私が子どもたちの学習を見ていてしみじみ感じるのは、それぞれの性格タイプによって「やる気のもと」となるものは異なるし、「勉強嫌いの原因となるもの」もずいぶん違うということです。
十把ひとからげに「子どもは競争を好むもの」とか、「子どもは褒められればがんばる」といった捉え方をしている場合には、性格タイプによる勉強との付き合い方の違いを知ると、少し考え方の幅が広がるかもしれません。
それでは、算数の学習について、それぞれの性格タイプの「やる気のもと」と、「勉強嫌いにさせないコツ」について私の考えを書かせていただきますね。
感覚タイプの子は、コツコツと几帳面に作業をこなしはじめると、そうした作業そのものにモチベーションを感じることが多いです。
幼い頃、パズルをしたり、モンテッソーリの教具のようなもので遊びだすと、ひとりで何度も繰り返す時の達成感が、そのまま学習の動機となりやすいです。
感覚タイプの子は同じペースで持続していくことは好きだけれど、直観的なひらめきを求められる頭脳パズルのような問題は、慣れないと嫌がることもあります。
感覚タイプの子を勉強好きにしようと思えば、毎日自然に繰り返したくなるようなスローステップの良質の教材を与え、手で触れる教具で五感から学ばせ、このタイプの子を不安にさせる無理な負荷をかけないことだと思います。
黙々と同じことを繰り返す期間が長いので、進歩していないように感じるかもしれませんが、そうした易しい作業を通して、単にそれができるようになるだけでなく、多い少ないや増減の感覚を自分の内面に発達させていきます。
すると、「この子、天才?」と驚くような数学的なセンスを発揮するようになる子が多いです。
感覚タイプはお金の計算をするのも大好きなので、おこづかいを与えることも算数好きにするポイントです。
思考タイプの子は、思考を必要とする「考える」問題を与えことが強い学習意欲につながります。
思考タイプは圧倒的に男の子が多いようです。(ユング派の心理学者の秋山さと子さんが、「女性の思考タイプはほとんどいない」と書いているのを読んだことがあります)
すでにできている漢字を何回も書かされたり、作業的な学習が続くと勉強を嫌がることもあります。
放っておいても高学年くらいからは成績が伸びてくるはずです。
直観タイプは、好奇心を刺激される算数クイズのような問題や、ボードゲームやカードゲームで頭脳を使うようにしていると、勉強好きになっていきます。
当てずっぽうで解いているように見えるときもあるので、調子よく学習しているときも、答えを出すまでの道筋を言葉にするのを手伝っていると、思考が発達してきます。
このタイプに易しい問題ばかり解かせると、考えずに勘で言い当てることが勉強だと思い込むので、そこそこ骨のある問題を絵を描いて解かせるなどの工夫が必要です。
また、漢字練習や計算練習などの地味な作業を極端に嫌い、かなり思考力のある子に限って、作業の量が多すぎると、深刻な勉強嫌いに陥るかもしれないので注意が必要です。
感情タイプは、人から褒められることや認められること、みんなの注目を集めること、友だちといっしょにわいわい活動することが学習のモチベーションとなります。
人と関わるのが好きで要領もいいので、言語能力や記憶力が高い子が多いです。
(言語能力や記憶力があまりよくない感情タイプの子は劣等感を抱きやすく、非常に繊細で、言葉を介さない面では、大人並みに人を観察していて、人が自分をどのように評価しているかなどに敏感なため、特別に気をつけて育てる必要があると思います)
感情タイプの子は、場の空気を読むのがうまくタイミングよく物事をこなすのが得意ですが、ひとりで「考える作業に集中する」ことを極端に嫌います。
感情タイプの子は、感覚が補助機能でもあるので、コツコツする作業もそれほど苦手ではないので、記憶力がよい子の場合、「先に解き方と答えを覚えてしまって、さっと答えを出して、即座に周囲からの注目や賞賛を浴びる」というスタイルで、ある時期までは、たった1分間すら考える作業を持続できないまま優等生として過ごしていることもよくあります。
でも、感情タイプの子は抽象的な思考を毛嫌いすることが多く、いつも満点を取っているような子でも、ほんの少しの時間でも「考えを練る」ことが耐えられない……熟考なんてとんでもない……という子もよくありますから、小学校高学年以降の学習でつまずきがちなのです。
特に、親御さんも感情タイプの方だった場合、一度つまずくと、なかなか持ち直せないときがあります。
というのも、感情タイプの親御さんは、子どもが幼児期や小学校中学年くらいまでの期間に、効率的に「できるようになること」や「よい成績を取ること」だけに注目して、自分で工夫したり、遠回りでも自分で考えたりすることを、時間の無駄だと捉えて子育てしていることがよくあるのです。
生活の場面でもそうした傾向は強いです。
親御さんのそうした合理的に効率的に良い結果を出そうとする態度は伝染して、もともと「学習内容への興味は薄いけれど、そこから得る結果には強い関心がある感情タイプの子」に対して、
「華々しい結果を出せないなら、全く何もしない方がまし。でも、考えることは嫌」
「自分の勉強ができないのは、先生の教え方が下手だから。塾や家庭教師を変えるといい成績が取れるはず。でも自分で考えるのは嫌。自分が変わるのは嫌」
という考え方をするように仕向けてしまうことが多々あるのです。
順調に物事が進んでいるときにも、親が自分の性格タイプの長所と弱点を把握しておくことが大事だと思っています。
人の心から影響を受けやすい感情タイプの子らは、堅実でぶれない大人の考え方の下では、着実に苦手な面を克服していって、人を惹きつける魅力ある性質に磨きをかけていきます。
感情タイプの子の多くは、「あんなふうになりたい」というあこがれの人を見つけて、努力します。
良い出会い、良い人間関係が大事です。
でもせっかくあこがれるような人と出会っても、それまでに強い劣等感を抱くようになっていて、嫉妬や憎しみしか感じられないようになっていては、せっかくの感情タイプの子の長所が発揮できません。
感情タイプの子は、憧れの対象を見つけると、火事場の底力のようなすごいパワーをみなぎらせてがんばりだすことがあるのです。
このタイプの子はたいてい、「思考ができない」のではなくて、「思考が嫌い」なのです。
食わず嫌いみたいなものなのです。
『ユングのタイプ論』に次のような一文があります。
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感情タイプが思考できないと考えるのもまた、大きな間違いである。
彼らはとてもよく考えるし、深くて素晴らしい本物の思考や非凡な思考すすることも非常に多い。
しかし彼らは気まぐれなのだ。
たとえば、感情タイプにとって試験の間に適切な種類の思考を引っぱりだすことは難しい。
(『ユングのタイプ論』M.L.フォン・フランツ J.ヒルマン/創元社P 27より)
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親はこのタイプの子の自己肯定感を高めるために、勉強の成績とか、特技とか、態度といったものと関係なく、子どもが存在するだけで、その子の存在を丸抱えにあるがままで愛して認めることが、他のどのタイプより大切なのでしょう。