長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

2018-06-06 | 映画レビュー(ふ)

フロリダ。今日もうだるような暑さの中、子供達が元気に遊んでいる。ここはディズニーワールド近く、ハイウェイ沿いのモーテルだ。車が行きかい、何てことのない店が立ち並ぶ。主人公は6歳の女の子ムーニー。カメラが彼女の肩越しまで下りれば、モーテルはパステルカラーの夢のお城に変わり、リーマンショックの惨禍とも言える無人の住宅街はワクワクドキドキのお化け屋敷に変わる。永遠に終わらない夏休み。

だが、ふっとカメラが大人の目線に上がると見える景色は一変する。モーテルは家も仕事も失くした生活困窮者たちがあてどなくその日暮らしを続ける場であり、管理人ボビー(ウィレム・デフォー)は会社の規則を守りながら何とかこのセーフティネットを維持しようと努めている。ムーニーの母、ヘイリー(ブリア・ヴィネイト)もまだ23~24歳くらいだろうか。暴力もネグレクトもない。まるでムーニーと友達のように屈託のない笑顔で毎日を過ごしている。だが、生活は厳しくなる一方だ。

 デビュー作『タンジェリン』をiphoneで撮り上げたショーン・ベイカー監督の第2作は一見、無造作のようでいて緻密な計算と強い志の下にある。遊んでいる子供達をただ撮ったように見える自然さだが(ベイカーは是枝裕和監督の影響を公言)、ムーニー役ブルックリン・プリンスが最後に見せる演技によって全てが的確に演出されたものである事がわかる。映画の後半、どこか悟ったような、諦めの表情を浮かべていたブリア・ヴィネイトの怒りの叫び、ウィレム・デフォーが見せる無念の表情。救いのないこの世界で、それでも未来は子供達に宿る。美しく飛翔するラストシーンにただただ圧倒されてしまった。これはオバマ時代からトランプ時代へ移り、社会の歪みへ落ちてしまった人々を見つめる怒りと希望に満ちた傑作だ。


『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』17・米
監督 ショーン・ベイカー
出演 ブルックリン・プリンス、ブリア・ヴィネイト、ウィレム・デフォー
 

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