も早く、という僕の思いがY美にも通じたのか、町全体が巨大なビニールハウスの中にあるような暑苦しい空気を引き裂いて、自転車はかなりの速度で夜の住宅街を走った。全くの裸でいる僕に気づかない通行人も珍しくなかったし、気づいても、歩いている時みたいにじろじろ見られたり、からかわれたりすることはなく、あっという間に通り過ぎた。
街道に出ると、脇を車が追い越してゆく。わざと減速して執拗に荷台の僕を上向きに切り替えたライトで舐めるように照らす一台があった。やがて自転車と並走すると、遊び人風の若者たちが冷やかしの言葉を浴びせてきた。Y美は黙ってハンドルの向きを変え、車が通れないあぜ道に入った。
上り坂の途中でついにY美は自転車を押すことにした。僕も自転車から降りて、小石が散らばってザラザラする舗装路に素足をつける。山を越える近道を選んだのだけれど、傾斜は想像以上だった。
後押しする僕は両手を荷台に付けていた。Y美が自転車を押しながら振り返った。隠しようのないおちんちんを見て、フンと鼻を鳴らす。「おちんちんの揺れ方がまだ甘いよ。もっとぷるんぷるん揺れるくらい力を入れて押しなよ」
これでも精一杯力を出しているつもりなのに、街灯の淡い光に浮かぶおちんちんの揺れ方だけで押しが弱いと判断されるのは、不本意だった。僕はわざと内股気味に歩くことにした。そうすることでおちんちんが太腿にぶつかり、揺れの幅が大きくなる。
「さっきお前の服、捨てたって言ったよね」
せっせと自転車を押しながら、Y美が言った。後押しする僕の返事が遅いので、こちらを振り返る。さっきよりもぷるんぷるんと揺れているおちんちんを見て、Y美は満足したように微笑んだ。
「あれ、お母さんのせいだよ。私と言い争いになって、お母さんとうとう泣き出して、私たち仲直りしなくちゃいけなくなったんだよ」と、続けた。
「お前の服を処分するって私が言ったら、お母さんはなんかホッとしたような顔して、口ではひどいじゃないのとか言うんだけど、落ち着きを取り戻したの。最近、お母さんの気分が不安定になってヒステリックになることが多いんだけど、お前を苛める話をすると、なんか安定してくるみたいなのよ」
「なんでなのかな」
「分かんない。お前のことが嫌いなのかもね。うちのお母さん、男が嫌いなんだよ、基本的に。ま、服を処分したってパンツとか、最低限のものはあるから安心しな。どっちにしろ当分お前は裸で、せいぜいパンツ一枚穿けるくらいだけどね」
やっと上り坂の頂上に着くと、Y美が自転車に乗ったので、僕も荷台にお尻を着けた。上りと違って下り方向は街灯がなく、坂を下りきった先にかろうじて一つ、見えるきりだった。この濃い闇の空間を切り裂くには、自転車のライトはあまりに照射距離が短く、心もとなく感じられるのだけれど、Y美はまるで恐れる風もなく、自転車を走らせた。
急斜面を下る自転車はぐんぐん速度を増した。この速度で転倒でもしたら、肌を覆う何物もない裸の僕は深い傷を負ってしまうだろう。古い舗装路で揺れも激しい。闇の中にどんな穴ぼこがあるか知れたものではない。死んでしまうかもしれない。
死んでしまう。不意にそんな考えが体に染み付き、寒気がした。
サドルの下の横棒をつかむ手に力を込めて、Y美の背中に隠れるようにして身を竦めていると、Y美の背中からくぐもった声が聞こえた。アーと声を出している。小さく遠慮がちだった声は次第に大きくなり、ついには吠えるような叫びになった。胸の底にわだかまっていた不満、ストレスを解き放つかのような、野太い叫びだった。坂を下り終えて、平坦な道に入ってからも、しばらくその声は続いた。
雑木林の入口は、さっきおば様がメライちゃんを降ろした時と同じく、全く人の気配がなかった。まばらな林の向こう側に戸建の家が幾つか並んでいるのが見える。住民たちはもう寝静まっているようで、どの家も一様に暗かった。街灯がなければそこに家が並んで存在していることにすら、気づかなかっただろう。自転車から降りて、早速メライちゃんを探しに行こうと逸る僕をY美が呼び止めた。
ポシェットからメライちゃんのスクール水着を取り出して、投げてよこす。
「それ着て、探しな」
地面に落ちたスクール水着を拾った僕にY美が言った。メライちゃんの肌に密着していた布、メライちゃんの匂いが染みついた水着だった。
こんな状況でなければ、僕自身相変わらず一糸まとわぬ恥ずかしい格好のままだから、喜んで着たと思う。それに女子の水着を着ることに何か秘密の喜びめいた感情が湧かないと言えば嘘になる。こんな状況でなければ、の話だ。いくらY美の命令でも、全裸でこの暗い雑木林のどこかに身を潜ませているメライちゃんを想像すると、とてもこれを着ようという気持ちにはなれなかった。
やめときます、と僕がきっぱり断ると、Y美は「何それ」と呟いて目を伏せた。
「お前さあ、素っ裸がいやだっていつも言ってたろ。何か着る物寄こせって要求するから、水着を出してやったんじゃん」
「でも、これ、メライちゃんのだし」
「いいから着ろってんだよ、早く」
クヌギの木の周りは奥から斜めに挿し込む月の光で、そこだけが白く、濃縮された明るさを醸し出していた。そこへ突然、Y美の青白い顔が浮かんだ。薄い唇はしっかり閉じられていて、頑なな意志そのものだった。目がすっと線を引いたように細くなり、こめかみに向かって端が吊り上がっている。まずい。僕は緊張のあまり生唾を飲み込んだ。雑木林の遊歩道脇に自転車を置いたY美が大股でこちらに向かっている。来る、と思った瞬間、Y美の長い脚が半円を描いて僕の脇腹に入った。
舗装路から外れて、剥き出しの土の上に転ばされた僕は、さらにサンダルで背中を踏まれた。お尻に強烈な蹴りが入り、おちんちんの袋にも足先が当たって、僕は悲鳴を上げた。悲鳴を上げて幾分かは激痛が和らぐことを期待するのだけれど、内臓から頭の先へ伝わる痙攣に似た振動に声すらまともに上げられない。大量の涎が口の端から頬へ伝った。髪の毛を掴まれ、強引に立たされる。
「ねえ、その反抗的な態度はなんなの?」
「ごめんなさい、許して」焼けつくような全身の痛みに早くも降参するのだけれど、一度怒りモードに入ったY美は、そう簡単には収まらない。「お前に拒否する権利があると思ってんの?」今度はY美の膝が鳩尾に入った。
呻き声を漏らして僕は地面に倒れた。呼吸ができず、悶絶する僕の背中や足をY美が執拗に蹴り続ける。ようやく息ができるようになった僕はゼイゼイ喘ぎながら、土下座の姿勢を取り、「申し訳ございませんでした」と詫びて、額を地面に押し付けた。
「立ちなさい。土下座しろって誰が言ったの」
もう言いなりになる以外に考えることができなくなってしまった僕は、脛にめり込んだ砂の粒を払うことなく素直に立ち上がった。涙がこぼれ、嗚咽をどうしても抑えることができない。もう一度、「申し訳ございませんでした」と言って頭を下げる。
「もういいから、早く水着、着ろ」
バシンと僕の頭を平手で叩いて、Y美が命じる。僕は片手で縮み上がったおちんちんの袋を労わりながら、足元のスクール水着を手に取った。そして、つくづく思うのだった、力では絶対にY美に敵わない、と。
夏休みに入る少し前、僕がY美の家で暮らしていることを知ったクラスメイトの一人は、僕が帰宅したらパンツ一枚の格好にならなければならないと聞いて、「嘘だろ」と馬鹿にして笑った。居候の身分であることを僕に片時も忘れさせないためにパンツ一丁の裸でいてもらうのよ、とおば様が笑いながら説明してくれたことを伝えても、クラスメイトの彼は納得しなかった。
あり得ない、そんなルール、普通は守らないよ、と彼は言い、僕に侮蔑の眼差しを送った。いくらY美の背が高くとも所詮女だから男が本気でかかれば造作もない、と彼は断言するのだった。身長差が二十五センチ以上あっても、僕は男の子だから力では勝るはずだ、とそのクラスメイトは自信なさげな僕を励ました。
本当にその通りだとしたら、どんなに良いことか。でも残念ながら、現実は違う。以前に一度だけ、Y美と正面から向き合い、お互いの手と手を合わせて力比べを試みたことがあったけれど、Y美に「何それ。本気で力出してるつもりなんだ」と呆れられた。片足が伸びてきて、唯一身に着けることを許されていた僕の白いブリーフのパンツのゴムに爪先を引っ掛ける。腰を引き、くねらせてパンツを押さえようとするものの、あっけなく引きずり下ろされ、足首からパンツを抜き取られた。
床のパンツを足で掴んだY美は、そのまま遠くへ放ると、すぐに僕と合わせた手に力を入れた。丸出しにされたおちんちんが小さく縮こまっているのを見て、Y美が「恐がってないで本気出してよ」と、無邪気な顔をしてせがんだ。僕は渾身の力を振り絞ってみた。無駄だった。簡単にねじ伏せられた。今と同じようにY美は服を着ていて僕は全裸だったから、無防備なおちんちんに足が入るのではと恐れるあまり、集中できなかったということは、ある。
ともあれ、Y美の力は圧倒的だった。抵抗を試みても全く無駄で、男の子だから勝てるというのは、現実を知らない子供の根拠のない思い込みに過ぎない。
スクール水着に足を入れ、引っ張り上げるのに結構な力が必要だった。同じ背格好という理由でマジックショーの助手に選ばれたメライちゃんと僕だから、メライちゃんのスクール水着は僕の体にも合う筈だった。それがこんなに窮屈に、体を締め付けるかのように感じられるということは、メライちゃんもまたこの拘束された感じをいつも味わっているのだろう。Y美は体つきが如実に浮かび上がるように、一回り小さなサイズの水着をメライちゃんに渡したのだった。
ストラップを肩にかけて、前の腰のところにあるスカートみたいな部分を引っ張る。スカートにしては丈が極端に短くて、結局ビキニパンツと同じくらい股下を露出してしまっている。メライちゃんが自分の持っているタイプはもっと股下が隠れる、これは嫌いなタイプの水着だと言っていたのを思い出す。このスカートみたいなところの内側が水抜きになっているのだった。
背中はメライちゃんが着ていた時にはそれほど広く露出しているようには見えなかったけれど、実際に着てみると、背中の三分の一以上は外の空気に直接触れているように感じられた。
どうしても股間のところがくっきりと隆起してしまう。切れ込みの横から手を差し入れて、おちんちんの向きを変える。おちんちんを股間に挟むようにしたのだけれど、おちんちんの袋までは収まらず、どうしても左右に二つの膨らみがポコッと出来てしまう。
似合ってる似合ってる、とY美がメライちゃんのスクール水着を着た僕を上から下まで長め、満足そうに目を細めた。しかしすぐに何か気に入らない点を認めたのか、僕を呼び寄せると、腰を屈め、僕の足の付け根の部分の水着を引っ張り、手を差し入れた。ウッと声を出してしまった僕に「感じてんじゃねえよ」と小さく笑う。生温かい手が股間の奥に収めたおちんちんを引っ張り出し、水着の中のおちんちんの向きを変えさせた。
「こうした方がくっきりと形が出て、面白いんだよ」
おちんちんを上向きにすると、Y美は満足そうに頷いた。おちんちんの裏側が水着の生地にすれる。Y美は「こうすると、もっと目立つかも」と、水着の上からおちんちんに指を押し当て、軽く力を込めてさすった。
喘ぎながら、「やめてください、お願いだから」と体をくねらせる。Y美に腰をしっかり両手で押さえ込まれているので、逃れられない。結局僕は、おちんちんが半分硬くなった状態でメライちゃんを探すことになった。
メライちゃんどこにいるの、と呼びかけながら、雑木林の中の板を並べた遊歩道を歩いた。藪やケヤキの大木があれば立ち止まって何度も声を掛けた。葉や木の枝を踏む音がしたような気がして、遊歩道の歩きやすい板の上から土や石のごろごろする地面に下りる。柔らかい土を踏みながら藪の裏側に回り、メライちゃんどこ、と声を掛けると、頭上で鴉のような鳥の影がバサバサと乾いた音を立てて、別の木へ移った。
カタカタと遊歩道の板を踏む音がした。小走りでこちらに来る影はY美だった。僕と反対の方向を探してきたらしいが、やはり見つからないと言う。さすがに少し心配になったか、暗く静まり返った雑木林を息も荒く見回している。
だるま池と書かれた、今にも崩れそうな木の看板があり、斜面の先に樹木の間から洩れる月の光で白く濁ったような水面が見えた。Y美がメライちゃんの水着を脱がして、落としたというのは、この場所だった。遊歩道の幅が広くて、ベンチが据えられていた。ここで道が二つに分岐し、左の方向はだるま池に沿って雑木林から住宅地に抜ける。右方向は木々の枝が差し交わして醸す闇を抜けてだるま池へ出て、向こうの小高い山の中に入ってゆく。僕は左方向へ進んだ。ここからは板を並べた遊歩道は終わり、土の道になる。
月の光に照らされた池のキラキラした水面を右手に見ながら、緩やかな登り道を進む。「メライちゃんどこ」という呼びかけに応じる気配はないか、全身の神経を集中させる。蘆の群落がある岸べの手前で僕は足を止めた。鬱蒼と茂る丈高い草が風に揺れて、掠れた声のような音を立てた。メライちゃん、と僕はもう一度呼んだ。
聞き取れないほどの小さな声が笹の生い茂る斜面の方から聞こえた。「メライちゃん?」、呼びながら僕はかろうじて人が一人通れるほどの狭い、左右を笹に覆われた道を下ると、草のまばらに生えた平たい空間に出た。大きなクヌギの木の裏側にうずまっている人影を認めた僕は、「お願いだから、来ないで」としゃくりあげながら訴える女の子の声を聞いた。メライちゃんだった。そこだけ木のない平地だから、月の光が煮詰まったように明るく漂っている。その中にあって、メライちゃんの黒い姿は異様だった。
「駄目、来ないでって言ってるでしょ」
強い拒絶。それでも僕はすぐに立ち止まることができなかった。その体が黒く見えたのは、全身が泥に覆われているからだった。すぐ目の前に、クヌギの木に体を預けるようにして、メライちゃんがしゃがみ込んでいる。地面にお尻をつけ、両足を抱えたその姿勢からは、胸も股間も全く見ることができない。でも、それは僕が初めて見るメライちゃんの全裸姿だった。首筋から背中にかけて、湿地帯の泥がべったり付着している。
裸体の側面は薄い泥の下から点々と磁器のような肌の白さが浮かび上がっていた。胸に密着させた太腿から足先にかけては、泥の盛り上がったところとそうでもないところがあった。僕は胸の高鳴るままにゆっくりと近づいた。
「馬鹿、それ以上近づかないで」
「あ、ごめん。メライちゃん大丈夫なの?」
怒気を含んだメライちゃんの声にハッと目覚めたかのように僕は足を止めた。
「大丈夫じゃないわよ。私、裸なんだからね。水着、返してよ」
突然、堰を切ったようにメライちゃんが泣き始めた。小さな子供のように泣きじゃくる。夜中の雑木林の中に一人全裸でいたのだから、その不安は相当なものだったろう。
泣いて、体が小刻みに揺れ、泥にまみれたメライちゃんの一糸まとわぬ肌が少しずつ白さを取り戻すように見える。明るく射し込む月の光に気づいて、メライちゃんは枝が重なって暗くなっているところへ、しゃがみ込んだまま体を移動させた。
