すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

長編3-3

2009-06-11 10:04:08 | 小説・長編
かなり、ゆっくりめの更新ですが、
長編の続きです。

お分かりでしょうが、
ここから始まる物語は、作者が四半世紀前に放り出した小説を、
あらたに書き直しているものです。
当然のことながら、、
名前の変換機能は用意してありません。

登場人物は、あくまでもフィクションで、
実在の人物とは、一切、関係がありません。

すばるの部屋で、突然智香が泣き出したところから、です。

お付き合いくださるかたは、続きから、お願いします。




しばらくの間、
何をするでもなく、すばるは、
智香の細い肩の震えが治まるのを待っていた。

高校時代、
いつも強気で、凛として、
すばるの前で、
弱気なところなど、微塵も見せなかった智香。

みんなを励まして、
明るく笑ってるばかりの智香。

今、こんなふうに、声を殺して、
すばるの隣で泣く姿など、
想像だにしていなかった。



あの頃。


付き合って欲しい、と、はっきり口にできずに、
なんとなく、仲のいいクラブ仲間のまま、だった二人。

それでも休日には、二人だけで待ち合わせて遊びにも行った。
受験が近くなれば、図書館にも二人で通った。

きっかけは、いくらでもあったのに、
すばるは、智香との間に、透明な壁があるのを感じて、
あと一歩が踏み出せないまま、だった。



智香の涙が、ようやく落ち着きを取り戻した頃、
すばるの腕から、
智香が不意に離れた。

「ごめんね、突然、泣いたりして」

智香は下を向いたまま、そう言った。

「智香の気がすめば、それでええわ」

顔を上げさせようとしたすばるに、
智香は、

「あかん、顔、見せれん」

「何、言うてんの」

「お化粧、ぐちゃぐちゃやもん。恥ずかしい・・・」

「今更、智香の素顔くらいで驚かへんで」

「でも・・・」

「難儀なやっちゃな。そんなん言うんやったら、早よ、直しておいで。
 廊下出たとこに、洗面台、あるから」

すばるは、うつむいた智香の頭を、ぽんぽんと撫でると、
手近にあったタオルを渡した。

タオルで顔を隠すようにしたあと、智香はバッグを手に取り、
そのまま、洗面台へと消えた。


ぱたん・・・


小さくドアの音がして、智香が出て行ったあと、

すばるは、
腕が覚えた智香の肩の小ささを想い、

智香が、何に傷ついてここに戻ってきていたのかを、
知りたくなっていた。

智香の髪から香った匂いが、
離れていた時間の長さを思わせた。

むせ返るような華の香り。

無理してオトナびた、香り。

智香に合っているとは思いたくない、その香りが、
すばるの胸に、
あの頃に封印したはずの想いを蘇らせていた。



好きやった。
トモダチ、になる前から、気になってた。
誰より大切な存在だった。

なのに、
肝心なことが言えなかったのは、

トモダチ、ですらなくなるのが怖かったからだ。

智香に好きなヤツがおるらしいんは、
なんとなく分かってたから、
拒絶されるんが、怖かった。

拒絶されて、顔も合わせられんようになるくらいやったら、
想い殺して、トモダチのまま付き合ってたほうが、楽やった。

・・・・・・智香は、あの頃、俺のこと、ほんまは、どう思ってたんやろ。

・・・・・・今日、会えたことに、なんか意味があんのかな。

・・・・・・それにしても、あいつ、泣きすぎやろ。何があったん?

