Photo by かんと氏(再録)
また夜中に起きて呆けている。1時間ぐらいしたら、それ以上はこの時間に浸るのを止め、朦朧に導かれ再び眠りの中に陥ちていくつもりだが、果たして今夜はそれが上手くできるか。
昨夜、O谷さんと話していたら奥さんが「凄い星空になっている」と言ってやって来た。急いでコナシの枝が邪魔しない場所に移り、天を仰いで思わず息を飲んだ。久しぶりの無窮の遠(おち)に光り輝く星々、その数、横たわる雲霧のような銀河に身が震えた。天の川銀河の中、中天より少し東の空には夏の大三角、南にはさそり座、権兵衛山のすぐ上には土星、いやいや参った西に目を転じれば、冬から春に移るころの夜空でお馴染みだったわが牛飼い座の主星アルクトゥールスと北斗七星・・・。星々が金砂子のように頭上に展開し、久しぶりに子供のようにはしゃぎ、ただ声を上げるしかなかった。言わせてもらおう、入笠牧場の星の海、その知られざる実力を。
赤道を越えて遠い国へ旅し、あの貧しい国の夜空はそれゆえにとも言えるのか、あれほどの豪奢な星空を見たことはなかった。灯の乏しい村を照らすように輝く天然の照明とも言える星の光を思い出した。あの夜空には主役であるはずの南十字星など脇に追いやられて端役のようにすら見え、いや、すべての星がまさに主役になって瞬くことなく輝いていた。ここの夜空は、さすがにあそこまではいかない、いけない。
そうであっても、しかし、ここの夜空には、子供のころに眺めたと変わらない清澄な光の輝きが依然として残っている。その美しい星々を眺めつ、宇宙についての不可思議を限りなく膨らませる星の狩人に、ここに来さえすれば誰しもがきっとなれるだろう。
きょうの青空はもう群青と呼ぶしかない。それほど深い青い海のような色をした空だ。午前8時の気温が、ここでもすでに25度に迫っていた。下界はさぞかし暑いだろう。牛の疲れたような声がする。きょうは囲いの中の彼女たちも、もっと自由で広い草場に出してやろうと考えている。
そうそう、昨日久しぶりに入笠の山頂へ行ったら、午後3時を過ぎた霧の中にはわれわれの他は誰もいなかった。
本日はこの辺で。