羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

内田樹著『下流志向』 リスクヘッジ

2007年02月13日 19時05分12秒 | Weblog
 片付けと確定申告準備で、しばらくの間、本を読む気が起こらなかった。
 ようやく目処がたって、読み始めた。
 
 手始めは、撫明亭のご主人が推薦していらした『下流志向―学ばない子どもたち 働かない若者たち』内田樹(たつる)著 講談社を一気に読んだ。
 ご自身で書かれたというより、テープおこししたものに手を入れられたので、読みやすかった。
「そうはおっしゃるけど」などと異議申し立てしてしまうようなところもあったが、全体として平易なことばで、本質をえぐっておられる好著だ。

 たとえば「リスクヘッジを忘れた日本人」、-リスクヘッジは面倒な仕事です。丁半の両方に張るわけですから、目に見える仕方では利益は上がりません。最良の成果が「まだ破産していない」ということなんですから…中略…ビジネスでは「現状維持」というオプションはありません。成長するか、没落するか、二つに一つです。「現状維持」を選択するということは、資本主義市場経済においては、ほとんど自動的に「没落」を意味しますー
 
 しかし、その後に「三方一両損という調停術」の話が続く。生死にかかわるリスクの場合、とにかく生き延びたという「現状を維持する」技術を知らなければならないという。「丁か半か」の二者択一勝負ではない知恵、つまりリスクヘッジを可能にすることを現代日本では、学校でも家庭でもメディアでも教えないとおっしゃる。
 ここを読んで振り返ってみると、我が家で教えられたことを思い出す。
 折に触れて「現状維持」というリスクヘッジを教えられてきたような気がしているのだ。

 このことは10代のころ、ものがわかり始めていながら、まだまだ子供だった私自身が、否定した我が家の「前近代性」のなかにあったことに他ならなかったように思える。
 今、この年になってこの本を読むと、野口三千三先生に再認識を促された我が家の「前近代性」が、必ずしも全面否定すべきものではなく、肯定的な目をひとたび向けてみると、その内側に「知恵」を秘めていたことに気づかされ、そのことと共通する価値観が語られている。そこにこの本への共感を覚えるのかもしれない。

 印象に残った内田氏のことばをここに記しておきたい。
―ほんとうの「多文化共生」というのは、一人の中に、複数の価値観や複数の言語や美意識が混在していて、それがゆるやかに統合されている状態を達成することを通じてしか実現できないと僕は思っているんです。そんなこと実現できる社会なんて、どこにもないですけど」
 
 野口先生もこの考えに近い価値観をお持ちだったと思う。
 だから野口体操に魅かれた若き日の私がいた、ということを改めて思い出させてもらった本だと言い添えて、今日のブログを書き終えたい。
 ご一読をおすすめ!
コメント
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