電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『花芒ノ海~居眠り磐音江戸双紙(3)』を読む

2008年10月10日 06時22分39秒 | -佐伯泰英
双葉文庫で、佐伯泰英著『花芒ノ海~居眠り磐音江戸双紙(3)』を読みました。作者がどのように意図しているのかはわかりませんが、たいへんに急展開で、まさにノンストップ・ストーリーです。

本作の冒頭の、浪人ぐらしで生計の道を探るあたりは、お手本とした藤沢周平の『用心棒日月抄』と共通のパターンで、人物造型も細谷源太夫と竹村武左衛門とはよく似ています。でも主人公のキャラクターはだいぶ違い、こちらは剣は強いがどうもぼんぼん育ちのようで、周囲がいい人ばかりで助かっている、という面もありそうです。

そのいい例が第1章「夏祭深川不動」。前作では血も涙もない金貸し兼やくざの一家として登場したはずなのに、いつの間にか深川の夏祭りを悪者の手から守る立場になっています。まあ、さすがにそれだけには終わらず、国元の豊後関前藩の騒動は続いていることが示されます。主人公坂崎磐音の父・坂崎正睦が蟄居閉門の憂き目にあい、許嫁は生活のために店勤めに出ることになっている、という具合です。
第2章「幽暗大井ヶ原」では、今津屋の奉公人の大黒柱である老分の由藏の危難を救い、磐音の評判は花マル急上昇。大店のスポンサーがついて、生活苦も当面解消のようです。このあたり、『用心棒日月抄』とはだいぶ違い、固定スポンサーになっています。作者の生活安定志向のあらわれでしょうか。
第3章「宵待北州吉原」のエピソードは、もしかすると今後の磐音と吉原の縁の始まりでしょうか。
第4章「潜入豊後関前」では、磐音が早足の仁助とともに豊後関前藩に潜入し、旧主実高と会い、悪家老一派と対決するために働きます。
第5章「恩讎御番ノ辻」。ついに蟄居中の父と再会し、悪家老一派の隠し借金の策謀を説明、目付の中居半蔵とはかり、粛正を断行します。しかし、許嫁の奈緒は身売りが決り、遊里に去った後でした。

スピーディな展開は、まるでファンタジーの世界です。もしかすると、中高年御用達の時代劇版ハリー・ポッターかもしれません。そんなふうに割り切って、面白く読みました。

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2 コメント

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文春文庫の (こに)
2021-09-24 07:58:29
巻末に収録されている対談に藤沢周平さんの「蝉しぐれ」の恋と、磐音と奈緒が重なる、「密命」は「用心棒日月抄」の世界の模倣、柴田錬三郎さんに始まり、多くの先輩時代小説家のツギハギだらけ、とありました。児玉清さんに、双葉文庫での書下ろしは劣等感みたいなものが支えになっているみたいだけれど売れる本があるから売れない本も存在できる、と言われ文学賞を狙っていたのが肩の力が抜けたそうです。
裏話から作者の思いを知ると、小説世界が広がって面白いものですね。

あ、
磐音と奈緒が「蝉しぐれ」と重なるということは…
ということでしょうか?
だとしたら哀しいです。

>中高年御用達の時代劇版ハリー・ポッター
これはウケました!
(*´▽`*)

https://blog.goo.ne.jp/mikawinny/e/d8d97cd2b0fa232fa968f1166e14d7bc
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こに さん、 (narkejp)
2021-09-24 09:08:17
コメントありがとうございます。文春文庫の「決定版」は、どの程度の加筆があるのかわかりませんが、大筋は変わらないでしょうから、磐音と奈緒は文四郎とふくと同様ですね。作者は恋愛小説は得意じゃないと自分で言っていたはずですが、主人公にまつわる二人の女性の三角関係などは上手に取り入れるようですよ。あちらに揺れるとこちらが不憫、こちらに揺れるとあちらが可哀想、という古典的なやつ(^o^)/
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