サケ科魚類が川を下る時期やサイズは、種ごとにおお
よそ決まって降河サイズ いる。例えば、サケなら浮
上後間もない体長3~4cmであるが、サクラマスでは
9~14『サツキマスでは12~15m、イワナでは約15cm
であることがわかっている。これらの値と比較して、
ビワマスでは平均して5~7cmというのはかなり小さい
サイズで川下りする。さて、このサケ科魚類が川下り
する時期(年齢)つまり、より進化した種類ほど早い
時期に小型で川を下り、海で成長するように進化して
いるというのだ。ビワマスは、海ではなく湖に下るも
のの、もしそうであれば、ビワマスはサクラマスのグ
ループで最も進化した種類であるということになる。
琵琶湖周辺の河川の水温が夏には20℃以上に上昇し、
サケ科魚類としてのビワマスには生理的に耐えられな
くなることがあげられる。そうであれば、イワナやア
マゴの棲む河川の上流域まで遡上し、そこで暑い夏を
やり過ごすことも一つの方法である。もう1つ琵琶湖
にある。琵琶湖は表層部を除いて、水深15m以下には
一年を通して水温15℃以下の水域が大きく広がってお
り、冬から春には、湖の長雨が冷やされ重くなった表
層水が深層水と混じりあうとともに、冷たい雪解け水
が琵琶湖にどっと流入して沖合の深層誠に流れ込み、
溶存酸素を大量に送り込んでくれる。深い水域でも十
分に酸素が存在するのである。これが琵琶湖より南に
位置する湖では、冬になっても十分な水の混合が起こ
らず、溶存酸素が供給されないために深層誠では酸素
がほとんどないか不足状態だが、琵琶湖では沖合の水
温の低い深層誠に餌となる甲殻類や魚類が多く生息し
ているから、大きく成長できることがビワマスの行動
を決定した理由と考えられている。
稚魚期=体長2.5~4.5cmで、鱗や朱点がまだ見られな
い。体側にはパーマークが鮮明に見られる。おもに
流れの緩やかな川の岸付近や淵に生息する。
幼魚前期=体長4.5~7cmで鰓耙数(さいはすう)が成
魚と同数(17本以上)に達するとともに体表が鱗で
覆われ朱点が増加する。体側が少し銀白色になり始
める。遊泳力が増して川の瀬に分布した後、降雨な
どをきっかけに湖への活発な降下行動を示す。
幼魚後期=体長7~12cmで、外部形態が完成するととも
に、体表がグアニンの沈着により銀白化してパーマ
ークが見えなくなる。多くは湖に降下して沖合の深
層域で生活を始める。一部の個体は河川に残り成熟
する。
未成魚=体長19~20cmで、湖の沖合を中心に生活し、
河川に残留した早熟雄を除き、まだ成熟はしない。
朱点が消失する。
成魚=体長20cm以上で、成熟した個体はおもに9月か
ら一月に河川に遡上して産卵する。一部の個体は、
6月から7月の河川が増水した時期に遡上し、淵な
どで夏を過ごし、秋には産卵する。産卵後は、雌雄
とも死亡する。
ビワマスの河川生活期から湖へ降下する時期を中心に
産卵までを大まか5段階に藤岡康弘は区分している。
【エピソード】
琵琶湖には河や湖沼・内湾で、よしずや竹垣を魚道に
迷路のように張り立てて、魚を自然に誘導して捕らえ
る定置漁具の魞(エリ)が、湖岸から沖に向けて張ら
れたカラ傘のように見える左右対称型のエリのたたず
まいは、琵琶湖畔を訪ねる人びとに風情を感じさせる。
湖岸に優美な姿を見せる沖出し型のこうした「うみエ
リ」と呼ばれるが、河口内のよどみや内湖に張られる
「川エリ」も古くからあるという。
3世紀に高句麗の農耕移民によっても稲作技術がもた
らされた。この高句麗から渡来した水稲農耕移民は、
米と膾をセットとした食物体系を身につけ、フナなど
を獲るエリ技術と稲作技術をあわせて移人することに
なったといわれ、膾は手頃な大きさの魚を姿のまま塩
と蒸し米=御飯で漬物とし、発酵させたもので、中国
の北支で2世紀頃、すなわち後漢(AD25~220年)の中
頃までに作り方ができあがったもの。気温の低い黄河
以北の水稲農耕文化の中で生まれた貯蔵用発酵魚で、
黄河以南、特に揚子江周辺あるいはそれ以南では気温
が高いために同様の作り方をしても「シオカラ」ない
し魚醤油状になり、膾のような魚体形のままの発酵魚
にはなりえない。
【脚注及びリンク】
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1.「淡水魚辞典 サケ科」
2.「WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科」
3.「イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程」
4.「日本魚類学会」
5.「魚類学(Ichthyology)」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
資源管理を考える」清水宗敬
7.「田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
梨県西湖での発見」2011年2月22日
8.「醒ヶ井養鱒場」
9.「ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「ビワマス」国立環境研究所
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