ここ牧で、胸に沁みる夕焼けを目にしたことは何度もある。偶然の時もあれば、わざわざ見にいったこともあるが、昨夜は後者だった。夕日が小入笠の山腹を染め始めたのに気付き、その様子がいつもよりか激しかったため、わざわざ第3牧区まで車を走らせることにした。
目的地へ着かないうちから、すでに上空のうろこ雲が燃え出した。気が急くまま放牧地へ入ると、幾つもの鹿の群れが車の接近を知り、コナシの林や放牧地を凄い勢いで走っていく。その中には巨大な角を生やした雄鹿を何頭も確認でき、丁度繁殖期とあれば、そのふてぶてしい姿に一矢報いてやりたいと思ったが、警笛を鳴らし、怒鳴るぐらいが精一杯だった。
昨夜の夕焼けの見事さはこの16年間でも極め付きと言え、その格別さは手にした携帯ではとても及ぶものではなかった。また仮にそれに相応しいカメラを持っていたとしても写し取ることは不可能だっただろう。まして文字で表現しようとしたとしても、それに使う言葉がない。
一緒にいた二人のうちの一人はそれなりのカメラを手にしていたが、これは目で見るしかないと言って諦め、刻々と変化する空の色に絶叫を繰り返していた。その人の言う通りで、本当の見事さは、記憶に写すしか手はないと諦めた。もう一人は涙ぐみ、やはり鹿も怯えるような叫び声を上げていた。
偽物を、それを承知で人に見せるような話かもしれないが、1枚目は中ア上空の夕焼けで、西駒、空木岳が写っている。2枚目は穂高や槍の上空。実際はもっと激しい色彩の写真もあるが、「絵にも描けない」ではなく、写真にも写せない超極上の自然の演出、せめて雰囲気くらいでも伝われば幸甚。
Nさんへ:いやいやそう仰るが、この時季の自然を愛でるには、静けさは重要な要件だと思います。古道であればなおさらで、来れば分かります。
恐らく気付いた人は多かったと思いますが、昨日呟いたネコヤナギは、ケショウヤナギの誤りでした。訂正するつもりでいたのに、うっかりしてしまいました。お詫びします。
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本日はこの辺で。