長内那由多のMovie Note

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『ゲーム・オブ・スローンズ第7章 氷と炎の歌』

2017-09-05 | 海外ドラマ(け)

※ネタバレ注意!このレビューは物語の結末に触れています※
※シーズン8のレビューはこちら※



おいおい、みんな。
ジョージ・R・R・マーティンがいつまで経っても続きを書かないからって、彼の小説を原作としたドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』が永遠に終わらないと錯覚してやしないか?

とんでもない。
シーズン7が終って残りはたったの6話だ。6話。
みんな7年間もこの旅路によく付き合ったよ。昨年末から慌てて見始めたオレでさえ、感無量だ。
今シーズンは全7話しかなく、主要キャラもどんどん粛清されてまるで富野演出みたいなスピード感だった。
(※註:富野演出=富野由悠季。『機動戦士ガンダム』シリーズで知られるアニメ作家。初期は最終回で登場人物ほとんど全てを死なせる剛腕演出で視聴者の多くにトラウマを与えた)

ラスト6話となると『Zガンダム』でいえばゼダンの門にアクシズがぶつかって、最終回まで毎話メインキャラクターが死んでいく閉店セール状態だ。

そう、『ゲーム・オブ・スローンズ』はもうゼダンの門が崩壊して、シャア、シロッコ、ハマーンの3勢力が拮抗し、戦争が激化する最終局面なのだ。僕らが思っている以上に終幕は近い。展開が早いのは当然だ。もうクライマックスなのだから。

ここでは登場人物、勢力別にシーズン7を振り返ってみたい。


↑急展開すぎると酷評された第5話。アガるから良い。

【ジョン・スノウと北部連合】
ラムジー・ボルトンを撃破し、故郷ウィンターフェルを奪還したジョンは落とし子の身分でありながらスターク家の頭領となった。しかし問題は山積だ。勝利に貢献したサンサは(女だからと)正当に評価されていない事に不満げだし、一度は離散した北部の旗本達は浮足立っている。こちらの味方に見える小指はスターク家を離間させようと画策しているようだ。そうこうしている間にも壁の向こうでは死者の軍勢が日に日に勢力を拡大し、いつ南下してくるとも知れない。

シーズン5のティリオン×デナーリスの合流のように、今シーズンもいくつもの支流に分かれていた座組が本流へつながる醍醐味があった。その筆頭がジョンとデナーリスの邂逅だ。第3話、ドラゴンストーン城での初会合は手に汗握る緊張感だった。ジョンはこれまでの経験から偽政者に対する不信が強い。服従を強いるデナーリスは信頼してはいけないそれだ。そんな彼女と少しずつ距離を縮めていく過程が今シーズンの見所であった。

その結果は…多くの予想通り、甥と叔母の関係である事が明かされた。
2人の間に愛はある。だが、近親相姦だ。これで2人は対するサーセイとモラル的に同じ立ち位置になってしまった。シーズン8の見所の1つはこの真実を知ったジョンとデナーリスの葛藤になるだろう。

一方、シーズン7で最も停滞したプロットの1つがウィンターフェルで再会したスターク姉妹の確執(?)だった。
ジョンの留守を預かる名代サンサは全てをコントロールできるという自信と欲求があるが、妹アリアは何を考えているかさっぱりわからず、遠回しな言い方で何かと絡んでくる。
とっくに社会的な地位にあるサンサからすればたまったもんじゃない。迫り来る冬を前に食糧難も喫緊の問題だ。それなのに弟ブランは「時が見える」とかわけわかんないこと言ってるし、アリアは人面を持ち歩く殺し屋に成長している。あたし、忙しいのにこのコ達なんなの!!

