午前5時、それまでは動き出さないでいた牛たちが活動を始め、彼女たちの長い1日が始まった。見慣れた風景ながら、それを眺めるこちらの気持ちが自然と和む。薄い霧が流れる朝で、天気はまずまずのようだ。そのうち、権兵衛山も白い靄を払い、姿を見せるだろう。
きょうは中間検査の日であり、すでに昨日、乳牛は囲い罠の中に、肉牛の黒毛牛は追い上げ坂に誘導してある。これができているか否かで、検査の進行に大きく影響する。後はパドックに付随する囲い柵の中に全頭を入れてしまえば、半分終わったようなもの、検査は午前中には終了するだろう。畜産課の職員は8時到着を目標に来ると連絡が届いている。
放牧頭数が200頭近かった10数年前は、2か所の検査場に牛を集めるだけでも1日かかった。もう、あんな時代は戻ってこない気がする。
牛の世話をし、作業道の整備をし、キャンプ場や小屋に来訪者を受け入れる。それに、きょうは中間検査だけでなく、一昨日から準備の始まった撮影の本番があり、数十人が来牧する。
と、呟けば、さぞかし多忙の日々と思うかも知れない。確かに、一昨日の遭難騒ぎの時のように焦ることもあれば、大きな声を出すこともある。
しかし、実際はそれほどとは思わない。今朝のような静かな朝を迎えることができれば、その印象が栄養剤のようにしばらくは効く。不足すれば、また新たに栄養剤を探し、補給すればいい。待望の秋を迎え、ここには無料の特効薬がいくらでもある。
京都から来て1週間ここに滞在したKさんは、帰る前日に水場の掃除をしてくれた。気付いてはいたが今朝、その誠意ある丁寧な仕事に感動した。これも有難くも強力な栄養剤だ。
それに反して、悪薬も届く。世界には紛争が絶えない。個人の性格が簡単には変えられないように、人類も悪い性格をあまり変えることはできないような気がする。
平和な祭典とか言われるオリンピックに熱狂する人々がいれば、紛争によって生命を落とす人も絶えない。賢者は歴史から学ぶと言われるが、それに刻まれる悲劇の方がとめどなく続く。
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本日はこの辺で。