今やNetflixの生命線とも言える看板シリーズもいよいよ次回シーズン5での完結が発表され、その人気はピークに到達しつつあるようだ。前後編に分けられたシーズン4は全9話の放映時間がそれぞれ1時間強あり、シーズンファイナルに至ってはなんと2時間30分である。近年、MCUをはじめとしたアメコミ映画やフランチャイズ映画の長尺化が相次いでおり、ストリーミングドラマの世界からハリウッド映画のお株を奪った『ストレンジャー・シングス』もご多分に漏れず、このトレンドに乗ったようだ。ファンは大好きな作品が長ければ長いほど歓迎し、近年は上映時間が必ずしも興行成績にネガティブな影響を及ぼしていない。当然Netflixが口を出す理由はなく、ダファー兄弟に全権委任されたこのシーズン4はファンの期待に答え、Netflixの株価を(ある程度の期間)支える事だろう。
物語は前シーズンの1年後から始まる。イレブンはジョイス一家に引き取られカリフォルニアで新生活を送っており、マイクとは遠距離恋愛中だ。キッズ達は高校に進学し、いつまでもダンジョン&ドラゴンで遊んでいられる年齢ではなくなった。ルーカスはバスケットボール部に入り、“高校デビュー”。学校ではオタク扱いされているダスティンらとちょっと疎遠気味だ。そんなある日、チアガールが惨殺される怪事件が発生し…。
と、ここまで聞けば大方どんなドラマが展開するかは想像がつくだろう。80年代SFホラー映画にオマージュを捧げ、ハリウッド映画が喪失したセンス・オブ・ワンダーを甦らせた『ストレンジャー・シングス』は続編の方程式もまた往年のジャンル映画に則っており、ファンもその“お約束”を楽しんでいる様子だ。しかしフランチャイズ映画に依存する悪しきハリウッドの風習まで踏襲する事はないだろう。シーズンを重ねる毎に増えた登場人物のマッチングはこれまでと大差がなく、キャラクターに新たな一面が加えられることはない。従来45〜55分程度であるTVシリーズのフォーマットを破った放映時間は、ハリウッド映画の悪しき冗長さそのものだ。ナラティブが優先される近年のPeakTV下ではエピソード毎で尺が異なり、むしろ短くなることの方が主流だった。時間が長くなったにも関わらず各人のドラマは薄く、中にはこの1シーズンを通してほとんど物語が存在しないキャラクターすらいる。マイクらはシーズンを通して車移動しているだけで、ジョナサンはただただ眠たそうな目でハンドルを握り、仄めかされるウィルのアイデンティティも実に誠意のない作劇である。前シーズンで鮮烈なデビューを飾ったマヤ・ホーク演じるロビンはコミックリリーフに過ぎず、恋愛パートも取ってつけたようなものだ。若手キャスト陣の中ではやはりスティーブ役のジョー・キーリーにチャームがあり、頭一つ抜け出たような感がある。ここは1つ彼でラブコメディを見たいのだが、どうだろうか。
一方、ジョイスら大人達のパートはというと、ホッパー生存の手がかりを頼りにロシアへと向かう。旧ソ連が徹底した悪役として描かれるのは時勢を得ているものの、やはりこれだけで1シーズンを引っ張るにはどうにも辛い。まさかウィノナ・ライダーとハゲたオッサン(おっと、『フリーバッグ』のブレット・ゲルマンだ!)の珍道中を延々と見せられるとは…。
ロシアが敵になることに加え、陰謀論に染まる集団心理もこのシーズン4が2022年に登場した意義ではあるが、これだけの時間をかけながら描き込みが足りていない。相次ぐ不審死事件にホーキンスの住民は悪魔信奉者(ただのヘビメタファン)のエディと、ダンジョン&ドラゴン仲間のキッズ達を疑い、集団ヒステリーに陥っていく。これは1993年に少年たちが猟奇殺人の容疑者として逮捕された“ウェスト・メンフィス3”事件をモデルにしていると思われるが、当然現在は陰謀論に踊らされたトランプ支持者たちが連邦議事堂を襲った事件を思わずにいられない。今回の悪役ヴェクナが蜘蛛をモチーフにしている事から、ダファー兄弟が来たるインターネット社会を物語の終幕に予定していると考えられるが、結果的にジョックス嫌悪で終わっているのはあまりに底が浅く、クリエイティブコントロールを怠った後見人ショーン・レヴィの責任も重いと言わざるを得ないだろう。ヴェクナがラスボスとして申し分ないキャラクター造形なだけに、実に惜しく(スティーヴン・キングよろしく『ミスト』ばりの展開を期待してしまった僕は、ファンとして正しい反応だと思う)、新登場の愛すべきヘビメタ野郎エディをこの1シーズンで退場させたのは作劇の怠惰以外の何ものでもない。
ゲスト出演のロバート・イングランドが、『ストレンジャー・シングス』の終焉は“イノセントの喪失”だと語っている。シーズン終盤、エディは愛らしいダスティンに向かって「このまま変わるなよ」と言葉をかける。だが少年時代という人生の季節には必ず終わりがあり、世界を揺るがす巨大な事件に直面する彼らはもはや子供のままではいられない。『ストレンジャー・シングス』はキッズたちが小さなホーキンスという町から世界との距離を知った時に、終わりを迎えるのだ。
『ストレンジャー・シングス4』22・米
監督 ダファー兄弟
出演 ミリー・ボビー・ブラウン、フィン・ウルフハード、ケイレブ・マクラフリン、ノア・シュナップ、ガテン・マタラッツォ、セイディー・シンク、ジョー・キーリー、ナタリア・ダイアー、デヴィッド・ハーバー、チャーリー・ヒートン、ウィノナ・ライダー、マヤ・ホーク、ブレット・ゲルマン
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