晩秋の日曜日、午前中に地域の防災訓練を実施した後、午後には山響こと山形交響楽団の第321回定期演奏会のために、山形市の山形テルサホールに向かいました。雲の切れ間から太陽がのぞくお天気となり、風は冷たいけれど車内はぽかぽか暖かく感じます。ホールに到着すると、まもなくプレコンサートトークが始まりました。今回のプログラムは、
- モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調 K.216 Vn: ジュリアン・ラクリン
- モーツァルト:交響曲 第36番 ハ長調「リンツ」K.425
- ヒンデミット:ヴィオラと弦楽オーケストラのための葬送音楽 Vla: ジュリアン・ラクリン
- シューマン : 交響曲 第4番 ニ短調 作品120
というもので、山形交響楽団を指揮するのもジュリアン・ラクリンさんですので、ヴァイオリン、ヴィオラ、指揮の三刀流!です。実は首席コンサートマスターの髙橋和貴さんは、ウィーンでラクリンさんに師事した間柄なのだそうです。そんなわけで、最初は髙橋さんが西濱事務局長に答えます。ある日本の評論家がウィーンでインタビューした時、クラウディオ・アバドとリッカルド・ムーティが、まだ若い20代のラクリンさんに注目して「覚えておくように。後々、彼は素晴らしい音楽家になるだろう」と言ったのだとか。そして実際そうなりました。そのラクリンさんが登場、今回の曲目について語ります。魅力的なヴァイオリン協奏曲第3番の後、「リンツ」交響曲はモーツァルトの若い頃の作品と比較して少し楽器編成が大きくなり、充実してくる。ヒンデミットはジョージ5世の葬儀に際して急遽作曲された美しい曲。シューマンはクララと結婚した直後の幸福な時期を反映した明るい曲、とのことです。西濱事務局長が、山形牛が食べられるように、また来てほしいとお願いすると、ラクリンさんは、美味しいビーフと素晴らしいオーケストラと山形のホスピタリティと別れて、明日帰らなければいけないのが悲しい、また来たいとのことでした(^o^)/
さて、第1曲:モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番。楽器編成と配置は、ステージ左から順に第1ヴァイオリン(8)、第2ヴァイオリン(7)、ヴィオラ(5)、チェロ(5)、その右手後方にコントラバス(3)という弦楽5部、正面後方にフルート(2)、オーボエ(2)、その後方にホルン(2)というものです。「なにかいいことありそうな」期待を抱かせる始まり、という印象を持っている曲の冒頭、華やかな高音域を強調するのではなく、弦楽の中音域を前に出した響きです。もしかしたら、ヴァイオリンとヴィオラの両方を演奏するジュリアン・ラクリンさんは、こういう響きが好きなのかもしれない、と感じます。息を呑むような静けさの中、展開されるカデンツァの見事なこと。第2楽章のやわらかな始まりも、中音域を大切にしているように感じられます。第3楽章の楽しさも見事で、独奏ヴァイオリンと指揮と両方をこなす姿は颯爽としたものでした。
聴衆の拍手に応えて、アンコールは J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番、BWV1004、第3曲サラバンドでした。絶妙の弱音のコントロールに魅了されました。
続いて第2曲はモーツァルトの交響曲第36番「リンツ」です。編成と配置は、左から 1st-Vn(8), 2nd-Vn(7), Vla(5), Vc(5), Cb(3) の弦楽5部、正面後方に Fl(2), Ob(2), Hrn(2), Tp(2), その奥に Timp. というものです。第1楽章:アダージョの序奏に続きアレグロ・スピリトーソ。いきいきとしていて、かつ堂々としている音楽です。第2楽章:アンダンテ。弦楽が中心となる緩徐楽章。山響の弦楽アンサンブルの澄んだ響きはまた一段と美しく、見事です。リズムがおもしろい第3楽章:メヌエットから第4楽章:プレストへは休み無しに続きます。うーむ、指揮者ラクリンさんの面目躍如といったところでしょうか。最前列までほぼ満席の聴衆はおお喜び。
ここで、15分の休憩が入りました。ホワイエではコロナ禍前のようにコーヒー等のサービスが入っていて、お客さんが思い思いにくつろいでいました。このあたりも、なんだか嬉しくなります。
後半に入り、第3曲はヒンデミットの「ヴィオラと弦楽オーケストラのための葬送音楽」です。ヴィオラを持ち、ラクリンさんが登場、英国王ジョージ五世の訃報に接してわずか一日で作曲されたという音楽を、作曲家と同じようにヴィオラを演奏しながら8-7-5-5-3の弦楽セクションを指揮します。初めて接する曲ですが、とてもいい音楽だと感じました。
聴衆の拍手に応えていったん袖に引っ込んだ後に、山響の楽員が勢揃いし、ラクリンさんが指揮棒を持って登場します。第4曲、シューマンの交響曲第4番です。Fl(2), Ob(2), Cl(2), Fg(2), Hrn(4), Tp(2), Tb(2), Timp. と弦楽5部という編成のこの曲、出だしはちょっと暗い感じで始まるけれど、実はシューマンがクララと結婚した頃の作品を十年後に改訂して発表したもので、けっこう明るく力強さもある音楽です。ですから昔風に、いかにも重々しく演奏されるとちょっと違うなあと感じてしまうのですが、そこはラクリンさん、速めのテンポで活力に富むいきいきとした表現です。モダン・ティンパニをけっこう力いっぱい叩いているし、金管も高らかに鳴り響きます。緩急をうまく使って、パンチの効いた盛り上がりは、パワフルな若々しいシューマンという感じ。演奏が終わるとブラヴォーが飛び、すごい拍手でした! いや〜、良かった!
そういえば、ラクリンさん、山響の満席のお客さんの中に、若い人がけっこう多いことに驚いていたそうです。実はスポンサーとなっている山形食品等の企業が若い高校生等を招待するパートナー事業をやっているからという説明を聞いて、それは良いことだね〜と感心していたそうな。確かに、世界的にはクラシック音楽の演奏会では聴衆の高齢化が進んでいるのが悩みだそうで、その意味では山形の「音楽教室→パートナー事業→聴衆を育てる」試みが着実に歩みを進めていることは稀有な現象なのかもしれません。
世界の一流演奏家が山形に来て山響でその力を発揮してくれることに感謝しつつ、そういう環境を育て維持している山響と地域の力に誇りを持って良いのかな、と嬉しくなりました。
ジュラアン・ラクリンさんの登場とは、素晴らしいです。聴いてみたいヴァイオリン奏者でもあり、また、曲目が魅力的で、なかなか組めないプログラムですね。
モーツァルトの交響曲第36番とシューマンの第4番が、一つのコンサートで聴けるとは。山形交響楽団の団員も充実しているのだと、改めて、思いました。
>こんにちは... への返信
コメントありがとうございます。ジュリアン・ラクリンさんとソロ・コンサートマスター髙橋和貴さんとのつながりでビッグネームの来演となり、大喜びしています。そして三刀流の実際の演奏に触れてまたまた大感激。とりわけシューマンが良かった!素晴らしかったです。山形に、山響にまた来てほしいと願っています。「山形の聴衆の文化的な高さ」をラクリンさんが言及していましたので、ヒンデミットでは指揮棒が完全に下りるまで拍手が出ない等のマナーも含めて、気に入ってもらえたのかなと思います。