ところがこれは暗躍する小指を嵌めるための一芝居だった。
これまでも巧妙な謀略でのし上がってきた小指は、ウィンターフェルの合戦で谷間の騎士を動員し、サンサへ貸しを作った事で優位に立ったつもりだった。サンサを自分のものにできる。そのためには彼女を兄弟と対立、孤立させ、自分の庇護の下に置こう。そしてこの戦乱の世を切り抜ける知恵を授けるのだ…文化系説教ジジイ特有の年下女子への所有欲が彼の目を曇らせたのだろう。最終回、ついに下る天誅に世界中が大喝采を送った(リアクション動画を見るとみんなワールドカップで自国が優勝したみたいな喜びようである)。

この対リトルフィンガーの騙し合いはプロットが不鮮明でさっぱり乗れなかったが、それでもサンサ役ソフィ・ターナーは今シーズン最も演技的見せ場があった。

他のキャラクターが最終回へ向けてプロットを転がすのに終始する中、サンサには心理的葛藤があり、そして大きな成長を遂げる。周囲に翻弄され、流されるがままだった少女はついに学び、自らの力で社会に地位を築いたのだ。


【デナーリスと反乱同盟軍】
8千人の最強傭兵軍団アンサリード、数万の騎馬民族ドスラキ、そして大量破壊兵器ドラゴンを3頭も連れたデナーリス軍は圧勝体勢だった。
だが、番狂わせがあるからこそ勝負事は面白い。曹操が赤壁で焼かれる方が『三国志』は盛り上がるし、ジャイアンツをうっちゃる方がドームも燃える。思いがけず劣勢の続いたデナーリスがついに自ら戦場へ赴く第4話『戦利品』は今シーズンのハイライトだ。

ハイガーデンを陥落したラニスター軍の輜重隊をドスラキ軍とドラゴンが強襲。ドロゴンが次々と荷馬車を焼き払うカタルシスはファンが長年求めてきた絵そのものだ(ドラカリス!)。ここではデナーリスのみならず、ジェイミー、ブロンら主要登場人物全員に死亡フラグが立ち、心臓に悪すぎる一大スペクタクルが展開。次第にドラゴンの情け容赦ない殺戮に僕らも戦争の非道さを知るという傑作エピソードであった。

シーズン6でその王佐の才を認められ、ついに仕えるべき主君を見つけたティリオンに新しい物語が見いだせないのが歯がゆい。
軍師としての才能も兄姉たちの方が一枚上手。では彼に残された物語とは何か?分断のこの時代、生まれの容貌から虐げられてきた彼こそが対立する勢力の融和を説くべきではないのか。『ゲーム・オブ・スローンズ』が2018年に完結する意味とはそこにあるような気がする。

祝、ジョラー・モーモント復活!
石化病ってあんなスタンダードな外科治療で治るのか!!
ともかく愛しのカリーシにハグされたり、手にチューできたりとか幸せの極みのジョラーだが、その都度、周囲の目線を気にしちゃう奥手ぶりが可愛いwでもせっかく戻ってきたのに、カリーシは北の王に気がある様子…片想いする男の勘はティリオンよりも鋭かったぞ。
そんな彼が父の形見であるロングクロウの扱いについてジョンと語り合うシーンがいい。落とし子として蔑まれ、ナイツウォッチとして一時は所帯を持つことも諦めたジョンに「いつか、子供たちへ受け継いでくれ」というジョラーの言葉は泣けた。ジョンはもう一人じゃないのだ。


そうそう、立ち姿とアフロヘアが麗しいミッサンデイちゃんはついにグレイ・ワームと結ばれた。冬来る『ゲーム・オブ・スローンズ』で最後のヌードシーンであろう。いいもの見せてもらいました!

↑ガールズトーク中

【サーセイ・ラニスター、王都正規軍】
圧倒的不利を軍略で逆転するサーセイ軍には軍師がいたのだろうか。
王都包囲に向かったヤーラ・グレイジョイの船団をユーロンが夜襲を仕掛けて殲滅。キャスタリーロックへの進軍も空城の計でかわし、本隊はハイガーデンを攻撃してタイレル家の資産を根こそぎ強奪した。サーセイの腹黒さ、ジェイミーの大将としての才、それにクァイバーンの奇策も加わったのだろう。NHK大河なら合戦前の腹の探り合い、幕中会議と権謀術数で1話はやれる内容だが、『ゲーム・オブ・スローンズ』はシーズン2の時点で本格的合戦シーンもやれる予算があった。第5話でサーセイの部屋からクァイバーンが出てくるシーンが2回ある。これが謀略の伏線だ。