なぜメライちゃんは全身泥まみれなのか。Y美に蹴られて池に落ちたという話は聞いたけれど、それにしても全身が泥でぬるぬるしているのは、尋常ではない。よほど深くて広い沼地だったのかと問うと、まだ泣きやまないメライちゃんは首を横に振った。
「私ね、Y美さんに落とされて泥だらけになった時、ナオス君のこと思い出したの」
しゃくりあげながら、メライちゃんが言った。
「え、僕のこと?」
「そうよ。泥まみれになったことがあるでしょ」
裸のまま泥まみれになったことは、何度かある。メライちゃんが言ってるのは、僕がルコの別荘に宿泊させられた時のことだった。その前の日から素っ裸の状態を強いられていた僕は、その格好のまま朝の散歩に連れて行かれた。途中、崖から落ちて湿地帯にはまり、丁度今のメライちゃんみたいに全身泥まみれになった。通りがかった人たちは泥に覆われた僕の体を見て、素っ裸とはなかなか気づかなかった。
「やだな、なんでそんな話、知ってるの?」
「Yさんが教えてくれたの」
性的に苛められた屈辱的な僕の体験は、メライちゃんに知られたくない。けれど、Y美は僕の知らないところで結構メライちゃんに話しているのかもしれない。
「そうか、思い出したんだね」
「うん」と、メライちゃんが頷いて、鼻を啜った。
泥を全身に塗れば裸であることを誤魔化せるかもしれない、朝の散歩でも気づかれなかったいう話が事実ならば、夜なら尚更成功の確率が高いと考え、意を決して沼の深いところへ足を運んだ。わざと寝転び、全身くまなく泥を塗りたくった。
話しているうちに、気分も落ち着いてきたようだった。メライちゃんは腕をさすり、肩のところにかたまっている泥を肘に向かって広げた。
「でも、それよりナオス君」
涙を拭いたために目の下から頬にかけて泥の付着したメライちゃんが僕を睨みつけて、言った。「誰の水着、着てんのよ」
「あ、ごめんね。ちょっと事情があって」
カッと羞恥で体が熱くなり、急いで股間に手を当てる。ただでさえ窮屈な水着の中で、さっきまで半立ちだったおちんちんが最大限にまで大きくなっていた。下半身の膨らみに引っ張られて、首回りのところが緩くなった感じだ。
「おちんちん大きくさせて、何やってんのよ。ほんとに変態だよね、ナオス君て」
クヌギから少し離れたところにいる僕は、月の光をもろに浴びて、暗がりにいるメライちゃんからしっかり見えているようだった。一糸まとわぬメライちゃんを見た僕の興奮はビンビンと続いていて、下手に動くと水着に擦れて、それだけで喘いでしまいそうになる。変態と言われても、返す言葉がなかった。
好んでメライちゃんのスクール水着に足を通した訳ではない。Y美さんに強制されて仕方なく、と絶え絶えに言い訳する僕を途中で制して、メライちゃんはすっと立ち上がった。手でしっかり胸、股間を覆い、クヌギの裏側へいつでも回れるように、踵を上げた片方の足を少しだけ前に出し、膝を軽く曲げる。
「水着返してもらえるんなら、体、きれいにしなくちゃ」
そう言うと、メライちゃんは向きを変え、歩き出した。左右に笹の葉が群がって茂る細い道に入り、池に向かって進む。僕がここへ来る時に使った道だった。先は真っ暗だけれど、池沿いの遊歩道にまもなく当たる。
そのすぐ後ろから間合いを詰めた僕は、無防備なメライちゃんの背中を見て、思わず息を飲んだ。
泥を体じゅうに塗りたくれば裸であることを誤魔化せるというのは、とんでもない間違いだった。
確かにものすごく離れた位置からであれば、全裸かどうか見分けがつきにくいかもしれない。でも、こんな近くでは、たとえ夜でも、月の光さえあれば、その人がいかに素肌を泥で覆い隠そうとしたって、裸であることは、紛れもない。雑木林の暗がりに順応した僕の目には、はっきり見える。メライちゃんの背中から腰にかけて、刷毛でサッと掃いたように薄く泥が塗られ、素肌のきめ細かさをいっそう際立せていた。
視線をもう少し下へ移す。
小ぶりなお尻が夜の蒸れた空気の中でくっきりと形を浮かび上がらせる。幾分か層を厚くした泥が歩くにつれてヌルヌルと動いて太腿の方へ移動し、足元へ落ちてゆく。お尻の割れ目の奥には泥の酷く薄いところがあって、そこから白い肌が異様に輝いて見えた。メライちゃんが足を前へ出す度にプルンと弾ける丸みを帯びた肉の塊は、いかにも健康的であり、その引き締まった肉の下では、官能に目覚めつつある生命力が顫動し、内部に光源があるかのように輝いていた。
遊歩道の分岐点に来ると、メライちゃんは休むことなく右方向、池の上を通る遊歩道へ進んだ。お尻だけではなく、後ろから見る限り、メライちゃんの肉体は月の光を浴びて、衣類から解放された喜びに浸っているようにすら感じられた。
いくら泥まみれになっても裸でいることは隠せない。僕が泥まみれで歩かされた時、全裸だと気づかれなかったのは、たまたまに過ぎなかった。メライちゃんの一糸まとわぬ後ろ姿に目を奪われ、僕は溜まった生唾を飲み込むことすら忘れていた。
遊歩道はさっき隠れていた場所よりも人と遭遇する確率が高いにもかかわらず、メライちゃんときたら手を下ろして、普通に服を着ている時のように歩くのだった。それでいながら特段ペースを上げる訳でもない。胸も股間も丸出しの状態なものだから、後ろをついて歩く僕の方がどぎまぎしてしまう。
いっそ追い抜いて正面からメライちゃんの全裸姿を拝ませてもらおうかという考えに捉われた時、メライちゃんが立ち止まった。気付くのが遅れ、メライちゃんの裸の背中に自分の胸をぶつけてしまう。膨らんだおちんちんが水着を通してメライちゃんのお尻に当たった。
キャッと小さく悲鳴を上げてメライちゃんは飛び退くと、こちらを向いた。両手でしっかり胸と股間を覆っている。
「私の水着、早く脱いでよ」
首から下はほぼ全身にわたって泥が塗られている。ところどころ白い肌の露わな部分もあり、ちょうどお臍の横は左右ともに泥が剥げ落ちていた。胸も股間もしっかり腕で覆われていたけれど、何か性的なだけではない、もっと人生とか自然について考えさせられるような美しさがあって、生まれて初めて正面から見るメライちゃんの全裸姿に僕は釘付けだった。
さっきのクヌギの木の横でした時のように、片足を少し前へ出して膝を軽く曲げ、手だけでなく足でも股間を隠している。その分、お尻の側の可愛らしい肉が僕の方へ向く。
「何で私の水着着てるの? Y美さんの命令?」
薄い眉毛の上できれいに切り揃えられた前髪が、涙の粒でも付着したのか、キラキラと輝いた。メライちゃんの大きな目からは、怒っているような、全裸に見とれる僕を軽蔑するような、そんなに見つめないでほしいと訴えるような、いろんな感情が次々と現れた。全く夢のようだった。遊歩道のすぐ下では、池が空中から厚い層を成して降りてくる月の光をそのまま返して、遮る物のない穏やかな表面をのっぺりと伸ばしていた。
「ごめんね。今、脱ぐから」
ストラップを肩から外し、窮屈な水着を体から垂直に引っ張るようにして下ろしてゆく。最大限に硬くなった状態で下腹部に密着するおちんちんの裏側が水着に擦れて、性的な快感をいやが上にも高めるとともに、水着の裏側が敏感な亀頭にも当たって、ひりひりする痛みのようなものを走らせる。
喘ぎながら水着を足首から抜き取った僕は、それをメライちゃんの指示するまま、遊歩道の池に面した側の柵に掛けた。
今、メライちゃんと僕はお互い素っ裸のまま向き合っている。遊歩道の羽目板が軋んだ。メライちゃんが両手両足を使ってなるべく裸を見せないようにしているのと同じ理由で、僕も両手で硬くなったままのおちんちんを隠した。
時間にすると三秒にも満たなかっただろう。でも、僕にとっては永久に刻まれた至福だった。
突然、回れ右して池を正面に見据えたメライちゃんは、片足を柵にかけて跨いだ。「泥、落とさなくちゃ」とだけメライちゃんは呟いて、池の水面を足先で軽く突いてから、ずぶずぶと池に体を入れたのだった。柵から身を乗り出して呼び止める僕に、「泥だられで水着、着たくないもん。泥、落とすだけだよ」と返した。
水深はメライちゃんの胸をすっぽり隠す程度だった。遊歩道の柵にもたれて見守る僕の視線を意識してか、メライちゃんは岸から離れたところに立って、髪の毛から水を滴らせている。肩をすっぽり沈めてから、水で濡れた肩を手で拭う。泥が落ちて、ほのかに白い肌が水に反射する月の光に包まれている。メライちゃんの手は首回りから胸、背中などをこすり、泥を拭い落した。
水面の中でもしきりに手を動かしているのだろう。メライちゃんは両手を水の中に入れたまま、体を捻ったり、背筋を反らしたりするのだった。
「ナオス君もおいでよ。気持ちいいよ」と、胸を水面下に隠したまま、手招きする。
突然足を取られたり、深くなったりするかもしれない、危険ではないか、と普段だったら考えたと思う。でも、判断力が麻痺していたから、全裸のメライちゃんが手招きの後にすぐに背中を向けて、飛び込むようにして池の奥へ泳ぎ出した時、メライちゃんのすっかり泥を落とした白いお尻が水面から現われ、すぐに大きな水音とともに煙幕のように立ち上がった水しぶきの向こうに消えた時、僕は遊歩道の柵を跨ぎ越して、池の中へ全くなんのためらいもなく、入った。
昼間の太陽に熱せられた池の水面近くの水は夜になってもぬるま湯のようだったけれど、腰から下の水はびっくりするほど冷たかった。池の底は沼だった。ヌルッとして踝あたりまで沈んだ。僕は平泳ぎを開始し、奥の方を悠然と泳ぐメライちゃんを追った。
体育の授業で水泳の時は初心者クラスに入っていたメライちゃんだったけれど、実に伸びやかに四肢を動かして、気持ちよさそうに泳ぐのだった。確かに全身の肌を水着などを介することなく、直接に水に浸して泳ぐのは、皮膚の細胞レベルで感受できる圧倒的な解放感だった。水の中でおちんちんがゆらゆらそよぎ、性的な快感とは違う意味で心地よく感じられる。
追いついてすぐ横を平泳ぎする僕を見て、メライちゃんは「もうここまで来たんだ、早い」と目を丸くした。
運動は苦手だけれど、小さい頃に習っていたから、水泳だけは他の同学年と比べてそれほど劣っていない自信があった。でも、速く泳ぐのは苦手だった。それよりも長い距離をのんびり泳ぐ方が僕の体質に合っていた。それでも、メライちゃんにしてみれば、結構な速さに感じられたのだろう。僕はメライちゃんを驚かせたことで俄然嬉しくなって、気分が高揚していたこともあり、調子に乗って更に速度を上げてみせた。
「あ、待ってよ。ナオス君」
後ろからメライちゃんが大きな水音を立てて、叫んだ。僕は泳ぐのをやめて、向きを変えると、平泳ぎと犬かきの中間のような泳ぎ方をするメライちゃんがこちらに来るのを迎えた。
あれ、深くなってる、と思って、改めて水深を確かめる。池は、爪先立ちしてなんとか顔を水面から出せるくらいの深さになっていた。しかも底は柔らかい泥なものだから、体重を乗せると、少しだけ足が沈む。足が泥にはまると、口や鼻を水面から出しづらくなる。これ以上先へ進まない方が良さそうだった。死んでしまうかもしれない。でも、メライちゃんと一緒なら死んでもいいかな、という考えがチラと胸を掠めた。
しばらくメライちゃんと僕は寄り添うようにして夜の池を泳いだ。お互い素っ裸だったもかかわらず、メライちゃんは僕が彼女のすぐ近くで、それこそ体が触れ合うほどの近くで泳ぐことを許してくれた。
裸で泳ぐ解放感と背徳の喜びめいたものがごちゃ混ぜになって、いつになく無邪気になった。メライちゃんと僕ははしゃぎ、互いに水を掛け合ったり、潜ったりして遊んだ。メライちゃんよりも泳ぎが達者な僕は、ふざけて何度もメライちゃんの股をくぐった。メライちゃんが恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに「やめてよ」と声を上げるのが楽しくて仕方なかった。
とうとうメライちゃんの太腿で脇腹を挟まれた時は、なかなか水面に上がれず、呼吸が苦しくなった。もがいてなんとか抜け出した時は、手がメライちゃんの股間から乳房のあたりをすっと撫でてしまった。メライちゃんが官能的な声を上げていやがり、身を捩じると、僕の硬くなったおちんちんがメライちゃんの背中を滑った。
ぼんやりと滲むように池の水面に反射する月の光が広がる中、メライちゃんの膨らみつつある乳房が水面をパシャパシャと打ったり、すっかり泥の落ちた丸くて白いお尻が浮いたり沈んだりしているのを見るともなく見ているうちに、僕の欲望はとても高まってきて、次第に抑えるのが難しくなってしまった。
水中の草におちんちんやおちんちんの袋を撫でられるだけで、射精してしまいそうになる。水中の草がいっぱい生えているところでは、メライちゃんが手足に付着した水草を丁寧に取り払っていたけれど、おちんちんに絡み付いた草は、刺激を受けることなく取るのが困難だった。
池の中では岸から離れていても浅いところがあった。そこでは腹這いになって進む。柔らかいヌルヌルした泥がおちんちんにまた程良い性的な刺激を与え、僕の今の欲望をさらに高じさせるのだった。
頭がより強い刺激を求めて、しっかりした判断ができない。とにかく僕はずっとメライちゃんのことが好きで、Y美たちの苛めでどんな恥ずかしい目に遭わされても、それだけでメライちゃんへの切ない思いを断ち切ることなど到底できやしないのだから、二人だけでお互い全裸のまま夜の池で遊んでいる今の状況以上に二人の仲を進展させる好機はもう二度とあり得ないと考えるのは、とても自然なことだった。実際僕は、この機会を逃すほどに聖人でもなければ愚かでもなかった。
おちんちんが水中でメライちゃんの背中に当たった時、思わず喘いでしまった僕は、そのまま背後からメライちゃんを抱き締めた。前へ回した腕に力を込める。メライちゃんの乳房を下から持ち上げるようにして隆起させると、乳首を撫でようとして指を這わせた。ショートカットの黒髪が僕の目の前で揺れていた。僕はメライちゃんの耳たぶに向かって荒い息を吐き、「お願い、大好きだから」と囁いていた。
ついに乳首を探し当てた。ツンと尖ったそれを押し込む。いや、とメライちゃんが喘ぎ、体を揺すった。
マジックの練習で隠し箱に二人が閉じ込められてしまったことがあった。箱の中でメライちゃんは水着を脱がされ、二人は全裸で体を密着させたのだった。あの時は僕が前でメライちゃんは後ろだった。この位置関係は狭い箱の中では変えることができなかった。かてて加えて、回転扉におちんちんを挟んでしまった僕は動くに動けない状態だった。
今は背中ではなく、おちんちんのある体の前面でメライちゃんの裸体を感じている。ずっと硬化したままのおちんちんは、メライちゃんの股の下にある。下腹部にぴったりくっつくところをメライちゃんの体が上から押さえつけている状態だった。
これまで僕のおちんちんを見た女の人たちが何度も口にしてきたように、全然大きくないから、おちんちんを跨ぐ格好のメライちゃんをそのまま支えるには、しっかり体を合わせなくてはならなかった。メライちゃんのお尻を無理矢理広げるようにして、僕の下腹部を割り込ませる。
