古代中国において最大の外敵は、匈奴と呼ばれた遊牧騎馬民族であった。
シナ人の書いた歴史書だと匈奴は野蛮人だとされているが、鉄器や馬具、弓などは明らかに漢民族よりも進んでいた。これは鉄器などが、遠く中央アジアの西南、オリエントと呼ばれた地域で発達したからだ。当時は遊牧民こそ情報の伝達者であったから、最新の知識をもっていたのだろう。
そのシナの戦国時代を終わらせたのが、一番西側にあり匈奴など遊牧民族との接触が多かった秦であったのも、ある意味当然である。秦は遊牧民族から得た鉄器の最新の製法を使って武器のみならず農機具も改良していた。それゆえ戦国七雄のなかでも際立った農業生産力を持っていたからだ。
秦が倒れた後、シナを統一したのは漢王朝(前漢王朝)だが、その時代でもやはり匈奴のほうが武力は強く、事実上漢民族は匈奴の下位に置かれた。プライドの高い漢民族は、贈り物をして蛮族(匈奴)を慰撫したと書に記すが、要は貢物である。
いくら文章上で取り繕っても、匈奴の脅威に怯えることに耐えらえなかったのが、武帝である。この武帝の命により匈奴と戦い、シナ史上初めて匈奴に打ち勝ったのが衛青である。
まァ正確にいえば、戦国七雄の一国・趙の李牧将軍が辺境での赴任時代に、徹底的に守りを固めて、油断した匈奴を討ち取る戦果を挙げている。でも、はるばると匈奴の縄張りである草原に出撃して、匈奴を打ち破ったのは衛青が初めてだといって良い。
この衛青、実は奴婢の子である。辺境の地で主人に鞭で打たれながら羊を飼っていた幼年期を過ごしている。ところが幸運なことに姉である衛子温が武帝の目に留まり、愛妾となったことで宮廷入り。
元々、辺境の地で育ったため乗馬は上手いし、弓の腕も相当であったため、武帝の勧めで軍に入り頭角を現す。そして長年漢王朝が育ててきた屈強な軍馬と、強度の高い弓兵を主力にして、匈奴を北へ追いやる戦争を始める。
その時、衛青は若干一九歳。しかし、同時に出撃した他の将軍がいずれも敗退するなか、衛青の軍のみが匈奴を撃破させて武帝を喜ばせる。以降、七度にわたり匈奴と戦い、甥の霍去病とともに匈奴を北の地に追いやる偉業を達成する。
ちなみに敗走した匈奴は遠く西方へ去り、フン族としてユーラシア大陸西側で大暴れしたとされている。いわゆるフン族の民族大移動と云う名の動乱である。但し、匈奴=フン族であると確定している訳ではありません。なにせ物証がほとんどないので、立証自体が不可能に近い。でも状況からして、ほぼ間違いないと思います。
ところで衛青将軍だが、幼少期に奴婢の子として辛酸を舐めているせいか、部下思いの謙虚な性格で知られていた。また政治には一切口を出さず、功績のない我が子への恩賞を断るほどの堅物。ただし、武帝が勝手に恩賞を与えたことが、後々の不幸につながる。
一方、甥の霍去病だが、この人は連戦連勝の無敵の人。若くして亡くなっているので、軍人としての経歴はわずかに6年。衛青が将軍になり、立派な功績を挙げてから育った人なので、いわゆる貴族将軍である。部下が飢えていても、平然と美食を食べる傲慢さも知られている。
正直言えば、戦績や実績は伯父である衛青のほうが上だと思う。しかし、この甥っ子は派手で才幹溢れ、なにより華麗であった。そのせいで武帝の大のお気に入りとなり、かなり贔屓されている。つまり褒章や叙勲も優遇されていた。
そのことも影響してか、衛青の旗下の部下たちまで霍去病の元へ走る始末。ちなみに霍去病の墓地は、武帝の予定された墓地の隣に設けられたほどである。
多分、日本人だったら衛青のほうが評価が高くなると思うが、シナの人には霍去病のほうが人気が高い。地味で無口で謙虚な衛青よりも、派手で大言を吐き、華美華麗な霍去病が人気があることが、イマイチ納得のいかない私です。
記事を読ませていただきながら、以前鑑賞した中華ドラマの「漢武大帝」の事を思い出しました。
あのドラマ、題材が題材だけに本当に面白かったな~。
そのドラマでも衛青よりも霍去病の方が派手に描かれてました。
若くして病死しちゃったのも人気の一因かもしれませんね。
武帝の時代は李陵や司馬遷のエピソードもあるし、張騫のシルクロード開拓話もあるし、元号もはじめたりとか、ホント面白いエピソードてんこもりですよね。
当時も、そして現在も霍去病のほうが人気が高いです。実績は衛青のほうが上だと思うので、私としてはちょっと納得いかんです。
一方、武帝ですがこの人の下で働くのは大変だったと思います。私からすると、後漢の光武帝のほうが皇帝としては上だと思いますが、人気はやはり武帝かなァ。
衛青&霍去病の叔父&甥コンビですね。最近エピソードを読み返す機会がありました。
武帝みたいな俺様皇帝に寵愛されるなら早死にするに限るなあとしみじみします。
kinkacho的には光武帝の方が評価は高いです。
日本ではなぜかあまり知られていないのが光武帝ですね。そのうち、取り上げようと思っています。