「Le Tombeau de Couperin」といえば、モーリス・ラヴェルによって1914年から1917年という第一次対戦中に作られた曲。当時の作曲家ドビュッシーの音楽に見られる「象徴主義」とはちょっと違う味わいの「古典主義」的な面が強い曲だと言われています。
このLe Tombeau de Couperinは「クープランただひとりにというより、18世紀フランス音楽にささげたオマージュ」という意味を持ちます。Wikipediaによると「墓」というのは誤訳で、18世紀フランス音楽の伝統にさかのぼって復興されたジャンルであるTombeauの一つであり、「Tombeau de ... 」というのは、「故人を偲んで」「故人を称えて」という意味だそうです。第一次大戦中に全6曲が断続的に作曲され、各曲が大戦で戦死した友人たちへのレクイエムとして捧げられています。
中井正子さんの版によると、各曲の前に「a la memorie du lieutanant~」(~の追憶に)とありラヴェルの友人の名前が載っています。
一度聴いただけで選曲の神様が降りてきたとばかり気に入って練習を始めたのが、その中のフォルラーヌでした。ラヴェルの曲自体初経験。しかもいろいろな方から話を聞くと、どうもこのフォルラーヌは、ラヴェル入門曲としてはあまり弾かれていないとのこと(メヌエットはよく弾かれているそうですが)しかも和音の仕組みがかなり複雑で、メシアンの曲によく用いられているMTL(移調の限られた旋法)もコーダに登場していて譜読みもややこしいということが判明。ゆったりしていて超絶技巧もなさそうなので弾けそうだという判断は相当甘かったような気がしてきたのですが、そういうミステリアスな雰囲気が漂っている曲を弾いてみたかったのも事実でした。
フォルラーヌは17世紀のフランスの音楽によく用いられていた6/8拍子の舞曲で、北イタリア起源の古いダンスだそうであり、ラヴェルのこの曲も古くてどことなくのどかな感じがします。ル ネッサンスと言ったら弊害があるかもしれませんがそういう雰囲気も。でも北イタリア起源だからそんなに弊害はないかもしれません、くわしく調べてはいない のですが。その一方初めて聴いた方の感想にはジャズみたいという感想もありました。リズミカルな面と、ちょっとひねりのある官能的な和音あるところが、 ジャズと共通しているし、実際にジャズによく似ている曲もあるような気がします。さすが20世紀のフォルラーヌといったところでしょうか。
ここまでがこの曲の客観的な説明。
ちなみに現時点まで受けたレッスンでの、先生からの私の演奏へのコメント。「まだまだラヴェルではないですね」私がちょっと「ス○ップ」という言葉を発したところ「う~ん。仲間内の発表会なら大丈夫だけど」と苦い顔。ごまかしているところはあるものの、一応暗譜もして、通して弾けるようになったのですが。やっぱり、まだまだなんだな~。しかしこれからおおいに改善の余地があるはず!?
しかしそういう現状を克服するにはどうしたらよいか、細かいところまで丁寧に練習して音色の変化をつけたり、苦手な装飾音や和音の跳躍を克服したりするのはもっともだし、なかなかうまくはいかないものの、そちらの方面はこつこつやってきたのですが。
それ以前にこの曲の中に、自己流で妄想に入っていきたいという思いがあります。背景もちょっと脇に置いて、イメージを膨らませたい思いがあります。そうでもしないとどうも入り込めない、困ったものです。
この曲はセピア色で始まるような気がします。舞曲でありながら、曲の中にささやき、もたれかかり、反りかえり、背伸び、跳躍、包み込みのような動き、あこがれ、切なさ、喜び、驚き、愛しみのような感情が込められていて、意識と無意識の間を漂っているところも見られる気がします。でもずっとセピア色ではない。別の有彩色がつくところもあります。少なくとも写真で示した楽譜の箇所には水色やピンクが含まれていそう。うんと遠くで金平糖の妖精たちが踊っている感じ。切れているところからもまさに金平糖です。そのような金平糖シーンが一定の間続きます。なのでその部分は遠くの金平糖を意識して弾いているのですが、どうも、近くでぎこちなく尻もちついている怪獣のような気がしてならない。何とかしたいな~。