くしくも中村文則の『王国』の中で最後まで見え隠れするのは、女性原理を象徴する「月」だ。
男根を連想させる「塔」が『掏摸(スリ)』の象徴的なイメージであったのとは対照的である。
「月の王」ルートヴィヒ二世が夜の世界に生きたように、
本作の主人公たちも、現代日本の夜の「王国」に生きる。
すなわち、「善悪を超えた純粋な狂気」の支配する倒錯の世界である。
語り手の「わたし」は、鹿島ユリカという天涯孤独の女性だ。
児童養護施設で育ち、唯一の友人ともいえるエリすらも事故で失う。
また唯一自分の生き甲斐になるかと思えた、エリの遺した翔太という少年も突然、奇病に襲われる。
「わたし」はそんな「運命」に抵抗したいという気持ちを抱き、
治療にかかる膨大な費用をひとりでまかなおうとする。それが犯罪の世界に足を踏みいれるきっかけだ。
(つづく)
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