Photo by Ume氏
午前4時半、太陽はまだ入笠の陰にある。それでも次第に、空の色が仄かに染まった朝焼けから澄んだ青色に変わりつつある。入笠山と権兵衛山の間には法華道の一部「仏平」と古くから呼ばれた峠があり、その鞍部は富士見と伊那の境になり霧が発生しやすい。
鳥は早起きで盛んにいろいろな鳴き声がするが、ここから見える牛たちは目は覚めているようでも、まだ横臥したまま動かない。
ゆっくりと霧が降りてきた。きょうは晴れるはずなのに、日が射すまで天気は随分と勿体ぶるようだ。気温は8度、窓は開けてあってもさほど寒さを感じない。
昨日は、実は大変な一日だった。朝、囲いの中の牛を見回ろうと中に入ったら、水槽の横の泥の中に以前紹した小さい方のジャージー牛が横になって埋まったまま動かない。立たせようとしても立とうとせず、小さく「ウー」という声を繰り返すばかりだった。
しばらく様子を見ることにして小入笠の電牧の調整に出掛けたが、それでも気になったので1時間ほどで仕事を中断して戻ってきた。牛は依然として同じ状態のまま、ただ首から上はしっかりと支えているのが、救いと言えば救いであった。
とにかく下と連絡を取り、担当は畜主と相談し、やはり降ろすことが決まった。配車が夕方になること、それまでには駆けつけてきた課長と、泥の中から牛を引きずり出さねばならぬことなど、いやいや大変な一日になってしまった。
準備のため、現場と小屋とを何度となく往復し、ようやくロープで牛を結わえて、課長の乗ってきた軽トラで引っ張ろうとすれば、頼りのロープはあえなく切れてしまう。そこで、昨秋に残留牛を降ろす際に使った登攀用のロープを持ち帰らずに小屋に置いてあったので、それをまた使うことにした。
迎えのトラックは囲いの中には入れないから、装備されたウインチが牛に届く距離まで引きずり出すさなければならない。難しいのは、どのように結わえたらロープが牛から外れずに牽引できるかだが、何度も試行錯誤を繰り返し、中断し、成功したのは午後をかなり回っていた。その距離はざっと100㍍近くになっただろう。
その間には水や草、さらには塩を与えるなどと牛を気遣うことも忘れなかったが、それが相手に果たして通じただろうか。入牧したときは可愛い顔をしてあれほど元気だったのに、無事に回復することを願うしかない。
昨夜は自嘲しつつも疲れて8時に寝て、夜中目が覚めたような気もするが、とにかく8時間半、爆睡した。本日はこの辺で。