★自分の心が動いてから行動する
意欲や積極性が弱い子の親御さんは、子どもの心の中に欲求や欲望が芽生える前に、先回りして声をかけて、さまざまなものを与えていることがよくあります。
たとえば、虹色教室でひとりの子が「自分の工作には風船が必要だからちょうだい」と言って、私が、「どんな物を作る予定なの?」とたずねたり、
「どの色にするの?」と選ばせたりしているとします。
すると自分の子がその風船を見てもいないのに、
「ほら、風船をもらっているわよ。はやくぼくもちょうだいって言ってらっしゃい」と、子どもの背中を押す親御さんが多いです。
私は子どもの表情に、「風船だぁ!」という興味や、「ほしいな!」という思いが生まれない限り、何もしません。
もしほしがったときには風船がなくなってしまったとすれば、
「なら、これではどう?」「こっちでは?」という子どもとの交渉ややりとりを楽しみます。
多くの親御さんは、わが子を喜ばせ楽しませること、わが子に損させないこと、わが子に恥をかかなせないこと、わが子が失敗しないように手をつくすことが親の役目だと思っているような言動を、家の外の環境にいる間中しがちです。
私は、1歳、2歳というまだ頼りなげで親の十分な世話が必要な年齢であっても、上に挙げたようなかまい方は、不要だと思っています。
子どもが親に望むのは、
自分が見つけた楽しみを、共感してもらうことであり、
自分がやってみたいと感じたことを、そっと支援してもらうことであり、
自分でやってみて失敗したときに、「大丈夫よ」と安心させてもらうことなのです。
工作のワークショップでこんなことがありました。
水色のポリひもを使って川を作っていたときです。
4歳の男の子が釣竿を作りたいと言っていました。
私がその子に基本の作り方の説明をしたり、どんな風に作りたいのかたずねていると、
横にいた親御さんが、私の言葉のひとつひとつを「さぁ、先生が~言ってるから、これしなさい」「先生が~って聞いているよ。~って言ってごらん」と指示の言葉に変えて話しかけているのです。
子どもの方は、自分がどうしたいのか考える余裕もなく、
「これしなさい」が続くので、とまどって、ぼんやりしたまま突っ立っていました。
また、いつも他人とのコミュニケーションを親御さんに仲介されているようで、直接、私と会話を交わすことは思いもよらないという様子でした。
釣竿の部分を作るため、色画用紙を丸めたとき、本人が丸めると、釣竿にしては太すぎるし、ゆがんだものになりました。
こんなとき、即座にきれいな筒に作り直してあげる親御さんや、
「太すぎるよ。そこゆがんでるよ」など指摘する親御さんがいます。
けれど、そうした行為は、「今回やりたいと思ったことをする能力は、あなたにはありません」というメッセージとして伝わっている場合がよくあるのです。
私がそのちょっとぶかっこうな釣竿を、「いいね。ちゃんとできているよ。」と認めると、男の子はにっこりして、ひもを自分でつけたがりました。
それから、「お魚をどうやって釣ろう? モールをグニューッとして、引っかけるのもいいし、磁石でペタンッって引っ付けるのもいいよ」と言うと、
男の子は、自信なげに、「テープでつける」と言いました。
「先生は、モールか磁石かって聞いているのよ……」と親御さんが
その子に説明しかかっていたのですが、
「それはいい考えね。ぺッタンテープを作って、お魚釣りができるかやってみよう」と言って、その子の釣竿のひもに粘着面が外になるようにしたセロハンテープをつけました。
すると、セロハンテープでも,ちゃんとお魚が引っ付きました。
すると、その男の子の顔一面にうれしそうな笑顔が広がりました。
それまでのぼんやりした様子から考えられないくらい、いきいきとした表情でした。
どんなにすばらしい考えも、
自分で思いついたものにはかなわないのです。
どんなにすばらしいものを与えられても、
自分で選んだものと決めたものにはかなわないのです。
その子は、その後、私の手元を見て、熱心に学び取ろうとするようになりました。
その子の心がちゃんと動きはじめたのです。
自分の心で、「こうしたい」「ああしたい」「うれしい」「かなしい」「くやしい」「うらやましい」「ワクワクする」と感じて、
それが原動力となって行動すると、
親や先生から「やってごらん」「こうしなさい」と言われてやることの
何十倍、何百倍の自信につながります。
しっかり自分の心とつながっていろんなことをしていると、
子どもらしいいきいきとした熱心さが生まれます。
大人の話にも夢中になって吸い込まれるようにして耳を傾けるようになるのです。
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いつも気にかけながら子育てしようと思うのですが、なかなか初心通りに事は運びません。
共感・支援
先生の記事を読むたびに、子供へのメッセージを大切にしようと思います。
子供も、親が嫌いになることもあるだろうし、遠ざけたくなることもあると思います。
その気持ちを親も理解し、常に共感できるように門を開けておきたいですね。
子どもに共感し、そして適度な支援も必要だと。その具体的な例をあげていただけるので分かりやすいです。
親がかかわるタイミング、身につけたいです。