アユの産卵する瞬間を「生」で見せたい。その思いから長良川で観察会を続けてきた。友人たちと思いと繋いでの26年間だった。その瞬間にささやかな、魔法をかけた。
マジックアワー
アユの産卵する瞬間を「生」で見せたい。そして26年間、観察会を続けてきた。
観察会を始めた最初の頃には、浅い水路を渡れば産卵する中州に近づけた。産卵する場所のそばにテレビと発電機をセットして、参加者は水中カメラでアユの産卵を観察した。
川の形は毎年変わる。浅かった水路も次の年には深くなった。そこで、岸にテレビをおき、中州からの水中カメラの映像をビデオケーブルで中継した。やがて数年たち、水路の幅と深さがまし、ケーブルでの中継は難しくなったが、監視カメラ用無線機を使って映像を送るようになった。
川原にスクリーンを設置して、私が撮影した映像を参加者は「生」で観る。行動の説明は、川岸に戻った私が録画した映像を再生しながら行う。この方法でアユの産卵観察会を行うようになったのが十年ほど前だが、これが本当に「生」の観察会といえるのかという悩みがあった。
録画ではなく、「生」でその瞬間の説明ができないか。その想いを形に出来たのは二年前、カメラマン徳田幸憲さんが飛騨市から手伝いに来てくれるようになってからだ。
日が傾きだす4時30分から説明を始める。映し出される映像を見ながら、水中の様子、そしてアユの産卵がどのように始まるのかアドリブで解説する。
「色の黒いのはオスのアユ。メスは銀色をしている」
前に詰めた子供らはすぐに色の違いを理解してメスの姿を追う。日はさらに傾き、オスの群れは数を増す。そして、下流からは銀色のメス。がしかし、産卵はなかなか始まらない。私はささやかな手品を使った。「4時47分に産卵します」産卵の時刻を予告したのだ。夕暮れにアユは産卵を始める。それは、山陰に太陽が隠れ、空が残照に輝く魔法の時間帯、マジックアワーの始まる時刻だった。
その時がきた。カメラはアユの産卵の瞬間を映し出し、人々から歓声があがった。(魚類生態写真家)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます