ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

学級の雰囲気こそが

2015-02-19 23:28:57 | 教育
 『楽しい授業の条件 その3』(2014年11月26日ブログ掲載)で、
「好感のもてる仲間に囲まれた学級」について述べた。
 その中で、
「教師は、開放的で寛容な学級を子ども達とともに築き上げていくように」
と、強調させてもらった。
 先日、学校の冷房化等々で住民投票が行われたという報道があった。
確かに、子どもにとって良好な学習環境は重要な問題であるが、
その最大のものは、『学級の雰囲気』であると私は思っている。
 このことについて、事例をあげて記す。


 1、給食白衣を忘れた事件

 学級編制替えがなかった高学年を担任した4月初めのことだった。

 月曜日の朝、S君が職員室の私に
「洗濯した給食の白衣を持ってこなかった。」
と、大失態を演じたような落ち込みようで報告にきた。
 私は、S君のやや大袈裟とも思える態度に違和感を持ちながらも、
「そう、じゃ明日、忘れずに持っておいで」
とだけ言って、教室に戻した。

 その日の給食当番5人のうち1人が、白衣のないまま牛乳配りをした。

 『帰りの会』のことだった。
反省会が始まると、S君が真っ先に挙手をし、
「明日、必ず白衣を持ってきます。」と言った。
 すると、7,8人の子どもが顔を見合わせながら一斉に手を上げ、
次々に発言し出した。
「白衣を忘れたので、みんな迷惑をした。」
「当番の一人が白衣を着られなかった。かわいそうだった。」
こんな発言だった。そして最後には、
「忘れたから、明日持ってくるというのは、ちょっと無責任だ。」
と、言う子まで現れた。
 この間、S君はじっと下をむきっぱなしだった。

 みんなの意見が出つくしたところで司会が、
「白衣を忘れた人は、みんなの意見を聞いてどう思いますか。」
と、S君を見た。
S君は、重々しく立ち上がり、うつむくばかりだった。
たくさんの鋭い視線が、降り注がれた。
冷たい視線であった。
無言で困りきって立ち尽くす友だちに、
誰一人として助言してやろうとはしなかった。

 今朝、弱りきった表情で、私のところに来たS君は、
きっとこのような事態を予想していたのであろう。
そして、何とかそれを打開しようと、私に相談したのであろう。

 私は、
「たかが白衣一着。そんなに困ることはない。
一日くらいなくても給食当番はできる。」
と、気軽に考えて、S君の気持ちを楽にしてあげたつもりでいた。

 私は、静まりかえった『帰りの会』で、ただ立ちつくすS君を見て、
予想だにしていなかった場面に若干動揺していた。
助け船を出す者は現れなかった。
 S君の「明日持ってくる。」の発言は、私の指示通りのものだった。
私にも責任があった。
しかし、「この冷たい雰囲気はなんだ。」私は驚いていた。
おもむろに立ち上がった私は、
「みんなは、一体どうすればいいと思うんですか?」
と、訊いてみた。
「迷惑をかけたのだから、みんなにあやまってほしい。」
女の子が発言した。
たくさんの子から一斉に、「同じです。」と声が上がった。

 私は、たまらず
「いや、それは違う。あやまることはない。
みんなが思うほど、白衣を忘れたことが迷惑にはなっていない。
だって、白衣がなかった子は、牛乳配りにまわっていたじゃない。
一日くらい白衣がなくても、牛乳配りなら立派にできたじゃないか。
それよりも、明日持ってくるという友だちを、なぜ信じてあげないの。
失敗をした友だちを、なぜ励ましてあげないの。」
と、力を込めた。
 何人かの子が明るい瞳で、私を見上げた。

 ※ この事例は、自宅で洗濯した白衣を忘れた子への、
同じ学級の子ども達の対応の問題である。
忘れた子を責める発言とそれを容認する子ども達の態度、
それが圧力となり、S君を萎縮させている。
このような雰囲気の学級で過ごす日々は、それだけで過酷である。
新しいことにチャレンジしたり、助け合って困難を乗り越えたりする学習環境からは
ほど遠いと言える。


2 学級の代表になった一コマ

 N男は、「きたない。」「約束を守らない。」「みんなに迷惑をかける。」等々、
学級の嫌われ者だった。

 しかし、N男は、いかに孤立していても、我関せずとばかり
そのことを意にも介していないようであった。

 夏休みが明けてすぐ、プール納めがあった。
例年、高学年は学級代表4名による100メートルの学級対抗リレーが、
そのプログラムにあった。
 学級で、代表を誰にするかが話題になった。
私は、3才からスイミングクラブに行って、
泳ぎの上手なN君が代表の1人として当然選ばれると思っていた。
 学級全員でその話し合いがあった。
代表の推薦が始まった。
中々N君の名前が上がらなかった。
N君が学級で2,3番目に泳力があることは、誰もが知っていることだった。
6名の推薦者が出ても、まだN君の名前はなかった。

 私はしびれをきらし、「N君を推薦します。」と発言した。
 7名の中から4名を選出する話し合いになった。
私は推薦の理由として、「男子では2番目か3番目に速いから」と言った。
「先生はそう言うけど、リレーはタッチとかチームワークが大切です。」
「N君は、いつもピリッとしていないから、代表として心配です。」
と、次々と反対意見が出た。
そして、「僕はN君となら、一緒にやりたくない。」
と言う子まで現れる始末だった。

 私は、「なぜ、もっと友だちを信じてあげないのだ。」と言いたい気持ちを抑えた。
本当は短かったのだろうが、とても長い時間、私は待った。
すると、弱々しく挙手をし、
「僕は、先生の言うとおりN君は泳ぐのが速いのだから、代表になった方がいいと思う。」
と立ち上がった子がいた。
「同じです。」の声が、教室の所々から聞こえた。

 「N君は、選手になってもいいですか。」
司会者の問いに、それまで手いたずらを続けていたN君は、
「どっちでもいい」と、小声で言った。
 N君は、多数決の結果、4番目に選出された。
教室はざわついた。
N君は一瞬顔を上げ、驚きの表情をした。

 いよいよその日、N君はいつになく陽気だった。
消しゴムをちぎって近くの子に投げ、私から注意されたり、
訳もなく突然椅子から立ち上がったりした。

 プールサイドに立つN君は、緊張しきっていた。
私は、何一つ声をかけなかった。
N君は、一人もぬくことなく、またぬかれることなく、
25メートルを泳ぎきった。
私の横をぬれた体で通りすぎるN君に、「よかったね。」と声をかけた。
小さくうなずいたN君は、学級の列に戻り、背筋をのばして座った。
 その日から、N君とその周りに少しずつ変化が見られるようになった。

 ※ どんなことがきっかけであろうと、周囲の友達から期待を寄せられることは、
成長の大きな力になる。
 ましてや大なり小なりしろ、その期待に応えることができたなら、
それは、その子の不動の自信につながる。
 この事例は、その一片を示していると思う。
N君にとっては大きな出来事であっただろうが、
そんなN君の姿を見て、周りの子ども達も選出してよかったと思ったことだろう。
 そんな経験の積み重ねが、
助け合ったり、支え合ったりする学級の雰囲気を築き上げていくのである。




すっかり雪が消えた 伊達の冬

 

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