<3県庁新採用でお役所仕事に呆然とするも乗り切れ!!編(後編)>-----------------------
●ゼロから作る
根拠の帳簿や伝票の無い中で「確からしい数字を作る」という助け船を提案してくれた若い技術職は、口先だけで無くその作業に参画してくれることとなった。上司の指図でもあるが、破天荒な取組に何よりも自ら面白さを感じるからだという。難題を面白がるという公務員らしからぬ感覚に驚きすら感じられた。
難度が高く量も多い仕事であっても面白みを見出しようがある…。目から鱗の私は、工業用水道施設の設備や機器を調べ上げて台帳化していくという山のような作業も、システムやメカニズムの面白さや導入費用など、普通の生活では知り得ない事柄を学んでいける勉強の機会だと思えば興味深くなってきた。
膨大に嵩張る作業の一方で期限的に短期間で収斂させなくてはならない仕事というのは、時には少ない人数がより効率的である。20歳代前半の事務職と技術職の2人による毎晩午前様帰りを重ねた作業は、果たして、数百ページに及ぶ台帳資料を期限ギリギリに調製せしめた。
ゼロから作り上げた固定資産台帳は対外的に通用するのか。公表済み公的資料との整合性が重要となる。議会認定を経てきた毎年の決算関係資料は、記載内容が包括的で概括的ゆえに台帳作成に直接引用できずに悩まされたが、逆算的な手法を通じて、仕上げた台帳と突合して確からしさを測らせるには容易とできた。
作成した固定資産台帳の説明にあたり、先ず金額面で過去の決算資料の項目の括り毎の小計や合計と照らして見せることで上司の心証が基本的に得られ、設備や機器の品目と導入時期も決算資料情報と矛盾の無いことを一通り説明することで、庁内の了解を得るとの第一関門をクリアできた。
「数字を作る」。一見すると何ともいかがわしげであるが、今回のように原則的な方法が採れない場合に、短期間に限られた情報と知見に基づいて、投資費用を漏れなく妥当性をもって台帳に落とし込むという本旨を果たすための最適な対応であったと今でも確信できる印象深い経験であった。
●膨大な資料と情報量が押し切る
ゼロから作り上げた固定資産台帳は庁内関係者の了解は得られたが、それを根拠として添付する工業用水料金認可申請書は国から了解を得られるのか。重箱の隅を突くタイプの国担当官は今だ在任中である。進捗中の建設工事を止めずに認可を得るにはリミットが迫っていた。
どれほど難航するかと構えていた工業用水料金認可の国との協議は、くだんの国担当官が思いのほか面倒を言わずにそれほど揉めずに進んだ。旧態依然とした裁量行政の最たるを見せた彼は、その封建的性格ゆえに、自身としての仕事に臨む熱意は高いものではなく、本省幹部から先に内諾を得ていた本件について荒立たせることはしなかったのだ。
国地方局の担当官は本省幹部が大筋合意した案件であることに加えて、工業用水料金認可申請書案の膨大な添付資料の情報量に審査の食指も萎えてしまったようでもあった。外形的形式的な資料間の突合関係など一通り終えると幾つか軽微な修正指示程度で事前協議を終える運びとなった。
少ない情報だと一つ一つが目に付き掘り下げたくなる。逆に圧倒的で膨大な情報の前では人の思考は焦点をとらえづらくして停滞する…。ずるい手法ではあるが、時と場合、物事の軽重により効果的に使える視点だなと、夜遅く帰路の新幹線でビールなど含みつつ薄れる意識の中で思ったものである。
●最初の終わり
採用いきなりで前代未聞の建設中工業用水道のドッキングプロジェクトに巻き込まれ、破天荒な手法で料金設定をクリアしてもなお、年間千時間超の残業でハイとなっていた頭脳は更なる難題覚悟モードであったが、終わりは突然に来た。新採用3年の勤務を終えて通例の異動が内示された。
新採用で他の職場を知らない私は、心のどこか本気で、現職場で退職まで勤めるかのような気持ちがあった。異動先は現職と全く無関係の福祉事務所。これが仕事のデパートたる県庁の人事異動か…と思わせた。新たな職場でも終生の仕事と考えてまた頑張れば良い。昔から頭の切り替えは早い方だ。
最初の職場は難儀を重ねたことで思い出深いが、工業用水道料金単価が約30年前に私が設定担当してから改定されていないことを最近偶然知った時は、昼夜無く働いていた日々が鮮やかに脳裏に蘇った。難題に対処してこそ得られる仕事ならではの充足感は新たな課題に臨むモチベーションだと知った。
(回顧3終わり。いよいよ採用2か所目の職場に臨む回顧4は近くupします)