先ごろ今年のエミー賞ノミネートが発表された。話題は最多ノミネートの『ザ・クラウン』や『マンダロリアン』に集中しているが、PeakTVにおいて真に多様で複雑な進化を続けているのはコメディ部門である。昨今の受賞作を振り返っても殺し屋の主人公が演劇養成所に通うバイオレンスコメディ『バリー』や、山の手の奥様がお笑い芸人を目指す一代記『マーベラス・ミセス・メイゼル』など、単純に面白おかしいだけではなく"コメディ”の定義に挑み、キャラクターを掘り下げた所謂"ドラメディ”と呼ばれる作品が多い。
『フライト・アテンダント』もソール・バス風のオープニングタイトルからして往年のヒッチコック映画を思わせるサスペンスだが、全米の各アワードでは"コメディ”としてカテゴライズされている。国際線のフライト・アテンダントが殺人事件に巻き込まれるシーズン1は血の量と同じくらいギャグが盛り沢山だ。そんな本作の推進力となるのが製作総指揮も兼任する主演ケイリー・クオコである。
彼女が演じる主人公キャシーは恵まれたルックスと奔放な性格な持ち主で、おまけに大の酒好き。飲めば止まらず、その勢いで一夜限りのセックスに及ぶこともしばしばだ。今日もファーストクラスのイケメン、アレックス(『ゲーム・オブ・スローンズのダーリオ・ナハリスことミヒル・ホイスマン)と意気投合し、到着地シンガポールで甘い一夜を過ごすことに。ところが朝になって目覚めてみると、隣には首をかき切られたアレックスの死体が…。
『フライト・アテンダント』はヒロインの行動にまったく共感できない所に面白さがある。酒飲みのキャシーは昨晩の記憶も定かではなく(突発的に思い出すこともある)、ほとんど二日酔い状態。血中アルコール濃度が高い時にありがちな、行き当たりばったりの行動が予測不可能なサスペンスと笑いを生んでいる。実は彼女、酒飲みどころか重度のアルコール中毒であり、それはやはりメンタルヘルスの問題に結びついていく。これは犯人探しのサスペンスであると同時に、彼女がアル中から脱するまでの成長物語でもあるのだ。ケイリー・クオコはまさに大車輪の活躍で、1エピソードのほとんどが泥酔状態の第6話には圧倒されてしまった。
スプリット画面やギョッとする脳内独白シーンなど映像的お遊びはあるものの、カメラやキャスト陣に華が乏しく、"ひと昔前のTVドラマ”のルックを出ないのが惜しい。シリーズ継続を見込んだロージー・ペレスのサブプロットも1シーズン8話というタイトさで突っ切るサスペンスの勢いを削いでおり、煩わしくはある。それでも最終回で示された続編への意外な伏線に期待が高まった。エミー賞での善戦が今後のシリーズ継続の大きな弾みになるだろう。
『フライト・アテンダント』20・米
監督 スザンナ・フォーゲル、他
出演 ケイリー・クオコ、ミヒル・ホイスマン、T・R・ナイト、ロージー・ペレス
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます