のどかなケイバ

一口馬主やってます

死神 Lovely Death 2

2017-09-01 07:23:49 | 小説
 しかし、このデ×××ト、期待とは別のところでものすごい威力を発揮してみせた。オレは自分のアパートを目指して歩いたが、その間何人ものボンデージルックの幼い女の子を見かけたのだ。今は12月だぞ。寒くないのか? きっとみんな死神なんだな。デ×××トを入手したから、見てはいけないものが見えるようになってしまったんだな、きっと。
 しかし、まあ、この世にはたくさんの死神が蠢いてるんだなあ・・・ まあ、日本だけでも今1億2千万の人口があるんだ。世界だと70億を優に超えてるって話を聞いたことがある。死神だけでもこの世にいったい何人いることやら。
 でも、なんでみんな幼い女の子なんだ? もっと年いった死神はいないのか?

 オレは自分のアパートに到着した。オレの部屋は2階にある。2階に昇ろうとしたとき、2人の男が立ちふさがった。かなりヤバい雰囲気。オレは一瞬ビビったが、
「警察です」
 よかった、どうやらこの2人は刑事らしい。リーダー格の刑事が質問してきた。
「あなた、30分前書店で起きた強盗傷害事件を見てますね」
「あ、はい」
 今度は若い刑事の質問。
「あなた、なんであの場から逃げ出したんですか?」
 オレはフリーズしてしまった。やっぱ逃げ出したのはまずかったか・・・ ここは何か説明しないと・・・ が、ベテラン刑事の方が畳みかけてきた。
「ちょっと警察に来てもらえないですかねぇ」
 あれ、もしかしてオレ、万引き犯の一味と間違えられてんの? まいったなあ・・・ オレはなかば強制的に警察に連行されてしまった。

 しかし、オレは1時間ばかしで解放されることになった。すぐに濡れ衣だとわかってもらえたのだ。
 が、警察署を出ると、その玄関前にはもっと厄介なヤツが待っていた。刺された万引きGメンの相棒だ。20代前半て感じの女。一応美人だが、眼が怖い。ちょっと嫌な感じがある。
「あは、どうも」
 何か言おうとして、とりあえずこんな言葉を発してみた。
「どの面下げて警察署から出てきたのよ?」
 ああ… 想定してた以上の厳しいお言葉が返ってきたよ。
「あの~ 刺された人は?」
 オレは定石通りの質問をしてみた。
「へ~ 知りたいんだ。そりゃ気になるわよねぇ。死んだら仲間は殺人鬼になっちゃうもんね」
 だから、オレは仲間じゃないってばさあ・・・
「来て」
 というと女は振り向きざま歩き出した。おいおい、オレ、どうすりゃいいんだ? もう仕方がないなあ、この女についていくしかないか?・・・

 太陽はすでに傾き、もう夕暮れになっていた。オレと女万引きGメンが歩く先にかなり大きな病院があった。直感的にわかった。さっき刺された万引きGメンが入院してる病院なんだと。
 病院の中に入ると、女はエレベーターに乗った。女はさっから一言も発してなかった。顔色もずーっと同じ。オレは何か質問しようと思ったが、そんな雰囲気じゃなかったので、オレも黙ってエレベーターに乗ることにした。
 エレベーターから降りると、女はすぐさま廊下に面したドアを開けた。その中に入ると、やっと言葉を発してくれた。
「見て」
 そこは一面ガラス張りだった。その向こうは病室らしく、いろんな機材に囲まれたベッドがあった。そのベッドの中に寝かされている人間は・・・ たぶん昼間刺された初老の万引きGメンなんだろうな。
「とりあえず安定してるみたい」
 おいおい、本当か? 今あの人の足元に立ってんの、誰だよ? 黒いボンデージのかわいい女の子。こいつは死神だろ。
 ちなみに、最初に出会った死神はセパレートのボンデージだったが、今目の前にいる死神は大きく背中が開いたワンピースのボンデージだった。さっきの死神の髪型はショートボブだったが、今目の前にいる死神はツインテール。死神のファッションもいろいろとあるようだ。
「あなた、なんであのとき、逃げ出したの?」
 女が質問してきた。ようやく本題に入るようだ。
「別に理由なんかないよ。ビビっちまって、それで逃げ出したんだよ」
「ウソ!」
 ウ、ウソって・・・
「あなた、私の眼を見て逃げ出したでしょ! あなたもあいつらの仲間だったんじゃないの?」
 なんだよ、さっきの刑事と同じかよ。また一から説明しなくっちゃいけないのか? だいたいオレはあんとき、あんたの眼を見てないって!
 と、そのとき、けたたましい警報音が鳴り響いた。ほんとうに突然だった。
「な、何、これ?」
 女万引きGメンが慌て出した。どうやら病室の中の男の容体が急変したようだ。まあ、死神が控えてるんだ。先が短いのは確かなようだが。
 すぐに2人のお医者さんと3人の看護師さんが病室の奥にあるドアを開け入ってきた。オレの隣にいた女は、両手でガラスをドンドンと叩き始めた。
「ねぇ、何が起きてんの? 何が起きてんのよう?」
 おいおい、そんなに叩いたらガラスが壊れるぞ。このガラス、かなり高いんじゃないのか?
 オレは再び病人の足元に立ってる死神を見た。あいつが頭の方に廻るとおしまいだったっけ? とりあえず追っ払ってやるか。
 オレは死神から教えてもらった呪文を唱えることにした。が、ここで大事なミスに気づいた。忘れたのだ。すっかり呪文を忘れてしまったのだ。う~んと、なんだっけ? う~んと・・・
 ああ、もういい。とりあえずオレの記憶にある呪文を唱えてやる!
「パンプルピンプルパムポップン!」
 すると、なんと死神は瞬時に消えてしまった。おいおい、呪文はなんでもいいのかよ?
 と、女万引きGメンが唖然とした状態でオレを見ていた。当たり前だよな、こんな古い乙女チックな呪文をなんの脈略もなく、いきなり唱えたんだから。
 が、病室の中でも騒動が起きているようだ。なんと、寝ていた万引きGメンが上半身を起こしてるのだ。医者も看護師もただただ驚いてるようだ。
「よ、よかった・・・」
 女万引きGメンはそうつぶやいた。そしてオレを見てこう言った。
「あなた、魔法使いだったの?」
 いや、別にそういうものじゃないけど・・・
 オレが返答しないでいると、女はさらに話しかけてきた。
「すごいよ。魔法の呪文であの人を治しちゃうなんて」
 女はただひたすら感嘆していた。これって誤解ていうやつか? まあ、これでオレにかけられた嫌疑は晴れたみたいだ。よしとしよう!
 男万引きGメンはすぐさま一般の病室に移された。オレと女万引きGメンはその部屋に通してもらった。男はなんで急に元気になったのかいまいちわからないようだが、ともかく喜んでオレを出迎えてくれた。
 男万引きGメンと話してるとき、オレは手にしてたカバンを見た。この中にはデ×××トが入ってる。そうか、わかったぞ。これを持ってるときに何か呪文を唱えれば、死神を追っ払うことができるんだ。呪文なんか、なんでもいいんだ。
 こんなに凄いデ×××トだ。万引き犯の名前を書けば、きっとすぐに死ぬはず。でも、名前が、名前がわからんのだ。未成年となると、新聞にも名前が載らないだろうし・・・ くっそーっ、なんであんなやつら、法律が許してるんだ? やっぱオレが制裁をくわえないといけないのか?
「さあ、もう遅い。帰りなさい」
 男万引きGメンのこの一言で、オレたちは病室を出ることになった。

 オレと女万引きGメンは病室を出た。そのまま2人並んで歩き始めた。歩きながらオレは女万引きGメンの顔を見た。もしかしてこの人、あの2人の名前知ってるかも? 書店ともなると顔も広いだろうから、知ってるかもしれないな。ちょっと鎌をかけてみるか。
「あの~ あの2人の名前、わかりますか?」
「あの2人て、万引き犯のこと?」
「はい」
 女はちょっと考え、こう言った。
「知ってるけど・・・ インターネットに名前載せるの?」
「べ、別に、そんなことしませんよ」
 なんだ? 警察に口止めされてんのか? 女はさらに考え、こう言った。
「別に教えてあげてもいいけど・・・
 1人は・・・」
「あ、ちょっと待って!」
 どうやら名前を教えてくれるようだ。オレは慌ててカバンの中からデ×××トを取り出した。
「何、それ?」
「ただのメモ帳ですよ」
 女はちょっと怪しんだが、すぐに話を再開してくれた。
「1人はサムカワアキラ、もう1人はアヤセコウジよ」
 ちょっと待ってくれよ。正しい名前、つまり漢字じゃないとダメなんだよ。で、漢字の名前を教えてもらい、それをデ×××トに直に書き込んでやった。これであの2人は死ぬはずだ。これでこの世は少しはよくなるはずだ。なんかちょっと爽快になった気分だ!
 病院を出ると、外はすっかり夜になっていた。女万引きGメンは食事に誘ってくれたが、それは丁寧に断った。ともかく今は、あの2人の突然死のニュースが楽しみで楽しみでしょうがないのだ。


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