長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『NO』

2020-04-16 | 映画レビュー(の)

 1988年、チリで独裁政権の是非を問う国民投票が行われる事になった。軍事クーデターによって権力を掌握し、実に15年間も恐怖政治で支配してきたピノチェト政権が国際世論に押された格好だ。彼らは深夜0時から15分間、政権反対派によるキャンペーンCMを許可する。本作は連夜の15分で人々の心を動かしたCMマン達の物語だ。

 15年間、言論の自由を奪われてきた“NO”陣営の気迫は凄まじかった。声高に政権批判を糾弾し、子を奪われた母親達に遺影を抱かせてカメラの前に立たせた。しかし、広告代理店のレネ(ガエル・ガルシア・ベルナル)はダメ出しをする。「これじゃ誰も投票に行かない」。

恐怖で抑圧されてきた人々の心は正論では動かない。時は80年代、彼が用いたのはMTV的な、ともすれば“チャラい”とまで言われかねないポップさだった。恐怖の先にある幸せが見えてこそ、人は初めて心を動かす。このマーケティング理論を用いた人間心理への洞察が分断の現在に訴えるものは大きい。
 
パブロ・ラライン監督は実際のCM映像とかけ離れないためにわざわざ当時のカメラで撮影するなど、強いこだわりを見せた。ポピュリズム政治が横行する昨今、短い時間で視聴者の意識を巧みにコントロールする広告メディアの功罪も織り込んだ力作である。


『NO』12・チリ、メキシコ、米
監督 パブロ・ラライン
出演 ガエル・ガルシア・ベルナル
 
 

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