水の中で、おちんちんに股間を乗せたメライちゃんの裸身が上下に揺れ、ピチャピチャと音を立てる。池の水面を打つ音なのに、僕にはそれがメライちゃんの体の内奥にある粘膜を掻き回す音にしか聞こえず、悩ましく体をくねらせるメライちゃんの柔らかい肌を堪能するかのように、乳房、脇腹、お臍の回り、首から肩を撫で回し、時には衝動的に力を込めた。
むずがっていたメライちゃんもあまり余計な動きはしないようになった。大人しく、股間におちんちんを挟んだまま、水にぷかぷか浮いている。水を弾き返す肌が夜目にもピンク色に染まって見える。首から耳の裏側にかけて唇を這わせると、メライちゃんの口から切なく喘ぐ声が洩れた。
抱きかかえたメライちゃんのほんのりと熱を帯びた体を持ち上げる。押さえつけられていたおちんちんがぴょんと跳ねて、斜め上方を向いた。もちろんビンビンに硬くなったままだ。切なさと愛しさと欲望が一挙に胸を溢れて、息苦しくなる。僕の熱い切れ切れの呼吸はメライちゃんにも伝染したようだった。二人して無言のまま切羽詰ったような呼吸を繰り返している。
このままメライちゃんの柔らかくて温かい裸身を下ろせば、メライちゃんの女性である部分におちんちんが直に当たる。いや、当たるだけではない、ひっょとすると岩戸をこじ開けて、中に入ってしまうかもしれない。これって、つまりあの行為のことだろうか。これまで経験したことのない領域へ突入しようとしていることで、僕もまた味わったことのない興奮に包まれた。
黙って、ただ熱っぽい息を吐くメライちゃんは、背後から抱き締める僕に全身を委ねて、首を反らした。目が潤んでとろんとしている。持ち上げた裸身が僕の腕から抜けて、下りてくる。メライちゃんの口から動物めいた呻き声がこぼれた。僕も歓喜の声を上げてしまった。上向きだったおちんちんは、メライちゃんの肉の襞に弾かれてお尻の側へ移動すると、すっぽりとお尻の割れ目に嵌った。そこもすべすべして、滑らかにおちんちんがスライドする。
切なげに喘ぐメライちゃんの乳房へ後ろから手を回して掴むと、さっきよりも硬くなっていて、感度が増しているようだった。乳首を挟んだ指と指の間を狭めると、アアンという甘えたような声。僕は射精しそうになるのを我慢して、メライちゃんの体からいったんおちんちんを離した。
もうとっくに自分をモニタリングする機能は麻痺して、自制心が性欲の熱で蒸発したことにも気づいていなかった。
後ろからメライちゃんを抱えるようにして、池の中をお臍が水面からやっと出る程度の深さのところまで移動すると、メライちゃんの腰を掴み、お尻を前へ突き出す姿勢を取らせる。メライちゃんの艶々した口がぎりぎり沈まない位置まで腰を曲げさせる。
腰を揺さぶって、刺激を待ち構えるメライちゃんの背中は、白い魚のようにピチピチとうねった。メライちゃん感じてるんだ、と思うと、僕はお尻の柔らかい肉を掴み、おちんちんを突き立てた。
バランスを崩して、メライちゃんは池の中に顔を沈めてしまった。すぐに顔を出すと、口から水を吐き出して、目を細め、細い眉根に力を込めて、切なそうな横顔を後ろの僕に向けた。そして、もっと強い刺激を求めるかのように喘ぐ。
最大限に大きく硬くなったおちんちんは、これまで散々口さがない女の人たちに「小さい」と馬鹿にされてきただけあって、どうせ大した長さはないのだけれど、それでもメライちゃんの股間の襞の中に捩り込むくらいはできるような気がして、果敢に試みる。しかし何度やっても、おちんちんは襞をうまく突くことができず、すっぽり股間を抜けてしまうのだった。
水の中であること、そして背後から立ったままという体位は、初めての僕にはハードルが高すぎたのも知れない。だんだん焦りが生じてくる。おちんちんを突いて挿入を試みる度にメライちゃんは顔を池の中に入れてしまった。口から池の水をぽたぽた滴らせて、満たされぬ欲望の重さに喘ぐ。メライちゃんの小刻みに動く肢体がおねだりをする。早く、早く。駄目だ、またしてもおちんちんはむなしくメライちゃんの股間をすり抜けた。おちんちんの根元がメライちゃんの襞にぶつかった。
抵抗せず、それどころか自ら股を開いて、入れやすいように自分の顔が水の中に浸かってしまうのも厭わず、腰を背後にいる僕へ突き出していたのに、そして切なく震えるようなか細い声を絞って、お尻と腰をくねくねさせて、たまたま感じてしまった刺激から萌した、もっと強い刺激への欲望が満たされることを求めていたのに、どうしたことか、突然メライちゃんは夢から覚めた人のように抵抗を始めた。
「いや、やめて」
メライちゃんの首筋に唇を付ける僕に、鋭く叫んだ。
「ほんとにやめて、ねえ、ナオス君、やめてったらやめて」
後ろから腰に腕を回して暴れるメライちゃんを抑え込もうとした僕は、頬に肘鉄を食らって、初めてメライちゃんが本気でいやがっていることを知った。同時に、態度急変の理由にも気づいた。樹木と見まがう影が動いたのだった。一気に下がる体温。池の上の遊歩道に白いワンピースを着た人がいる。
「助けて、ひどい」と、メライちゃんが泣きながら僕から離れ、遊歩道の人影に向かって泳ぎ出した。
「なんで池に入ってんのよ、あんたは」Y美の声だった。懐中電灯が池の水面を照らした。僕はあまりのことに動けなかった。懐中電灯の明かりを動き回しても、池は広く、僕の立っているところまでは届かない。でも、急に冷たく感じられる水に浸かる僕からは、遊歩道の様子がよく分かった。他にも懐中電灯を持った人影がY美のところに集まってきて、わざわざ僕に見せるかのように、自分たちを照らした。
風紀委員とミューがメライちゃんを池から引き上げた。欄干に掛けておいたメライちゃんのスクール水着をぶんぶん振り回している横幅の広い影は、エンコだった。そのすぐ横に立つ白いワンピースの人影は、これはN川さんだろう。無事にメライちゃんを見つけることができて、彼女たちは肩の荷を降ろしたようだった。
懐中電灯で至近距離から顔や体をあちこち照らされ、メライちゃんは手で胸と股間を必死に隠している。胸を隠しながら手を伸ばしても、エンコは無情にも水着を遠ざけてしまう。わざと水着を近づけて面白がるのだった。
女子たちに取り囲まれ、メライちゃんは執拗な質問攻めを受けた。答えに納得しないのか、Y美はメライちゃんの髪の毛を掴んで揺すった。
腕が胸から下がって、メライちゃんの白くてなだらかな胸の膨らみが懐中電灯の光に露わになった。
「チャコ、お前がそこにいんのは分かってんだからね。早く出て来なさいよ」
一通り話を聞いたらしいY美は、遊歩道の手すりを下腹部に食い込ませて身を乗り出し、池の闇に向かって叫んだ。「女の子に悪さして、ただで済むと思ってんの?」
すると、風紀委員とミューとエンコとN川さんもY美に倣って手すりに並び、諦めて早く戻るように呼びかける。僕にお仕置きをするのが楽しみでならないかのような声の調子に、膝を曲げて肩まで池の中に沈めた僕は、身じろぎもしなかった。ただじっと息を殺して、事態が変わるのを待つ。水底の沼に嵌った足がゆっくりと、だが確実に沈んでゆく。事態は永遠に変わらず、Y美たちにこれから酷い折檻を受けるだろう運命から逃れられないのを告げるかのようだった。
「あんたみたいに裸じゃないから、私たちが池の中まで追ってこないと思ってんだね」と、Y美が声のトーンを落として言った。声量をうんと控えても、池の水面を滑ってしっかり聞こえる。Y美の冷やかな、怒りを抑えに抑えた感情までも夜の空気を震わせて伝わってくる。「だからって、いつまでもそこにいられる訳ないよね」と、Y美は続けた。
「お前が池の中でじっと様子をうかがってるのは知ってんだよ。どうせ私たちのことは見えてるんだろ?」と、Y美は懐中電灯の明かりを自分たちの方に向けて回した。風紀委員とミューに挟まれたメライちゃんの白い裸体の上を光が通り過ぎ、その先にいるN川さんとエンコを照らす。
「愚図愚図してると、それだけ罰が重くなるだけだからね。お前、自分がしようとしたこと分かってるよね」
「なんたって強姦未遂だもんね」と風紀委員が合いの手を入れると、女子たちのくすくす笑う声が不気味に池の上に広がってきた。
観念して戻るしかないとは思ったけれど、体が動かない。メライちゃんが手のひら返しをしてY美に助けを求めたという事実を僕は咀嚼することができないのだった。心のショックが大きく、目から涙のとめどなくこぼれるのを如何ともし難かった。
業を煮やしたY美たちはメライちゃんを使いに寄こした。あやまたず一直線に僕のところへ平泳ぎで来たメライちゃんは、許されてスクール水着をまとっていた。裸のままだと僕がまた性行為に及ぼうとするかもしれないと考えて、Y美がエンコに水着を返すように命じたのだった。でも、仮に裸のままだったとしても、もう僕に欲情する余裕はなかっただろう。おちんちんが小さく縮んで、メライちゃんの不器用な泳ぎで押し寄せてきた水に嬲られている。
「ナオス君、諦めが肝心だよ」、これが池の中で固まる僕へ寄こしたメライちゃんの第一声だった。「早くY美さんたちのところへ戻ろうよ」
自分がもう裸ではないという安堵感に支えられているのか、きっぱりと自信に満ちた口調で説得を試みる。
「なんで返事をしないの? ナオス君」と、俯いたまま動かない僕の顔を覗き込んで、メライちゃんが言った。「泣いてるの?」
首を横に振る。メライちゃんは溜め息をついた。「ま、ナオス君だけじゃなくて私も悪いんだって、ミューさんが言ってたから」と、濡れて重たくなった髪を素早く指に巻いて、耳の上に乗せると、申し訳なさそうに呟いた。「だから、私も罰を受けさせられることになったの。一緒にお仕置きされちゃうけど、仕方ないよ。そう思わない?」
また首を振る僕を見て、メライちゃんは小さく微笑んだ。「でも、また機会があると思うんだよね、私たち」
また機会があるって、どういう意味だろう。かすかに明るい希望が萌すのを感じて顔を上げると、メライちゃんが恥ずかしそうに上目遣いで微笑みながら、僕に体を近づけた。小さめのスクール水着がメライちゃんの肉体を実際以上に発育したように見せている。水面に反射した月の光を浴びて、濡れた唇が妖しい色に変化する。
掠れた声だった。ね、またしよう、と僕の耳に聞こえた時、メライちゃんの水中の手がおちんちんをまさぐった。ふにゃふにゃの柔らかいおちんちんを指で挟むと、手の中に収めるようにして軽く握り、そっと扱き始めた。指先がおちんちんの袋を軽く突き、撫でる。もう片方の手でおちんちんの袋を揉むのだった。その指先がお尻の穴に当たり、僕の体をキュッと締める。まるで締まるタイミングを見計らったかのようにおちんちんを扱く手の往復運動が速度を増す。
うう、と喘いでしまった僕は再び頭の中がジンジンと痺れるのを感じて、気だるさに抗うかのように水底の脛まで沈んだ泥から足を引き上げた。メライちゃんが顔を寄せてくる。小ぶりな唇がかすかに開いて、粘膜を帯びたような息を吐いた。僕は何も考えていなかった。ただ自分の唇をそこに合わせて、吸いたいと感じただけだった。そう感じた時には体が動いていた。
かつてないほどメライちゃんの顔に自分の顔が接近した。軽く目を閉じる。
キスと言えば、これまで全ておば様に無理矢理させられ、あるいは一方的に押しつけられ、舌でまさぐられた記憶しかない。それが今、自分からキスをしようとしている。生まれて初めてのことだった。しかも相手はメライちゃんだ。
おちんちんを扱かれる痺れにうっとりしながら、できるだけ神経を唇に集中させ、ぐっと唇を前へ差し出した途端、そこに存在する筈のものがなくなっていることに気づいた。と同時に、おちんちんを扱いていたメライちゃんの手が別の動きを始めた。おちんちんを掴み、ビンビンに硬くなったおちんちんの動きを封じている。
おちんちんにロープの輪の嵌る感触があった。ああ、と思った時にはロープの輪はおちんちんの袋を越えて根元に届いていた。メライちゃんは水の中でロープをぐっと引いた。おちんちんの根元がロープで締め付けられる。
「オッケーです。引っ張ってください」
遊歩道にいるY美たちに向かってメライちゃんは片手を上げると、大きな声で叫んだ。
嘘でしょ、何これ。急いでおちんちんの根元からロープを外そうとする。
おちんちんの袋の裏側のところに金具があって、ここでロープの輪の大きさが調整できるのだ。Y美が「ちん輪」と呼ぶ、おちんちんに括りつけて引き回したり拘束したりする専用のロープだった。ちん輪は首輪のように首に嵌めるのではなく、おちんちんに嵌めて拘束するものだから、その屈辱度合いは首輪の比ではない。
留め具を外せば輪を大きくできる。でも、遅かった。ロープの先は遊歩道のY美たちが握っていて、メライちゃんの合図と同時に引き始めた。すごい力で引っ張られる一方だから、とてもローブの輪を緩めることなどできやしない。
後ろへバランスを崩した格好だった。足は水底から離れて水中をむなしく掻き、上半身は仰向けのまま、水の中に沈む。腹筋に力を入れないと、顔を水から出せない。
鼻や口に容赦なく水が入ってくる。必死に顔を水から出して、おちんちんを締め付けられる痛みに呻きながら、「なんで」と声を上げる。「お願いだから、やめて、助けて」と口に入った水を吐いて訴える。
池の中を僕と平行して歩くメライちゃんは澄まし顔だった。
「ごめんね。でも仕方ないじゃん。こうでもしないとナオス君、来てくれないでしょ」
ちん輪でおちんちんを締め付けられる痛みから逃れるには、僕自らロープを引く方向に動いて、輪を緩めるしかない。でも、Y美たちは遊歩道という池の水面よりも高い位置からロープを引いているのだから、どうしても僕の腰が上がってしまい、自分から動くことなど到底叶わない。まさしく引っ張られるままだった。恥ずかしい。ロープを掛けられたおちんちんだけが水中から常時出ている。
「すごい。こんな風に引っ張られても、まだおちんちん大きくなったままだよ」
呆れたような顔をしてメライちゃんが下腹部へ反り返ったおちんちんを指で弾いた。「もしかして気持ちいいの? これからお仕置き受けるのにさ」
違う、と叫ぼうとして口に水が入ってしまい、むせる。「やだ。図星だからって慌てなくていいよ」と、メライちゃんが笑った。
腹筋に力が入らなくなった。水面を通してN川さんの白いワンピースが光って見えた。遊歩道のすぐ近くまで来たのだから、もうロープを引く必要はないのに、Y美たちは手をとめなかった。
やめて、痛い、と泣き喚く僕を無視して、Y美たちは魚釣りでも楽しむかのように、キャッキャッと騒ぎながらロープを引っ張った。
「ミューだけでなく荒山たちにも集まってもらえて、お前ほんとにラッキーだね」
気をつけの姿勢を取らされている僕のおちんちんを指で弾くと、Y美はしゃがんた姿勢から腰を上げた。抜き取ったばかりのちん輪を風紀委員である荒山さんに渡して腕を組み、感情の抜け落ちたような目で僕を見下ろしている。
