ウクライナのゼレンスキー大統領と中国の習近平国家主席が電話会談
ウクライナのゼレンスキー大統領は4月26日、中国の習近平国家主席と、ロシアによるウクライナ侵攻後初めて電話会談を行った。会談でゼレンスキー大統領は、あらゆる国が武器の供与を含めてロシアへの軍事協力を自制することが重要だと強調した。
なぜ、このタイミングで習近平氏が電話会談を受けたのか
飯田)中国からロシアにいろいろな物資などが流れているのではないかと報道されていますが、ゼレンスキーさんは電話で会談しました。「実のあるものだった」と言っていましたが。
青山)むしろ、習近平国家主席が「なぜこのタイミングでゼレンスキー大統領との電話会談を受けたのか」を考えるべきです。
飯田)なぜ習近平氏が受けたのか。
青山)会談すれば、ゼレンスキーさんの背後にはアメリカがいるわけですから、習近平さんから見ると小国であるウクライナの大統領に、「ロシアに武器を送るな」と言われることはわかっているのです。わかっていて、なぜ会談したかということです。
習近平氏のロシアへのメッセージ「これ以上ウクライナを攻撃して欲しくない」
青山)1つは、習近平さんは本音として、ロシアにこれ以上ウクライナを攻撃して欲しくないのです。
飯田)本音として。
米機密文書流出で発覚した「ウクライナの防空体制の破綻」
青山)先日、米国防総省(ペンタゴン)の機密文書が一兵卒によって外に出てしまう事件がありました。一部は改ざんされている可能性があるものの、米国防総省が「文書自体は本物です」と、4月10日という早い段階で認めました。
飯田)そうですね。
青山)それをチェックしていくと、恐るべきことが書いてあります。遅くとも5月3日までには、ウクライナの防空体制は破綻が始まると。ロシアはすごい数の爆撃機を持っていますが、いまは撃墜されるのが怖くて出していないのです。
飯田)これまでは。
青山)だからウクライナが善戦しているのですが、実はウクライナの防空能力は、多くが旧ソ連時代に開発された対空ミサイルです。軍事用品は部品が消耗するので、交換する必要がありますが、交換部品がないのです。
飯田)交換部品がない。
青山)従って、もう使えなくなる。最悪の場合は、5月中にロシアの大規模爆撃が行われ、ウクライナでは赤ちゃんから妊婦、高齢者に至るまで、爆撃で死ぬ可能性があるのです。
ウクライナに中国政府の特別代表を派遣 ~「そこに爆撃するのか?」というロシアへのもう1つのメッセージ
青山)このニュースに隠れた事実の1つは、「習近平国家主席が中国の代表団をウクライナへ送る」ということです。これはロシアへのメッセージです。
飯田)ロシアへのメッセージ。
青山)「中国の代表団がいるところへ、本当に爆撃するのか?」ということです。代表団なるものの具体的な中身はまだわかりませんが、ロシアがこれ以上酷いことを行うと、台湾有事もやりにくくなります。中国の選択肢を狭めてしまうので、習近平さんはゼレンスキー大統領をあえて使い、ロシアに「これ以上無残な現実をつくらないで欲しい」というメッセージを送ったのです。
飯田)習近平さんの本音として。
青山)ゼレンスキー大統領も、その事情をよくわかっていて会談した節があります。アメリカのCIAを中心としたインテリジェンス情報が、依然としてゼレンスキー大統領のもとへ十分に入っているということです。あるいは違うチャンネルかも知れない。イギリスのMI6という、映画『007』で有名な……。
飯田)諜報機関ですね。
青山)そこはアメリカよりも早くから、ゼレンスキー大統領やウクライナに情報提供をしていました。それも継続していることがよくわかる電話会談なのです。
これまでとは違う戦争の局面に入る可能性も ~そこでNATOが介入すれば第三次世界大戦勃発も
飯田)アメリカの支援、例えば防空システム「パトリオット」の提供なども報じられましたが。
青山)パトリオットだけではとても間に合いません。
飯田)あれはピンポイントで守るようなシステムなのですか?
青山)パトリオットというのは、ミサイルが落ちてくるときの最終段階で迎撃するのです。今後はミサイルよりも、ロシア軍の長距離爆撃機から爆弾を落とされる攻撃が多くなる。ある意味、ミサイルの前の時代に戻るようなことをやるのです。
飯田)爆撃機からの空爆。
青山)空爆は爆撃機を落とさないと止められません。パトリオットとは目的が違います。ウクライナ戦争の初期に話題になったジャベリンなども、地上戦の対戦車兵器です。高い高度を飛ぶ爆撃機に対しては、まったく通用しません。
飯田)ジャベリンは。
青山)そうなるかどうかはわかりませんが、いままでとは違う戦争の局面になることを、米国防総省が既に懸念して、対策を練っている現実があります。ここでアメリカが直接介入したり、あるいはイギリス軍が介入、つまりNATO軍の一部でも介入することがあれば、間違いなく第三次世界大戦になります。
ロシアのガバナンス自体が破綻してしまって軍の情報がプーチン大統領に上がっていない怖さ
青山)プーチンさんは本気で「核を使うぞ」と脅してきたわけです。でも「ウクライナの防空体制がやがて破綻状態に近くなる」という情報が軍から上がっていれば、プーチンさんはこれほど「核、核」と言う必要はなかったのです。
飯田)情報が軍から上がっていないということですか?
青山)プーチンさんは未だに感染が怖くて、閉じこもっているのが真実なのです。だから主要軍はプーチン大統領とろくに話ができていない。それも怖い話で、ウクライナの防空体制の破綻も心配だけれど、ロシアのガバナンス自体が破綻してしまっている。単なる独裁ではなく、情報が上がらなくなっていることが恐ろしいですよね。
飯田)疑心暗鬼から、本当に核に手をかけるかも知れない。
青山)ウクライナの防空体制の破綻を懸念して、NATO軍が多少なりとも介入したら、例えば黒海の島に……。
飯田)人がいないようなところなどに、最初の1発を使うかも知れない。そうなれば、今度は西側が「使ったな。ではどうする?」ということになる。
ウクライナ戦争がまったく違う局面に入ることが懸念される
青山)まさかそこで核の反撃をすることはないと思うので、ロシアの選択肢に入っているわけですけれども。しかし核を使われると、放射性物質の汚染……それは結局、偏西風でロシアに向かうわけです。それも含めて、ウクライナ戦争の局面が「まったく違ってしまう」ことになる。それが日本の連休中に、しかも憲法記念日ごろから始まりそうだとして、隠れた懸念になっています。
飯田)5月3日辺りから。
青山)いま一般的にテレビのニュースでやっているような、「ウクライナ軍が頑張っていて、川も渡りました。ロシア軍はじりじり後退しています」という話で済む状況ではないのです。
予想していた最悪の状況に近付きつつある
青山)中国はウクライナに万単位で工作員を入れ、情報収集に努めてきましたから、全体の状況はよくわかっているはずです。ゼレンスキーさんの希望で習近平さんと会談したという見方よりも、習近平さんがいまの段階でやれることをやるために、ロシアへの歯止めのために電話会談したとみるべきです。
飯田)なるほど。
青山)非常に危機的であり、予測・予期していたなかで最悪の状況に近付きつつあります。