じっと水面に横たわって観察していると土左衛門に間違われることもある。というはなし。 観察する力 上。
春、海から遡上し、夏、長良川全域で育つ。秋、産卵して次の世代へ命を繋ぐ。
「長良川のアユの故郷は岐阜市だ。市中で産卵するアユをみてみないか」長良川河口堰問題で知り合った仲間たちにそう話した。27年前のことだ。当時の私は川崎市に住んでいたが、長良川のアユがいつ頃、どの辺りで産卵するのかという情報を、河口堰関連の報告書で知っていた。一番良さそうな場所は、関東と呼ばれる禁漁区で、国道21号線の穂積大橋の下流、岐阜県庁の近くだった。9月下旬から10月中旬くらいと当たりをつけ、川岸にテントを張った。
最初の夜のことは今でも覚えている。すっかり日の落ちた川に、夜空の明かりを頼りに入った。水中マスクを被り、潜る。暗闇のなか、顔や手のひらにあたるものがあった。水中ライトを灯した。目の前はライトに驚いて一斉に逃げまどうアユでいっぱいだった。
これはすごい、仲間たちも感動して、観察会を始めようということになったが、問題があった。群れるアユの姿を、みることはできた。しかし、明かりをつけるとアユは逃げてしまうのだ。産卵の瞬間を見せたい。赤外線カメラを水中に入れてみるなど、工夫するのだがうまくいかない。
暗くなる前に、産卵を観察できる時間帯はないか。明るい間に浅瀬に水中マスクをつけ、顔を横にして寝そべる。右の目は水中に、左側は陸上にだして、そのままじっと、アユを観察していたときだ。
堤防の上に人影が見えた。それが消え、しばらくするとサイレン。パトカーと消防車の赤色灯が堤防の上に止まった。川音が大きいので人の声はよく聞こえない。やがて、パトカーは去り、静かになった堤防に、また人影がひとり。こちらを見て、腕を振り回している。何だろう。
後日漁協から、私を土左衛門と思い、警察に通報した方から抗議があったと、おしかりの電話があった。
(魚類生態写真家)
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