長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『クライム・ヒート』

2020-11-29 | 映画レビュー(く)

 日本劇場未公開だが、拾い物の1本だ。原作は『ミスティック・リバー』で知られるデニス・ルヘインの小説『The Drop』(ルヘインは脚色も担当)。ベルギー映画『闇を生きる男』でアカデミー外国語映画賞にノミネートされたミヒャエル・R・ロスカム監督もストーリーテラーとしての確かな腕を持っており、ここにトム・ハーディ、ジェームズ・ガンドルフィーニ(本作が遺作となった)、ノオミ・ラパスら豪華キャストが結集した。

 冒頭、原題“Drop”の意味が明かされる。マフィアの金が集金される場所であり、いつ回収されるかは誰にもわからない。トム・ハーディ扮するボブはその時を待って、集まり続ける金を金庫にDropし続けるだけだ。しかし、2人組の強盗が集金場所であるバーを襲撃。金を奪われてしまう。

 ハーディがいい。これまでも見せてきた無骨な男くささに、繊細で優しい性根が見え隠れする。その姿は冒頭に拾われる子犬を思わせるものがあり、この1人と1匹のツーショットはかなり親和性が高い。
 だが、注目すべきは終幕で見せるもう1つの顔だろう。ボブは無骨さの反面、汚れ仕事を怖ろしいまでの手際の良さでこなす冷徹さを持っており、暴力にまみれている。彼もまた“Drop”=転落しているのだ。その素顔が明らかになる瞬間、僕は身も凍るような戦慄を覚えた。ハーディのキャリアを語る上でも見逃すには惜しい1本と言える。


『クライム・ヒート』14・米
監督 ミヒャエル・R・ロスカム
出演 トム・ハーディ、ノオミ・ラパス、ジェームズ・ガンドルフィーニ、マティアス・スーナールツ、ジョン・オーティス
 
 

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