いつもは通路側を占めるのだけど、広島行きの675便は窓側に座った。
太平洋高気圧に覆われたこの日は上々の天気だ。
離陸して20分、美しい円錐形が見えてくる。未だたっぷりの雪を蓄えた富士の雄姿。
やがて3,000m級の峰々を連ねた南アルプスが現れる。
山梨、静岡、長野の県境地帯には幾筋もの深い谷が走る。
目を凝らすとこうした深い谷々にも心細い道がくねり、あるいはつずら折れている。
寄り添うように家屋がある。きっとそこに日々の営みがある。
そう思うと感動的な情景だ。谷のひと刻みひと刻みに、もうすぐ春が訪れる。
明日、春が来たら / 松たか子