40年勤めた東京での暮らしを終え、
私は、故郷・北海道でその後を過ごすことにした。
勤務の気晴らしにと始めたゴルフを、体の動く限り気軽にやれたらいい、
そんなことを思いつつの大英断だった。
移り住んだ伊達には、一人の友人もおらず、
家内だけがゴルフ相手だったが、
自宅から車で15分と恵まれたコースで、週一のプレイを楽しんでいた。
山々が色づき始めたある日。
コースの片隅の林からグリーンキーパーの方が、
両手に山盛りの黄色く艶のあるキノコを持って現れた。
彼はとても誇らしげに、それをかざし、
「持っていきな。」
と、気さくに声をかけ、カートの前カゴにそのキノコを入れてくれた。
私は、どこで採った、どんなキノコかも分からぬまま、
それでも旧知の仲のように振る舞う彼に、
形だけのお礼を言いプレイを続けた。
彼が遠のいてから、家内に
「訳の分からないキノコ、俺は食べない。あんたも止めとけ。」
と、小声で言った。
プレイ後、ビニール袋にそのキノコを入れ、
「持ち帰るのが、頂いた彼への礼儀。」
と思い、片手にぶら下げ、クラブハウスへ移った。
ハウス内には、臨時の野菜売場が設けられていた。
その陳列台に目をやると、
私がぶらさげているキノコと同じものが、
五百円の値をつけ、私の半分程度の量でいくつも並んでいた。
値札には『落葉キノコ』と名があった。
帰宅すると、早速そのキノコについて調べてみた。
すると、唐松の根元にしかないキノコで、
多くの愛好家たちがキノコ狩りをし、その味を楽しむとあった。
その日の夕食、家内が味噌汁にした。
私は、不安が払拭されないまま、それでもその味噌汁を口にした。
確かにキノコ好きには、たまらない味だと思った。
キノコをさほど好まない私だが、ついお代わりをしていた。
北国の秋の味覚との出会いであった。
そして晩秋。
落葉キノコが生息していたゴルフ場のあの唐松林は、
雪を目前にして橙色に紅葉した。
尖った細い橙色の落ち葉は、風とともに舞い上がり、
あたりの全てを、光り輝く橙に染めた。
私は、そのさり気ない、秋宴の美しさに心を奪われた。
そして、あのグリーンキーパーさんの、
これまたさり気ない振る舞いを思い出し、
彼から、北の味覚と晩秋の輝きという贈り物を貰った気がした。
≪平成25年夏『第5回心に響く…北のエピソード』入選≫
クロッカスが咲いていた! ビックリ!
私は、故郷・北海道でその後を過ごすことにした。
勤務の気晴らしにと始めたゴルフを、体の動く限り気軽にやれたらいい、
そんなことを思いつつの大英断だった。
移り住んだ伊達には、一人の友人もおらず、
家内だけがゴルフ相手だったが、
自宅から車で15分と恵まれたコースで、週一のプレイを楽しんでいた。
山々が色づき始めたある日。
コースの片隅の林からグリーンキーパーの方が、
両手に山盛りの黄色く艶のあるキノコを持って現れた。
彼はとても誇らしげに、それをかざし、
「持っていきな。」
と、気さくに声をかけ、カートの前カゴにそのキノコを入れてくれた。
私は、どこで採った、どんなキノコかも分からぬまま、
それでも旧知の仲のように振る舞う彼に、
形だけのお礼を言いプレイを続けた。
彼が遠のいてから、家内に
「訳の分からないキノコ、俺は食べない。あんたも止めとけ。」
と、小声で言った。
プレイ後、ビニール袋にそのキノコを入れ、
「持ち帰るのが、頂いた彼への礼儀。」
と思い、片手にぶら下げ、クラブハウスへ移った。
ハウス内には、臨時の野菜売場が設けられていた。
その陳列台に目をやると、
私がぶらさげているキノコと同じものが、
五百円の値をつけ、私の半分程度の量でいくつも並んでいた。
値札には『落葉キノコ』と名があった。
帰宅すると、早速そのキノコについて調べてみた。
すると、唐松の根元にしかないキノコで、
多くの愛好家たちがキノコ狩りをし、その味を楽しむとあった。
その日の夕食、家内が味噌汁にした。
私は、不安が払拭されないまま、それでもその味噌汁を口にした。
確かにキノコ好きには、たまらない味だと思った。
キノコをさほど好まない私だが、ついお代わりをしていた。
北国の秋の味覚との出会いであった。
そして晩秋。
落葉キノコが生息していたゴルフ場のあの唐松林は、
雪を目前にして橙色に紅葉した。
尖った細い橙色の落ち葉は、風とともに舞い上がり、
あたりの全てを、光り輝く橙に染めた。
私は、そのさり気ない、秋宴の美しさに心を奪われた。
そして、あのグリーンキーパーさんの、
これまたさり気ない振る舞いを思い出し、
彼から、北の味覚と晩秋の輝きという贈り物を貰った気がした。
≪平成25年夏『第5回心に響く…北のエピソード』入選≫
クロッカスが咲いていた! ビックリ!
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