長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ベター・コール・ソウル シーズン1~4』

2018-12-22 | 海外ドラマ(へ)

『ベター・コール・ソウル』は『ブレイキング・バッド』に登場した名脇役、悪徳弁護士ソウル・グッドマンを主人公にしたスピンオフ作品だ。舞台は『ブレイキング・バッド』以前、ソウルは本名をジミー・マッギルといい、国選弁護人として軽犯罪者を弁護、日銭を稼ぐ毎日を送っていた。事務所を構える金もままならず、台湾式マッサージ店の物置を借りてはオフィス代わりにするうだつの上がらなさだ。

本作は『ブレイキング・バッド』と似て非なるグルーヴのドラマだ。バイオレンスや殺人、麻薬カルテルの抗争は遠景に過ぎず、ジミーの奮闘にスポットが当てられた人間ドラマとなっている。ケチな詐欺師だったジミーは敏腕弁護士である兄チャックによって更生、通信教育で司法試験に合格した後、兄の経営する大手法律事務所HHMでメールボーイとしてキャリアをスタートした。だが法律家として名高い兄から見ればジミーは所詮“不肖の弟”。弁護士としての所属なんて許されない。無名の通信制大学で学んだなんてもっての他だ。ドラマはこの兄弟の愛憎入り混じった骨肉の争いを中心に展開していく。

『ブレイキング・バッド』のスリルやサスペンスを期待した人には肩透かしに感じるかも知れない。昨今のツイストやクリフハンガーにあふれ、奇抜なストーリー展開のドラマ群と比べるとずっと地味だが、ヴィンス・ギリガンら製作陣の手腕は円熟の極みにあり、実に“大人っぽい”のである。セリフよりも描写で見せる脚本、演技派俳優たちの誠実な演技、抑制かつ無駄のない洗練された演出…『ブレイキング・バッド』以後、充実を極める“ピークTV”によって鍛えられた僕達が今こそ見るべきドラマなのだ。

【ダークサイドへ】

麻薬カルテルともパイプを持つ海千山千の悪徳弁護士ソウルを知っているだけに、ジミーがどうやって“ダークサイド”に転じてしまうのか、興味が尽きない。ジミーは誰からも愛される熱意に満ちた弁護士だが、生来の要領の良さから度々、法の枠を超えた裏技を使ってしまう。

『ブレイキング・バッド』が余命いくばくもない主人公が麻薬密造を始めるという、悪への転落を劇画的に描いていたのに対し、『ベター・コール・ソウル』はジミー本人すら自覚していない程のゆっくりしたスピードで人が悪へと転落していく様を描いている。それはやがて本人だけではなく、周囲の人々にも影響を及ぼし、歪を来していってしまう。兄チャックやジミーの唯一の理解者となる恋人キムは後の『ブレイキング・バッド』には登場しない。それがいったい何を意味するのか。後の物語を知るからこその悲劇の予兆に胸騒ぎが止まらなくなってしまうのだ。

【ブレイキング・バッド2002】

シーズン3からはもう1人の主人公とも呼べるマイク・エルマントラウトを入り口に、『ブレイキング・バッド』の名物キャラクターが続々と登場し始める。車椅子と呼び鈴が強烈なインパクトを残したヘクター・サラマンカも本作では現役バリバリのヤクザだ。そして最大のヴィランであるガス・フリングはいよいよそのドラッグビジネスを巨大化させる直前にあり、マイクの人生に大きく関わり始めていく。

その他、後にソウル・グッドマン事務所でも受付を務めるフランチェスカなど本編の脇役も多数登場しており、『ブレイキング・バッド』の記憶を呼び起こしながら見ていくイースターエッグ探しのような楽しみもある。

一方、前述のキムやチャック、そしてサラマンカの片腕である穏健派ヤクザのナチョなど本編に登場しない重要なサブキャラクター達がミッシングリンクをどのように埋めていくのか興味がつきない。さり気なく登場した脇役が後に重要な役割を果たすなど、人物配置は『ブレイキング・バッド』以上に巧妙だ。

 【完結編は映画版か?】


 先頃、『ブレイキング・バッド』続編が長編映画として企画されている事が明らかになった。数々のドラマ、映画に影響を与えてきた本シリーズとしては当然の流れだろう。噂によるとジェシー・ピンクマンのその後が描かれるというが、当然『ベター・コール・ソウル』も直結してくるのではないだろうか。本作では毎シーズンの冒頭、『ブレイキング・バッド』後の潜伏生活を続けるソウルが描かれている。彼が自分の人生にどのような決着をつけるのか?拡張し続ける“ブレイキング・バッドユニバース”の到達点は映画、ドラマ界に大きなムーヴメントを引き起こす事だろう(ひょっとしたらピークTVの節目になるかも知れない)。まずはファイナルとなるシーズン5を心して待とう。


『ベター・コール・ソウル』15~・米
監督 ヴィンス・ギリガン他
出演 ボブ・オデンカーク、レイ・シーホーン、ジョナサン・バンクス、マイケル・マッキーン、パトリック・ファビアン、ジャン・カルロ・エスポジト

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