こわい。これからどんな懲罰を受けさせられるのかと思うと、膝ががくがく震える。
水の上の遊歩道は人がすれ違える程の幅もなく、池にせり出している。けれど、池にさしかかったところだけ特別に横幅が広く、岸側の手すりのすぐ先は真っ暗な雑木林だった。メライちゃんと僕はそこに並んで立たされ、Y美たちの話し合いが終わるのをじっと待つのだった。口を挟むことは許されていなかった。周囲が静けさに覆われているものだから、ひそひそ話す声が針を刺すように聞こえてくる。
遊歩道から外れた暗がりに全身泥を塗りたくってすすり泣いていたメライちゃんと僕が対面し、一緒に池に入るまでの間、Y美はこのすぐ近くにミューの邸宅があることを思い出し、夜分にもかかわらず緊急事態だからと応援を頼みに行ったらしい。そこにたまたま風紀委員たちが泊まりに来ていたという訳だった。
慌ただしい出がけではあったが、懐中電灯のほか、ちん輪を用意させることも忘れなかったと、風紀委員はしきりにY美を褒めそやした。ミューの家はアウトドアグッズが豊富で、テント用品である金具付きのロープは幾らでもあるとのことだった。
「こんなちっちゃな、皮被りのおちんちんのくせに、彼氏持ちのメライに襲い掛かるとは油断ならないよね。玉潰しちゃおうか」と、風紀委員が言った。
「メライも裸で池の中に入って誘ったんでしょ? 被害者ぶらないで欲しいわ。メライにも絶対ナオス君と同じくらいの罰が必要」、これはミューの意見。
「とりあえず金玉一つ、潰しとく?」と、エンコが楽しそうに提案する。
玉潰しと聞いただけで、さっきY美に蹴られたおちんちんの袋がツーンと、思い出したように痛み出した。全く生きた心地がしない。ふと僕は、この即席の懲罰委員会にN川さんが加わっていないことに気づいた。
雑木林から太いライトがこちらに近づいてきた。おうい、そこで何してる、と男の警戒するような声がした。防犯係の腕章を付けた中年のグループだった。
すぐに帰りなさい、夜中のだるま池は危険だよ、と語気を強めて諭す。僕が一人だけ素っ裸で同学年の女の人たちに囲まれている異常性についても、それほど関心を示さず、とにかく帰った方がいい、女の子を強姦しようとしたのなら、また日を改めて罰しなさい、と年齢六十くらいの女性が帰宅を促した。
しぶしぶ従うことにしたY美は、腑に落ちないのか、なぜここにいてはいけないのか、とおじさんに質問をした。私たち誰にも迷惑かけてないし、と不満げに付け加えると、おじさんはにっこり笑って、「出るんだよ」と返した。「若い女の幽霊がな」と、手首を胸の前でぶらぶらさせた。
気づくと、僕は「もしかしてその女の幽霊って、白いワンピース着てますか」と訊ねていた。おじさんの顔が一瞬にして強張った。隣の中年女性が「あなた、見たの?」と、なぜかおちんちんを隠す手の甲をぴしゃりと叩いて声を荒げた。
見たも何もない。N川さんと思っていた女の人は、再び現れたばかりだった。振り向いて、僕が池から引き上げられた辺りを指先で示すと、そこにぼんやりと白い影が浮かんでいた。やや早足にこちらへ向かってくる。ここまで近づくともうN川さんと見間違うことはない。全くの別人だった。N川さんの目はあんなに赤くない。
そこから先のことは記憶が曖昧になって、うまく思い出せない。とにかくY美たちはパニックになって一目散に駆け出した。怖がりの僕だけど、なぜかこの時だけは比較的冷静だった。素っ裸で置いて行かれるのがいやなばかりにY美に続いて走ったけれど、他の女子たちのようには悲鳴を上げなかった。
だるま池にここ一ヶ月くらい前から女の霊がよく目撃されるようになったという話を後日、メライちゃんから聞いた。メライちゃんも知らなかったようで、近所の人から教えてもらったそうだ。だるま池やその付近では、特段の事件は起こっていない。なぜ霊が出現するようになったのか、近隣の人は首を傾げているという。ともあれ、僕はお仕置きが無期限に延期されたことで、とりあえずホッとしたのだった。
「なんでよ。何をそんなにムキになってんのよ」
「だってさ、あんまり酷過ぎるし」
裸足ですたすた歩くメライちゃんの薄い生地に包まれたお尻を追いながら、僕は口ごもった。何しろ面接の直前、唯一身に着けていた白いブリーフのパンツをY美に力づくで脱がされ、全裸で面接を受けさせられたのだ。これはつまり、この格好で舞台に上がりますと、はっきり告げることを意味する。面接官たちは僕の体をテレビ放映しても問題はないか、くまなく点検し、おちんちんをいじり回し、勃起させた。
せめて勃起した段階でとめてくれればよかったのに、メライちゃんは扱きを中断しなかった。確かに面接官たちは誰もやめるように言わなかったし、それがとめなかった理由だと後からメライちゃんに聞いたのだけれども、大きくなった時のおちんちんの大きさを測るのが目的だったから、ついに限界に達して、面接官たちの注視する中で射精してしまうまで扱き続ける必要は全くなかった。
精液が迸っている間も、メライちゃんは律儀に指でおちんちんに刺激を与え続けた。素っ裸の身をくねらせ、喘ぐ僕を見て、面接官たちは苦笑した。廊下を進む僕のお腹には、今も腹這いになって拭き取らされた精液がべったり付いて、下腹部に向かって幾筋もの糸を引いている。
面接では四つん這いにされ、お尻の穴までチェックされた。お尻の穴がゴムのように拡張することから、面接官たちは僕が変な物を入れて遊んでいるのではないかと疑った。苛められ、面白半分に挿入されてきたから、自然と延びるようになっただけなのに、羞恥で頭の中がまっ白になっている僕に弁明をする余裕はなかった。
辛くて長い時間を、ただひたすらこの面接に落ちることを願って耐えた。失格、テレビで中継する関係上素っ裸でステージに出るのは問題あり、と面接官たちが結論してくれれば、僕は救われる。そう思ったからこそ、一人だけ全裸という恥ずかしい状況を我慢し、四つん這いになってお尻の穴を面接官たちに晒し、おちんちんの袋の皺の点検を許し、メライちゃんに手で扱かれておちんちんを硬くさせ、皆の前で喘ぎながら射精するという痴態を演じたのだった。
ところが結果は、僕を絶望の淵に落とし込むものだった。メライちゃんはスクール水着、僕は素っ裸という格好でステージに出ることが、とうとう正式に決まってしまったのだ。委員会の決定は覆せない。もう僕がどんなに頼み込んでも、パンツ一枚どころか、腰を覆う布切れ一枚も身に着けることは認められない。
委員長は下顎に垂れさがった脂肪と眼鏡を揺らして満足そうに頷き、「あなたたちの舞台がとっても楽しみだわ」と辞去する僕たちに言い、レンズの奥の細い目を光らせた。
こういう次第だから、メライちゃんにいともあっけらかんと「良かったね」などと言われると、悲しく、同時にいらいらしてしまう。今の辛い気持ちをメライちゃんにぶつけるのは筋違いだとは分かっているけれど、どうにも自分は一人ぼっちなんだという現実と直面させられた感じは拭えない。
町役場に残っているのは、役場の職員だけだった。階段をのぼり四階に到達する。廊下は消灯されていた。前を歩くメライちゃんが振り向かない限り、僕は誰からも裸を見られる心配はない。それでも、メライちゃんがいつ振り返るか分からないので、一応おちんちんに手を当てて歩く。
女性職員に案内されて着替えに使った物置まがいの部屋の前で、メライちゃんと僕はがっくりと肩を落とした。鍵が掛かって、あかないのだ。
仕方なく一階まで戻る。玄関前の大きな白い円柱に素っ裸の僕を残して、メライちゃんはスクール水着の格好のまま、受付まで行ってくれた。
「信じらんないよ。あのお姉さん、もう帰っちゃったみたい」
しばらくして戻ってきたメライちゃんは赤く染まった頬を膨らませた。円柱に隠れるようにして身を低くしている僕の裸身をあまり見ないように、目を適当に泳がせながら、「鍵もないんだって。見つからないみたい。どうもあのお姉さんが決まった場所に戻さなかったみたいだよ」と、聞いてきた話を伝えてくれる。
無責任だよね、と憤懣やるかたなくぼやいている。役場のおじさんはメライちゃんに、今日はこのまま帰り、また明日にでも役場へ服を取りに来たらどうかと勧め、家族の人に連絡してあげようと申し出てくれたらしい。ところが、メライちゃんの家には車がない。連絡が取れても迎えに来れそうもなかった。僕がおば様に電話して助けを求めるのがベストの選択なのだろうけれど、僕は電話番号を知らなかった。
幸い役場の中におば様のことを知っている人がいて、自宅の番号を調べてくれた。町役場の応接室でメライちゃんはソファーに、僕はその横の床に正座して待った。なぜ正座なのかと言えば、事務員の中年女性がスクール水着のメライちゃんはともかく、素っ裸の僕がソファに座るのをどうしても認めなかったからだ。何か羽織る物を貸してもらえるか、丁重に頼んでみたけれど、あっさり断られた。
この女性は僕に対して不快な感情を抱いていることを隠そうとしなかった。僕が素っ裸なのは、単純に僕に何か粗相があったからと思い込んでいるようで、反省の意味合いから僕に正座を強制したのだった。
小一時間ほどしておば様が到着した。僕は足が痺れてすぐに立てず、メライちゃんに腕を取ってもらってようやく歩き出すことができた。
町役場の通用門から出て、敷地内の道を進む。車は少し離れた場所に停めたらしい。
メライちゃんはスクール水着に裸足という格好でいることにすごく抵抗を覚えるようで、町役場の人たちに好奇の視線を向けられると、恥ずかしそうに体をくねらせ、両腕を交差させて胸元や股間のあたりを覆った。
別にそのような仕草をしなくても、ちゃんと水着が肉体を覆っているのだから、裸を見られる訳ではない。「何を大袈裟な」と全裸で歩かされている僕は思ってしまう。まあメライちゃんにしてみれば、知らない人たちから性的な欲望をたぎらせた目で見つめられて生理的な拒絶反応が起きるし、特に女の子の場合、その反応は男子よりも強いだろうから、やはり水着をまとっているからといって安心できるものではないのかもしれない。
町役場の敷地を出て、道路の端に引かれた白線の内側を歩く。通行する車のヘッドライトに照らされ、俄然、視線の数も増える。夜といっても、まだ歩行者や自転車が途絶える時間帯ではなかった。
「すれ違う人がみんな変な目で見て、怖い」
メライちゃんが泣きそうな顔して訴えた。体をもぞもと動かして、不特定多数の性的な欲望からなんとか身を守ろうとしている。
遊泳環境が付近にないところを夜、水着姿で歩いている女子は、やはり人々の注目を集めてしまう。メライちゃんは、素っ裸の僕に前を歩くように要求した。ついでに、おちんちんもなるべく隠さないで歩いて欲しいとも。
「やだよ。僕だって恥ずかしいし」
「何よ、ナオス君、さっきまでずっと私の後ろに隠れてたじゃないの。たまには交代してよ。男の子でしょ。今更見られてたって恥ずかしいことないでしょ」
恥ずかしさで切羽詰ったメライちゃんは、自分の都合が一番であり、二番も自分の都合、三番四番と、こんな感じで九十九番まで自分の都合を並べ、百番目くらいに僕への気遣いを置いてあげてもいいという感じの、有無を言わせぬ強い口調で主張した。メライちゃんにとって一糸まとわぬ僕は、周囲の視線を逸らすカモフラージュに過ぎなかった。
こんなことでメライちゃんとの仲をこじらせたくない。僕は「分かったよ、もう」と吐き捨てるように言うと、大きく息を吸ってからメライちゃんの前に出た。
「ナオス君、さっきも言ったけど、おちんちん隠さないでね。すれ違う人の注意を引きつけて」
そんな無茶言わないで、とぼやきながらも、手を少しおちんちんから外す。後ろから僕たちを追い抜く人よりも、前から来てすれ違う人の方が多い。自転車を押して歩く子連れの女の人が正面から僕を見て、嘲るように笑った。連れの男の子が指を向けて、「ちんちん丸出しだ」と甲高い声を出して、彼らの後ろを歩く人たちの失笑を誘った。
先をずんずん進んだおば様が戻ってきた。僕たちとの距離が随分開いてしまったことに苛立って、何を愚図愚図歩いてるのよ、と少しヒステリックな調子で僕を叱りつけた。車のランプがもう少し先の道路の幅が広がったところに見えた。
「あなたも」と、おば様は僕の背中に隠れるようにして立つメライちゃんに気づいて言った。「急ぎなさい。のんびり歩いてる暇はないのよ」
そう言っておば様はメライちゃんの腕を取り、僕の前に引っ張り出すと、「早く行きなさい。もう車はすぐそこだから」と、メライちゃんを先に行かせた。
「ほら、あなたもトロトロ歩かない」僕のお尻をぴしゃりと叩いて、おば様が小走りで車に向かう。
前に人影があって、思わずおちんちんを手を当てる。少し速度を落として横から通り過ぎようと思ったら、Y美だった。
「お前さっきさ、おちんちんぶらぶら丸出しで歩いてたよね。珍しいじゃん、恥ずかしがり屋のお前にしては」
「メライちゃんが水着姿を恥ずかしがってて、それで僕の方に人々の目が行くように・・・」と、僕が口ごもりながら理由を説明すると、Y美は感心したように溜め息をついた。「優しいねえ。お前、よっぽどあのクソチビ女が好きなんだね」
もうメライちゃんは車に乗り込んだのだから、これ以上おちんちんを晒しておく必要はない。僕は手でしっかりおちんちんを隠していた。
「だったら、もっと目立たせる必要があるんじゃないの」
「やめて。何するんですか」
Y美はいきなり手でおちんちんを嬲り始めた。「ほら、大きくなる大きくなる」と、おちんちんの根元を指で挟み、軽く圧迫するとともに袋を握って、振動させる。それから手のひら全体でおちんちんを揉みしだき、すぐに指を絡めてゆく。
さっき射精したばかりなのに、もうおちんちんにじんじんと快楽の波が押し寄せてきた。喘いでしまうような甘い電流は、Y美の撫でる指先からも伝わる。たとえば首筋、鎖骨、乳首を指先はツツツと僕の肌を離れることなく移動する。
巧みな指の動きもさることながら、Y美が半袖シャツの起伏のある胸を僕の顔を埋めるほどの近さまで近づけてきたことも、僕の性的な官能を高めた。一日の汗と柔らかく息づく肉体の匂いに包まれ、すぐそばを車が通過するにもかかわらず、思わず深くゆっくり息を吸い込んでしまう。その香りは僕は未知の世界へ誘ってやまなかった。
切ない声を出してしまう僕をY美は笑い、おちんちんから手を離した。硬くなって反り返ったおちんちんが夜の生温い空気の中でむなしく脈打っている。「これでもっと目立つようになったよね。相変わらずちっちゃいけど」と言い、Y美が僕の手を取って後ろに回した。両手を後ろで掴まれた僕は、Y美に後ろから押されるように道路の端を歩く。向かってくる車のヘッドライトに、硬くなったおちんちんが容赦なく照らされる。
「やめて、恥ずかしいです。お願いだから」
身をよじりながら歩き、僕は首を後ろへ向けてY美に哀願するのだけれど、Y美は「ほら、しっかり前見て歩く。さっさと歩く」とだけ返して、背中をぐいぐい押す。
停車中の車まで来ると、ガラス越しにメライちゃんが僕の射精寸前まで追い込まれたおちんちんを見て、ギョッと驚いた顔をした。
「見られると興奮するみたいだね」とY美は何食わぬ顔をして、勃起させられたおちんちんをピンと指で弾き、助手席に乗り込んだ。僕は後ろの席のドアを開けた。メライちゃんが恐い顔をして僕を睨み、黙ってお尻を奥へずらした。
おば様の運転する車が走り出した。
面接はどうだったか、とおば様が訊いた。おば様は今回の夏祭りがテレビ中継されることを知っていた。スクール水着と素っ裸という格好でステージに出ることが今日の面接で正式に認められたと聞いても、「良かったわね」と答えただけだった。ずっと前からそうなることは分かっていたのかもしれない。
「あんたの自慢の水着姿がテレビ放映されるんだね。みんなのアイドルだね」
Y美に冷やかされると、メライちゃんは曖昧に返事をして、恥ずかしそうに太腿の下に手を入れて俯いた。
自宅までの道のりを伝えるメライちゃんの説明は要領を得なかった。交差点を過ぎてから、「あ、今のを右です」とか「ごめんなさい、こっちじゃなくて、あの道でした」などと言うので、同じ道を何度か通る羽目になった。
「ほんとに左でいいの? さっきもここ、左に曲がったけど」
おば様が丁字路交差点の手前で止まって、確認する。
「ええと、左に曲がるとたばこ屋さんがあるから、その先の路地を…」
「たばこ屋なんか、ないって。桑畑と倉庫があるだけだったよ。さっきも通っただろ。いい加減にしなさいよ」
身を乗り出し、怒鳴りつける助手席のY美をおば様がぽんぽんと肩を叩いて、なだめた。
「ごめんなさい。私、方向がすぐ分かんなくなっちゃって。学校からだったら分かるんですけど」と、消え入るような声を出して詫びるメライちゃんに、おば様は「いいのよ。気にしないで」と慰める。
「こいつ、信じらんない馬鹿だな。自分の家の場所も分かんないのかよ」
容赦なくY美が罵声を浴びせると、メライちゃんは泣きそうな顔になって、
「ほんと、迷惑をおかけしちゃってごめんなさい。私んち、車ないし、車に乗ることって滅多にないから、よく分からないんです。歩いてる時は雑木林の道を通るんですけど、車だと通れないから」と弁明した。
窓の外では木々が無数の枝を絡めていた。舗装路に接した入口のところだけ、灯火に照らされてほの白く見える。手すり付きの遊歩道が濃い闇の奥へと続いていた。昼間ならともかく、日の沈み切った時間帯に足を踏み入れる場所ではない。
「その雑木林を通れば、すぐに帰れるの?」とおば様が聞くと、「はい、少し距離はありますけど、雑木林の中を通れば帰れます」としっかりした声で答える。
「でも、女の子が一人、水着姿で雑木林の中を歩くのは危険よね」
おば様は思慮深そうに首を傾げた。雑木林の中を車で通り抜けるのは不可能だ。
「大丈夫です。住宅地の中だし、雑木林を抜けると、学校への行き来で通る道に出るんですよ」
メライちゃんはそう言ってドアを開けると、おば様に礼を述べて車から降りた。「じゃ、私」と助手席のY美も降り、「ちょっと心配だから、どんな道だか見てくる。待ってて」とおば様に言って、ドアを閉めた。
Y美とメライちゃんが並んで遊歩道を通って雑木林の中に消えていくのを窓ガラス越しに見ていると、おば様が「こういうのは本来、男の子が率先して行くものよ。なんで女の子に行かせてんのよ」と、僕を責めた。
もちろんそうしたいところではあるけれど、一切服を着ていない今の状態ではなかなか行動に移しづらい。これはただの言い訳かもしれない。僕は言葉に詰まって何も返せなかった。確かにメライちゃんのことは心配だけれど、せっかくY美が様子を見てくると言ったのだから、ここはY美に任せてもいいかな、と思ったのだった。おば様は溜め息をついて、ラジオをつけた。ニュースが流れてきた。
しばらくしてY美が車に戻ってきた。どうだった、と問い掛けるおば様にY美は、雑木林の遊歩道は特に危険な印象はなかったと報告した。近くに民家が並んでいるし、雑木林を抜けるとお馴染みの道だから迷う心配はないとのことだった。安心したおば様は、Y美を労うと、車を発進させた。
家の前でY美と僕は降りた。夜になっても昼間の蒸した空気が漂っていて、ぬめぬめと幾層にも重なって肌にまつわってくる。素っ裸でも時折吹く風を涼しく有り難く感じるくらいだから、半袖のシャツに膝丈までのゆるゆるしたズボンを着たY美は、風を全身に浴びたい気持ちに違いない。
おば様は月極駐車場まで車を置きに行った。玄関に向かう途中、Y美が「ねえ、これ見覚えない?」と言って、丸めた布のようなものを僕の前で広げて見せた。僕はすぐに声が出なかった。
「なんで、なんでここにメライちゃんのスクール水着が」
「ゲームだよ、ゲーム」
「何のゲームなの? まさかメライちゃんは」僕は自分が全裸であることも忘れて、Y美に詰め寄った。
「そうだよ、素っ裸。お前と同じようにね」Y美はおちんちんを指で弾いて、愉快そうに笑った。
雑木林の中、抵抗するメライちゃんの腕を曲げ、少しでも動いたら骨が折れる状態にして、水着を引きずり下ろしたと言う。あっという間に全裸に剥かれたメライちゃんは、泣きながら「お願い、返して」と叫んでY美に掴みかかった。Y美の腕の引っ掻き傷はその際にできたようだった。
「あいつ、マジで引っ掻きやがってさ。頭きたからお腹をグーで殴って、お尻を二三発蹴ってやった。そしたら池に落ちちゃったんだよね」
この傷、残ったらどうしょ、と心配するY美の肩を揺さぶり、僕は質問を重ねた。池に落としたってどういうことか、メライちゃんが岸に這い上がるのを確認したのか。膨らむ不安にどうしても声を荒げてしまう。
「うるせえな。池といっても底が泥みたいで、岸に近いところは沼地なんだよ」
Y美は、メライちゃんが泥まみれになって岸を上がってくるのを見たと言う。素っ裸でも泥が付いたおかげで夜目にはすぐに裸と分からないから、逆に池に落ちて良かったんじゃないの、とY美はふてぶてしい態度を崩さなかった。
「メライちゃん、無事に家に帰れたのかな。もしかすると、まだ裸のまま雑木林の中にいるかも」
「知るかよ、そんなこと」
まるで自分は関係がないかのような物言いにさすがに心が痛くなった。僕は怒りの感情が湧くと、まるで悲しい時みたいにチクリと心が痛くなるのだった。やはり僕も、素っ裸という恥ずかしい格好ではあるけれど、一緒に雑木林を見に行くべきだった。Y美一人に任せたのがいけなかった。
「やめて。Y美さん、お願いだから冷静になって。あんな暗い雑木林の中に一人、裸に剥かれて池に落とされたまま置いて行かれたら、どんなに怖いと思うの。何かあったら責任取れるの?」
感情を高ぶらせて体を近づける僕をY美はきょとんとした目で見つめ、少しも動こうとしなかった。僕はメライちゃんの家に電話することを言い張った。無事に帰ったかどうかがとにかく知りたかった。
電話をかけてメライちゃんが帰宅したか確かめてもらった。玄関から出てきたY美は、「まだ帰ってないみたい」と言って腕を組んだ。こうなったらおば様に言って車をもう一度出してもらい、メライちゃんを降ろした場所まで戻るしかなかった。
「勝手な真似すんじゃねえよ」
素っ裸のまま門から出ようとした僕は、後ろからY美に押さえつけられ、お尻を膝で蹴られた。続いて、顔を滅茶苦茶に叩かれた。それでも僕は諦めなかった。夜中の雑木林に素っ裸で放置されたメライちゃんのことを思って、おちんちんの袋を握られた痛みに悲鳴を上げながらも、助けに行くべきたとしつこく主張する。
しぶしぶY美が自転車を出すことを承知してくれた。母屋の近くにあるビニールカバーを外すと、赤い自転車が出てきた。メライちゃんの水着を入れて膨らんだポシェットを前の籠に入れ、Y美が自転車に跨った。僕はY美の後ろ、荷台に乗る。何本も並んだ金属の棒がお尻に当たった。
Y美の漕ぐ自転車はスムーズに走り出したけれど、二十メートルも進まぬうちに減速を始めた。前方におば様の姿を認めたのだった。おば様は月極駐車場に車を置いて戻ってくる途中だった。びっくりしているおば様に、Y美がメライちゃんに渡しそびれたものを渡しに行くのだと説明した。口から出任せの嘘で巧みにその場を取り繕うことにかけては天才的な才能を発揮するY美だけれど、この時ばかりはあまり上手とはいえない嘘になった。たちまちおば様の表情が曇った。
「渡しそびれたものって何よ」
眉をひそめるおば様に「宿題のノート」とY美が弱々しい声で答える。いかにも自信なさげで歯切れが悪く、おば様はいよいよ疑いを深めた。
「Y美、あんた嘘はやめなさい。こんな夜中に出掛けるなんてよくないでしょうに。それにこの子」と荷台に座る素っ裸の僕を見て、おば様は険しい目をした。「相変わらず素っ裸じゃないの。家の周囲で裸はまずいって言ったでしょ。服を着せてあげなさい」
「チャコの服はもうないよね。知ってるくせに」
へ、どういうこと? 意外な返答に驚く僕の方をY美はちらと見て、何も言わずにすぐにおば様へ向き直った。
「こいつは裸が基本だから、学校の制服以外のシャツとかズボンは捨ててもいいかなって私が訊いたらお母さん、構わないよ、どうせ必要ないからって言ったよね。だから私、チャコのシャツとかズボン、全部ゴミの日に出したよ。チャコは学校に着て行く服以外はパンツしか残ってないんだよ」
「それにしても何か羽織る物ぐらいあるでしょ。白いパンツだって」
今度はおば様の歯切れが悪くなった。
「急いでるの、私たち。そんなの出してる暇ないもん。夜だし、どうせ人に見られたって騒ぎになんか、ならないよ。また後で。帰ったら説明するから」
そう言い捨てると、「ちょっと待ちなさい」と引き止めるおば様を無視して、自転車を滑らせた。ぐいぐいと速度を増して行く。後ろを振り返ると、おば様の黒い影がいつまでも路上にぽつんと残っていた。
一刻も早く、という僕の思いがY美にも通じたのか、町全体が巨大なビニールハウスの中にあるような暑苦しい空気を引き裂いて、自転車はかなりの速度で夜の住宅街を走った。全くの裸でいる僕に気づかない通行人も珍しくなかったし、気づいても、歩いている時みたいにじろじろ見られたり、からかわれたりすることはなく、あっという間に通り過ぎた。
街道に出ると、脇を車が追い越してゆく。わざと減速して執拗に荷台の僕を上向きに切り替えたライトで舐めるように照らす一台があった。やがて自転車と並走すると、遊び人風の若者たちが冷やかしの言葉を浴びせてきた。Y美は黙ってハンドルの向きを変え、車が通れないあぜ道に入った。
上り坂の途中でついにY美は自転車を押すことにした。僕も自転車から降りて、小石が散らばってザラザラする舗装路に素足をつける。山を越える近道を選んだのだけれど、傾斜は想像以上だった。
後押しする僕は両手を荷台に付けていた。Y美が自転車を押しながら振り返った。隠しようのないおちんちんを見て、フンと鼻を鳴らす。「おちんちんの揺れ方がまだ甘いよ。もっとぷるんぷるん揺れるくらい力を入れて押しなよ」
これでも精一杯力を出しているつもりなのに、街灯の淡い光に浮かぶおちんちんの揺れ方だけで押しが弱いと判断されるのは、不本意だった。僕はわざと内股気味に歩くことにした。そうすることでおちんちんが太腿にぶつかり、揺れの幅が大きくなる。
「さっきお前の服、捨てたって言ったよね」
せっせと自転車を押しながら、Y美が言った。後押しする僕の返事が遅いので、こちらを振り返る。さっきよりもぷるんぷるんと揺れているおちんちんを見て、Y美は満足したように微笑んだ。
「あれ、お母さんのせいだよ。私と言い争いになって、お母さんとうとう泣き出して、私たち仲直りしなくちゃいけなくなったんだよ」と、続けた。
「お前の服を処分するって私が言ったら、お母さんはなんかホッとしたような顔して、口ではひどいじゃないのとか言うんだけど、落ち着きを取り戻したの。最近、お母さんの気分が不安定になってヒステリックになることが多いんだけど、お前を苛める話をすると、なんか安定してくるみたいなのよ」
「なんでなのかな」
「分かんない。お前のことが嫌いなのかもね。うちのお母さん、男が嫌いなんだよ、基本的に。ま、服を処分したってパンツとか、最低限のものはあるから安心しな。どっちにしろ当分お前は裸で、せいぜいパンツ一枚穿けるくらいだけどね」
やっと上り坂の頂上に着くと、Y美が自転車に乗ったので、僕も荷台にお尻を着けた。上りと違って下り方向は街灯がなく、坂を下りきった先にかろうじて一つ、見えるきりだった。この濃い闇の空間を切り裂くには、自転車のライトはあまりに照射距離が短く、心もとなく感じられるのだけれど、Y美はまるで恐れる風もなく、自転車を走らせた。
急斜面を下る自転車はぐんぐん速度を増した。この速度で転倒でもしたら、肌を覆う何物もない裸の僕は深い傷を負ってしまうだろう。古い舗装路で揺れも激しい。闇の中にどんな穴ぼこがあるか知れたものではない。死んでしまうかもしれない。
死んでしまう。不意にそんな考えが体に染み付き、寒気がした。
サドルの下の横棒をつかむ手に力を込めて、Y美の背中に隠れるようにして身を竦めていると、Y美の背中からくぐもった声が聞こえた。アーと声を出している。小さく遠慮がちだった声は次第に大きくなり、ついには吠えるような叫びになった。胸の底にわだかまっていた不満、ストレスを解き放つかのような、野太い叫びだった。坂を下り終えて、平坦な道に入ってからも、しばらくその声は続いた。
雑木林の入口は、さっきおば様がメライちゃんを降ろした時と同じく、全く人の気配がなかった。まばらな林の向こう側に戸建の家が幾つか並んでいるのが見える。住民たちはもう寝静まっているようで、どの家も一様に暗かった。街灯がなければそこに家が並んで存在していることにすら、気づかなかっただろう。自転車から降りて、早速メライちゃんを探しに行こうと逸る僕をY美が呼び止めた。
ポシェットからメライちゃんのスクール水着を取り出して、投げてよこす。
「それ着て、探しな」
地面に落ちたスクール水着を拾った僕にY美が言った。メライちゃんの肌に密着していた布、メライちゃんの匂いが染みついた水着だった。
こんな状況でなければ、僕自身相変わらず一糸まとわぬ恥ずかしい格好のままだから、喜んで着たと思う。それに女子の水着を着ることに何か秘密の喜びめいた感情が湧かないと言えば嘘になる。こんな状況でなければ、の話だ。いくらY美の命令でも、全裸でこの暗い雑木林のどこかに身を潜ませているメライちゃんを想像すると、とてもこれを着ようという気持ちにはなれなかった。
やめときます、と僕がきっぱり断ると、Y美は「何それ」と呟いて目を伏せた。
「お前さあ、素っ裸がいやだっていつも言ってたろ。何か着る物寄こせって要求するから、水着を出してやったんじゃん」
「でも、これ、メライちゃんのだし」
「いいから着ろってんだよ、早く」
