長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ルーム』

2016-12-04 | 映画レビュー(る)

 4畳ほどの狭い部屋にトイレもベッドもお風呂もキッチンも揃っている。そこには“ママ”と5歳になるジャックが仲良く暮らしている。外界との接点は電子ロックで固く閉じられたドアと小さな天窓のみ。世界はこの“部屋”を残して滅んでしまったのだろうか?

『ルーム』は先の予想がつかないスリリングな映画だ。まるで宇宙に浮かんでいるかのような“部屋”を描く序盤の寓意性から一転、サスペンスへと転調する。ママは誘拐され、7年間この部屋に監禁されているのだ(そしてジャックの出自も観客は自ずと知る事になる)。息詰まる脱出劇。しかし、映画が本題に入るのは数多の誘拐劇が描いてこなかった脱出後からである。

加熱するマスコミ報道、両親の不和。誘拐を期に離婚してしまった父がジャックの存在を受け容れられない葛藤をレニー・アブラハムソン監督は何気ない食卓シーンに不穏な空気を漂わせる事で描出する事に成功している(父役ウィリアム・H・メイシー、母役ジョアン・アレンの的確な助演は言わずもがな)。

原作者エマ・ドナヒューが自ら手掛けた脚本は5歳児の目を通して世界の美しさを肯定し、現実の過酷さを直視しようとする。“部屋”はジャックにとって5年間続いてきた子宮であり、ママと2人の時間はそれがセカイの全てだった。だが世界は広い。美しいものに溢れ、無限のように空が広がり、理不尽に晒され、そして自分の足で歩いて行かなくてはならない。大人ですら忘れていた生きる事の現実をまっさらな純真さで体現したジェイコブ・トレンブレイ君こそが本作の主役であり、この映画のスピリットに他ならない。

 一体、彼にどこまで理解させて撮影したのか興味は尽きないが、母親役のブリー・ラーソンはブレイク作
『ショート・ターム』と変わらぬ実直さでトレンブレイ君から演技を引き出し、困難な役に立ち向かっている。思いがけず早咲きした若きオスカー女優の今後に期待だ。


『ルーム』15・加、アイルランド
監督 レニー・アブラハムソン
出演 ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ウィリアム・H・メイシー

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