誰でもそうだろうが、
見る夢は、いつもプロローグがないまま、急に展開する。
草原のような広い牧場に、
そこだけ木の柵が張り巡らされ、
一頭のあばれ馬が跳びはね、走り回っていた。
そこの主人だろうか、カーボーイハットの男が、
毛布のような1枚の布を、私に手渡した。
「この布を、あの馬の背にかぶせてこい。」
私の胸は、急に激しく鼓動を打ち、
その布をギュッと抱きかかえる。
「さっさと、やるんだ。」
主人は、使用人にでも言うような口ぶりで、怒鳴る。
私の額には、汗がにじむ。
少し離れた所では、馬に鞍をのせ、
乗馬を楽しむ人たちがいた。
あんな穏やかな馬にする第一歩が、
馬の背に、この布をかけることだと言う。
私が、ためらっていると、先輩が急にその布を奪い取り、
あばれ馬に近づいていった。
そして、走り回り、跳びはねる馬に、
かけ寄り、背中に布をかけた。
「ああやってやるんだ。つぎは必ずお前がやれ。」
また新しいあばれ馬が、柵に入ってきた。
私は、足がすくんで、一歩たりとも動けない。
布を抱えたまま、呼吸が荒くなる。
「どうした。早くかけに行け。」
主人の厳しい声がとぶ。
肩で息をし、足はすくんだまま動けない私。
真夜中、目ざめると、枕が汗で濡れていた。
胸の鼓動が早かった。大きく深呼吸をした。
夢だったと気づいたが、私に失望した。
しばらくして再び眠りについた。
ところが、その夜は、丸っきり同じシーンの夢をもう一度見た。
主人に布を渡され、荒馬にたじろぎ、どきまぎする私だった。
また目ざめて、私に落胆した。
その後、寝付けず、いつもより早くベットを出た。
二度も見た夢は、鮮明に残った。
それから数日、思い出すたびに、不快だった。
夢は、本性をそのまま映し出すと言う。
臆病者で小心者、意気地なしの根性なし。
もっと言えば、弱虫なのではなかろうか。
年令を忘れ自問し、随分と落ちこんだ。
でも、『あばれ馬を前に、すくむ私』を、
心熱くしてくれた方々がいた。
▼8月22日の北海道新聞に、こんな記事を見た。
『歌手の松山千春さん(61)=十勝管内足寄町出身=が、
搭乗した全日空機の新千歳空港出発が遅れたため、
代表曲「大空と大地の中で」を歌い、
乗客を和ませたことが21日、分かった。
同社千歳空港支店は
「このような厚意は聞いたことがなく、
松山様には感謝申し上げます」
としている。
同支店によると、松山さんは20日、
新千歳発伊丹行きの便に搭乗した。
同機は午前11時55分に出発予定だったが、
Uターンラッシュによる保安検査場の混雑などで
午後1時3分まで出発が遅れた。
同機は乗客405人でほぼ満席。
松山さんは午後0時50分ごろ、客室乗務員に
「みんなイライラしています。
機内を和ませるために1曲歌いましょうか」
と申し出た。
客室乗務員から連絡を受けた機長が許可したため、
機内放送用のマイクで冒頭部分を歌った。
乗り合わせていた男性公務員(26)は
「歌い終わると拍手喝采で、多くの乗客が笑顔になった。
気遣いと美声に感動した」と話す。
松山さんは20日に出演したラジオ番組で
機内での経緯を明かし
「出しゃばったことしているなと思うけど、
みんなの気持ちを考えたら、何とかしなきゃ、みたいな。
機長さんよく許してくれたな」
と語った。』
このニュースは、翌23日の朝日新聞『天声人語』も、
取り上げた。
『20日、出発が遅れた飛行機で、
乗り合わせていた歌手の松山千春さんが歌を披露したという。
「いらだつでしょうが、
みんな苦労していますから待ちましょう」
と語りかけながら、思いがけなく訪れた物語は、
待ちくたびれた人たちを和ませたことだろう。』
私が、勝手にイメージしている松山千春さんらしい行動と、