クヌギの木の周りは奥から斜めに挿し込む月の光で、そこだけが白く、濃縮された明るさを醸し出していた。そこへ突然、Y美の青白い顔が浮かんだ。薄い唇はしっかり閉じられていて、頑なな意志そのものだった。目がすっと線を引いたように細くなり、こめかみに向かって端が吊り上がっている。まずい。僕は緊張のあまり生唾を飲み込んだ。雑木林の遊歩道脇に自転車を置いたY美が大股でこちらに向かっている。来る、と思った瞬間、Y美の長い脚が半円を描いて僕の脇腹に入った。
舗装路から外れて、剥き出しの土の上に転ばされた僕は、さらにサンダルで背中を踏まれた。お尻に強烈な蹴りが入り、おちんちんの袋にも足先が当たって、僕は悲鳴を上げた。悲鳴を上げて幾分かは激痛が和らぐことを期待するのだけれど、内臓から頭の先へ伝わる痙攣に似た振動に声すらまともに上げられない。大量の涎が口の端から頬へ伝った。髪の毛を掴まれ、強引に立たされる。
「ねえ、その反抗的な態度はなんなの?」
「ごめんなさい、許して」焼けつくような全身の痛みに早くも降参するのだけれど、一度怒りモードに入ったY美は、そう簡単には収まらない。「お前に拒否する権利があると思ってんの?」今度はY美の膝が鳩尾に入った。
呻き声を漏らして僕は地面に倒れた。呼吸ができず、悶絶する僕の背中や足をY美が執拗に蹴り続ける。ようやく息ができるようになった僕はゼイゼイ喘ぎながら、土下座の姿勢を取り、「申し訳ございませんでした」と詫びて、額を地面に押し付けた。
「立ちなさい。土下座しろって誰が言ったの」
もう言いなりになる以外に考えることができなくなってしまった僕は、脛にめり込んだ砂の粒を払うことなく素直に立ち上がった。涙がこぼれ、嗚咽をどうしても抑えることができない。もう一度、「申し訳ございませんでした」と言って頭を下げる。
「もういいから、早く水着、着ろ」
バシンと僕の頭を平手で叩いて、Y美が命じる。僕は片手で縮み上がったおちんちんの袋を労わりながら、足元のスクール水着を手に取った。そして、つくづく思うのだった、力では絶対にY美に敵わない、と。
夏休みに入る少し前、僕がY美の家で暮らしていることを知ったクラスメイトの一人は、僕が帰宅したらパンツ一枚の格好にならなければならないと聞いて、「嘘だろ」と馬鹿にして笑った。居候の身分であることを僕に片時も忘れさせないためにパンツ一丁の裸でいてもらうのよ、とおば様が笑いながら説明してくれたことを伝えても、クラスメイトの彼は納得しなかった。
あり得ない、そんなルール、普通は守らないよ、と彼は言い、僕に侮蔑の眼差しを送った。いくらY美の背が高くとも所詮女だから男が本気でかかれば造作もない、と彼は断言するのだった。身長差が二十五センチ以上あっても、僕は男の子だから力では勝るはずだ、とそのクラスメイトは自信なさげな僕を励ました。
本当にその通りだとしたら、どんなに良いことか。でも残念ながら、現実は違う。以前に一度だけ、Y美と正面から向き合い、お互いの手と手を合わせて力比べを試みたことがあったけれど、Y美に「何それ。本気で力出してるつもりなんだ」と呆れられた。片足が伸びてきて、唯一身に着けることを許されていた僕の白いブリーフのパンツのゴムに爪先を引っ掛ける。腰を引き、くねらせてパンツを押さえようとするものの、あっけなく引きずり下ろされ、足首からパンツを抜き取られた。
床のパンツを足で掴んだY美は、そのまま遠くへ放ると、すぐに僕と合わせた手に力を入れた。丸出しにされたおちんちんが小さく縮こまっているのを見て、Y美が「恐がってないで本気出してよ」と、無邪気な顔をしてせがんだ。僕は渾身の力を振り絞ってみた。無駄だった。簡単にねじ伏せられた。今と同じようにY美は服を着ていて僕は全裸だったから、無防備なおちんちんに足が入るのではと恐れるあまり、集中できなかったということは、ある。
ともあれ、Y美の力は圧倒的だった。抵抗を試みても全く無駄で、男の子だから勝てるというのは、現実を知らない子供の根拠のない思い込みに過ぎない。
スクール水着に足を入れ、引っ張り上げるのに結構な力が必要だった。同じ背格好という理由でマジックショーの助手に選ばれたメライちゃんと僕だから、メライちゃんのスクール水着は僕の体にも合う筈だった。それがこんなに窮屈に、体を締め付けるかのように感じられるということは、メライちゃんもまたこの拘束された感じをいつも味わっているのだろう。Y美は体つきが如実に浮かび上がるように、一回り小さなサイズの水着をメライちゃんに渡したのだった。
ストラップを肩にかけて、前の腰のところにあるスカートみたいな部分を引っ張る。スカートにしては丈が極端に短くて、結局ビキニパンツと同じくらい股下を露出してしまっている。メライちゃんが自分の持っているタイプはもっと股下が隠れる、これは嫌いなタイプの水着だと言っていたのを思い出す。このスカートみたいなところの内側が水抜きになっているのだった。
背中はメライちゃんが着ていた時にはそれほど広く露出しているようには見えなかったけれど、実際に着てみると、背中の三分の一以上は外の空気に直接触れているように感じられた。
どうしても股間のところがくっきりと隆起してしまう。切れ込みの横から手を差し入れて、おちんちんの向きを変える。おちんちんを股間に挟むようにしたのだけれど、おちんちんの袋までは収まらず、どうしても左右に二つの膨らみがポコッと出来てしまう。
似合ってる似合ってる、とY美がメライちゃんのスクール水着を着た僕を上から下まで長め、満足そうに目を細めた。しかしすぐに何か気に入らない点を認めたのか、僕を呼び寄せると、腰を屈め、僕の足の付け根の部分の水着を引っ張り、手を差し入れた。ウッと声を出してしまった僕に「感じてんじゃねえよ」と小さく笑う。生温かい手が股間の奥に収めたおちんちんを引っ張り出し、水着の中のおちんちんの向きを変えさせた。
「こうした方がくっきりと形が出て、面白いんだよ」
おちんちんを上向きにすると、Y美は満足そうに頷いた。おちんちんの裏側が水着の生地にすれる。Y美は「こうすると、もっと目立つかも」と、水着の上からおちんちんに指を押し当て、軽く力を込めてさすった。
喘ぎながら、「やめてください、お願いだから」と体をくねらせる。Y美に腰をしっかり両手で押さえ込まれているので、逃れられない。結局僕は、おちんちんが半分硬くなった状態でメライちゃんを探すことになった。
メライちゃんどこにいるの、と呼びかけながら、雑木林の中の板を並べた遊歩道を歩いた。藪やケヤキの大木があれば立ち止まって何度も声を掛けた。葉や木の枝を踏む音がしたような気がして、遊歩道の歩きやすい板の上から土や石のごろごろする地面に下りる。柔らかい土を踏みながら藪の裏側に回り、メライちゃんどこ、と声を掛けると、頭上で鴉のような鳥の影がバサバサと乾いた音を立てて、別の木へ移った。
カタカタと遊歩道の板を踏む音がした。小走りでこちらに来る影はY美だった。僕と反対の方向を探してきたらしいが、やはり見つからないと言う。さすがに少し心配になったか、暗く静まり返った雑木林を息も荒く見回している。
だるま池と書かれた、今にも崩れそうな木の看板があり、斜面の先に樹木の間から洩れる月の光で白く濁ったような水面が見えた。Y美がメライちゃんの水着を脱がして、落としたというのは、この場所だった。遊歩道の幅が広くて、ベンチが据えられていた。ここで道が二つに分岐し、左の方向はだるま池に沿って雑木林から住宅地に抜ける。右方向は木々の枝が差し交わして醸す闇を抜けてだるま池へ出て、向こうの小高い山の中に入ってゆく。僕は左方向へ進んだ。ここからは板を並べた遊歩道は終わり、土の道になる。
月の光に照らされた池のキラキラした水面を右手に見ながら、緩やかな登り道を進む。「メライちゃんどこ」という呼びかけに応じる気配はないか、全身の神経を集中させる。蘆の群落がある岸べの手前で僕は足を止めた。鬱蒼と茂る丈高い草が風に揺れて、掠れた声のような音を立てた。メライちゃん、と僕はもう一度呼んだ。
聞き取れないほどの小さな声が笹の生い茂る斜面の方から聞こえた。「メライちゃん?」、呼びながら僕はかろうじて人が一人通れるほどの狭い、左右を笹に覆われた道を下ると、草のまばらに生えた平たい空間に出た。大きなクヌギの木の裏側にうずまっている人影を認めた僕は、「お願いだから、来ないで」としゃくりあげながら訴える女の子の声を聞いた。メライちゃんだった。そこだけ木のない平地だから、月の光が煮詰まったように明るく漂っている。その中にあって、メライちゃんの黒い姿は異様だった。
「駄目、来ないでって言ってるでしょ」
強い拒絶。それでも僕はすぐに立ち止まることができなかった。その体が黒く見えたのは、全身が泥に覆われているからだった。すぐ目の前に、クヌギの木に体を預けるようにして、メライちゃんがしゃがみ込んでいる。地面にお尻をつけ、両足を抱えたその姿勢からは、胸も股間も全く見ることができない。でも、それは僕が初めて見るメライちゃんの全裸姿だった。首筋から背中にかけて、湿地帯の泥がべったり付着している。
裸体の側面は薄い泥の下から点々と磁器のような肌の白さが浮かび上がっていた。胸に密着させた太腿から足先にかけては、泥の盛り上がったところとそうでもないところがあった。僕は胸の高鳴るままにゆっくりと近づいた。
「馬鹿、それ以上近づかないで」
「あ、ごめん。メライちゃん大丈夫なの?」
怒気を含んだメライちゃんの声にハッと目覚めたかのように僕は足を止めた。
「大丈夫じゃないわよ。私、裸なんだからね。水着、返してよ」
突然、堰を切ったようにメライちゃんが泣き始めた。小さな子供のように泣きじゃくる。夜中の雑木林の中に一人全裸でいたのだから、その不安は相当なものだったろう。
泣いて、体が小刻みに揺れ、泥にまみれたメライちゃんの一糸まとわぬ肌が少しずつ白さを取り戻すように見える。明るく射し込む月の光に気づいて、メライちゃんは枝が重なって暗くなっているところへ、しゃがみ込んだまま体を移動させた。
なぜメライちゃんは全身泥まみれなのか。Y美に蹴られて池に落ちたという話は聞いたけれど、それにしても全身が泥でぬるぬるしているのは、尋常ではない。よほど深くて広い沼地だったのかと問うと、まだ泣きやまないメライちゃんは首を横に振った。
「私ね、Y美さんに落とされて泥だらけになった時、ナオス君のこと思い出したの」
しゃくりあげながら、メライちゃんが言った。
「え、僕のこと?」
「そうよ。泥まみれになったことがあるでしょ」
裸のまま泥まみれになったことは、何度かある。メライちゃんが言ってるのは、僕がルコの別荘に宿泊させられた時のことだった。その前の日から素っ裸の状態を強いられていた僕は、その格好のまま朝の散歩に連れて行かれた。途中、崖から落ちて湿地帯にはまり、丁度今のメライちゃんみたいに全身泥まみれになった。通りがかった人たちは泥に覆われた僕の体を見て、素っ裸とはなかなか気づかなかった。
「やだな、なんでそんな話、知ってるの?」
「Yさんが教えてくれたの」
性的に苛められた屈辱的な僕の体験は、メライちゃんに知られたくない。けれど、Y美は僕の知らないところで結構メライちゃんに話しているのかもしれない。
「そうか、思い出したんだね」
「うん」と、メライちゃんが頷いて、鼻を啜った。
泥を全身に塗れば裸であることを誤魔化せるかもしれない、朝の散歩でも気づかれなかったいう話が事実ならば、夜なら尚更成功の確率が高いと考え、意を決して沼の深いところへ足を運んだ。わざと寝転び、全身くまなく泥を塗りたくった。
話しているうちに、気分も落ち着いてきたようだった。メライちゃんは腕をさすり、肩のところにかたまっている泥を肘に向かって広げた。
「でも、それよりナオス君」
涙を拭いたために目の下から頬にかけて泥の付着したメライちゃんが僕を睨みつけて、言った。「誰の水着、着てんのよ」
「あ、ごめんね。ちょっと事情があって」
カッと羞恥で体が熱くなり、急いで股間に手を当てる。ただでさえ窮屈な水着の中で、さっきまで半立ちだったおちんちんが最大限にまで大きくなっていた。下半身の膨らみに引っ張られて、首回りのところが緩くなった感じだ。
「おちんちん大きくさせて、何やってんのよ。ほんとに変態だよね、ナオス君て」
クヌギから少し離れたところにいる僕は、月の光をもろに浴びて、暗がりにいるメライちゃんからしっかり見えているようだった。一糸まとわぬメライちゃんを見た僕の興奮はビンビンと続いていて、下手に動くと水着に擦れて、それだけで喘いでしまいそうになる。変態と言われても、返す言葉がなかった。
好んでメライちゃんのスクール水着に足を通した訳ではない。Y美さんに強制されて仕方なく、と絶え絶えに言い訳する僕を途中で制して、メライちゃんはすっと立ち上がった。手でしっかり胸、股間を覆い、クヌギの裏側へいつでも回れるように、踵を上げた片方の足を少しだけ前に出し、膝を軽く曲げる。
「水着返してもらえるんなら、体、きれいにしなくちゃ」
そう言うと、メライちゃんは向きを変え、歩き出した。左右に笹の葉が群がって茂る細い道に入り、池に向かって進む。僕がここへ来る時に使った道だった。先は真っ暗だけれど、池沿いの遊歩道にまもなく当たる。
そのすぐ後ろから間合いを詰めた僕は、無防備なメライちゃんの背中を見て、思わず息を飲んだ。
泥を体じゅうに塗りたくれば裸であることを誤魔化せるというのは、とんでもない間違いだった。
確かにものすごく離れた位置からであれば、全裸かどうか見分けがつきにくいかもしれない。でも、こんな近くでは、たとえ夜でも、月の光さえあれば、その人がいかに素肌を泥で覆い隠そうとしたって、裸であることは、紛れもない。雑木林の暗がりに順応した僕の目には、はっきり見える。メライちゃんの背中から腰にかけて、刷毛でサッと掃いたように薄く泥が塗られ、素肌のきめ細かさをいっそう際立せていた。
視線をもう少し下へ移す。
小ぶりなお尻が夜の蒸れた空気の中でくっきりと形を浮かび上がらせる。幾分か層を厚くした泥が歩くにつれてヌルヌルと動いて太腿の方へ移動し、足元へ落ちてゆく。お尻の割れ目の奥には泥の酷く薄いところがあって、そこから白い肌が異様に輝いて見えた。メライちゃんが足を前へ出す度にプルンと弾ける丸みを帯びた肉の塊は、いかにも健康的であり、その引き締まった肉の下では、官能に目覚めつつある生命力が顫動し、内部に光源があるかのように輝いていた。
遊歩道の分岐点に来ると、メライちゃんは休むことなく右方向、池の上を通る遊歩道へ進んだ。お尻だけではなく、後ろから見る限り、メライちゃんの肉体は月の光を浴びて、衣類から解放された喜びに浸っているようにすら感じられた。
いくら泥まみれになっても裸でいることは隠せない。僕が泥まみれで歩かされた時、全裸だと気づかれなかったのは、たまたまに過ぎなかった。メライちゃんの一糸まとわぬ後ろ姿に目を奪われ、僕は溜まった生唾を飲み込むことすら忘れていた。
