ヌマンタの書斎

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しんかい12000

2023-09-04 12:39:56 | 社会・政治・一般

気が付いた時には手遅れとなっていることはよくある。

海に囲まれた日本は、海洋資源大国でもある。海があるだけではダメで、異なる大陸プレートのぶつかり合う海溝が豊富で、かつ冷たい海流と暖かい海流が合流する地点があることも重要だ。それと、もう一つ大切なのは、深海海溝があることだ。

深さ1万メートルを超える深海海溝は世界中に22か所であり、そのうち6っつは日本の排他的経済水域内にある。未だ採算の取れる深海の海洋資源採取方法は見つかっていないが、石油が枯渇した場合、海底に眠る海洋資源は、日本にとって重要な財産となる可能性が高い。

しかし海は広く深い。比較的浅い日本海は周辺諸国との利害調整が必要だし、かなり難しい案件になりかねない。戦争のリスクもあることは、十分あり得る可能性だと思う。その点、太平洋側は政治的リスクは低い。そのかわり平均深度4千メートルという難関が待ち受けている。

長期的な計画を持つ日本は、1980年代に深海を探索する潜水艇を作成した。それが「しんかい6500」だ。今日までに160回あまりの深海探索を行い、海洋資源探索のパイオニアとして立派な実績を残してきた。でも既に建造から30年、そろそろ限界である。

そこで平成26年に更なる探索能力向上を目指した「しんかい12000」の建造計画が練られた。しかし、バブル景気の恩恵を受けていた「しんかい6500」と異なり、平成不況真っ只中であったが故に、調査費がわずかに認められただけで、具体的な予算はつかなかった。

以来、計画はあれども日の目を見ていないのが実情だ。これが非常にまずい事態を露呈させた。つぎなる潜水艇は日本海溝の底など1万メートル級の海溝調査が出来る計画である。その意気は良いが、果たして本当に建造できるのかが、いささか怪しい。

毎年、一隻づつ建造される海上自衛隊の潜水艦は、既に技術が積み重なり、潜水深度は1000メートル近いと噂される。軍事機密ゆえに確証はないのだが、アメリカとロシア以外の軍用潜水艦が概ね500メートルにも満たないとされるので、高い技術力を持っていると評して良い。

ところが深度1万メートルの深海ともなると、桁外れの水圧であり、それに耐えうる潜水艇が今の日本に作れるのか。実はこれがかなり怪しい。特に溶接技術が危ない。水深1万メートルの水圧下でも耐えうる溶接技術を持つ職人が、今の日本にいるのかが不明なのだ。

深海用潜水艇を制作するのは30年ぶりであり、既に当時の職人は引退している。その技術が継承されているのかは不明なのが実態だ。大手の製造工場では、溶接などはコンピューター制御での作業と化しており、職人が手作業で溶接するのは大型船舶の一部だけだ。

人件費の高い職人を嫌ってコンピューター制御の溶接機械を導入したため、職人の芸術的な溶接技術は既に廃れている可能性が高いのだ。もしかしたら手遅れかもしれないのです。

なお霞が関のエリート官僚様におかれましては、人を乗せないロボット制御の深海潜水艇の可能性も模索しているのだが、肝心の海洋学者たちが否定的だ。人の目で見なければ分からないのではないかと疑っている。

私はロボット探索型の潜水艇をすべて否定はしないが、最後は科学者の目で深海を観察する必要があると思う。しかし、予算がなかなか付かない。史上空前の税収増といっても、多額の負債(国債や地方債)の償還と利払いを優先したがる財務官僚は、不確定な探査などには冷淡だ。

こうなると最後は政治主導が頼みなのだが、役人様の声ばかりに耳を傾ける現・首相では期待薄なのが実に残念です。


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