ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

能のひとつの到達点…『大会』(その1)

2011-04-22 02:46:15 | 能楽
またまた勤めさせて頂きます特殊な能『大会』。

一昨年に ぬえは能『現在七面』を勤めさせて頂きましたが、あのときは師匠より ぬえにこの曲を舞うよう仰せつかったのですが…あれが ぬえに火を点けてしまいました。近年 師家では月例公演で自分が勤める希望曲を申告できるようになって、昨年 ぬえが勤めた『敦盛』も『自然居士』も、ともに ぬえ自らが選んで師匠にお伺いをし、お許しを頂いて勤めた曲です。そうしてこの度も、『現在七面』を勤めたのだから、と、同じく面を二重に掛ける、という、ちょっと反則技のような演出をもった『大会』を、あえて希望曲に出してみて…やはりお許しを頂くことができました。

もともと切能が好きな ぬえではありますが、能を舞うことを一生の仕事と決めた以上は、こういう演出を許してしまう能の懐の深さ、というかなあ、幅を知っておきたい、という気持ちもありまして。そうして、何と言っても古人のユーモアが感じられる作品が ぬえは好きですね~。現代でこそ能は「難しい」とか「敷居が高い」と言われがちなのですが、ぬえは学生時代に初めて能に触れてこの道を志したときに、まあ、確かに人生の悲喜を描き込んだシリアスな能にも魅せられましたけれども、やっぱり能を見ていた ぬえは「楽しかった」のでありました。その、能が持つ「幅」に ぬえは魅せられたのではないかと思いますね~

そういうわけで、『現在七面』と『大会』をこの時期にあまり間をおかずに舞うことで、能のひとつの目指す形というものを実感したかった、というのが今回の目的でもあるのです。

それでは例によって舞台進行に即しながら、『大会』という曲を考えていきたいと思います~

囃子方と地謡が登場すると、何事もなくワキが幕から登場し、これを見て囃子方…大小鼓は床几に掛けます。

『現在七面』の解説でも触れましたが、「出し置き」と呼ばれる登場の仕方です。ワキが能の冒頭に登場する場合…ほとんどの能はその形ですが…には、「次第」や「名乗り笛」、そしてどちらかというと稀かもしれないですが「一声」という登場音楽が演奏されるのが常ですが、それはアクティブに行動している、というワキの性格を同時に表現しています。

能にはよく登場する旅の僧でも、たとえば「名乗り笛」の囃子…といってもこれは笛のソロ演奏ですが、に乗って登場したワキは、まさに「名乗り笛」の名の如く、自己紹介の文言、それから彼がこれから何をしようとしているのか、を謡います。「次第」や「一声」で登場したワキは、それぞれの囃子の形式によって導き出される、登場音楽と同じ名前を持った「次第」とか「一セイ」といった「歌」を冒頭に謡いますが、それでもすぐにその後には「名乗り笛」の場合と同じ文言を述べる事になります。

これらワキの所作が「アクティブ」かと言われると、現代的な意味においてはそうではないかもしれませんが、ワキはこれに続けて「道行」と呼ばれる紀行文を謡って旅という「行動」を示すのであってみれば、「次第」や「一声」…そうして それより少しパッシブな印象を持つ「名乗り笛」での登場であっても、ワキはこれから能の中において起きる「事件」の場に、自分から進み行く、という意味において ぬえは、これをアクティブな行動と捉えることができると思います。

ちょっとこれに反するような能もないではないように思える方もあるかと思います。たとえば『三輪』や『通小町』。ともに名乗り笛で登場するワキではありますが、彼らは旅行はしません。従って「道行」の小段もないのですが、がしかし、彼らに共通するのは、前シテ(『通小町』では前ツレ)に出会っているのです。そうしてその素性を見極めようとする「意図」が、彼らの「名乗り」の中で見受けられます。すなわち「意図」という行動が、彼らの登場の前提になっているのですよね。この意味で、やはり彼らはアクティブな存在であるはずなのです。