『学びの物語の保育実践』(大宮勇雄著 ひとなる書房)は、
保育と教育の可能性を大きく広げてくれるすばらしい本です。
また家庭でどのように子どもに関わると
意欲的で持続的な自分の力を100パーセント出しきるような学びの構えを
身に付けさせることができるのか学ぶことができますよ。
子どもに「学ぶ構え」をつけるのには、
毎日、一定時間、机に座る習慣をつければよいと考える方がいます。
身体が習慣になじんでくると、頭も自然に集中するという理由でしょう。
でも、現実には形だけ作っても
頭も心もそわそわして、心ここにあらずになるのが子どもです。
無理矢理習慣付ければ、適当にする癖がつくか、嫌がるようになるか、
きちんとしたところで「義務を果たす」以上でも以下でもない結果となりがちです。
まず、子どもの内面に自ら困難を選んで、
自分に課していこうとするチャレンジ精神を養っていくことが
外から見た目を整える以上に大切なことだと感じています。
『学びの物語の保育実践』にマーガレット・カーによる面白いインタビューが載っています。
幼稚園・保育園で行っている活動の中には「むずかしいと思う」ことはそれほど多くあがらなかったと
カーは報告しています。
このインタビューによると、23人の子どもたちのうち10人の子どもたちは、困難な課題は(園以外の)
他の場所だけにあるという回答で、
つまり子どもたちのおおよそ半数は、園を、彼らが困難なことに立ち向かい乗り越える場所としていないことは
明らかだったのです。
子どもにとって集団の場には、挑むに値する「困難な課題」が見当たらない場合があります。
それに、子どもにもみんなの前で恥をかかないようにしようとする知恵はありますから、
失敗するリスクの高いチャレンジは、
十分なサポートない場ではやりにくいですよね。
この著書にあった言葉を借りれば、
保育者のエネルギーが一斉保育の準備、計画に注がれる保育、
子どもの関心が断ち切られるような保育、
保育者の期待する活動や姿から子どもの「できる・できない」を評価する保育の場には、
子どもが成長するために自ら選びとっていく課題が存在しないし、
あったとしても、それに保育者が気づき、認め、応える態勢が整っていません。
最近では、早期教育の情報や幼児教室の考え方が中途半端に家庭の中にも浸透して、
0歳、1歳児、2歳児が育つ家庭環境までが、
大人の期待する活動や姿から子どもの「できる・できない」を評価するという
とんでもないものに変容しつつあります。
『学びの物語の保育実践』に次のように書かれています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「困難に立ち向かう」姿は、どのようにして生まれてくるのでしょうか。
それがわかれば、試行錯誤や創意工夫をしながら問題解決に粘り強く取り組む
子どもを育てることができるでしょう。
学びの物語の五つの視点は、そうした学びがつながっていくプロセス、つまり「成長」を
とらえるうえでとても有効です。(略)
関心と熱中から、「困難に立ち向かう姿」が生まれてきた、そういう記録を紹介します。(略)
「関心」は「熱中」をもたらし、「熱中」は「関心」の幅を広げ、
その深まりをもたらす。
「関心」と「熱中」が相互に手を携えて発展する中で、子どもはむずかしいことに挑戦し、
誰もやったこともないようなやり方で自分のテーマを表現したくなる。
そして……探求は、……の本質に向かう。
『学びの物語の保育実践』(大宮勇雄著 ひとなる書房)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
虹色教室で子どもたちと接していると、
子どもが何度も何度も、
この関心と熱中から、誰もやったことのないようなやり方で自分のテーマを表現し、
自ら困難を選んで挑戦していく姿を目にします。
私が感じるのは、
こうした学びと成長のプロセスに入っていきやすいか、入っていきにくいかは、
親御さんの価値観と姿勢に大きく左右されるということです。
障害のあるなしとか、知能の高い低いとかはあまり関係ないように思います。
子どもが困難に立ち向かおうとせずにぐずぐずしがちな場合、
親御さんが子どもの関心や熱中よりも、
外から子どもに与えられる評価が関わる課題の方を重要視していることがよくあります。
子どもが自分が何が好きで何が面白いのかもわからないし、気づかないうちに、
次々、するべきことや、喜ぶべき楽しみを与えられているのです。
ベビー向けのサークル活動で楽しそうに振舞うこと、
いっしょに参加すること、
絵本を喜んで読んでもらうこと、
他の子のできることは同じように意欲的に取り組むことといった
親への過剰なサービスを赤ちゃんにまで求めてしまいがちなのです。
赤ちゃんは、親へのサービス業をするために生まれてきたわけではありませんよね。
まず、子どもが自分のペースで自分を育てていこうとするのを「待つ」ことが、
子育ての最初の課題です。
子どもが何かに関心を寄せ、ひとつのことに熱中しはじめたとき、
「また、同じことをしている」「ママがしてほしいこれをやってみて」
「~へお出かけしましょう」と忙しく振り回さずに、それに気づいて、認めてあげて、
十分繰り返せるようにサポートしてあげることです。
子どもの興味や関心の中から、困難にチャレンジしていこうとする決意が生まれるまで
忙しく大人の事情でいじくりまわさないことが大事です。
大人がヘリコプターのおもちゃを見せてあげたいときにも、
子どもの関心は、工事現場で道路を掘り返しているおじさんの作業にあるかもしれません。
大人が水泳教室で級が上がるかどうか気にしているときも、
子どもの関心は、雨水の音が何かに似ていて、それを詩の言葉で表現してみたいという思いにあるかもしれません。
大人が先回りして、子どもができそうな課題を設定しては、「いつのまにかできるようになっていた」という
本人不在の成長をプロデュースし続ける限り、
子どもは「自分で興味を持ったことから熱中しはじめて、
そこから困難な課題を見つけだし、自分で設定して乗り越えていく」という本当の成長に結びつく
体験ができません。
↓は自ら選んだ課題に一生懸命取り組む子どもたちの姿です。
--------------------------------------------------------------------------
最新の画像[もっと見る]