ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

続・待合室 ウオッチ

2024-12-14 10:08:10 | 出会い
 風邪で10日間以上も寝たり起きたりをくり返すなんて、
今までにあっただろうか。
 朝から着替えをして、
起きていられるようになったのは、2日前からである。
 
 最初にかかりつけ医で診察を受けた時、
喉の細菌検査とレントゲン検査をした。
 レントゲンはすぐに結果が分かり、肺に異常はなかった。
細菌の結果には数日かかると言われた。

 それでも今の症状に応じた薬が処方された。
丁寧に診察する医師は、
「薬が合わないようでしたら、遠慮なくいつでも来院してください。
別の薬を出しますから」と。

 回復に向かわなかったので、
4日後に再び診察を受けることにした。
 細菌検査の結果も分かった。
さほど重大な菌ではないが、
通常ではいないはずの菌が見つかった。
 それに対応する抗生剤の飲み薬に切り替えてくれた。

 いつだって投薬には生真面目な私である。
毎食後用、朝夕食後用、夕食後用、就寝時用
それに毎食間用の計9種類を、
「きっと良くなる」と信じて、忘れず飲み続けた。

 すでに7日間分の全てを飲みきった。
やっと喉の痛みも頭痛もなくなった。
 後は、体力の回復を待つだけだが、
それには、まだ数日はかかりそうである。

 まったく、後期高齢者になるとこの有り様か。
「情けない!」

 さて、先週の続きを記す。
通院した2日とも、診察までに3時間かかった。
 その間、喉と頭の痛みをこらえながらだったが、
待合室ウオッチをした。
 その続編である。

 
  ③ 「予防注射して!」

 20人を超える患者で、座席がうまった待合室に、
受付をする年老いた女性の大声が響いた。

 「時間があるから、予防注射に来たんだけど・・」
「なんの予防注射をしに来たんですか?」
 「何でもいいけど、ホラ、この病院でできるやつ」
「今、ここではインフルエンザとコロナワクチンができますが、
どっちですか」
 「どっちでもいいよ。両方でもいいよ。
かかったら大変だから、予防注射して!」

 大きな声のやり取りである。
その上、実にもの珍しいやり取りに、
俄然興味が湧き、耳を傾けた。

 「両方を一度に打つのは出来ないので、
どちらか1つです。
 どちらにしますか?」
「どっちかか・・、じゃどっちでもいい!」
 女性も困った様子だが、受付の女性も困っていた。

 しばらくして、受付が言った。
「カルテを見てみますから、診察券と保険証ありますか」
 女性がそれを渡してまもなく、
「インフルエンザの注射は去年もしてますね。
今年になってから、他の病院でしてませんか?」
 「してないよ。だから来たんだよ!」
女性は即答した。そして
「もう1つのも、ずっとしてない。
でも、一緒は駄目なのね」
 「はい。
じゃ今日はインフルエンザの予防注射を打つことにしましょうか?」
 「それでいい。お願い!」

 長いやり取りだった。
女性は大きな息をはき、私の横の空席に腰をおろした。

 やや時間をおいて、今度は看護師さんが女性に近づいた。
「インフルエンザのお注射でしたね!」
 「それにしたの!」

 看護師さんは、もってきたA4版の印刷物を差し出した。
「お注射の前にこれを読んで下さい」
 紙には、予防接種の副作用など諸々の注意事項が箇条書きされていた。

 女性は、一瞬その紙を見たが、
「もう、そんな字は読めないからいらない」
 看護師さんは手慣れていた。
「じゃ、たたんでこのバックに入れたおくね。
困ったときには、近くの人に見せてね」

 女性がうなずくと今度は、
バインダーに挟んだ問診票を取り出した。

 すかさず「それも読めない!」。
「じゃ、1つずつ私が読みますから、
はいかいいえで答えてね。
 だけど全部終わったら、
ここの欄に名前だけは自分で書かないと、
お注射は打てません。
 名前は書けますか」
最後だけ看護師さんは、強くはっきりと言った。

 「わかった。ここに名前を書けばいいのね!」
「そうです。じゃ読みますね」。

 看護師さんは、1問1問読み上げては答えを待った。
そして、記名まで終え、
「これで、予防注射が打てます。
今日はこんなにたくさんの患者さんで混んでるから、
すぐには呼べないけど待っててね」
 女性は慌てて周りを見て、
ビックリした顔で静かにうなずいた。

 医療に従事する方のご苦労が身にしみた。
周りは私と同じ患者ばかりだが、
どの人の耳にも、ここまでの一部始終は届いていた。
 だからだろうか、外は寒々としているのに、
待合室には穏やかな温もりがあった。


 

  やっと冬景色 -4度「寒!」
コメント
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