未だに良く分からないのが、幕末の武装集団であった新選組の人気である。
少なくとも明治時代には悪役であったはずで、人気者とは程遠かった。ところが戦後になっていつのまにやら人気が出てきて悲劇の若者たちのような扱いを受けている。
確かに幕末の混迷期にあって、燻っていた若者たちが勇名を挙げんと青雲の志を抱いて集まったのは確かだ。徳川将軍を守るとの意気込みで、京都の町を闊歩して、長州や薩摩など尊王攘夷の志士たちを捕縛し、締め上げて情報を得て、池田屋に切り込み勇名を挙げた。
だが肝心の徳川幕府が将軍職を投げ出し、新選組は朝敵として莫逆の犯罪者集団とされて追い詰められ、局長・近藤勇は斬首、上野、会津で次々と隊士は打ち倒されて、土方歳三が北海道の地で戦死して壊滅した。
新選組がかくも薩長から憎まれたのは、京都における苛烈な取り締まりが大きな原因であった。捕縛されて新選組の屯所に連れ込まれた維新の志士たちは、連日拷問されて情報を引き出され、その悲鳴と嗚咽は近隣に漏れ伝わったとされている。
徳川方の正義に凝り固まった新選組は、その熱い思い故に、行動も過激であったから、恨みを買ったのも相応であったと云える。
私は別に維新の志士たちが清廉潔白で高潔だと言う気はないが、明治維新が反逆者の逆襲といった内戦の性格を持つ以上、その戦いが苛烈で苛酷なのは必然だと思っている。
正直、どっちもどっちでしょうと思っている。
ところが現在では、どちらかといえば維新の志士たちよりも、新選組のほうが人気があるから不思議である。
そんな新選組を四コマ漫画でまとめたのが表題の作品。
作者の、おーはしるいは、どちらかといえば大らかで長閑な作風の四コマ漫画家である。実際、編集部からこの仕事を持ち込まれた時も、戸惑い断わろうと思ったと後書きで述べている。
だが、この人選は思いの外上手くいった。特に新選組が京都で活躍し、維新の志士たちから恨まれるばかりか、京都の民からも嫌われるようになってからの描写が素晴らしい。
残虐な取締や、過酷な尋問の場面、横暴にふるまう新選組の隊士たちの場面を敢えて省きつつも、坂道を転がるように転落していく様を、さりげなく描いている。
多分、おーはしるいは健やかな精神の持ち主なのだろう。私はこの人の四コマ漫画を相当読んでいる。OL出身らしく、会社人としての経験もあり、夫婦としての社会経験、子を持ち、ペットに振り回される日常生活が見事に作風に活かされている。
だから必要以上に厳しい場面を敢えて描かなくとも、裏切りと策謀が渦巻く新選組の日常を、さり気なく普通に描けている。これって、相当に難しい表現だと思います。
特に山南敬介の切腹死を穏やかに描いた手腕には感心しました。優し過ぎる表現にも思えますが、優しさがかえって裏にある苛烈さを表現できることもあると思うのです。
そんな表現が出来たのは、この作品が新選組の家事手伝いを務める女性の視点で描いているからでしょう。もちろんフィクションであり、そのような女性がいたという事実はないのです。
ところが最後の最後で、その女性の正体が実在の人物で、しかも新選組と縁のある(京都には来てません)方だとバラしたのはビックリ。納得のエンディングでもあり、改めて四コマ漫画の可能性に感心しました。機会がありましたら、気楽に流し読みしてみてください。
ちょっと不思議なのは、見廻組らは不人気なこと。やってたことは、新選組と大差ないはずなのですけどねぇ。
中学時代からバリバリの佐幕派のkinkachoです。
やっぱり「燃えよ剣」、「新撰組始末記」、「新撰組血風録」を中学生で読んでしまうとファンになりますって。京都は近いし、聖地巡礼してしまうし...
おかげで、徳川慶喜と坂本竜馬が嫌いです。