遊歩道はさっき隠れていた場所よりも人と遭遇する確率が高いにもかかわらず、メライちゃんときたら手を下ろして、普通に服を着ている時のように歩くのだった。それでいながら特段ペースを上げる訳でもない。胸も股間も丸出しの状態なものだから、後ろをついて歩く僕の方がどぎまぎしてしまう。
いっそ追い抜いて正面からメライちゃんの全裸姿を拝ませてもらおうかという考えに捉われた時、メライちゃんが立ち止まった。気付くのが遅れ、メライちゃんの裸の背中に自分の胸をぶつけてしまう。膨らんだおちんちんが水着を通してメライちゃんのお尻に当たった。
キャッと小さく悲鳴を上げてメライちゃんは飛び退くと、こちらを向いた。両手でしっかり胸と股間を覆っている。
「私の水着、早く脱いでよ」
首から下はほぼ全身にわたって泥が塗られている。ところどころ白い肌の露わな部分もあり、ちょうどお臍の横は左右ともに泥が剥げ落ちていた。胸も股間もしっかり腕で覆われていたけれど、何か性的なだけではない、もっと人生とか自然について考えさせられるような美しさがあって、生まれて初めて正面から見るメライちゃんの全裸姿に僕は釘付けだった。
さっきのクヌギの木の横でした時のように、片足を少し前へ出して膝を軽く曲げ、手だけでなく足でも股間を隠している。その分、お尻の側の可愛らしい肉が僕の方へ向く。
「何で私の水着着てるの? Y美さんの命令?」
薄い眉毛の上できれいに切り揃えられた前髪が、涙の粒でも付着したのか、キラキラと輝いた。メライちゃんの大きな目からは、怒っているような、全裸に見とれる僕を軽蔑するような、そんなに見つめないでほしいと訴えるような、いろんな感情が次々と現れた。全く夢のようだった。遊歩道のすぐ下では、池が空中から厚い層を成して降りてくる月の光をそのまま返して、遮る物のない穏やかな表面をのっぺりと伸ばしていた。
「ごめんね。今、脱ぐから」
ストラップを肩から外し、窮屈な水着を体から垂直に引っ張るようにして下ろしてゆく。最大限に硬くなった状態で下腹部に密着するおちんちんの裏側が水着に擦れて、性的な快感をいやが上にも高めるとともに、水着の裏側が敏感な亀頭にも当たって、ひりひりする痛みのようなものを走らせる。
喘ぎながら水着を足首から抜き取った僕は、それをメライちゃんの指示するまま、遊歩道の池に面した側の柵に掛けた。
今、メライちゃんと僕はお互い素っ裸のまま向き合っている。遊歩道の羽目板が軋んだ。メライちゃんが両手両足を使ってなるべく裸を見せないようにしているのと同じ理由で、僕も両手で硬くなったままのおちんちんを隠した。
時間にすると三秒にも満たなかっただろう。でも、僕にとっては永久に刻まれた至福だった。
突然、回れ右して池を正面に見据えたメライちゃんは、片足を柵にかけて跨いだ。「泥、落とさなくちゃ」とだけメライちゃんは呟いて、池の水面を足先で軽く突いてから、ずぶずぶと池に体を入れたのだった。柵から身を乗り出して呼び止める僕に、「泥だられで水着、着たくないもん。泥、落とすだけだよ」と返した。
水深はメライちゃんの胸をすっぽり隠す程度だった。遊歩道の柵にもたれて見守る僕の視線を意識してか、メライちゃんは岸から離れたところに立って、髪の毛から水を滴らせている。肩をすっぽり沈めてから、水で濡れた肩を手で拭う。泥が落ちて、ほのかに白い肌が水に反射する月の光に包まれている。メライちゃんの手は首回りから胸、背中などをこすり、泥を拭い落した。
水面の中でもしきりに手を動かしているのだろう。メライちゃんは両手を水の中に入れたまま、体を捻ったり、背筋を反らしたりするのだった。
「ナオス君もおいでよ。気持ちいいよ」と、胸を水面下に隠したまま、手招きする。
突然足を取られたり、深くなったりするかもしれない、危険ではないか、と普段だったら考えたと思う。でも、判断力が麻痺していたから、全裸のメライちゃんが手招きの後にすぐに背中を向けて、飛び込むようにして池の奥へ泳ぎ出した時、メライちゃんのすっかり泥を落とした白いお尻が水面から現われ、すぐに大きな水音とともに煙幕のように立ち上がった水しぶきの向こうに消えた時、僕は遊歩道の柵を跨ぎ越して、池の中へ全くなんのためらいもなく、入った。
昼間の太陽に熱せられた池の水面近くの水は夜になってもぬるま湯のようだったけれど、腰から下の水はびっくりするほど冷たかった。池の底は沼だった。ヌルッとして踝あたりまで沈んだ。僕は平泳ぎを開始し、奥の方を悠然と泳ぐメライちゃんを追った。
体育の授業で水泳の時は初心者クラスに入っていたメライちゃんだったけれど、実に伸びやかに四肢を動かして、気持ちよさそうに泳ぐのだった。確かに全身の肌を水着などを介することなく、直接に水に浸して泳ぐのは、皮膚の細胞レベルで感受できる圧倒的な解放感だった。水の中でおちんちんがゆらゆらそよぎ、性的な快感とは違う意味で心地よく感じられる。
追いついてすぐ横を平泳ぎする僕を見て、メライちゃんは「もうここまで来たんだ、早い」と目を丸くした。
運動は苦手だけれど、小さい頃に習っていたから、水泳だけは他の同学年と比べてそれほど劣っていない自信があった。でも、速く泳ぐのは苦手だった。それよりも長い距離をのんびり泳ぐ方が僕の体質に合っていた。それでも、メライちゃんにしてみれば、結構な速さに感じられたのだろう。僕はメライちゃんを驚かせたことで俄然嬉しくなって、気分が高揚していたこともあり、調子に乗って更に速度を上げてみせた。
「あ、待ってよ。ナオス君」
後ろからメライちゃんが大きな水音を立てて、叫んだ。僕は泳ぐのをやめて、向きを変えると、平泳ぎと犬かきの中間のような泳ぎ方をするメライちゃんがこちらに来るのを迎えた。
あれ、深くなってる、と思って、改めて水深を確かめる。池は、爪先立ちしてなんとか顔を水面から出せるくらいの深さになっていた。しかも底は柔らかい泥なものだから、体重を乗せると、少しだけ足が沈む。足が泥にはまると、口や鼻を水面から出しづらくなる。これ以上先へ進まない方が良さそうだった。死んでしまうかもしれない。でも、メライちゃんと一緒なら死んでもいいかな、という考えがチラと胸を掠めた。
しばらくメライちゃんと僕は寄り添うようにして夜の池を泳いだ。お互い素っ裸だったもかかわらず、メライちゃんは僕が彼女のすぐ近くで、それこそ体が触れ合うほどの近くで泳ぐことを許してくれた。
裸で泳ぐ解放感と背徳の喜びめいたものがごちゃ混ぜになって、いつになく無邪気になった。メライちゃんと僕ははしゃぎ、互いに水を掛け合ったり、潜ったりして遊んだ。メライちゃんよりも泳ぎが達者な僕は、ふざけて何度もメライちゃんの股をくぐった。メライちゃんが恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに「やめてよ」と声を上げるのが楽しくて仕方なかった。
とうとうメライちゃんの太腿で脇腹を挟まれた時は、なかなか水面に上がれず、呼吸が苦しくなった。もがいてなんとか抜け出した時は、手がメライちゃんの股間から乳房のあたりをすっと撫でてしまった。メライちゃんが官能的な声を上げていやがり、身を捩じると、僕の硬くなったおちんちんがメライちゃんの背中を滑った。
ぼんやりと滲むように池の水面に反射する月の光が広がる中、メライちゃんの膨らみつつある乳房が水面をパシャパシャと打ったり、すっかり泥の落ちた丸くて白いお尻が浮いたり沈んだりしているのを見るともなく見ているうちに、僕の欲望はとても高まってきて、次第に抑えるのが難しくなってしまった。
水中の草におちんちんやおちんちんの袋を撫でられるだけで、射精してしまいそうになる。水中の草がいっぱい生えているところでは、メライちゃんが手足に付着した水草を丁寧に取り払っていたけれど、おちんちんに絡み付いた草は、刺激を受けることなく取るのが困難だった。
池の中では岸から離れていても浅いところがあった。そこでは腹這いになって進む。柔らかいヌルヌルした泥がおちんちんにまた程良い性的な刺激を与え、僕の今の欲望をさらに高じさせるのだった。
頭がより強い刺激を求めて、しっかりした判断ができない。とにかく僕はずっとメライちゃんのことが好きで、Y美たちの苛めでどんな恥ずかしい目に遭わされても、それだけでメライちゃんへの切ない思いを断ち切ることなど到底できやしないのだから、二人だけでお互い全裸のまま夜の池で遊んでいる今の状況以上に二人の仲を進展させる好機はもう二度とあり得ないと考えるのは、とても自然なことだった。実際僕は、この機会を逃すほどに聖人でもなければ愚かでもなかった。
おちんちんが水中でメライちゃんの背中に当たった時、思わず喘いでしまった僕は、そのまま背後からメライちゃんを抱き締めた。前へ回した腕に力を込める。メライちゃんの乳房を下から持ち上げるようにして隆起させると、乳首を撫でようとして指を這わせた。ショートカットの黒髪が僕の目の前で揺れていた。僕はメライちゃんの耳たぶに向かって荒い息を吐き、「お願い、大好きだから」と囁いていた。
ついに乳首を探し当てた。ツンと尖ったそれを押し込む。いや、とメライちゃんが喘ぎ、体を揺すった。
マジックの練習で隠し箱に二人が閉じ込められてしまったことがあった。箱の中でメライちゃんは水着を脱がされ、二人は全裸で体を密着させたのだった。あの時は僕が前でメライちゃんは後ろだった。この位置関係は狭い箱の中では変えることができなかった。かてて加えて、回転扉におちんちんを挟んでしまった僕は動くに動けない状態だった。
今は背中ではなく、おちんちんのある体の前面でメライちゃんの裸体を感じている。ずっと硬化したままのおちんちんは、メライちゃんの股の下にある。下腹部にぴったりくっつくところをメライちゃんの体が上から押さえつけている状態だった。
これまで僕のおちんちんを見た女の人たちが何度も口にしてきたように、全然大きくないから、おちんちんを跨ぐ格好のメライちゃんをそのまま支えるには、しっかり体を合わせなくてはならなかった。メライちゃんのお尻を無理矢理広げるようにして、僕の下腹部を割り込ませる。
水の中で、おちんちんに股間を乗せたメライちゃんの裸身が上下に揺れ、ピチャピチャと音を立てる。池の水面を打つ音なのに、僕にはそれがメライちゃんの体の内奥にある粘膜を掻き回す音にしか聞こえず、悩ましく体をくねらせるメライちゃんの柔らかい肌を堪能するかのように、乳房、脇腹、お臍の回り、首から肩を撫で回し、時には衝動的に力を込めた。
むずがっていたメライちゃんもあまり余計な動きはしないようになった。大人しく、股間におちんちんを挟んだまま、水にぷかぷか浮いている。水を弾き返す肌が夜目にもピンク色に染まって見える。首から耳の裏側にかけて唇を這わせると、メライちゃんの口から切なく喘ぐ声が洩れた。
抱きかかえたメライちゃんのほんのりと熱を帯びた体を持ち上げる。押さえつけられていたおちんちんがぴょんと跳ねて、斜め上方を向いた。もちろんビンビンに硬くなったままだ。切なさと愛しさと欲望が一挙に胸を溢れて、息苦しくなる。僕の熱い切れ切れの呼吸はメライちゃんにも伝染したようだった。二人して無言のまま切羽詰ったような呼吸を繰り返している。
このままメライちゃんの柔らかくて温かい裸身を下ろせば、メライちゃんの女性である部分におちんちんが直に当たる。いや、当たるだけではない、ひっょとすると岩戸をこじ開けて、中に入ってしまうかもしれない。これって、つまりあの行為のことだろうか。これまで経験したことのない領域へ突入しようとしていることで、僕もまた味わったことのない興奮に包まれた。
黙って、ただ熱っぽい息を吐くメライちゃんは、背後から抱き締める僕に全身を委ねて、首を反らした。目が潤んでとろんとしている。持ち上げた裸身が僕の腕から抜けて、下りてくる。メライちゃんの口から動物めいた呻き声がこぼれた。僕も歓喜の声を上げてしまった。上向きだったおちんちんは、メライちゃんの肉の襞に弾かれてお尻の側へ移動すると、すっぽりとお尻の割れ目に嵌った。そこもすべすべして、滑らかにおちんちんがスライドする。
切なげに喘ぐメライちゃんの乳房へ後ろから手を回して掴むと、さっきよりも硬くなっていて、感度が増しているようだった。乳首を挟んだ指と指の間を狭めると、アアンという甘えたような声。僕は射精しそうになるのを我慢して、メライちゃんの体からいったんおちんちんを離した。
もうとっくに自分をモニタリングする機能は麻痺して、自制心が性欲の熱で蒸発したことにも気づいていなかった。
後ろからメライちゃんを抱えるようにして、池の中をお臍が水面からやっと出る程度の深さのところまで移動すると、メライちゃんの腰を掴み、お尻を前へ突き出す姿勢を取らせる。メライちゃんの艶々した口がぎりぎり沈まない位置まで腰を曲げさせる。
腰を揺さぶって、刺激を待ち構えるメライちゃんの背中は、白い魚のようにピチピチとうねった。メライちゃん感じてるんだ、と思うと、僕はお尻の柔らかい肉を掴み、おちんちんを突き立てた。
バランスを崩して、メライちゃんは池の中に顔を沈めてしまった。すぐに顔を出すと、口から水を吐き出して、目を細め、細い眉根に力を込めて、切なそうな横顔を後ろの僕に向けた。そして、もっと強い刺激を求めるかのように喘ぐ。
最大限に大きく硬くなったおちんちんは、これまで散々口さがない女の人たちに「小さい」と馬鹿にされてきただけあって、どうせ大した長さはないのだけれど、それでもメライちゃんの股間の襞の中に捩り込むくらいはできるような気がして、果敢に試みる。しかし何度やっても、おちんちんは襞をうまく突くことができず、すっぽり股間を抜けてしまうのだった。
水の中であること、そして背後から立ったままという体位は、初めての僕にはハードルが高すぎたのも知れない。だんだん焦りが生じてくる。おちんちんを突いて挿入を試みる度にメライちゃんは顔を池の中に入れてしまった。口から池の水をぽたぽた滴らせて、満たされぬ欲望の重さに喘ぐ。メライちゃんの小刻みに動く肢体がおねだりをする。早く、早く。駄目だ、またしてもおちんちんはむなしくメライちゃんの股間をすり抜けた。おちんちんの根元がメライちゃんの襞にぶつかった。
抵抗せず、それどころか自ら股を開いて、入れやすいように自分の顔が水の中に浸かってしまうのも厭わず、腰を背後にいる僕へ突き出していたのに、そして切なく震えるようなか細い声を絞って、お尻と腰をくねくねさせて、たまたま感じてしまった刺激から萌した、もっと強い刺激への欲望が満たされることを求めていたのに、どうしたことか、突然メライちゃんは夢から覚めた人のように抵抗を始めた。
「いや、やめて」
メライちゃんの首筋に唇を付ける僕に、鋭く叫んだ。
「ほんとにやめて、ねえ、ナオス君、やめてったらやめて」
後ろから腰に腕を回して暴れるメライちゃんを抑え込もうとした僕は、頬に肘鉄を食らって、初めてメライちゃんが本気でいやがっていることを知った。同時に、態度急変の理由にも気づいた。樹木と見まがう影が動いたのだった。一気に下がる体温。池の上の遊歩道に白いワンピースを着た人がいる。
