子どもの才能を伸ばそうと思うとき、たいていの方は「何をさせるか」「何を学ばせるか」に着目することと思います。
また好きかどうかを調べるのは、習い事やワークショップなどで体験させてみて、喜んだかどうか、他の子よりできていたかどうかで才能の有無がわかると思いがちです。
でも、たいていの場合、才能は誰かが設定した環境のなかにこじんまりと収まるものではありません。
「こんなことをやらせてあげよう」「こういう風に学ばせよう」という枠からあふれだしたり、ずれたり、
反対方向に針が振り切れたりするところにこそ、その子ならではの特別な能力が潜んでいるものですから。
ポップアップ絵本作りの際も、全員に見せたお手本は同じですが、それぞれの反応も、興味の方向性も、出来上がった作品もずいぶんちがいました。
前回、大きな大きな階段を作って、基本のおうちをぐるりと囲ませていたAちゃんの場合、最初に、「今日は何かやりたいことある?」とたずねた時から、
「何もやりたくなーい」「どれもつまらん、やりたくなーい」と言い続け、他の子らの希望で、ポップアップ絵本作りをすることに決まりかけると、
「何もやる気ないし、全然、やりたくなーい、面白くない」とわざとだるそうなポーズを繰り返していました。
Aちゃんが、「何もやりたくない、面白くない」とわざとだるそうなポーズをとるのは、完璧主義で、これまで誰も作ったことがないようなものを作りたいという理想の高さの裏返しで、
実際には、いつも、誰よりも活動に熱中し、ユニークな大作を仕上げているのです。
Aちゃんは創造的でエネルギッシュな子ですが、Aちゃんの能力をきちんと発揮させるには、関わる上でAちゃんという子をよく知っておく必要があります。
たとえば前回の記事で書いた
Aちゃんのお母さんの「それじゃ、ポップアップにならないわ。開かないでしょ」という注意のような
「何を作っているのか、何を目指しているのか」決まっている状態で、その路線からはずれたらダメだししていく」という形の関わりをすると、
たちまち、無気力で反抗的な態度に終始することになってしまうのです。
教室での創作活動は、お手本を教えますが、子どもがそこからはみだした時こそ、その子が自分の「こんな風にしたい」を存分に追及できるように手助けしています。
基本のお家を階段でぐるりと囲むアイデアは、確かにポップアップにできるのかさだかではありませんが、頭の回転が速く、次々と面白いことをひらめくAちゃんらしいアイデアです。
わたしはAちゃんのアイデアについて、Aちゃんの話にしっかり耳を傾けて相談に乗ることにしました。
「Aちゃん、らせん状に階段がだんだん高くなっていくのはすてきなデザインよね。どうしてもポップアップにしたい場合、かなり工夫がいるかもしれないよ。
もし、Aちゃんがポップアップ絵本ではなくて、開いた形のままで、ぐるっと階段があがっていく建物を作っていくのでもいいなら、とても魅力的な作品ができあがると思うよ」
といった話をすると、「たためなくてもいい」と言いました。
そこで、Aちゃんに階段の一方の高さと同じ幅の帯を作ると、もう一方にも壁ができることを教えました。
すると、Aちゃんは、目を輝かせて、「それなら、こうすればいいね」と、階段のスタート地点を最初に作った家の屋根部分まで引き上げました。
そうして、これから作るもう一方の壁に、反対側の壁の高さともともとあった家の高さを足すと、らせん状の階段は一気にスケールの大きいものになり魅力がアップしました。
それからのAちゃんは、2年生と思えない根気と創造力で、誰の手も借りずに残りの階段の壁をすべて作りあげたあとで、家の屋根から降りるための折り返す形の階段を作っていました。
次回に続きます。
>でも、たいていの場合、才能は誰かが設定した環境のなかにこじんまりと収まるものではありません。
>「こんなことをやらせてあげよう」「こういう風に学ばせよう」という枠からあふれだしたり、ずれたり、反対方向に針が振り切れたりするところにこそ、
その子ならではの特別な能力が潜んでいるものですから。
ここ、おもしろいですね。こどもって大人の予想を軽く超えてくるな、と思うことはあるのですが、はみでるところに才能が隠れているんですね。こんどからそういう眼で見てみよう、とおもいました。