言えなくもない。
イライラが増す満席の搭乗者を前に、
カジュアルな服装で、
受話器型のマイクを片手に歌う彼の姿を思い浮かべた。
突然、機内でそんなことができる歌手は、
そう多くはないだろう。
いや彼以外にはできないのでは・・。
彼には、スターとしての視線より、
長時間、離陸を待つ一人の乗客としての、
素直な感性があった。
だから、踏み出せた行動だと思った。
誰だって、いつだって、
そんなあり方を大切にしたい。
▼テレビ番組のジャンルでは、料理バラエティになるらしいが、
私のお気に入りに、NHKの『サラメシ』がある。
何と言っても、毎回の中井貴一さんのナレーションがいい。
つい23日(木)に放映された『社長メシ』が、
よかった。
『日本経済の屋台骨を背負う…
さまざまな業界の社長さん達に密着し』、
主に、その昼食の様子を見せてもらった。
伊藤忠、NTTドコモ、鹿島建設、マネックスグループ、
大和ハウス工業の社長、そしてNHK会長が登場した。
それぞれが日本のトップを行く方々である。
その仕事ぶりとランチの一部を映像で切り取ったのだが、
私は興味津々、ついつい前のめりになりながら、
それを見た。
特に、2人の社長の姿勢に強く心打たれた。
1人は、鹿島建設の押味社長である。
彼は、現場を大切にする方だと言う。
だから、条件があえば、よく現場に足を運んだ。
この日も、東京日本橋にある地下3階地上26階の
ビル建設現場に出向いた。
そこで、全作業員を集めての激励訓話。
その後、作業員一人一人に気さくに話しかけていた。
現場視察後、昼食になる。
さすが、現場第一を掲げる社長である。
この日は、ビル現場に特設されているランチスポットでの昼食だった。
彼は、600円を握りしめ、そのカウンターに立った。
そして、注文した。
その言葉が、この社長の人柄を現わしていた。
ジーンとした。
「すみません。カレー、お願いします。」
そこで働く作業員と、変わらない口調。
企業のトップとしての飾りも気負いもない。
それよりも、現場の人々と同じ視線、同じ振る舞いなのだ。
カレーを完食した後の彼は、
当然のように、その皿を返却場所に重ねた。
そして、先をうながす同行者を静止し、
厨房のガラス窓を開けた。
そこで働く調理人に軽く頭をさげて、
「どうも、ご馳走さまでした。ありがとうございます。」
社長のその気さくさと心配りに、
「すごい!」としか言葉がなかった。
『実るほど頭をたれる稲穂かな』
その意を見た。
もう1人は、押味社長と同じ建設業界・大和ハウス工業の
大野社長だ。
彼は、拠点を東京に置き、仕事をしているが、
月に2,3回は、本社のある大阪に足を運ぶ。
番組では、その本社社長室での昼食の様子を、紹介していた。
メニューは、社員食堂のカレーにヨーグルト等が加わっていた。
驚いたことに、彼は、大きな会議が可能な広い社長室で、
いつも1人のランチだと言う。
その日も、1人で食べながら、インタビューに応じた。
そして、1人ランチの訳を語った。
「ちょっと誘いづらくなっちゃって・・。」
「誰かを昼食に誘うと不公平になる。」からと。
続いて、遠慮がちに真理をついた。
「そんなところで、つまらない人事の話が出る可能性も・・。」
「公平公正に、人は見ていく。」
「大きな会社だから、派閥とかあってはいけない。」
若干生々しい話ではあるが、
彼の1人ランチから、経営者の強い覚悟を見た思いだった。
静まりかえっっているが、おもむきのある広い社長室で、
穏やかな表情のまま、社長は結んだ。
「経営者は、孤独に耐えられないとダメ。」
ここにもまた1人、私たちと同じ地を、
踏みながら進むすごい方がいた。
あばれ馬にすくんでもいい。
それより、これさ!
近所の畑に『ささげ』の花が咲いている
見る夢は、いつもプロローグがないまま、急に展開する。
草原のような広い牧場に、
そこだけ木の柵が張り巡らされ、
一頭のあばれ馬が跳びはね、走り回っていた。
そこの主人だろうか、カーボーイハットの男が、
毛布のような1枚の布を、私に手渡した。
「この布を、あの馬の背にかぶせてこい。」
私の胸は、急に激しく鼓動を打ち、
その布をギュッと抱きかかえる。
「さっさと、やるんだ。」
主人は、使用人にでも言うような口ぶりで、怒鳴る。
私の額には、汗がにじむ。
少し離れた所では、馬に鞍をのせ、
乗馬を楽しむ人たちがいた。
あんな穏やかな馬にする第一歩が、
馬の背に、この布をかけることだと言う。
私が、ためらっていると、先輩が急にその布を奪い取り、
あばれ馬に近づいていった。
そして、走り回り、跳びはねる馬に、
かけ寄り、背中に布をかけた。
「ああやってやるんだ。つぎは必ずお前がやれ。」
また新しいあばれ馬が、柵に入ってきた。
私は、足がすくんで、一歩たりとも動けない。
布を抱えたまま、呼吸が荒くなる。
「どうした。早くかけに行け。」
主人の厳しい声がとぶ。
肩で息をし、足はすくんだまま動けない私。
真夜中、目ざめると、枕が汗で濡れていた。
胸の鼓動が早かった。大きく深呼吸をした。
夢だったと気づいたが、私に失望した。
しばらくして再び眠りについた。
ところが、その夜は、丸っきり同じシーンの夢をもう一度見た。
主人に布を渡され、荒馬にたじろぎ、どきまぎする私だった。
また目ざめて、私に落胆した。
その後、寝付けず、いつもより早くベットを出た。
二度も見た夢は、鮮明に残った。
それから数日、思い出すたびに、不快だった。
夢は、本性をそのまま映し出すと言う。
臆病者で小心者、意気地なしの根性なし。
もっと言えば、弱虫なのではなかろうか。
年令を忘れ自問し、随分と落ちこんだ。
でも、『あばれ馬を前に、すくむ私』を、
心熱くしてくれた方々がいた。
▼8月22日の北海道新聞に、こんな記事を見た。
『歌手の松山千春さん(61)=十勝管内足寄町出身=が、
搭乗した全日空機の新千歳空港出発が遅れたため、
代表曲「大空と大地の中で」を歌い、
乗客を和ませたことが21日、分かった。
同社千歳空港支店は
「このような厚意は聞いたことがなく、
松山様には感謝申し上げます」
としている。
同支店によると、松山さんは20日、
新千歳発伊丹行きの便に搭乗した。
同機は午前11時55分に出発予定だったが、
Uターンラッシュによる保安検査場の混雑などで
午後1時3分まで出発が遅れた。
同機は乗客405人でほぼ満席。
松山さんは午後0時50分ごろ、客室乗務員に
「みんなイライラしています。
機内を和ませるために1曲歌いましょうか」
と申し出た。
客室乗務員から連絡を受けた機長が許可したため、
機内放送用のマイクで冒頭部分を歌った。
乗り合わせていた男性公務員(26)は
「歌い終わると拍手喝采で、多くの乗客が笑顔になった。
気遣いと美声に感動した」と話す。
松山さんは20日に出演したラジオ番組で
機内での経緯を明かし
「出しゃばったことしているなと思うけど、
みんなの気持ちを考えたら、何とかしなきゃ、みたいな。
機長さんよく許してくれたな」
と語った。』
このニュースは、翌23日の朝日新聞『天声人語』も、
取り上げた。
『20日、出発が遅れた飛行機で、
乗り合わせていた歌手の松山千春さんが歌を披露したという。
「いらだつでしょうが、
みんな苦労していますから待ちましょう」
と語りかけながら、思いがけなく訪れた物語は、
待ちくたびれた人たちを和ませたことだろう。』
私が、勝手にイメージしている松山千春さんらしい行動と、
言えなくもない。
イライラが増す満席の搭乗者を前に、
カジュアルな服装で、