「助けて、ひどい」と、メライちゃんが泣きながら僕から離れ、遊歩道の人影に向かって泳ぎ出した。
「なんで池に入ってんのよ、あんたは」Y美の声だった。懐中電灯が池の水面を照らした。僕はあまりのことに動けなかった。懐中電灯の明かりを動き回しても、池は広く、僕の立っているところまでは届かない。でも、急に冷たく感じられる水に浸かる僕からは、遊歩道の様子がよく分かった。他にも懐中電灯を持った人影がY美のところに集まってきて、わざわざ僕に見せるかのように、自分たちを照らした。
風紀委員とミューがメライちゃんを池から引き上げた。欄干に掛けておいたメライちゃんのスクール水着をぶんぶん振り回している横幅の広い影は、エンコだった。そのすぐ横に立つ白いワンピースの人影は、これはN川さんだろう。無事にメライちゃんを見つけることができて、彼女たちは肩の荷を降ろしたようだった。
懐中電灯で至近距離から顔や体をあちこち照らされ、メライちゃんは手で胸と股間を必死に隠している。胸を隠しながら手を伸ばしても、エンコは無情にも水着を遠ざけてしまう。わざと水着を近づけて面白がるのだった。
女子たちに取り囲まれ、メライちゃんは執拗な質問攻めを受けた。答えに納得しないのか、Y美はメライちゃんの髪の毛を掴んで揺すった。
腕が胸から下がって、メライちゃんの白くてなだらかな胸の膨らみが懐中電灯の光に露わになった。
「チャコ、お前がそこにいんのは分かってんだからね。早く出て来なさいよ」
一通り話を聞いたらしいY美は、遊歩道の手すりを下腹部に食い込ませて身を乗り出し、池の闇に向かって叫んだ。「女の子に悪さして、ただで済むと思ってんの?」
すると、風紀委員とミューとエンコとN川さんもY美に倣って手すりに並び、諦めて早く戻るように呼びかける。僕にお仕置きをするのが楽しみでならないかのような声の調子に、膝を曲げて肩まで池の中に沈めた僕は、身じろぎもしなかった。ただじっと息を殺して、事態が変わるのを待つ。水底の沼に嵌った足がゆっくりと、だが確実に沈んでゆく。事態は永遠に変わらず、Y美たちにこれから酷い折檻を受けるだろう運命から逃れられないのを告げるかのようだった。
「あんたみたいに裸じゃないから、私たちが池の中まで追ってこないと思ってんだね」と、Y美が声のトーンを落として言った。声量をうんと控えても、池の水面を滑ってしっかり聞こえる。Y美の冷やかな、怒りを抑えに抑えた感情までも夜の空気を震わせて伝わってくる。「だからって、いつまでもそこにいられる訳ないよね」と、Y美は続けた。
「お前が池の中でじっと様子をうかがってるのは知ってんだよ。どうせ私たちのことは見えてるんだろ?」と、Y美は懐中電灯の明かりを自分たちの方に向けて回した。風紀委員とミューに挟まれたメライちゃんの白い裸体の上を光が通り過ぎ、その先にいるN川さんとエンコを照らす。
「愚図愚図してると、それだけ罰が重くなるだけだからね。お前、自分がしようとしたこと分かってるよね」
「なんたって強姦未遂だもんね」と風紀委員が合いの手を入れると、女子たちのくすくす笑う声が不気味に池の上に広がってきた。
観念して戻るしかないとは思ったけれど、体が動かない。メライちゃんが手のひら返しをしてY美に助けを求めたという事実を僕は咀嚼することができないのだった。心のショックが大きく、目から涙のとめどなくこぼれるのを如何ともし難かった。
業を煮やしたY美たちはメライちゃんを使いに寄こした。あやまたず一直線に僕のところへ平泳ぎで来たメライちゃんは、許されてスクール水着をまとっていた。裸のままだと僕がまた性行為に及ぼうとするかもしれないと考えて、Y美がエンコに水着を返すように命じたのだった。でも、仮に裸のままだったとしても、もう僕に欲情する余裕はなかっただろう。おちんちんが小さく縮んで、メライちゃんの不器用な泳ぎで押し寄せてきた水に嬲られている。
「ナオス君、諦めが肝心だよ」、これが池の中で固まる僕へ寄こしたメライちゃんの第一声だった。「早くY美さんたちのところへ戻ろうよ」
自分がもう裸ではないという安堵感に支えられているのか、きっぱりと自信に満ちた口調で説得を試みる。
「なんで返事をしないの? ナオス君」と、俯いたまま動かない僕の顔を覗き込んで、メライちゃんが言った。「泣いてるの?」
首を横に振る。メライちゃんは溜め息をついた。「ま、ナオス君だけじゃなくて私も悪いんだって、ミューさんが言ってたから」と、濡れて重たくなった髪を素早く指に巻いて、耳の上に乗せると、申し訳なさそうに呟いた。「だから、私も罰を受けさせられることになったの。一緒にお仕置きされちゃうけど、仕方ないよ。そう思わない?」
また首を振る僕を見て、メライちゃんは小さく微笑んだ。「でも、また機会があると思うんだよね、私たち」
また機会があるって、どういう意味だろう。かすかに明るい希望が萌すのを感じて顔を上げると、メライちゃんが恥ずかしそうに上目遣いで微笑みながら、僕に体を近づけた。小さめのスクール水着がメライちゃんの肉体を実際以上に発育したように見せている。水面に反射した月の光を浴びて、濡れた唇が妖しい色に変化する。
掠れた声だった。ね、またしよう、と僕の耳に聞こえた時、メライちゃんの水中の手がおちんちんをまさぐった。ふにゃふにゃの柔らかいおちんちんを指で挟むと、手の中に収めるようにして軽く握り、そっと扱き始めた。指先がおちんちんの袋を軽く突き、撫でる。もう片方の手でおちんちんの袋を揉むのだった。その指先がお尻の穴に当たり、僕の体をキュッと締める。まるで締まるタイミングを見計らったかのようにおちんちんを扱く手の往復運動が速度を増す。
うう、と喘いでしまった僕は再び頭の中がジンジンと痺れるのを感じて、気だるさに抗うかのように水底の脛まで沈んだ泥から足を引き上げた。メライちゃんが顔を寄せてくる。小ぶりな唇がかすかに開いて、粘膜を帯びたような息を吐いた。僕は何も考えていなかった。ただ自分の唇をそこに合わせて、吸いたいと感じただけだった。そう感じた時には体が動いていた。
かつてないほどメライちゃんの顔に自分の顔が接近した。軽く目を閉じる。
キスと言えば、これまで全ておば様に無理矢理させられ、あるいは一方的に押しつけられ、舌でまさぐられた記憶しかない。それが今、自分からキスをしようとしている。生まれて初めてのことだった。しかも相手はメライちゃんだ。
おちんちんを扱かれる痺れにうっとりしながら、できるだけ神経を唇に集中させ、ぐっと唇を前へ差し出した途端、そこに存在する筈のものがなくなっていることに気づいた。と同時に、おちんちんを扱いていたメライちゃんの手が別の動きを始めた。おちんちんを掴み、ビンビンに硬くなったおちんちんの動きを封じている。
おちんちんにロープの輪の嵌る感触があった。ああ、と思った時にはロープの輪はおちんちんの袋を越えて根元に届いていた。メライちゃんは水の中でロープをぐっと引いた。おちんちんの根元がロープで締め付けられる。
「オッケーです。引っ張ってください」
遊歩道にいるY美たちに向かってメライちゃんは片手を上げると、大きな声で叫んだ。
嘘でしょ、何これ。急いでおちんちんの根元からロープを外そうとする。
おちんちんの袋の裏側のところに金具があって、ここでロープの輪の大きさが調整できるのだ。Y美が「ちん輪」と呼ぶ、おちんちんに括りつけて引き回したり拘束したりする専用のロープだった。ちん輪は首輪のように首に嵌めるのではなく、おちんちんに嵌めて拘束するものだから、その屈辱度合いは首輪の比ではない。
留め具を外せば輪を大きくできる。でも、遅かった。ロープの先は遊歩道のY美たちが握っていて、メライちゃんの合図と同時に引き始めた。すごい力で引っ張られる一方だから、とてもローブの輪を緩めることなどできやしない。
後ろへバランスを崩した格好だった。足は水底から離れて水中をむなしく掻き、上半身は仰向けのまま、水の中に沈む。腹筋に力を入れないと、顔を水から出せない。
鼻や口に容赦なく水が入ってくる。必死に顔を水から出して、おちんちんを締め付けられる痛みに呻きながら、「なんで」と声を上げる。「お願いだから、やめて、助けて」と口に入った水を吐いて訴える。
池の中を僕と平行して歩くメライちゃんは澄まし顔だった。
「ごめんね。でも仕方ないじゃん。こうでもしないとナオス君、来てくれないでしょ」
ちん輪でおちんちんを締め付けられる痛みから逃れるには、僕自らロープを引く方向に動いて、輪を緩めるしかない。でも、Y美たちは遊歩道という池の水面よりも高い位置からロープを引いているのだから、どうしても僕の腰が上がってしまい、自分から動くことなど到底叶わない。まさしく引っ張られるままだった。恥ずかしい。ロープを掛けられたおちんちんだけが水中から常時出ている。
「すごい。こんな風に引っ張られても、まだおちんちん大きくなったままだよ」
呆れたような顔をしてメライちゃんが下腹部へ反り返ったおちんちんを指で弾いた。「もしかして気持ちいいの? これからお仕置き受けるのにさ」
違う、と叫ぼうとして口に水が入ってしまい、むせる。「やだ。図星だからって慌てなくていいよ」と、メライちゃんが笑った。
腹筋に力が入らなくなった。水面を通してN川さんの白いワンピースが光って見えた。遊歩道のすぐ近くまで来たのだから、もうロープを引く必要はないのに、Y美たちは手をとめなかった。
やめて、痛い、と泣き喚く僕を無視して、Y美たちは魚釣りでも楽しむかのように、キャッキャッと騒ぎながらロープを引っ張った。
「ミューだけでなく荒山たちにも集まってもらえて、お前ほんとにラッキーだね」
気をつけの姿勢を取らされている僕のおちんちんを指で弾くと、Y美はしゃがんた姿勢から腰を上げた。抜き取ったばかりのちん輪を風紀委員である荒山さんに渡して腕を組み、感情の抜け落ちたような目で僕を見下ろしている。
こわい。これからどんな懲罰を受けさせられるのかと思うと、膝ががくがく震える。
水の上の遊歩道は人がすれ違える程の幅もなく、池にせり出している。けれど、池にさしかかったところだけ特別に横幅が広く、岸側の手すりのすぐ先は真っ暗な雑木林だった。メライちゃんと僕はそこに並んで立たされ、Y美たちの話し合いが終わるのをじっと待つのだった。口を挟むことは許されていなかった。周囲が静けさに覆われているものだから、ひそひそ話す声が針を刺すように聞こえてくる。
遊歩道から外れた暗がりに全身泥を塗りたくってすすり泣いていたメライちゃんと僕が対面し、一緒に池に入るまでの間、Y美はこのすぐ近くにミューの邸宅があることを思い出し、夜分にもかかわらず緊急事態だからと応援を頼みに行ったらしい。そこにたまたま風紀委員たちが泊まりに来ていたという訳だった。
慌ただしい出がけではあったが、懐中電灯のほか、ちん輪を用意させることも忘れなかったと、風紀委員はしきりにY美を褒めそやした。ミューの家はアウトドアグッズが豊富で、テント用品である金具付きのロープは幾らでもあるとのことだった。
「こんなちっちゃな、皮被りのおちんちんのくせに、彼氏持ちのメライに襲い掛かるとは油断ならないよね。玉潰しちゃおうか」と、風紀委員が言った。
「メライも裸で池の中に入って誘ったんでしょ? 被害者ぶらないで欲しいわ。メライにも絶対ナオス君と同じくらいの罰が必要」、これはミューの意見。
「とりあえず金玉一つ、潰しとく?」と、エンコが楽しそうに提案する。
玉潰しと聞いただけで、さっきY美に蹴られたおちんちんの袋がツーンと、思い出したように痛み出した。全く生きた心地がしない。ふと僕は、この即席の懲罰委員会にN川さんが加わっていないことに気づいた。
雑木林から太いライトがこちらに近づいてきた。おうい、そこで何してる、と男の警戒するような声がした。防犯係の腕章を付けた中年のグループだった。
すぐに帰りなさい、夜中のだるま池は危険だよ、と語気を強めて諭す。僕が一人だけ素っ裸で同学年の女の人たちに囲まれている異常性についても、それほど関心を示さず、とにかく帰った方がいい、女の子を強姦しようとしたのなら、また日を改めて罰しなさい、と年齢六十くらいの女性が帰宅を促した。
しぶしぶ従うことにしたY美は、腑に落ちないのか、なぜここにいてはいけないのか、とおじさんに質問をした。私たち誰にも迷惑かけてないし、と不満げに付け加えると、おじさんはにっこり笑って、「出るんだよ」と返した。「若い女の幽霊がな」と、手首を胸の前でぶらぶらさせた。
気づくと、僕は「もしかしてその女の幽霊って、白いワンピース着てますか」と訊ねていた。おじさんの顔が一瞬にして強張った。隣の中年女性が「あなた、見たの?」と、なぜかおちんちんを隠す手の甲をぴしゃりと叩いて声を荒げた。
見たも何もない。N川さんと思っていた女の人は、再び現れたばかりだった。振り向いて、僕が池から引き上げられた辺りを指先で示すと、そこにぼんやりと白い影が浮かんでいた。やや早足にこちらへ向かってくる。ここまで近づくともうN川さんと見間違うことはない。全くの別人だった。N川さんの目はあんなに赤くない。
そこから先のことは記憶が曖昧になって、うまく思い出せない。とにかくY美たちはパニックになって一目散に駆け出した。怖がりの僕だけど、なぜかこの時だけは比較的冷静だった。素っ裸で置いて行かれるのがいやなばかりにY美に続いて走ったけれど、他の女子たちのようには悲鳴を上げなかった。
だるま池にここ一ヶ月くらい前から女の霊がよく目撃されるようになったという話を後日、メライちゃんから聞いた。メライちゃんも知らなかったようで、近所の人から教えてもらったそうだ。だるま池やその付近では、特段の事件は起こっていない。なぜ霊が出現するようになったのか、近隣の人は首を傾げているという。ともあれ、僕はお仕置きが無期限に延期されたことで、とりあえずホッとしたのだった。
やっと最新話が出まして感動です。
ずっと更新を待ってますよ
すごくいい感じの展開ですね…Y美と自転車二人乗りにメライちゃんとの水中SEX(未遂)、幽霊オチと怒涛の展開が面白いです。
もう夏も終わりですが、お話の中ではまだまだ夏が続きます。
いつもありがとうございます。
読むの早っ(笑)
嬉しく思います。感謝!
心待ちにしておりました。
メライちゃんと二人きりで泳ぐシーンは幻想的ですね。
そして待ちに待った海水浴編ですね。こちらも楽しみにしてます。あと劇中で制服以外服を捨てられてしまったのにあまり気にしてないようなのが意外でした。
服が捨てられた件ですが、夏休みに入ってからはほとんどまともに服を着ていないので、割とあっさり流してしまいました。
よくあることですが、こうした仕打ちに対する反応は後からネチネチ出てきます。その時って意外に反応できないものですね。
このブログを始めて読んだのが衣類没収辺りで、数日かけて内容全部読んでましたね…
ストーリーがものすごくハマりやすいんです。
夏はまだ続くとのことで楽しみです。
無理をなさらず続けていただければ幸いです。