サーセイは『ゲーム・オブ・スローンズ』史上最強のヴィランだが、それでも人の親である。
捕縛したドーンの母娘をそれはそれはえげつない方法で拷問する彼女には娘を奪われた母の怒りがあり、その血を吐くかのような哀しみは僕らの心を打つ。レナ・ヘディ、大した女優だ。

ジョン&デナーリスと対ホワイトウォーカー同盟を築くかと思われたサーセイは、シーズン8では疲弊した両陣営を潰し、漁夫の利を得ようとするだろう。願わくばこの稀代の悪女に相応しい結末を期待したい。その鍵は…何年も前から囁かれてきたファンセオリーだが、ジェイミーだろう。真なる騎士道に目覚めた彼が“王殺し”の悪名を勇名に変えるかもしれない。

シオンは禊をするためにもユーロン・グレイジョイを倒さなくてはいけない。こういう戦争を楽しむような下劣な奴は倒さなくてはいけない。


↑中二はみんな欲しいドンダリオン剣。

 【シーズン8で見たいもの】

シーズン7、8が従来の10話より短い理由は資金問題らしい。
さすがのHBOもドラゴンを飛ばしながらダイアウルフを走らせられないのだそうだ(しかも同時に『ウエストワールド』も作っているんだから、素人考えでは破産するのではと心配になってしまう)。くそう、鉄の銀行を呼べ!

シーズン8ではこの辺のエピソードも拾ってほしいなぁ、と妄想↓
・アリア、トップ・オブ・ザ・リスト(サーセイ)に殺しの烙印を押す。
・ハウンド、魔改造マウンテンを倒してトラウマを克服する(その前にアリアと再会)。故障したマウンテンはクァイバーンを巻き込んで自爆。
・ブラン、いい加減に三つ目の鴉の存在意義を視聴者にも知らしめる。
・6度死んだドンダリオン、甦りの意味を知る。
・ブロン、実は生きていたサンドスネーク娘と再会。身を固める。
・トアマンド×ブライエニー×ジェイミー、恋の三角関係の結末。

残り6話じゃムリか!


↑ダイアナ・リグ、素晴らしい花道だった。


【受け継がれる父の意志】
怒涛の勢いのシーズン7だったが、最終回終幕の余韻は忘れがたい。

全ての黒幕リトルフィンガーを粛清し、最愛の妹アリアと城壁に立つサンサ。冬の到来は目前だ。
彼女の心には断頭台の露と消えた父エダードの言葉が甦っていた。

「白い雪が降り、白い風が吹き、孤狼は死んでも、群狼は立ち上がる」

厳しい冬に曝されるウィンターフェルでは人々が手を取り合い、団結しなくては生きていけない。
それが父の教えだった。

もう何年も涙を流すことなく、非情の心を身に付けていたアリアもこぼす。
「父上に会いたい」

ジョン・スノウはレイガー・ターガリエンとリアナ・スタークの息子として生まれたが、エダードによって粛清を逃れ、正当な王位継承者である事が明かされた。

何年もに渡って苦難を乗り越えてきた子供たちを支えたのは父の教えであり、愛情だった。

エダードがドラマに登場したのはもう7年も前だ。
演じたショーン・ビーンは『ロード・オブ・ザ・リング』のボロミア役はじめ、出演作のほとんどで殺された“史上最も死んだ俳優”の異名を持つ。それでもなお物語に生き続け、見る者の心に去来する本作は彼の最高傑作だろう。

スターク家の子供たちは皆、大きくなって帰ってきた。
さあ、残り6話。ついに冬がやって来る。

※シーズン8のレビューはこちら※

『ゲーム・オブ・スローンズ シーズン7』17・米

製作 デヴィッド・ベニオフ、D・D・ワイス
出演 キット・ハリントン、エミリア・クラーク、レナ・ヘディ、ソフィー・ターナー



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