受話器型のマイクを片手に歌う彼の姿を思い浮かべた。
突然、機内でそんなことができる歌手は、
そう多くはないだろう。
いや彼以外にはできないのでは・・。
彼には、スターとしての視線より、
長時間、離陸を待つ一人の乗客としての、
素直な感性があった。
だから、踏み出せた行動だと思った。
誰だって、いつだって、
そんなあり方を大切にしたい。
▼テレビ番組のジャンルでは、料理バラエティになるらしいが、
私のお気に入りに、NHKの『サラメシ』がある。
何と言っても、毎回の中井貴一さんのナレーションがいい。
つい23日(木)に放映された『社長メシ』が、
よかった。
『日本経済の屋台骨を背負う…
さまざまな業界の社長さん達に密着し』、
主に、その昼食の様子を見せてもらった。
伊藤忠、NTTドコモ、鹿島建設、マネックスグループ、
大和ハウス工業の社長、そしてNHK会長が登場した。
それぞれが日本のトップを行く方々である。
その仕事ぶりとランチの一部を映像で切り取ったのだが、
私は興味津々、ついつい前のめりになりながら、
それを見た。
特に、2人の社長の姿勢に強く心打たれた。
1人は、鹿島建設の押味社長である。
彼は、現場を大切にする方だと言う。
だから、条件があえば、よく現場に足を運んだ。
この日も、東京日本橋にある地下3階地上26階の
ビル建設現場に出向いた。
そこで、全作業員を集めての激励訓話。
その後、作業員一人一人に気さくに話しかけていた。
現場視察後、昼食になる。
さすが、現場第一を掲げる社長である。
この日は、ビル現場に特設されているランチスポットでの昼食だった。
彼は、600円を握りしめ、そのカウンターに立った。
そして、注文した。
その言葉が、この社長の人柄を現わしていた。
ジーンとした。
「すみません。カレー、お願いします。」
そこで働く作業員と、変わらない口調。
企業のトップとしての飾りも気負いもない。
それよりも、現場の人々と同じ視線、同じ振る舞いなのだ。
カレーを完食した後の彼は、
当然のように、その皿を返却場所に重ねた。
そして、先をうながす同行者を静止し、
厨房のガラス窓を開けた。
そこで働く調理人に軽く頭をさげて、
「どうも、ご馳走さまでした。ありがとうございます。」
社長のその気さくさと心配りに、
「すごい!」としか言葉がなかった。
『実るほど頭をたれる稲穂かな』
その意を見た。
もう1人は、押味社長と同じ建設業界・大和ハウス工業の
大野社長だ。
彼は、拠点を東京に置き、仕事をしているが、
月に2,3回は、本社のある大阪に足を運ぶ。
番組では、その本社社長室での昼食の様子を、紹介していた。
メニューは、社員食堂のカレーにヨーグルト等が加わっていた。
驚いたことに、彼は、大きな会議が可能な広い社長室で、
いつも1人のランチだと言う。
その日も、1人で食べながら、インタビューに応じた。
そして、1人ランチの訳を語った。
「ちょっと誘いづらくなっちゃって・・。」
「誰かを昼食に誘うと不公平になる。」からと。
続いて、遠慮がちに真理をついた。
「そんなところで、つまらない人事の話が出る可能性も・・。」
「公平公正に、人は見ていく。」
「大きな会社だから、派閥とかあってはいけない。」
若干生々しい話ではあるが、
彼の1人ランチから、経営者の強い覚悟を見た思いだった。
静まりかえっっているが、おもむきのある広い社長室で、
穏やかな表情のまま、社長は結んだ。
「経営者は、孤独に耐えられないとダメ。」
ここにもまた1人、私たちと同じ地を、
踏みながら進むすごい方がいた。
あばれ馬にすくんでもいい。
それより、これさ!
近所の畑に『ささげ』の花が咲いている
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