・・・・・・あかんわ。詮索したら、あかんねん。

・・・・・・あいつから言うんなら、まだしも、俺から訊いたら、絶対アカンわ。


すばるは、マグカップを手に取り、飲もうとして、
それが、もうすっかり冷め切ってしまっていることに気づいた。

すばるが、煙草に手を伸ばそうとしたところに、
智香が化粧を終えて、戻って来た。

「ありがと」

「落ち着いたんやな」

「ん・・・」

智香は、小さく頷いて、

「人前で、あんなに泣いたん、初めてかもしれん」

気まずそうに、笑顔を見せた。

「智香が泣いてんのなんか、俺、見たことなかったわ。
 気ばっかり強くて、怒らせんよう、怒らせんよう・・・」

「ひっどぉい。そんな、鬼みたいな・・・!」

「ほれ、そんなん、なるやんか」

「もうっ!!」

二人して顔見合わせて、大笑いになる。

高校時代に、時を戻したかのように。

「どないする? メシ、行く? 久しぶりなら、誰か、呼ぼうか?」

すばるの言葉に、智香は、一瞬、戸惑った。

本当に久しぶりだったから、
逢えるものなら、みんなに逢いたいけれど。

「私とふたりきりじゃ、気まずい?」

「何、言うて・・・。そんなわけ、ないやん」

「じゃあ、すばるとふたりで、ご飯、したい」

「せやけど、俺、オシャレなとこ、知らんぞ」

「オシャレなとこなんて、私だって、知らんよ。すばるが、よく行くとこでええわ」

「あ? おっちゃんが行くような居酒屋ばっかやで」

「十分、十分」

「そうか? ほな、行こか」

立ち上がったすばるは、
ポケットに携帯を突っ込もうとして、
メールの着信があったことを、思い出した。

「あ・・・しもた」

メールの相手を確かめたすばるが、
少し慌てた声を出した。

「何? やっぱり、急用やったん?」

智香が問い掛ける。

「んー、急用っていうのんとは、ちょっとちゃうねんけど」

「ややこしい話? だったら、ご飯くらい、別の日に・・・」

「それは、アカン。・・・大丈夫。明日にでも、連絡してみるし」

「メールくらい、返したら? ・・・彼女、でしょ?」

「あほか。そんなん、おらんわ」

すばるのその言葉に、
智香は、内心少し、ホッとしている自分に気づいて、苦笑した。

・・・・・・私、やっぱり、素直じゃないわ。

「行こ」

すばるに促されて、
智香は玄関から外に出た。

外は、もうすっかり日が落ちて、
街灯が、ぽつぽつと、点き始めていた。

昼間の陽射しとは、打って変わって、
夜風は、まだ、冬の冷たさが残っている。

「薄着やな、寒ないか?」

すばるが、手にしていた自分の上着を、智香に掛けた。

「あ、でも、そしたら、すばるが・・・」

「ええねん、すぐそこやし。ちょっとは、カッコつけさせろや」

「ごめん、ありがとう」

智香は素直に、すばるの上着を羽織った。

うっすらと香る煙草の匂い。

さっき、泣き続ける智香を包んでいたものと、変わらない匂い。

智香の記憶にある、すばる匂いといえば、
汗臭いユニフォームと、バスケットボールの独特の匂いだったのに。


店までの道、
すばるの少し後を歩きながら、

・・・・・・また、私、すばるに助けられてる。

・・・・・・あの頃、すばるの気持ちを知ってて、でも、気づかない振りして、ずっと、甘えてた。

・・・・・・県外の大学選んだのも、好きな人のためやったのに、それ、ずっと、隠してて。

・・・・・・すばるのことも、高校時代のことも、全部振り切って進学して。

・・・・・・なのに、結局裏切られて、しんどくて、戻って来た。

・・・・・・最低、よね。私。今、また、すばるに甘えようとしてるなんて。



「着いたで」

中からは、賑やかな声が聞こえてくる。

どうやら、このあたりの学生御用達の店らしい。

すばるは、あたりまえのように、智香の手をとって、
暖簾を、くぐった。


















1 コメント

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Unknown (ちか)
2012-01-11 22:03:35
めっちゃくちゃ続きがきになります。
実は、ずっと前からこの小説の隠れファンでした(笑)
更新、楽しみにしています^^
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